人の体のナゼとワケ~めまい(眩暈、目眩)の真の意味

日本伝承医学に於ける病気や症状の捉え方は、現代医学の病気の捉え方と
視点を異にします。体に起こる全ての症状は一方的に悪い反応ではなく、実は
逆に必要な対応と捉える事もできるのです。悪い反応と捉える事は、これを封
じ込めたり、取り去る処置を行えば良くなるということになります。しかしこうした
処置を行ってはいけない場合もあるのです。苦痛や不安を伴うものは一時も早
く取りたいと願うのは人情です。ただその症状の根拠と機序を知る事は病の根
治にとって大切なこととなります。視点を変えて、体にとって必要な対応という捉
え方をする事で、新たな展望が開け、対応の仕方が全く異なる事になります。

生きとし生けるものとして生まれた生物が自らの体に起こす反応は、一方的に
悪い事なのでしょうか?生物の生存本能に照らして再考してみたいと思います。
それは自明の理であります。生物として生まれて自らの体を悪くなる方向に反
応を起こしたり、命を縮め、早く死ぬ方向に体を導く事はありません。体に起こ
す全ての反応には意味があり、その意味とは、何かを元に戻し回復に向かわ
せるために発生させています。最終的に命を守る対応をとり続けるのです。
この真理に根ざして症状を捉え直してみたいと思います。

この視点に立って「めまい」を考察します。めまいが意味するものは何なのか、
その根拠と機序を解説したいと思います。まず現代医学的な所見を説明しま
す。めまいは三種類に分類されます。
⑴回転性のめまいーーーグルグル目が回る。
⑵浮動性のめまいーーーフワフワふらつく。
⑶立ちくらみ性のめまいーー立ち上がる時クラッとする。目の前が暗くなる。
以上が容態による分類です。

⑴の回転性のめまいの特徴は、吐き気、嘔吐、耳が聞こえづらくなる等の症
状が出ます。原因としては耳の異常、または脳出血や脳梗塞といった脳の病
気が考えられます。

⑵の浮動性のめまいの特徴は、急にあるいは徐々にフワフワ揺れる感じと頭
痛、しびれ、運動麻痺といった神経に関係する症状です。原因の多くは小脳や
脳幹の異常、血管の詰まり、出血、腫瘍等が考えられます。

⑶の立ちくらみのようなめまいの特徴は、立ち上がった時にクラッとしたり、目の
前が暗くなる症状です。脳貧血もこれに入ります。原因は、高血圧や低血圧、
不正脈、首の骨の異常、首の筋肉の硬結や引きつり等が考えられます。

治療法としては、ほとんどが症状を止める薬を使用します。抗めまい薬、吐き
気止めの薬、抗不安薬、利尿剤、ステロイド薬等が使われます。または外科
手術、平衡訓練等が行われています。しかしどれも対症療法となり、薬を止め
ればほとんどが再発を繰り返してしまうため、薬を飲み続けているのが現状で
す。これに伴う副作用は当然あり、さらに重篤な病に移行する事も考えられます。

以上が現代医学的なめまいの分類と症状及び治療法になります。これらを見
ると全て悪い反応という捉え方であり、これでは不安になる所見ばかりで、病
の根拠も機序も何も示されていません。多くの人がいつ発生するのかという不
安を抱え、症状に苦しんでいます。日本伝承医学では全く異なる視点からめま
いの本質を捉え直し、不安の解消と根治のための対処法を解説していきます。

めまいの症状に対して、前述してありますように悪い反応ではなく、何かを元に
戻し、何かを守るという視点からみていきますと、全く別の姿が 見えてきます。
結論的に言いますと、めまいが起きる時は、めまいの分類に関わらず脳に血
液不足の状態が起こっているということです。

脳内に血液不足が発生すると、少ない血液を脳内に早く巡らせる必要から、
脳圧を上昇させます。また連鎖して大きくなった赤血球(ドロドロの血液)が毛
細血管内の血流を停滞させます。これを流す圧力として、脳圧を上昇させる
のです。脳圧の一気の上昇は脳血管障害の危険を高めます。これらを回避
する対応として、めまいは体の警告信号として発せられ、この対応によって、
体を横たわらせます。体を横たわらせる事で脳への血流を確保すると共に、
脳圧を下げ脳血管障害(脳溢血、クモ膜下出血等)を防いでくれているのです。

体を横たわらせるとはどういう事かを説明します。(1)~(3)のめまいのどれ
もが、発生すると立っているのが辛くなります。あるいは最初から倒れる事も
起こります。立てないという事は、自然に横たわる事になります。つまり体にと
って楽な姿勢とは、横たわる事なのです。
体を横たわらせると何が変わるかと言いますと、全身の血液の循環が一気に
変わります。直立していると上部に位置する頭に血液を上げなくてはなりませ
ん。頭に血液を供給するポンプの役割を担う心臓にも負担がかかります。こ
れが体を横たえる事で、液体が横に拡がるように血液の循環が一気に変わり、
頭への血液供給が大量に送り込めるようになります。また心臓への負担も軽
くなります。脳への血液供給が増えると脳内の血液不足が解消されて、脳全
体に血液が廻せます。これにより脳内の少ない血液を早く廻す為の対応とし
て起こしていた脳圧の上昇を抑える事ができるのです。

脳溢血やクモ膜下出血は、高血圧で発生するのではなく、脳圧の限界を超え
た上昇によって起こります。これを回避するために、めまいの信号を発して体
を横たわらせるのです。横たわらせるだけでは不十分な時は、嘔吐させる事
で脳圧を抜く対応をとります。めまいの前駆症状として発生しやすい「あくび、
涙、くしゃみ、鼻水」等も脳圧を下げるための対応になります。患者の訴えの
中にめまいの前兆として、あくびがひっきりなしに出てくるとめまいが起こりま
すという人が多くいるのはこのためです。また、嘔吐や鼻水、くしゃみ等の症
状を薬等で止めないで出しきると、めまいの症状が重くならずにすみます。

耳の聞こえが悪くなったり、目がかすんで物が見えにくくなるのも、音や光を
遮断する事で脳の刺激と興奮を和らげる対応になります。また、めまいを発
症する人の既往症として「頭痛持ち」の場合が多くあります。実は頭痛は痛み
の信号を発する事で、心臓のポンプ力を高め、頭に血液を集める対応なのです。

現代医学的には三種類に分類されているめまいですが根源はひとつになりま
す。すべてのめまいに直接的に作用しているのは、脳の血液不足と脳内の毛
細血管内の血流の停滞です。これを解消するために速く流す力となる脳圧を
上昇させるのです。脳は人体において一番血液を消費する場所で、常に新鮮
な血液を必要とします。それは脳が生命を維持する上で不可欠な情報の指
令を出す場所だからです。この機能が低下すれば死に至ります。故に脳への
血液供給と脳内の毛細血管の血流を確保しなければならないのです。これを
守る対応がめまいという症状なのです。しかし根源的な把握ができないと、全
体像が見えず、症状が独立し並列的に存在する事になります。このための個
々の症状を取り去る薬の処方が行われ何種類もの薬を服用する事になって
しまいます。しかもどれも症状を封じ込めれば封じ込めるほど益々別の対応
を余儀なくされるのです。つまり、より重篤な方向に向かうという事です。

日本伝承医学の病気の捉え方は、めまいを脳だけの問題と捉えず、体全体
の血液の循環、配分、質の乱れが脳への血液供給不足を起こし、ドロドロの
血液(血液の質の低下)が脳内の毛細血管の血流の停滞を発生させていると
考えています。これを回避する対応が脳圧の上昇であり、脳圧の上昇を抑え
る警告信号がめまいであり、これにより体を横たえる対応が起こるのです。
このように全体的な視点で様々な症状を捉え直すと、全てに繋がりが生まれ、
体を守るために段階的に対応している姿が総合的に見えてきます。まさに生
きている体は人智を超えた対応を示し、幾重にも段階的な修復能力を備えて
いるのです。

めまいとは体を横たえさせるための警告信号の役割を担っていたのです。
故にこの信号を薬で封じ込めたり、段階的な対応として発する頭痛、嘔吐、
高血圧等を押さえ込む事に終始してはならないのです。それではどうすれば
めまいは改善できるかと言いますと、すでに述べてありますようにめまいの
根拠と機序に根ざした対処をすれば良いのです。

脳の虚血と毛細血管の流れを停滞させる赤血球の連鎖(ドロドロの血液)を生
む要因となっている、全身の血液の循環、配分、質(熱変性による赤血球の
連鎖)の乱れを改善する事が不可欠になります。さらに言えば、全ての病気や
症状の背景に存在する生命力や免疫力の低下を補う必要があります。

全身の血液の循環と脳への血液供給に一番関与するのは体のポンプの
役目を果たす心臓になります。心臓機能の低下は脳に虚血(血液不足)を起
こします。全身の血液の配分に関与するのは肝臓になります。肝臓は精神的
ストレスの影響を一番受ける臓器で、肝臓の機能低下を招きます。この対応
として体は肝臓の機能を元に戻すために大量の血液を集め、熱を発生させま
す。中身の詰まった"血のかたまり"のような大きな臓器に大量の血液が集ま
る事で全身の血液の配分が乱れ、脳の虚血を引き起こします。

血液の質(赤血球の連鎖によるドロドロ血液)に関与するのは胆嚢から分泌
される胆汁になります。胆汁は肝臓で作られ、胆嚢(たんのう)という袋に集め
られて濃度を濃くし、極めて苦い物質になります。この胆汁の苦い成分が体
の炎症を鎮め、また血液の熱を冷ます作用を担ってくれます。いわば漢方薬
の苦味成分(苦寒薬)と同じ働きを、体自(みずか)らがやってくれているのです。

肝臓の胆汁を作る能力が低下したり、胆嚢という袋に熱と腫れが生じると、
袋を収縮する作用が落ち、胆汁の分泌が不足します。胆汁は成人で1日約1
リットル近い量が分泌され、前述したように体の炎症と血液の熱を鎮静させ
ます。胆汁の分泌不足が血液に熱をもたせ、熱変性によって赤血球同士が
くっ付き、赤血球連鎖が生起されるのです。これがドロドロ血液の正体と機序
になります。故に血液をサラサラにするには血液凝固阻止剤やサプリメント等
ではなく、胆汁の分泌を如何に回復させるかが大切です。これが全身の毛細
血管及び毛細血管だらけの脳内の血流を停滞させる最大要因だからです。

さらに言えば毛細血管の血流の停滞は毛細血管に熱を発生させ、熱変性に
よる様々な疾患を起こします。熱を棄てる対応としての皮膚病(難病の皮膚
疾患、アトピー性皮膚炎等)、筋肉や関節のだるさと筋力低下、熱を冷ます対
応として水を集める事による浮腫、細菌による血液の感染症、熱を棄てる手
段としての化膿疾患、リウマチ、膠原病、繊維筋痛症等の血液疾患のほと
んどがこれを根源に発症します。

以上が全身の血液の循環、配分、質の乱れによる脳の虚血と毛細血管の
血流停滞の要因になります。要約すれば全身の血液の循環、配分、質の乱
れに関与する臓器は心臓と肝臓と胆嚢になります。この中で肝臓と胆嚢は
"肝胆相照らす"と言われるように肝臓に一体化され、肝臓と心臓を主体に
全身の血液の循環、配分、質をコントロールしています。正に"肝心要"とは
この事だったのです。

ここまでめまいの統合的な解明が出来れば、改善のためには何をすれば良
いかが明らかになります。全ての病気や症状の背景に存在するその人自身
の生命力や免疫力の低下を補い、直接的要因となる全身の血液の循環、配
分、質の乱れを元に戻す事です。

生命力や免疫力というと漠然としてわかりにくいですが、生命力とは具体的に
は細胞新生力であり、免疫力とは血液中の白血球がその主体になり、まとめ
れば血液全体です。つまりは造血力に置き換えられます。
細胞新生と造血は共に体の骨の中の骨髄で行われています。故に骨髄機能
を発現させることが生命力と免疫力を高める具体的な方法になります。当然
な事として自己努力として生活習慣の改善は不可欠です。

そしてめまいの直接的要因となる全身の血液の循環、配分、質の乱れを元に
戻すには、肝心要(肝臓、心臓)の治療が必要になります。
上記の二つの改善に有効なのが日本伝承医学の治療になります。日本伝承
医学の治療は骨髄機能を発現する目的で構築されています。また内臓の治
療は、肝臓、胆嚢、心臓機能を高めていくことに主体を置いています。
さらに家庭療法として患者に薦める頭と肝臓の氷冷却法は大きな効果を生み
ます。めまいの時の緊急処置法としては、まず第一に楽な体勢で横たわりま
す。そして氷枕とアイスバッグを用いて後頭部、額、両首等に使用します。そし
てそのまま楽な姿勢で鎮静を待ちます。これが理にかなった有効な方法にな
ります。日本伝承医学ではめまいの本質をこのように認識し、統合的に取り
組んでいます。

(参)日本伝承医学心療科~前庭神経炎によるめまい
                 めまいが起きた時の対処法
                 めまいが起きた場合の食生活の見直し

≪参考文献≫:『シリーズ病気をとらえなおす』~
             文責者:有本政治
              発行:有限会社日本伝承医学研究所
             発行日:2004年4月14日

    めまいと脳梗塞の関係について

    めまいをとらえなおす