脳疲労
 
 脳が疲れすぎて正常に働かなくなっている状態を脳疲労と言います。心労、
ストレス、過労、情報過多等で、脳が熱を帯び
(炎症)、オーバーヒートしている
状態を言います。脳疲労の時は脳内に炎症が起きているため、自律神経のバラ
ンスが乱れるので、睡眠障害、無気力、集中力欠如、判断力・理解力の低下、
もの忘れ、記憶障害、うつ的症状、腹痛、下痢、嘔吐、味覚障害、頭痛、疲労感、
だるさ、情緒不安等の様々な症状を発症させていきます。

大脳は、大脳新皮質と大脳辺縁系の二つに区分されます。大脳新皮質は言語
や論理、思考、情緒等を司る知的中枢部で、大脳辺縁系は食欲や性欲、睡眠等
の本能や情動を担う部位になります。この二つの間には間脳
(かんのう)があり、
間脳が自律神経系を司っています。大脳新皮質と大脳辺縁系と間脳の三つは、
お互いにリンクし合い関係性を保ちながら働いています。この三つの部位が
外部から入ってくる様々な情報を的確に分配し処理していき、脳内のバランス
を保っています。ところがこれらの機関の容量
(キャパ)を上回る多量な情報が
脳に入ってきてしまうと、本能を司る大脳辺縁系がまず機能不全に陥り、
大脳新皮質に影響を及ぼします。そして間脳に達し脳全体の働きが鈍り正常に
機能しなくなっていきます。この状態が脳疲労になります。

【脳の炎症】

 脳は使いすぎると脳内で炎症をおこし正常に働かなくなります。エンジンの
発生熱量が冷却性能を上回ってしまった時に起きるエンジントラブルと同様な
ことが脳にも起こります(オーバーヒート状態)。パソコンを使いすぎると本体
が熱を帯び、フリーズしたりシャットダウンしてしまうのと同じです。熱を
帯びたら一回電源を落とすように、脳も休息、休養が必要です。

オーバーヒートを防ぐためには冷却系統の点検、メンテナンスが必要なよう
に、人間の脳も定期的な冷却系統のメンテナンスが必要になります。まずは水
の摂取量です。私たちは一日約1.5リットルもの水分を体から放出しています。
逆算して、1.5リットルの水の摂取が毎日必要だという事です。草花にお茶や
紅茶をあげないように、人間にも純粋な水が必要です。

脳内を冷却するためには、氷枕とアイスバッグを用いた頭部、首筋の局所冷却
も必須です。首筋を冷やすことで、頭部へ巡る血管が冷やされ、冷たい新鮮な
血液が循環し、脳内の炎症()が除去されるからです。脳疲労を改善していく
には、脳の炎症(熱のこもり)を除去することが大事です。脳は最も発熱しやすく
最も高熱に弱い臓器だからです。

【自律神経】

脳疲労を起こしている時は自律神経のバランスに乱れが生じています。本来
交感神経と副交感神経が拮抗的に働かなければならない所、脳疲労時は交感神経
が常に優位になっていて、脳が休まりません。

自律神経は生命活動維持に不可欠なため36524時間働き続け、常に発熱して
いる状態になります。脳が許容量を超えてオーバーワーク状態になった時は
(脳疲労)、両首筋をアイスバッグ二つ用いて急速に冷却して脳内の炎症を除去
し、自律神経のバランスを正常化しなければなりません。

自律神経中枢は鼻腔の奥に位置しているので、鼻は脳のかなめと直結した
冷却装置になります。鼻から冷たい空気をとり込み、脳内へ新鮮な冷たい空気
(酸素)を送っているので、マスクを常用していると、マスク内で温められた
空気が脳へ送り込まれてしまうので、脳環境にとっては良くありません。
不必要時のマスク着用は控えるようにします。

 日本伝承医学の治療では、自律神経調整法、後頭骨擦過法、眼圧調整法等を
用いて、脳内の炎症をとり去り、自律神経のバランスを整えていきます。

【日本伝承医学の治療がなぜ脳に効くのか】

 脳は神経細胞(ニューロン)が発する電気信号によって活動しています。
神経細胞は、細胞体、神経の入力を受ける樹状突起、他の細胞へ出力する軸索
からなり、樹状突起と軸索を合わせて神経突起といいます。神経細胞は層構造
をしていて高度な情報処理を行なっています。どんなに機械やコンピューター
が進化したとしても、人間の脳機構にまさるものは存在し得ないのです。

人間の大脳には数百億もの神経細胞があり、各々の細胞に数万個のシナプス
が存在しています。これらの細胞が複雑なネットワークを構成し、行動、感情、
思考等を生み出しています。現在解明されているのは、ほんの一部分にしか
過ぎません(シナプスとは神経細胞間のつなぎ目に関わる構造を言います)


 神経細胞の働きは、感覚・介在・運動の3つに分けられます。外からの刺激を
受けるのが感覚細胞、刺激を筋肉に伝えるのが運動神経細胞、神経細胞間での
情報を伝達するのが介在神経細胞になります。介在神経細胞が脳の中枢神経系
を形成しています。情報伝達は電気信号(活動電位)によって入力、出力されます
。心筋細胞が微弱な電気によって活動するように、脳細胞も電気によって情報
伝達を行ない活動しているのです。

日本伝承医学の治療は、骨に圧や振動をかけて微弱な電気を発生させること
に主体をおいています。不調な個所は電気が滞電し、エネルギー不足(電気不足)
になっています。日本伝承医学リモコン操法は、脳の調整法とも言われ、仙骨
から頸椎、脳へと電気信号を伝播させ、脳内の血流を改善していきます。

神経伝達が遮断された部位に神経可塑性(かそせい)を促し、遮断されていた
情報伝達の回路をつないで復旧させていきます。脳細胞が正常な情報伝達を
行なえるようにします。日本伝承医学では、自分自身も家庭療法(食・息・動・
想・眠)としてできることを学び実践していくことによって脳疲労を改善して
いきます。

【脳疲労にならないためには】
 
 45分~1時間に一回は目を閉じて、目から光や情報を入れないようにします。
目を数分閉じるだけで脳を休める事ができます。コンタクトレンズも疲れの
原因になるので、コンタクトレンズを使用している場合は、帰宅したらはずして、
メガネや裸眼で過ごすようにします。化粧は皮膚呼吸を妨げ、脳に熱をこもら
せる要因となるので、帰宅したらすぐに化粧を落とす習慣をつけていきます。
呼気作用を損なうので厚化粧は避け、できるだけ薄化粧を心がけていくことも
脳疲労の予防になります。

夜遅くに食事をすると、消化(胃腸)に血液がとられるので、脳が虚血(血液
不足)になりやすく、脳が養われなくなります。夕食はできるだけ早めに終える
ようにします。朝食、昼食はしっかりとり、夕食は軽めに食するのも健康を
保つ秘訣です。

スマホやパソコンの使い過ぎも脳疲労を起こす要因となるので気をつけます。
夜、小説を読んだり映画を見るのも交感神経を緊張させ、眠りの質を低下させる
のでよくありません。感動したり、恐怖に感じたりするような事象は避けます。
夜はできるだけリラックスして、深く考え事をしたり、思考をめぐらせたり
しないように心がけて過ごすようにします。

【脳疲労はセロトニン不足】

 脳が働くためには多量のブドウ糖を必要とします。全身で使う約25%もの
ブドウ糖を脳は必要とし、脳の神経細胞が活発に働くためには酸素を使って
ブドウ糖をエネルギーに変換する必要があります。昔から「糖は脳を養う」と
言われ、朝飯前に、作業に出る前には「おめざ」といい、甘いものを必ず少し
口にしてから畑に出たものです。糖質を補うことによって、脳を活性化できる
からです。

神経細胞を活発に働かせ情報伝達するには、神経伝達物質が必要になります。
神経伝達物質の中でもセロトニンは情緒や思考面を安定させるために特に重要な
物質になります。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られますが
トリプトファンは体内で作ることはできないため、魚、鳥レバー、豆腐等の
食べ物からとる必要があります
(必須アミノ酸)。セロトニン生成にはさらに、
ビタミン
B6(ごま、焼きのり、にんにく等)、マグネシウム(わかめ、あおさ、
昆布、ひじき等
)、ナイアシン(鰹節、しいたけ類、鳥ムネ肉等)の摂取が必要に
なります。つまりバランス良い食生活をしていかなければなりません。

セロトニンは精神、神経を安定させる神経伝達物質(脳内物質)のひとつで、
幸せホルモンとも呼ばれています。食生活のかたより、歩行不足、日光に当たる
時間の欠如等はセロトニンを不足させ、脳内バランスを乱し脳疲労を引き起こし
ます。脳疲労は「セロトニン欠乏脳」とも言えます。

【脳腸相関】

 セロトニンは約90%が小腸の粘膜にあるクロム親和細胞内にあります。
8%は血小板にとり込まれ、脳内にはわずか約2%しか存在していません。
腸が第二の脳と言われるのは、脳と腸の形が相似象であるだけではなく密接な
関わりがあるからになります。

 腸管には筋層間神経叢と粘膜下神経叢の二つの神経叢(しんけいそう)があり
ます。そしてこの二つの神経叢は自律神経の副交感神経とつながっていて、
脳の視床下部からの司令を受けています。腸管には独自の神経系
(腸管神経系)
も存在するため、脳からの司令を受けなくても単独で働くこともできます。
つまり腸管神経系の構造は脳のネットワークと同じ様に働いているのです。

 このように脳と腸は互いに関連し合い働いていて、脳の状態は腸に影響を
及ぼし、腸の状態は脳に影響を及ぼす関係性になっています。これを脳腸相関
と言います。脳と腸は自律神経を介して関連しているので、脳疲労が起きると、
腸にも様々な影響が現われます。腹痛、下痢、便秘、過敏性大腸炎、嘔吐等、
こうした症状が起こる場合は、単に胃腸の消化器系だけの弱りとせず、脳環境
から見直し、整えていかなければなりません。脳は肉体よりも疲労しやすく、
疲れに弱い臓器なのです。

【選択的脳冷却機構】Selective Brain Cooling

 動物には高温時に体温とは独立して脳を冷却する機構を兼ね備えています。
脳は高温には極めて弱い臓器だからです。この機構は人間にも存在し選択的脳
冷却機構と呼ばれています。人間の脳は40.5度を超えてしまうと、脳を構成する
たんぱく質が変異し、機能障害を起こします。それを防ぐために、脳は選択的
脳冷却機構というものを天然に兼ね備えているのです。

また人間の頭部の皮膚にあたる汗腺の数は、体幹部より単位面積あたりで2
も多く存在します。頭部(脳内)に熱をこもらせてはいけないので、頭部から
速やかに熱を発汗させるためです(頭部からの発汗は、体幹部の発汗とは異なり、
脱水による影響は受けないようになっています)

※選択的脳冷却機構の一例に、くも膜のう胞という症状があります。
くも膜のう胞とは、くも膜の一部をのう胞という水袋にさせ、水袋で脳を直接
冷却する緊急対応になります。

【まとめ】

脳は最も熱に弱い臓器の為、脳内にこもった熱は速やかに体外へ放出して
いかなければなりません。故に頭部には、目、口、鼻、耳と、人体中最も多く
の穴があいているのです。これらの穴から随時、脳内にこもった余計な熱を放出
しているのです。目、口、鼻、耳に生じる各病状が、脳内の熱のこもりを除去
している対応であるという病状説明は、日本伝承医学適応症の各項目をお読み
ください。

≪参考文献≫

   「くも膜のう胞(1)

       「くも膜のう胞と頭痛(2)
    
          自律神経調整法と後頭骨擦過法
    
       「交感神経が緊張している場合
      
       「眠りの質
    

       「日本伝承医学適応症

      「食・息・動・想・眠

      「脳腸相関

       「日本伝承医学リモコン操法

      「家庭療法としての局所冷却法