日本伝承医学の治療はどうしていろいろな病気に効くので
すか?という質問をよく受けます。それはこの治療が骨伝導
を介して神経系に作用させることができるからです。神経系
は私たちの心と体、そしてすべての内臓をつなぐネットワー
クで生命を維持する役割を担っています。神経系の存在がな
ければ私たちは動くことも感じることも、考えることもでき
ません。神経系の一部が遮断され阻害されると、生命維持の
ための情報伝達が停止し、内臓機能に異常が起こり様々な病
状を発症させます。遮断された部位によっては重い障害を負
うこともあります。
神経系は中枢神経系(脳と脊髄)と末梢神経系(感覚神経・運
動神経・自律神経)の二つに分かれています。末梢神経系の
ひとつである自律神経は、心臓の拍動や呼吸、発汗、体温、
消化、排泄、代謝等の働きを調整するとても大事な神経系に
なります。自律神経が整うと心と体のバランスが安定して疲
れにくく、物事を前向きに考えていけるようになります。
なんで自分だけがこんなにつらいのか、このつらい症状がい
つまで続くのか、というマイナス的な思いではなく、今自分
の身に起きている症状や現状を受け入れて、共存共生してい
く気もちを持つようにすると少しらくに生きられます。
 神経という言葉は日常的に使われますが、なんとなくわか
っているようであまりよく知られていません。この章では健
康を維持するために重要な、神経系と神経細胞についてお話
していきますのでゆっくり読み進めてください。


『日本伝承医学の治療がなぜ神経系に効くのか』
【日本伝承医学は脳の調整法を構築する】
 脳は神経細胞(ニューロン)が発する電気信号によって活動
しています。神経細胞は、細胞体(信号をまとめて判断する)
と、神経の情報の入力を受ける樹状突起(じゅじょうとっき)
と、他の細胞へ出力する軸索(じくさく)からなります。
(樹状突起と軸索を合わせて神経突起といいます)。神経細胞
は層構造をしていて高度な情報処理を行なっています。どん
なに機械やコンピューターが進化したとしても、人間の脳機
構にまさるものは存在し得ないのです。
 人間の大脳には数百億(860億個とも言われる)もの神経
細胞があり、各々の細胞に数万個のシナプスが存在していま
す。シナプスは細胞と細胞の間のつなぎ目で、シナプスで神
経伝達物質を使って次の神経細胞に信号を送ります。これら
の細胞が複雑なネットワークを構成し、行動、感情、思考等
を生み出しています。現在解明されているのは、ほんの一部
分にしか過ぎません。
 神経細胞の働きは、感覚・運動・介在の3つに分けられます。
外からの刺激を受けるのが感覚細胞、刺激を筋肉に伝えるの
が運動神経細胞、神経細胞間での情報を伝達するのが介在神
経細胞になります。介在神経細胞が脳の中枢神経系を形成し
ています。情報伝達は電気信号(活動電位)によって入力、
出力されます。心筋細胞が微弱な電気によって活動するよう
に、脳細胞も電気によって情報伝達を行ない活動しているの
です。
 日本伝承医学の治療は、骨にゆり・ふり・たたきという圧
や振動をかけて微弱な電気を発生させることに主体をおいて
います。骨には振動や圧が加わると圧電作用が働き微弱な電
気を発生する性質があります。発生した電気はエネルギーと
なり、骨伝導を介して全骨格に瞬時に伝わり、骨髄の中にあ
る全細胞の母体である骨髄幹細胞(造血幹細胞)にスイッチを
入れ、造血力と細胞新生力を高めます。私たちの体の不調な
個所は必ず電気が滞電していて、エネルギー不足(電気不足)
になっています。
 日本伝承医学のリモコン操法は「脳の調整法」とも言われ、
仙骨から頸椎、脳へと電気信号を伝播させ、脳内の血流を改
善します。リモコン操法は神経伝達が遮断された部位(シナ
プスが遮断された部位)に神経可塑性(かそせい)を促し、遮
断されていた情報伝達の回路をつないで復旧させていきます。
 この操法は日本に古来から蘇生術として伝え残されてきま
した。術者は人事不省の状態に陥った数多くの人たちを救っ
てきたため、奈良時代から平安時代にかけては蘇生者(ヒー
ラー)、陰陽師(方術士)と呼ばれていました。日本伝承医学
の術者が現今ヒ-ラーと呼ばれる元基はここにあります。
くすのき荘の治療院は中庭に井戸がある最も磁場が高い地に
位置し、イヤシロチ(癒しの地)として全国から御来院されて
います。家庭療法の自助努力無しに治してもらおうとする方
は、その邪気によって電気が遮断されるので情報伝達の回路
が復旧できません。
【神経系と神経細胞の話】
 神経系とは体の内外の情報を感知して、処理・伝達・制御
するための仕組みのことを言います。大きく分けて中枢神経
系と末梢神経系の二つに分類されます。中枢神経系は脳と脊
髄で構成される情報の司令塔になります。
 末梢神経系は脳や脊髄から枝分かれして体中に伸びている
神経で、中枢と体の各部をつなぐ通り道の役割を果たします。
脳から出る末梢神経を脳神経、脊髄から出る末梢神経を脊髄
神経とよびます。また末梢神経には体性神経系(意識的に制御
できる運動や感覚)と自律神経系(無意識に働く内臓や血管の
制御)の二つの系があります。脳神経と脊髄神経は主に体性
神経系に属しますが一部は自律神経系にも関与します。
 神経細胞は神経系を構成する基本単位で、ニューロンとも
よばれます。電気信号を発生させ伝達し他の細胞との通信を
行ないます。神経系がコンピューターの全体システムだとす
ると神経細胞はその中の回路やチップと言えます。
 神経細胞と神経細胞をつないでいるのが接続端子の役割を
果たすシナプスになります。シナプスには可塑性(かそせい)
という性質があり、何度も刺激されると、その接続が強化さ
れたり、逆にあまり使われないとシナプスの結びつきが弱く
なり消去されます。またシナプスは脳の状態の影響を受ける
ため、脳に炎症が起こり中枢部である脳幹が機能低下すると
脳からの指令が狂い、一部分のシナプスが遮断されてしまい
ます。
 ある部位のシナプスが遮断されると、その回路の情報伝達
ができなくなり、支障をきたします。例えば運動ニューロン
(神経細胞)のシナプスが遮断されると筋肉が働かなくなり麻
痺をおこしたり歩けなくなります。感覚神経のシナプスが遮
断されるとしびれや感覚麻痺をおこします。自律神経のシナ
プスが遮断されると内臓の調整がうまくできなくなり、心拍、
血圧、呼吸、消化機能等に異常をきたします。海馬(かいば)
等の記憶を司る部位のシナプスが遮断されると記憶障害や認
知症を発症します。感情系(扁桃体)のシナプスが遮断される
と不安や怒り、恐怖の感情が抑えられなくなり、切れやすく
なったり情緒不安に陥ります。
 このようにシナプスは神経系にとって情報伝達の要(かなめ)
であり、重要な役割を担っています。シナプスが遮断される
要因として脳の炎症(熱のこもり)が挙げられます。ストレス
や心労、過労等で脳の中枢部に炎症が起きると全てのシステ
ムに狂いが生じます。パソコンを使いすぎると頭脳にあたる
CPU(中央処理装置)が熱を帯び、フリ-ズしてシャットダウン
してしまうのと同じです。人間の脳は熱を帯びやすく、最も
熱に弱い臓器なのです。
 日本伝承医学の治療は、骨に微弱な電気を発生させ骨髄機
能を発現させるので、遮断されたシナプスの可塑性を促すこ
とができます。根源にある脳の炎症を除去するために家庭療
法として頭部冷却を就寝時に行なうようにします。
一日の終わりに疲弊し炎症を起こしている脳を回復するため
に家庭療法は日課として実践してください。
  参考文献 「日本伝承医学家庭療法」「脳疲労」