耳鳴症と耳閉感
 

 耳鳴症(耳鳴り)や耳閉感は、脳内の虚血(血液不足)が、脳内の毛細血管の停滞
(詰まり)を生じさせ、これを回避するために一過性に脳圧を高める対応として発症
します。脳圧を高めて脳への血流を確保しようとしているので、薬剤等で症状を
局所的に封じ込めないようにします。心臓のポンプ機能を高め、血液の配分を乱し
ている肝臓(胆のう)の充血(炎症)を除去し、全身の血液の循環・配分・質を整え
ていけば、脳内の虚血が改善され耳内に起きる症状は解消されます。以下各単元は
耳の症状に関係する事が明記されています。

【脳圧とは】

 脳圧(頭蓋骨内部の圧力)は、脳脊髄液が脳を圧迫する力のことを言い、脳脊髄圧
(のうせきずいあつ)とも言います。脳圧が高くなっている時は、内耳にも圧力が
かかり耳がふさがったような状態になり(耳閉感)、圧力を抜く対応として耳内を
振動させ循環を高めていきます(耳鳴症)

脳が虚血になり十分な酸素供給が行なわれないと、低酸素状態になり脳が正常
に養われなくなります。この状態の持続は命に危険を及ぼすため、体は酸素を多く
含んだ新鮮な血液を速やかに脳へ循環させようとします(脳循環)。脳内の血液量
を確保するために(血液量増加)、頭蓋骨内がふくらみ(脳内の炎症・充血)
頭蓋骨内部の圧力(脳圧)が高くなります。この圧力により頭蓋骨の縫合部がゆがみ、
頭蓋内で産出される脳脊髄液が正常に循環されなくなり脳圧が高まります。脳圧を
上昇させて循環を促すのです。

人間の頭蓋骨は丸い1個の骨と思われがちですが、実は23個の小さな骨が合わさっ
て形成されています。頭蓋骨と頭蓋骨のつなぎ目を縫合部と言い、日本伝承医学
ではこの縫合部と肥厚部を指先の感覚でみながら施術にあたります。日本伝承医学
頭蓋骨調整法には、後頭骨擦過法、眼圧調整法、自律神経調整法があり、臨床
では脳圧を下げる時の調整法として用います。
   
         ≪参照≫頭蓋骨調整法(後頭骨擦過法/自律神経調整法)

【頭蓋骨肥厚とは】

 腫れて厚くなることを肥厚(ひこう)と言います。頭蓋骨が肥厚すると内耳の
蝸牛(かぎゅう)が圧迫され機能損傷し耳鳴症、耳閉感、難聴、めまい等が
起き
やすくなります。頭蓋骨の肥厚により神経が圧迫されると、頭痛を引き起こす要因
にもなります。
頭蓋骨の肥厚は、脳の虚血により脳内が養われず骨の代謝
(リモデリング)に異常が
起きて、その領域の骨が柔らかく、もろくなることで発症します。

脳への血流が正常に働いている時は、頭蓋骨も正常に働き、古い骨を分解する
破骨細胞と、新しい骨を作る骨芽細胞が互いにバランス良く働き骨の構造と機能
及び正常な強度が一定に保たれています。ところが脳への血流不足から
(虚血)
破骨細胞と骨芽細胞がバランスを崩し、細胞協働ができなくなると、骨の分解と
再構築
(骨の代謝)が極端に加速し、その部位が肥厚します。急速に脳に血液を集め
ようとする対応から、その部位は大きくふくらみ柔らかくなります。

 日本伝承医学では、心臓肝臓(胆のう)機能を高め、全身の血液の循環・配分・
質の乱れを正すことで脳への血流を改善していきます。頭蓋骨肥厚は長期に渡り
少しずつ変化していくので、なぜ起きているかを認識し症状と共存共生しながら、
肥厚させなくてもいい脳環境を作っていくことが必要です。

【睡眠時には脳圧は上がる】
 
 人間には眠ると脳圧が高くなり目が覚めると下がるという自然のリズムがあります。
睡眠時では脳の血流量は減少するため、それを補うように脳脊髄液が大量に脳へ
流れ込みます。もともと脳内は脳脊髄液で満たされ浮かんだ状態で保護されてい
ます。

ノンレム睡眠時(深い眠り)には脳脊髄液のゆるやかな大波がきて膨張し、脳を
圧迫し脳圧を高めます。つまり熟睡時には脳圧が高くなった状態で人は眠りに
ついているのです。就寝時の氷枕が有効なのは冷却によって脳内の炎症を除去し、
睡眠時の脳圧上昇を防ぐためになります。

睡眠は布団に入ってから始めの1サイクルの眠りが大事です(1サイクルは50分~
90分で個人差があります)。眠り始めの1サイクル目が、眠りの質が高く最も深い
眠りになるからです。極端に言えば、寝入り始めの50分~1時間半さえ眠れれば、
あとの眠りは浅くても、何回も目が覚めてしまっても、ずっと眠れなくなって
しまっても大丈夫ということです。

眠れない時は交感神経が優位になっているので気にしたりいらいらしたり、
あせると余計に眠れなくなります。瞳を閉じてゆっくり横たわっていれば小刻み
でも眠りにつくことはできます。

野生の動物達は決して熟睡せず、途切れ途切れの睡眠で命を保っています。
熟睡してしまったら敵に命を奪われてしまうからです。人間にも生命を守る防衛
本能というものがあります。熟睡してしまうことで脳圧が上昇し脳内の血管が切れ
てしまうのを守るために、故意に眠りを浅くしているのです。

眠りのこの原理を知っていれば、眠れなくても不眠症でも、自分の症状を受け
止めていくことができます。人間は脳が開発されたがために、天然に備わった本能
を失い自分の身体、生命に無知になったと言われています。自分の身に今起きて
いる症状の根拠と機序を認識することで、不安感や心配事、悩み、恐怖心は消去
できます。不安感ほど体を害するものはありません。

【耳の構造】

 内耳の奥には音を聞きとる蝸牛(かぎゅう)と、体の平衡感覚を保つ半規管(はん
きかん)と耳石器(じせきき)があり、これらはリンパ液で満たされています。外部
からの音が外耳を通り、中耳のアブミ骨に振動として伝わり、内耳のリンパ液の
中央に張られた膜(基底板)に伝播されます。基底板には有毛細胞(ゆうもうさいぼう)
があり、この有毛細胞により脳細胞へ振動が電気信号として送られます。中耳は
内耳へ振動を伝える伝音系であり、内耳は振動を電気信号に変換する感音系の器官
になります。

※半規管は、外側半規管、前半規官、後半規官の3つに分かれていて、この3つ
を合わせて三半規管(さんはんきかん)と言います。

【有毛細胞】

有毛細胞は、内耳で音の振動を電気信号に変えて脳に伝える役割を果たしています。
感覚毛という細い毛がある細胞で、リンパ液の流れによって、感覚毛がたなびいて
波を発生し、この波の電気信号を神経信号として、脳内へ情報を伝えています。

脳内が虚血になり血流が滞るとリンパ液の流れも停滞し、脳への情報伝達が
うまくいかなくなります。脳はこの状態を回避するために、耳鳴症(耳鳴り)という
振動を用いて脳への情報伝達を確保します。このように耳鳴りは悪いことではない
ので、首筋をアイスバッグで冷却して横たわるようにします。脳圧が下がり脳への
血流が良くなれば症状は治まります。

【リンパ液とは】

 リンパ液とは毛細血管から染み出た組織液の事を言います。全身の細胞はこの
組織液という液体の中に浸った状態で存続しています。組織液の一部が毛細リンパ
管に入りリンパ液となります。内耳はこのリンパ液で満たされていて常に一定の量
に保たれています。
 ストレスや心労を受け続けると自律神経のバランスが乱れるためリンパ液は増加
し、内耳がむくみ、機能低下します。内耳機能が正常に働かなくなり平衡感覚に
異常が生じ、めまいや聴力低下、難聴等を引き起こします(メニエル病)
耳の病状はこのように精神作用とも深く関わりがあります。
         
      ≪参照≫ 人の体のナゼとワケ~めまいの真の意味

【耳と精神作用】

 耳閉症や耳鳴感等耳に病状を発症している方の約7割は睡眠障害に悩まされて
います。脳の虚血(脳内の血液不足)で脳内が養われず自律神経のバランスが乱れ、
就寝時にも常に交感神経緊張状態となってしまうので、いくら眠っても脳が休まら
ないからです。不眠を解消したいがためにベンゾジアゼピン系向精神薬を常用して
しまうと、脳の可塑性(かそせい)を著しく減弱させてしまうことになります。

脳には元来可塑性というものが備わっていて、損傷した脳細胞を損傷していない
部位が機能を代替し、修復していくという習性があります。脳の神経細胞群が損傷
した部位を補う為に新たなネットワークを築いてくれるのです。薬剤等の化学物質
はこうした脳の可塑性を著しく損なう結果となるので服用は極力避けるように
します。

日本伝承医学では睡眠障害を改善するために自律神経のバランスを正常に復する
自律神経調整法と後頭骨擦過法を用います。脳腸相関と言われるように脳と腸も
密接な関わりがあるので、腸の操法も使用して精神状態の安定を図ります。
日本伝承医学の精神療法では、脳の可塑性(神経可塑性)を促すことができます。 

    
≪参照≫ 自律神経調整法 / 眠りの質 / 脳腸相関

【脳の虚血はなぜ起きるのか】

 脳内の虚血は、心臓機能の低下(ポンプ作用の低下)と肝臓胆のう機能の低下
(肝臓の炎症と胆のうの腫れ)により、全身の血液の循環・配分・質に乱れが生じ
ることで発症します。

脳の虚血は横になる事でかなり改善することができます。脳へ血液が循環する
ので耳鳴症や耳閉感が起きたら、今行なっている作業(仕事や家事等)を中断して、
後頭部、ひたい、首筋、肝臓を冷却しながら落ち着くまでしばらく横になり休む
ようにします。

椅子に座る時は足をおろして床につけないで、足を投げ出せる足置台(オット
マン・フットスツール)か、もうひとつ椅子を置いて、足をその上に乗せて長座位
の姿勢をとることが大事です。膝から下を高くすることにより、脳への血流が
促進されるからです。脳の虚血を回避するために普段からこのような姿勢で過ご
す習慣をつけておくようにします。

耳鳴感や耳閉感のある人が、頭痛が起きるときは要注意です(首筋・後頭部・
前頭部に発症。ピリピリと走るような頭痛は特に注意)。決して侮ってはいけま
せん。脳卒中(脳梗塞・脳内出血・クモ膜下出血)の警告サインでもあるからです。
 
     
≪参照≫ 脳梗塞・脳血栓をとらえなおす

【耳小骨と足関節は相似象】

 中耳にある三つのツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨の耳小骨は、足関節(距腿関節)
相似象(そうじしょう)になります。ツチ骨からキヌタ骨、そしてアブミ骨と
テコの原理で振動が内耳へと伝播されます。小さな力(振動)で大きな力を生み
出す事ができるテコの原理が、耳小骨にはあります。振動()は増幅するため
元の振動よりも大きな振幅となり伝わっていくのです。

距腿関節(きょたいかんせつ)も同じような構造をとっています。
踵骨(しょうこつ)から伝わった小さな振動が距骨(きょこつ)、脛骨(けいこつ)
へと伝わり、脳脊髄液の環流を促し、大きな振幅となり全身へと波及していきます。

日本伝承医学の三指半操法(さんしはんそうほう)で踵(かかと)を落とすと、
その振動()が全身に伝播し、人体の低下した電気レベルが上がる原理と同様と
なります。人体は電気レベルが低下し、電気が停滞した所に病(やまい)が発生
していきます。 
     
≪参照≫日本伝承医学の基本操法

※相似象…相似の象(かたち)とは、互いに形や性質が良く似ていることをいいます。
       現象のパターンに相似性がみられることから相似象と言います。

【耳鳴症】

 耳鳴症(耳鳴り)は鼓膜を振動させ微弱な電気を発生させ脳内に伝播させている
対応になります。脳の虚血で脳圧が高くなると耳内部の空気圧が正常に働かなく
なり、鼓膜がうまく振動できなくなります。そのため体は耳鳴りという音の振動
を起こして微細な電気を発生させ、頭部内の小さな気流から大きな気流を起こし
ます。脳内の換気機能と排出機能を正常にして頭部にこもった余計な熱を除去し
脳内の血流を確保しようとします。また耳鳴りは精神状態とも関わりがあるので、
耳鳴感があるときは心身共に疲弊しているので、少し休養することが必要です。

【耳閉感】

 耳がふさがった感じや膜が張ったような感じ、耳に水が入ったような感じを
耳閉感(じへいかん)と言います。脳内の血流が悪くなると、内耳のリンパ液も
停滞し、ふさがったような耳閉感が生じます。外耳道が耳垢でふさがれても(耳垢
栓塞)詰まり感は起こるので耳内は清潔に保つようにします。中耳炎等、耳内の
炎症で鼓膜の振動が阻害されても発症します。炎症を除去するためには患部側の
耳の後ろ、首筋の冷却が著効を示します。

【腎は耳に開竅する】

 漢方医学では「腎は耳に開竅(かいきょう)する」と言われ、腎臓と耳は関連が
あるとされています。背景には腎機能の低下がみられます。

 腎気(生命エネルギー)が十分にあれば聴覚も正常ですが、腎気が不足すれば
(
腎虚の状態)、耳に不調が現われ、耳鳴症や耳閉感等が起きやすくなります。
水分代謝が悪くても発症するので、一日の水の摂取量には気をつけて過ごすよう
にします(1日約1.52リットルが目安)


【日本伝承医学からの考察】

 耳に起こる症状は単に耳だけで診ていくのではなく、脳や内臓との関連の中で
捉えていく必要があります。内臓機能から整えていくためには、生活習慣を見直
すことも大事です(食・息・動・想・眠)


 日本伝承医学では心臓調整法で心臓のポンプ作用を高め血液の循環を助け、
肝胆叩打法で血液の配分を整え、胆汁の分泌を促進することで、血液の熱を冷まし
赤血球連鎖を除去します。これにより脳への血液供給を改善し、脳内の毛細血管
の停滞と詰まりを回復させ、脳圧を正常にします。

個別操法として耳の調整法を用い、耳内の環境を整えます。自律神経調整法で
交感神経の緊張をとり、情緒(脳波)を安定させていきます。脳内の熱のこもり、
脳圧の上昇を改善するためには、家庭療法として首筋、ひたい、後頭部、耳の後ろ
の局所冷却法も実践していきます。

※下記参考文献は日本伝承医学の公式ホームページの各項目から入りご覧下さい。

≪参考文献≫ 有本政治:著

人の体のナゼとワケ~耳鳴りの本質

          「血液の循環・配分・質の乱れはなぜ起きるのか

          「人の体のナゼとワケ~めまいの真の意味

          「自律神経調整法

          「眠りの質」 「脳腸相関

          「脳梗塞・脳血栓をとらえなおす

          「めまいと脳梗塞の関係について

          「脳循環障害と心臓との関連

          「脳・心疾患の正しい対処法

          「めまいをとらえなおす

          「日本伝承医学の基本操法/三指半操法

                    アイスバッグでの局所冷却法について

          「食・息・動・想・眠」