家庭療法として推奨する頭と肝臓(胆嚢を含む)の局所冷却法は
何故必要なのか
  2018.1.8. 有本政治


日本伝承医学では、治療と併用して、家庭療法としての頭部と肝臓胆嚢の局所冷却
法を推奨しています。これは当院の謂わば”必修科目“に当たります。つまり”車の
両輪“なのです。車の両輪という事は片方が欠けたら 機能しないと言う事になり
ます。

病気や症状からの回復は、治療を施されるだけではなく、自らも病気治しに参加し
ていく姿勢が大切です。他力本願での健康回復はあり得ません。まず自身の生活
習慣を見直し、回復の為の努力をしていかなければなりません。

本来病気とは、医師や治療家が治してくれるものではなく、自分自身でも治すとい
う信念のもとに自助努力をしていくものになります。医師や治療家はそのお手伝い
をするにすぎないのです。その意味も込めて、当院では頭と肝臓の局所冷却法を
必修科目としています。それでは何故、頭と肝臓の局所冷却が必要なのかを説明
していきます。正しい理解と認識がなければ実践には結びつかないからです。

これまでの経験から、体を冷やす事への抵抗感や嫌悪感を抱いている人がたくさ
んいます 。当然全身を冷やす事は体調を崩します。当院の推奨する冷却法は全身
を冷やす事ではなく、人体の中で一番熱がこもりやすく、充血炎症を起こしやすい
頭と肝臓の“局所”を冷やす方法になります。全身が冷える事と、局所冷却を混同
されて真意が伝わっていないケースが多く見られます。

また当院の患者さんの中にも、冬期は寒いから止めてしまう方が見受けられます。
冷却は身体を診れば実践しているかしていないかはすぐわかってしまいます。
行なっていない方は、局所冷却法(頭と肝臓の冷却)の真の意味が残念ながらまだ
理解できていないのです。体調を崩しやすく、脳血管障害が起きやすい冬期こそ、
局所冷却法は必要になります。


『頭と肝臓の冷却は、人間の病気の徹底解明から割り出された答』

今年で臨床歴45年目を迎えます。この経験の中からと多面的な生命探求の中から、
人間の病気は何を起点に起こるのかを探ってきました。そして割り出された答えは、
人間の病気は、肉体的な疲労の蓄積や生活習慣の乱れだけではなく、精神的な
ストレスの持続を起点に発生していくという事でした。

この解答は、既に東洋医学が3千年にわたる実証経験に基づいて出した答えと一
致しています。東洋医学では、病気の原因を、人間をとり巻く環境として内因(精
神的な情動の乱れを「怒、喜、思、悲、恐、驚、憂」の7種類に分類)、外因(外界
の気候変動「風、寒、暑、湿、燥、火」)、不内外因(飲食、労倦)の3種類に分類し
説明しています。

その中で、病気の原因の基本法則を「内因無くして外因なし」とし、まず内因として
の精神的な七情の乱れがあって、そこに外界の条件となる「風、寒、暑、湿、燥、火」
と不内外因と言われる食事の不摂生や働き過ぎ、房事過多が加わる事で、内臓
(五臓六腑)に弱りをもたらし、病気は発症するとしています。

日本伝承医学では、病気の原因と起点を、上記の東洋医学の病因論と根元では
同一においていますが、それをもっとわかりやすくシンプルに捉えています。また
東洋医学のような複雑な絡みではなく、頭と肝臓(胆嚢を含む)の二ヶ所に限定して
病気の起点を解明しています。

日本伝承医学の内臓の捉え方は、“肝心要”(かんじんかなめ)と言われる肝臓と
心臓の二臓を重視しています。シンプルな白地に赤丸が中心にくる日本の国旗
「日の丸」が象徴するように、日本人は実に質素で純粋な民族になります。
この地に綿々と伝承され続けてきた日本伝承医学は、まさに生命の息吹を代表する
心臓中心の医学となります。そして生命活動の全てを支えているのが人体の中心
を貫く『骨』になります。シンプル、つまり単純、質素、純粋の中にこそ真実が秘め
られているのです


『人が病気になるのは、動物としての根源的な生き方の違いが根底にある』

人間は「考える動物」「感情の動物」と表現されるように、他の動物と違い大きな
「脳」を所有し、大脳で思考することで行動するという特殊な生き方をしています。
故に何でも本能的(生物脳)に行動するのではなく、大脳(人間脳)を駆使しないと
行動ができない仕組みになっています。

しかしこの能力を獲得したお陰で、現代のような科学文明を築く事ができたのです。
が、その反面、生物脳(直感や本能的な判断能力)由来の行動力を失い、生命を
維持するためには何をすべきかの判断力を消失させてしまいました。これは生物と
して生きていく上で、生命力を大きく損なう結果となったのです。またどうすれば体
が回復するかの方法をも見失わせたのです。(HP、院長の日記の「病気治しの基本
〜動物に学ぶ」の項を参照)。

他の動物と異なり大脳を獲得した人類は、全ての病気において(伝染病と外傷を除く)
「脳が病気を作る」と言う状況を作り出してしまったのです。「人間は言葉をもった、
故に産みの苦しみを知った」という言葉が示す通り、人間の病気は人間脳が関わ
って作り出しているとも言えるのです。人間脳が作り出したということは考え方や
生き方を変える事で、病気から解放される可能性があるということです。

近代社会において人間脳を使わずして生きていくことはできません。故に現代にお
いてこそ、局所冷却により人間脳の酷使による脳内の熱のこもりと肝臓の充血をと
り去る事が重要になるのです。頭と肝臓(胆嚢を含む)は、全ての病気の原因と起
点になります。つまり病気や症状を改善し、健康を維持していくためには、この二
つの臓器の熱と充血を除去し続ける事が必要不可欠となるのです。これが日本
伝承医学が頭と肝胆の冷却を奨める理由になります。以下頭と肝臓がなぜ病気
に関わるかを述べていきます。


『何故頭と肝臓が病気の原因と起点になるのかーーー人間脳を酷使する事が、
頭と肝臓に機能低下をもたらした』

頭と肝臓の関係性は、現代医学においても「脳肝関係」としてその相互作用が確
認されています。また東洋医学においても頭や目の症状の根源は肝臓にあると説
いています。このように洋の東西を問わず頭と肝臓の密接な関係は立証されてい
ます。以下日本伝承医学的にわかりやすく解説してみます。

人間の病気の根本原因は、肉体的な疲労の蓄積や生活習慣の乱れだけではなく、
精神的なストレスの持続が根底にあります。精神的なストレスの最大要因は、いつ
の時代も対人関係(人間関係)にあります。人間関係による心労の持続は、多大な
心労を身体に与えていきます。常にその事が気になり、悩み、傷つき、交感神経が
緊張するため、眠りが浅くなり、脳を休めることができなくなってしまいます。

脳が休まらず夜間でも常に使い続けているため(人間脳の酷使、脳の覚醒)、脳に
異常な熱を発生させます(脳の炎症)。中身の詰まった大きな脳は、熱の持続により、
次第に脳の中心に熱の蓄積を産みます。また脳内の血液を早く循環させる必要か
ら、脳圧の上昇を生起させます。脳圧が上昇することでさらに脳内に熱を蓄積させ
ます。こうした脳の酷使は、脳内神経伝達物質や脳内ホルモンといった脳内物質
を過剰に消費させる結果をもたらします。

脳内の熱の貯留と脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンの過剰消費、この二大
要因が頭(脳)と肝臓に大きな機能低下をもたらし、全ての病気や症状の起点とな
っていくのです。その機序(理由)を以下解説致します。

まず脳内の熱の貯留は、次第に脳の中心にある「脳幹」(のうかん)部の機能に影響
を与えます。脳幹は別名“命の座”と呼ばれ、基本的生命維持のための「司令塔」の
役割を果たしている場所になります。その役割は体温、心拍、呼吸、自律神経、ホル
モン、女性の生理、情緒の安定等を調整する中枢として機能しています。つまり生き
て行く上で絶対必要な機構をコントロールしているのです。故に「命の座」の別名が付
されているのです。

この脳幹の機能が低下するということは、人の命を守る生命力や免疫力が確実に
落ちているということになります。つまり全ての病気や症状はここから始まります。
逆に全ての病気を回復に向かわせるには、脳幹の機能を元に戻す事が絶対必要
条件となるのです。この事を知り得ていた古代日本人は、病気治しにおいて、脳幹
の熱をとる方法として、額(ひたい)に水で絞った冷たい手ぬぐいを当てる方法を残し
ています。日本の古代人の高度な見識には驚かされます。

次に脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンの過剰な消費がもたらすものは何かを
説明していきます。
ストレスや心労による脳の酷使と交感神経緊張(興奮状態)は、脳内の神経伝達物
質や脳内ホルモンを多量に消費させます。実はこの脳内の神経伝達物質や脳内
ホルモンは、脳の中で生成されるものではなく、その元(前駆体)は肝臓で作られて
います。その元となる物質は、血液によって脳まで運ばれ、脳内において神経伝達
物質や脳内ホルモンになるのです。

またその残存物は再び肝臓に還り分解されるという行程をたどります。つまり精神
的なストレスの持続による、脳の過剰な使用は、神経伝達物質や脳内ホルモンを
過剰消費させ、その残存物の分解をも過剰にします。この事は脳内物質の元を
産出し、分解する肝臓に大きな負担を強いる事になるのです。この状態の持続が
肝臓の機能低下をもたらす最大要因となります。

この様な機序で肝臓に機能低下が生じると、人体は早急に肝臓の機能を元に戻す
対応をとります。そのためには一時的に肝臓に熱(炎症)を発生させ、大量の血液
を肝臓に集め導入する事で機能の回復を図ろうとします。これが肝臓の腫れ、炎症、
充血となっていくのです。

レバーと呼ばれ、血の固まった様な大きな臓器である肝臓に、さらに大量の血液
が集まる事になり、人体全体の血液の配分を大きく乱す要因となります。肝臓に
血液が集まってしまうと(肝臓の充血)人体内に血液の不足する場所ができる事に
なります。血液は命の源(みなもと)、栄養源であり、血液の不足する個所に病気や
症状が発生していくのです。このように精神的なストレスの持続が、頭と肝臓に機
能低下をもたらし、頭と肝臓に熱と充血を生起させ、万病の原因及び起点となる
のです。


『頭と肝臓の機能低下が全ての病気や症状に大きく関わるもう一つの理由ーーー
肝臓と胆嚢の機能低下は全身の血液の循環・配分・質を乱す最大要因となる』

日本伝承医学では病気発生の機序を、精神的なストレスの持続により、頭と肝臓
に熱と充血が起こる事から始まると捉えています(脳の炎症と肝臓の充血)。そして
全ての病気の背景には、その人自身の生命力と免疫力の低下があります。直接
的には全身の血液の循環・配分・質(赤血球の連鎖と変形)の乱れが存在します。

「脳幹」(のうかん)に熱がこもる事で基本的な生命維持機構への指令が乱れ、生
命力や免疫力が低下する事は述べてきましたが、その中でも心拍系(心臓)と呼
吸系(肺)への影響は当然血液の循環と質(酸素の含有量)を低下させ、全身の
血液の循環と質を低下させます。そしてさらに全身の血液の循環・配分・質を乱
す要因となるのが、肝臓と胆嚢(たんのう)の機能低下になります。肝臓の充血が
全身の血液の配分を乱す事は説明してきましたので、ここでは胆嚢(たんのう)に
的を絞って解説します。

肝臓と胆嚢は表裏一体(ひょうりいったい)の臓器になります。「肝胆相照らす」(かん
たんあいてらす)という言葉の様に、肝臓の機能低下は胆嚢に及び、胆嚢もまた然
りです。肝臓で胆汁(たんじゅう)は作られ、胆嚢という袋に集められ、ここで胆汁は
濃縮され極めて“苦い(にがい)”物質に変化します。苦い胆汁には血液の熱(血熱)
を冷ます抗炎症作用という最も大切な役割があります。

胆嚢の働きは、胆嚢という袋を収縮させて、中の胆汁を胆管を通して十二指腸に
運び、膵液(すいえき)と協調して脂肪の分解吸収を助け、全身のコレステロール
の調整をしています。また大腸において便を生成し、不要になった赤血球の分解
物のビルビン酸を便として排出したり、体の老廃物の処理を受け持っています。

また胆嚢は、体内で生命維持にとって重要な働きとなる、脂質(コレステロール等)
の制御を担っています。現在においてはコレステロール値の上昇は悪の象徴のよ
うに認識されていますが、実は体内や脳において、全身の神経細胞や脳神経細胞
を正常に機能させる上で不可欠な大事な働きをしているのです。

コレステロールは体内の各種ホルモンの原料として欠く事ができない成分になりま
す。特にステロイドホルモンは、コレステロールを原料として作られています。
つまり胆汁は不可欠な成分であり、体内のコレステロール値を制御する重要な働き
をも担っているのです。胆汁の分泌不足は体内に各種炎症が生じやすい環境を生み、
体内脂質を制御できなくして、糖尿病や脂質異常を引き起こしていきます。

このように全ての病気(炎症)の根底には胆汁の分泌不足があります。
そもそも血糖値やコレステロール値が上昇するのは、脳と肝胆機能の低下を補う
ための対応になります。脳内の機能を守るために、脳細胞を養う最大の栄養となる
血糖(ブドウ糖)と脳神経細胞の生成に不可欠なコレステロール値を必要に応じて
高めているのです。故にこれらを薬で下げる処置をする事は、次なる対応に迫られ、
病気をさらに重篤な方向へと移行させることになってしまうのです。

現代医学で見落としている胆汁の最も大切な役割を、再度詳しく記していきます。
一番大事な役割とは、胆汁の苦い成分にあります。「良薬口に苦し」(りょうやくくち
ににがし)と言われるように、漢方薬の成分はほとんどが苦い成分で構成されてい
ます。“苦寒薬”(くかんやく)と呼ばれる様に、その苦い成分によって、血液や内臓、
身体内にこもる熱を下げていきます。余計な熱を除去し体内の炎症を鎮めること
で病気を回復に向かわせていくのです。この苦寒薬と同じ働きを受けもっているの
が、胆嚢から分泌される胆汁になります。

胆汁の極めて苦い成分が血液内(体内)の炎症を鎮め、血液の熱の上昇を抑え、
一定の温度に保つという重要な役割を担っているのです(抗炎症作用)。故に胆汁
の分泌不足は、血液の温度を上昇させ、熱変性によって血液成分の98%をしめる
赤血球を連鎖させ、さらに赤血球の変形をもたらすのです(血液がドロドロの状態)。

この状態の持続は、血液の質を低下させる最大要因となります。血液の質が低下
するという事は、生命力や免疫力が下がり、あらゆる病気へ進行していく可能性が
生じるということになります。また赤血球の連鎖と変形は全身の毛細血管内の流れ
に停滞と詰りを生起させ、全身の血液の流れを遅くし、人体の各所に虚血(血液不
足)を起こします。

頭に虚血が起これば、頭痛やめまいを発生させ、脳の毛細血管に詰まりが起これ
ば脳梗塞に、心臓の冠状動脈に起これば心筋梗塞を発生させる要因となるのです。
このように、中身の詰まった大きな臓器の肝臓と胆嚢の機能低下がもたらす、全身
の血液の配分と質の乱れは、想像をはるかに超えて、私たちの体に重大な影響を
及ぼしていくのです。

また東洋医学においては、肝臓の作用を「肝は気をめぐらせる」と表現し、気がめ
ぐることで血液がめぐると考えています。わかりやすい例として男性の勃起現象が
挙げられます。その気にならないと陰茎に血液がめぐらず、勃起しません。
つまり血液を循環させるのは「気」が先行する必要があるのです。気がめぐる事で
血液が循環するのです。

肝臓の気をめぐらせる作用は、精神作用のやる気(プラス思考)とも関わり、脳の
前頭葉の機能を助けています。故に肝臓機能の低下は精神作用とも大きく関わり
があります。このように肝臓と胆嚢は全身の血液の循環・配分・質の乱れに一番
関与する臓器であり、病気を回復に向かわせるためには、肝臓と胆嚢の機能を元
に戻す事が不可欠となるのです。


『人間の病気は、他の動物と違い脳の関わりが大きく、脳内に熱を蓄積
 させない事が重要になる』

日本の古代人は、人間の病気の機序をはっきりと把握して、病気を回復させるた
めには脳幹(命の座)の働きを正常に戻す事が必要である事を認識していました。
その方法として冷たい手拭いを額に当てる事で、前頭葉と脳幹部の熱を除去する
方法を考案しています。これは極めて理にかなった方法で、現代医学においても
ようやく近年になって発見した理論になります。精神疾患も脳の炎症にあるという
ことが近年明らかになったのです。

つまりうつ病や、睡眠障害、パニック障害等の精神疾患の場合、頭部冷却は最も
効果的な改善方法と言えるのです。前頭葉の熱と脳幹部にある扁桃体の炎症を
局所冷却(睡眠時に氷枕での後頭部を冷却)によりとり去ることで、脳内の炎症は
緩和されていきます。また、首筋をアイスバッグで冷却することで、脳内に冷たい
新鮮な血液を送り込むことができます。

脳内に炎症が起きているときは(脳の炎症)、熱をおびた血液が脳内をめぐってい
るため、たんぱく質が固まっていき(脳が半熟ゆで卵状態)、毛細血管が詰まりや
すくなります(→脳梗塞や脳内出血の予兆)。対人関係やパソコン業務、仕事等で
疲れ切った脳内には炎症が起きて熱がこもっているということを認識して下さい。
脳内の血管が切れやすい状態になっているということです。

速やかに脳内の炎症をとり去り、次の日に疲労をもち越さない為にも、睡眠時に
氷枕で後頭部、アイスバッグで額や首筋を冷却するということは重要になります。
また睡眠時には合わせて肝臓冷却も行ないます。ベルトで固定するのが苦しい場
合は、寝入る迄肝臓(胆嚢)にあてて、寝返りではずれてしまってもかまいません。
右側の肝臓部より、左側の脾臓(ひぞう)膵臓(すいぞう)部に痛みや違和感がある
場合は左側にアイスバッグをあてながら就寝します。

このように局所冷却法は、肉体的、精神的な症状に対して著効を示すだけではなく、
脳梗塞や脳内出血等の重篤な病気を未然に防ぐ大切な役割を担っています。
当院では、全患者さんに対して肝臓、後頭部、額(ひたい)、首の冷却を徹底して行
なうように指導しています。局所冷却を日課として行なうことで未病(みびょう)の状態
でも大病に至らずに過ごすことができます。日本古来から伝承されてきた局所冷却
法は、何よりもまさる家庭療法と言えるのです。


『具体的な冷却の方法』

氷冷却をする場合の基本は、実施する時間と場所になります。時間の基本は目安
として20分位になりますが、冷たく感じたら短くても構いません。急性症状の場合
は2時間以上行なうことを勧めます。冷却の場所は、微妙に気持ち良い場所を見
つけていく事です。冷却して気持ち良いと感じる場所は、内部の炎症が強い場所
になります。その場所に正確に当てる事でより良い効果を発揮できます。

肝臓部の冷却は、マジックテープの付いた固定ベルトを使用します。肝臓は人体
の右季肋部(きろくぶ)にあり、右乳頭直下の肋骨内に収まっています。また胆嚢
は肝臓の下部の前面で、体表に近い部分に親指大の大きさで存在しています。
この辺りに氷を詰めたアイスバッグを当て、気持ち良い場所を微妙に探し出し、
ベルトで軽く固定して冷却します。肝臓を冷却しているつもりで、アイスバッグが下
がってきて腹部を冷やしてしまっている方がいますので、肝臓冷却の場合冷却
する位置には気をつけてください。肝臓胆嚢冷却は前面からだけではなく、側面
から、あるいは後面からでも構いませんので自分で冷やして気持ち良い場所を
見つけるように行なっていきます。

後頭部の冷却は、氷枕に専用の枕カバーを装着します。枕カバーを使用する利
点は、結露を防ぎ、氷のもちを良くする効果と、直接的な氷の冷たさを軽減する
効果があります。枕カバーに包んだ氷枕を枕の上にのせ、頭をのせて後頭部を
冷却します。冷たさの許容度は各自異なるため、冷た過ぎる場合はタオルを敷い
て調節します。逆に冷たい方が気持ち良い場合は、カバーをしないで氷枕をその
まま頭の下に敷きます。各自の感覚で温度調節は行なうようにします。

脳内の熱、炎症を効果的に除去する方法として、日本の古代人が伝え残してくれ
た“額”(ひたい)の冷却があります。額を冷却する場合はアイスバッグを使用して、
気持ち良い場所を微妙に探し行ないます。直接的に氷が当たるのが不快な場合
は、アイスバッグを大きめのハンカチやスカーフ、バンダナ等で包み使用します。
左右の首の冷却も、上記同様に気持ち良い場所を探して行ないます。
冬期においては、寒さに応じて冷却時間を臨機応変に変えながら実践していきます。
夏期は3時間位で氷が溶けてしまうため、トイレに起きた時に夜中でも氷を補充する
ようにします。

日本では「頭寒足熱」(ずかんそくねつ)という健康の秘訣が古来から伝えられてい
ます。足元を湯たんぽであたため、後頭部を氷枕で冷却して眠ることで血液の循環
が良くなり、睡眠時に疲れた体を自然回復させることができるからです。一日の終わ
りに疲れ切った身体を休め回復させるためには、いかに質の良い眠りにつけるかに
かかってきます。毎晩睡眠時には肝臓の冷却、後頭部の冷却、湯たんぽで足元を
温めることを(湯たんぽは真冬だけではなく秋から梅雨時位迄用いる)習慣づけてい
くことにより、良い眠りの質が得られ、不調を改善していくことができます。
日本伝承医学が推奨する頭と肝臓冷却の局所冷却法を日課として継続し実践さ
れていくことを願います。