体の痛みと筋肉と神経と心の話
日本伝承医学では学校では教えてもらえなかった人間の体や
臓器のこと、心や精神状態のことを伝え記しています。ホーム
ページにはたくさんの知識や症例が書かれているので余力があ
るかたは合わせて読みすすめてください。
この章では首や腕、肩の痛みやしびれだけではなく、膝や股
関節、足関節のみやしびれ、また筋肉系と神経系について載せ
ています。
体の生理機能の根拠と機序がわかると病状改善に役立ちます。
今自分の身に起きている症状の原因や過程を知ると納得できる
ので、自己効力感(セルフエフィカシー)が高まります。病状の
メカニズムが理解できると不安感が少なくなり交感神経の緊張
がほぐれ、プラス思考(物事を前向きにとらえる思考法)に気も
ちを切り替えることができるようになります。
【自己効力感】
自己効力感とは1977年にアメリカの心理学者アルバート・バン
デューラによって提唱されました。ある行動に対して自分なら
大丈夫、自分にもできる、実行できるという気もちをもつと、
前向きな気もちになれて物事がうまくいく、たとえ失敗しても、
傷ついてもそれをバネにして立ち直ることができるという自分
自身の能力への信念を言います。
心身医学では自己効力感が高くなるとストレスホルモンの分泌
が抑制され、交感神経の緊張がとれます。そして自己治癒力が
発揮され病気をなおす力が高まるとされています。
【心身医学について】
心身医学とは病気を体だけてみていくのではなく心理的・生
物学的・社会的の側面から理解していく医学のことを言います。
医聖と呼ばれたヒポクラテス(古代ギリシャの医者)の「真の健
康とは心身(心と体)の調和がとれた存在を言う」という理念に
基づき、1930年精神分析医のフランツ・アレクサンダーによっ
て心身医学として創設されました。
医師アルクサンダーは感情の抑圧(家庭内や職場で自分の気も
ちを押し殺し我慢し続けること)やストレス(不安・恐怖・いや
な出来事・心配事等)が自律神経系や内分泌系に反応して身体
に病気を発症させるということを立証しました。彼の理論は
1950年代から数名の医師によって精神神経免疫学の分野におい
て引き継がれてきました。心理的葛藤や心の苦しみがあると
自律神経を介して人間は身体疾患を引き起こすということが
約100年も前から医学的に証明されていたのです。
【斜角筋症候群】
首の筋肉である斜角筋(しゃかくきん)の間で、神経や血管が
圧迫されることで生じる症状のことを、斜角筋症候群と言いま
す。この部位が圧迫されると肩や腕、手にかけてしびれや痛み、
重だるさ、脱力感(ふぁっと手の力が抜ける)等の症状が強く
出るのが特徴になります。痛みがひどい場合は神経ブロック
注射(痛み止めの注射)、重度では手術になる場合がありますが、
ほとんどが保存療法でリハビリやストレッチによって対処して
いるのが現状です。
日本伝承医学では、その部位だけをみるのではなく、神経が
圧迫される原因となる体のねじれのゆがみをとり、大元の要因
である脳内の炎症を除去することに主体をおいて改善していき
ます。受診時に家庭療法としてのストレッチ、局所冷却法を
指導し、自宅でも実践してもらうようにしています。
どんな症状や病気でもここに来て治療を受けるだけでは根本
的解決にはなりません。自分でできる自助努力は怠らないよう
にします。睡眠や食事等の日常生活の見直しも大事です。特に
斜角筋症候群のような筋肉系と神経系に関わるときは、筋肉
を緩め、神経への圧迫を軽減していくために日々のストレッチ
は必要です。根本要因である脳の炎症をとるために、毎日の
頭部冷却も必ず行なわなければなりません。家では何もしない
でただ通院するだけでは病気や症状は良くならないことを認識
していただきたいと思います。
また自己流の強いストレッチやけん引、きつい運動療法は過敏
になっている神経をかえっていためてしまうので逆効果になり
ます。ストレッチには秘訣がありますので受診時の指導を守る
ようにお願いします。
【筋肉の起始と停止】
斜角筋は首の前側にある筋肉で、前斜角筋・中斜角筋・後斜
角筋の3つがあります(斜角筋症候群では特に前斜角筋と中斜
角筋が深く関わります)。前斜角筋の起始は第3~第6頸椎の
横突起で、停止は第1肋骨の前部(内側)になります。中斜角筋
の起始は第2~第7頸椎の横突起(後結節)で、停止は第1肋骨の
外側部(上縁)になります。後斜角筋の起始は第4~第6頸椎の
横突起で、停止は第2肋骨の外側上縁になります。
起始(きし)とはその筋肉がどこから始まっているかで、停止
はその筋肉がどこで終わっているかを表します。起始は動かな
い方の端の筋肉で、停止は動く方の端の付着部になります。
交感神経が緊張して筋肉が固くなって縮むと、停止部が起始に
向かって引っ張られ起始に近づき、筋肉が短くなっていきます
(筋肉の収縮)。筋肉が固く短く収縮すると筋肉の間を通る神経
が圧迫されて痛みやしびれが出ます。関節の動きが制限される
ので、腕を曲げたり、肩を上げたり、膝や股関節を動かすとき
に痛みや違和感、しびれ、時には激痛が起きるようになります。
腰痛、肩痛、股関節痛等も同様の根拠と機序になります。
痛みを軽減していくためには脳内温度を下げて交感神経の緊張
をとり、肝臓胆のうの充血(炎症)をとらなければなりません。
そのために家庭療法の局所冷却が必要になります。まだやって
いない方は体調を良くするためには絶対的に必要なので、どう
かこの機会に始めてください。
【交感神経が緊張すると筋肉は固くなる】
ストレスや心労の持続(心配事や不安感・職場や友人との対人
関係・家庭内での問題やトラブル、相手との価値観の相違・
育児や介護疲れ・金銭面での悩み等)で脳内に炎症が起きると
交感神経は過度に緊張します。交感神経が過剰に働くと筋肉が
慢性的に緊張し、斜角筋が凝り固まり、神経圧迫を引き起こし
やすくなります。(特に子どものことは成長するにつれて親は
無力になります。どうしてあげることもできなくなり先が見え
なくなってしまうのです)。
どんな筋肉でも交感神経が緊張する(優位になる)と固くなり
機能低下します。筋肉には筋紡錘(きんぼうすい)というセン
サーがあり、心労、ストレス等で交感神経が優位にたつと筋紡
錘が筋肉に「縮め!」という信号を発令するからです。そうす
ると筋肉は縮まり固くなり血流低下を引き起こします。
筋肉は「筋ポンプ作用」と言い、血液を心臓に戻す重要な役目
があります。故に固まり機能低下すると血管が圧迫され血流が
阻害され、体のあらゆる個所に支障をきたし痛みを発症します。
筋肉は単に体を動かすだけの組織ではなく、生命維持の循環・
代謝・運動・ホルモン分泌・免疫・精神等に深く関わる重要な
臓器なのです。
生理学や分子生物学では、筋肉が複数の組織の集合体で特定
の機能を持つ構造体であることから「筋肉は臓器である」と
いうことを明確にしています。
ホルモン分泌作用においては、筋肉は「動かす器官でありな
がら、ホルモンを出して全身を調整する臓器」と定義づけてい
ます。
また筋肉は脳の可逆性(脳の損傷を回復する力)を高め、神経
ネットワークを強化する役目も担っています。運動して筋肉が
働くと、ネガティブな思考(悲観的、否定的な思考)が消えて、
明るい前向きな気もち(ポジティブな思考)になれるのは、筋肉
が脳とこのような関わりをもっているからです。
【脳の炎症と痛みの関係】
脳内の炎症は神経伝達物質に異常を起こし、強い痛みを脳に
感じさせるようになります。痛みの記憶がインプットされて
消えなくなってしまうのです。
日本伝承医学では古来から伝わる技術のひとつに、麻酔操法
というものがあります。痛みの記憶を解除する操法になります。
首や肩、腕(他の部位の痛みも同様の原理)に表れる症状は単
にその部位だけで発症しているのではありません。症状を改善
していくためには脳内の炎症を除去し、交感神経の緊張をとら
なければなりません。そのためには就寝時の氷枕での後頭部の
冷却、ひたい、首筋の冷却は必須となります。ストレスで交感
神経が緊張しているときは肝臓が充血して内包される胆のうも
はれているので、アイスバッグでの肝臓胆のう冷却も重要な役
割を果たします。
日本伝承医学の治療ではまず三指半操法で体のねじれのゆがみ
をとります。体のねじれやゆがみがひどいと、神経の通り道が
変形し圧迫され、痛み(神経痛)やしびれ、麻痺等が起きます
(首・肩・腕・手・膝・股関節等も同様)。
次にリモコン操法(頸椎調整法)により脳への血流を改善します。
後頭骨擦過法で脳内温度を下げ、自律神経調整法によって交感
神経の緊張をとり去り、神経伝達物質が正常に伝達されるよう
にします。日本伝承医学の手技療法にはこのようにひとつひと
つに深い意味があり、熟練した技術を要します。
※日本伝承医学技術講習会は現在定員のため、新規受講生の
募集はしておりませんので御了承願います。ホームページ日本
伝承医学講習会の項に各講座の詳細が記載されています
(講師:日本伝承医学主幹 有本政治)。
【胸郭出口症候群】
※斜角筋症候群は胸郭出口症候群のひとつになります。
胸郭出口とは首と胸の境目にある狭い通路で、腕神経叢(わん
しんけいそう)、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈が通っています。この
狭い通路が体幹部のねじれのゆがみによって、より狭くなって
くると神経や血管が圧迫されて、しびれや痛みが生じます。
心臓のポンプ力が弱っている場合は、体は左に巻き込み、肝臓
胆のうの反応(炎症、肥大)の場合は右に巻き込み、体幹部に
ねじれのゆがみを起こします。
※腕神経叢は腕や手の感覚や運動を司ります。
胸郭出口症候群は圧迫される場所によって、斜角筋症候群
(前・中斜角筋間が圧迫)、肋鎖症候群(鎖骨と第一肋骨間が圧
迫)、小胸筋症候群(小胸筋と肋骨間が圧迫)、鎖骨下症候群に
分類されます。これらは共通して腕を挙げたり、腕を曲げたり、
首を動かしたり回したりするときに症状が強く出ます。
全症状に共通の有効なストレッチは、首を左右に倒したり横を
向いたりする動作をゆっくり行なうことです。呼吸が浅くなる
と斜角筋や小胸筋が余計に働き固まってしまうので悪循環にな
ります。浅い呼吸にならないように、ゆったりと深呼吸しなが
ら行なうようにします。次に胸を開く意識で両肘を曲げながら
引き、肩甲骨をよせていきます。胸郭出口の圧迫が減少して
神経の通りが良くなります。面圧をかけるストレッチも重要
です。各関節部は面圧をかけることで関節液の循環が良くなり、
関節包や骨膜が柔らかくなり神経の圧迫が軽減されます(面圧
のかけ方は受診時に指導しています)。
ストレッチは一日の、筋肉と心の緊張をとり去ってくれる大
切なリハビリです。毎日行なうことで筋肉がほぐれ血流が良く
なります。これによって細胞が正常に働ける環境に戻るので代
謝が良くなり、しびれや痛みが改善されます。細胞環境が整う
と神経細胞が正常化するので電気信号の伝達が正常になり自律
神経のバランスが整い交感神経の緊張が緩和されます。
【鎖骨下症候群】
鎖骨下症候群は胸郭出口症候群の一種で鎖骨下動脈や鎖骨下
静脈が圧迫されることで発症します。圧迫される部位は鎖骨下
という名前の通り、鎖骨と第1肋骨の間(肋鎖間隙)、鎖骨下筋
や前斜角筋の過緊張部位等になります。
肩や腕、そして手に行く神経は首の下から鎖骨の下を通る
ルートが主要経路になります。鎖骨下は神経と血管の主要な通
り道ですが非常に細く圧迫されやすい場所になります。特に
鎖骨と第1肋骨の間や小胸筋下隙が圧迫されやすくなります。
要因として体のねじれのゆがみがあります。肝臓胆のうが
炎症を起こして腫れると右肩下がりになり右肩を巻き込むよう
に体幹部がねじれてきます。心臓のポンプ作用が低下すると
左肩下がりになり左肩を巻き込むように体幹部がねじれてき
ます。体がねじれると肩甲骨と鎖骨の連動が崩れ、鎖骨は下が
って内旋し、鎖骨下の圧迫が強くなります。
鎖骨下に症状が出る人は先天的に心臓機能に弱りがあり、心臓
ポンプ作用の働きを補うために肋骨を変形させて血流を促すた
め鎖骨下が詰まりやすくなります。
日本伝承医学では三指半(さんしはん)操法によってまず要因
となる体のねじれのゆがみをとります。肝胆の叩打法で肝臓
と胆のうの炎症を除去し、心臓調整法で低下した心臓のポンプ
作用を高めます。個別操法として鎖骨に微振動をかけて電気を
発生させる操法、肩、腕に面圧をかける操法、集約拳操法等
を用いて治療していきます。疲労やストレスがあると肝臓胆
のうはすぐに炎症を起こしてしまうので家庭療法としての肝臓
胆のう冷却は治るためには必要です。
右胸の下側、右脇腹付近に痛みや違和感が出たら、肝臓が肥
大して胆のうが腫れていると判断してください。体がとても疲
れているときに起こる症状になります。胆のうが腫れると痛み
がかなりひどく感じる場合があります。右肩が巻き込んで体が
大きくねじれてしまっているのです。ゆがみやねじれを放置し
ておくと神経が圧迫されて肩や腕にまで強い痛みやしびれが波
及していくので右側に違和感が出たら連絡して早めに受診する
ようにしてください。
≪参考文献≫
※各章は日本伝承医学のホームページ、リハビリテーション
の症例からご覧になれます。
頚髄神経 / 日本伝承医学の治療がなぜ神経系に効くのか
痛み止めの話 / 筋肉の話 / 肝臓と筋肉とストレスの話
※以下の章は日本伝承医学心療科のホームページからご覧に
なれます。
脳疲労 / 自律神経調整法 / 僧帽筋と胸鎖乳突筋の話