人体の要の骨となる距骨の重要性 2023.4.29. 有本政治
 

距骨は足の関節を構成している骨の一部で踵骨(かかとの骨)の上にあり足首の
ほぼ中央に位置しています。距骨は全体重を支えている人体の要(かなめ)の骨と
なります。日本伝承医学では距骨を単なる足関節の軸と支点としてではなく、
脳へ電気信号を送るための人体中最重要の骨として捉えています。

【距骨は唯一筋肉の付着がない自由な骨】

 距骨は人体の約200個の骨の中で唯一筋肉の付着がない骨になります。筋肉が
ないため自由な反面、日常生活を送る上で最もずれやすい(傾きやすい)骨と言え
ます。そしてこの骨は一度ずれてしまうと自力では元に戻れないという難点があり
ます。距骨は下腿の脛骨と腓骨の下端に、はさみ込まれるようにつながっている
ので距骨のずれは腓骨、脛骨、踵骨、足根骨等、距骨周辺の骨すべてに位置異常
を引き起こし身体に支障をきたします。
 この部位は自分で整復することは難しく、日本伝承医学では距骨整復法、距骨
の不随意運動法、距腿関節運動法等を用いて距骨の外転、内転、前方、後方の
位置異常を正し、距腿関節の動きを整復し、ひずみを起こした身体機能を調整し
ていきます。

【距腿関節の制限が人体に及ぼす影響】

距骨、脛骨、腓骨から構成される足関節を距腿関節(きょたいかんせつ)と言い
ます。距腿関節は蝶番(ちょうばん)関節で、距骨が凸曲面で脛骨と腓骨が凹曲面
をなし蝶番のように、はまるようになっています。この距腿関節の働きによって、
足首の底屈、背屈運動、回内・回外運動、外転・内転運動の円錐運動(えんすい
うんどう)がなされます。

 この関節の動きに制限がかかると、足首の動きが妨げられるだけではなく、脳
への司令(電気信号)、伝達が正常に働かなくなります。脳の中枢部(脳幹)が支障
をきたすため末梢に向かう運動神経が遮断され、力が入らなくなったり麻痺や
硬縮が起きやすくなります。脳幹は呼吸・心拍・消化・体温調整等の生命維持に
深く関わる重要部位なので、距腿関節が阻害されると全ての生理機能が遮断され
てしまう事になるのです。

記憶障害や認知症、不眠症、不安障害等の精神症状も、距骨の位置異常により
距腿関節が正常に動かなくなった時に発症しやすくなります。それは距骨が脳へ
電気信号(インパルス)を送る重要な部位であるからです。脳は電気信号によって
発動します。足部(距骨)の骨に圧がかかることで電気が発生し脳内に伝播されま
す。電気信号は神経細胞(ニューロン)の樹状突起から細胞体を経て軸索を通り、
次の樹状突起へと流れ、ニューロンネットワークを形成し、情報が全身へ伝播
されていきます。距骨の重要性はここにあります。

【距骨にはなぜ筋肉が付着していないのか】

 人体の動きは骨で構成される関節が筋肉の収縮によって動くことで達成されて
います。その中でも距骨は人体にかかる重力の重さ()を人体上部に伝える要の
骨としての役割を担っています。

 人体約200個の骨のすべてには必ず筋肉の起始部と停止部の付着があります。
しかし距骨にだけは唯一筋肉の付着がありません。これはどうしてかと言うと
人体の足にかかった重力を正確に脳へ伝えるためです。

 二足歩行を果たした縦長な人体が、直立のバランスを保つためには精密で
超高速な伝達系が必要で、これを受けた脳が瞬時に全筋肉に指令を伝えることで
達成されます。この制御のための伝達スピードは、神経の伝達スピード(1秒間に
120m)では不可能であり、電気の伝達スピードにあたる1秒間に地球を7周り半
できる超高速の伝達力が必要になります。これを達成するには人体の骨に圧を
かけて電気を発生させ骨伝導を介して脳に伝える手段しか存在し得ません。

 この骨の圧を受けて下腿の二本の骨にあたる脛骨と腓骨に電気信号を伝え、脳
へ伝播させるのが距骨の役割になります。そのためには距骨が重力に対して筋肉
の影響を受けないことが必須であり、重力に対して正確に高速に脳へ伝達する
ためには距骨に筋肉が付いていては妨げになるのです。

 距骨は扇(おうぎ)の要(かなめ)となる支点に相当します。扇の骨の一本一本は
紙でつながれていて、これにより開閉する仕組みになっています。この開閉の
動きが筋肉の運動に相当します。要の支点である距骨に筋肉がついていては機能
が正常に働かなくなってしまうのです。


【距骨は筋出力を司る】

 距骨は人体のバランスを保つための「軸」の役割と、筋出力を司る「支点」の
役割を担っています。筋出力とは、筋肉を発揮させる力の事で、距骨から電気信号
が送られなくなり、脳からの運動神経がうまく伝達されなくなると筋出力は低下
します。力が入らなくなったり、力が急に抜けたり、麻痺やしびれ、硬直等の
症状が起きます。運動神経や自律神経等の末梢神経や中枢神経(脳と脊髄)は、
脳内に炎症が起こると脳幹の働きが障害され、各神経が正常に伝達されなくなり、
筋出力低下状態に陥り、前述の様な症状が起きます。

 筋肉低下と筋出力低下は異なります。断面1㎝の筋肉で5㎏位の筋力が出ると
します。筋肉の断面積(太さ)と筋力は比例しますが、筋出力と筋力は必ずしも
一致しません。筋出力の低下は、脳幹部に熱をもち(脳の炎症)神経伝達が阻害
された場合と、筋出力の支点となる距骨の動きが制限された時に起こります。

断面1㎝の太い(強い)筋肉でも、500gの筋力しか出せない事態が生じるという
ことです。

【距骨は脳への司令塔】

 筋肉は細かい繊維の束になっていて、弱い(細い)筋肉は、一本が細いだけでは
なく、休眠していて働いていない繊維が多い状態になっています。筋肉が細く
萎えてしまうと、代謝が下がり、血液を心臓に還す事ができなくなります。体は
これを危機と察し、司令塔である距骨から脳へ電気信号を送り、脳が休眠して
いる筋肉へ目を覚ますように命令を送ります。

 筋トレ(筋肉トレーニング)と言われるものは、神経系の活性化によるもので、
本来は筋肉そのものを強くするのではなく、「力を入れやすくする要素」をつけ
ることを目的とします。つまり筋トレには距骨が大事で、まず位置異常を修復し
距腿関節の動きをとり戻し、神経系の活性化を図ることが命題になります。

 筋出力が著しく低下している筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の病状でも、
日本伝承医学の治療によって改善可能になるのは、距骨を脳への司令塔として捉
え、骨に圧と振動を与えることによって電気を発生させ、脳から筋肉へ電気信号
を送り、筋出力を向上させることができるからになります。

【日本伝承医学の診断と判定】

 日本伝承医学が人体の診断と判定で一番重要視している個所が距腿関節の内踝側
の反応点になります。左右の内踝の圧痛、硬結がどちらにあるかを診断し、圧痛
と硬結を除去することが診断の目安になります。人体において距骨が重要である
ということに日本の古代人は気づいていたのです。

 生命の仕組みを構成する「エネルギー・情報・物質」の三態の中のエネルギー
と情報の過不足が現われる場所が距骨の内踝にあたります。内踝は物質としての
血液の反応場所であり、心臓の反応点となるのは足裏の大趾裏になります。

つまり生命の仕組みの「エネルギー・情報・物質」のすべてがここに現われるの
です。日本伝承医学の治療では、この内踝と足裏の圧痛、硬結が消えることが
命題となります。

【日本伝承医学の技法】

 日本伝承医学の三指半(さんしはん)操法は、かかとに与えられた圧、振動(ヒビキ)
を骨格の軸である距骨を介して全身の骨に電気を伝播させる技法になります。

 骨には圧が加わると微弱な電気を発生する性質があります。発生した電気は
エネルギーとなり骨伝導を介して全骨格に伝播され、骨髄幹細胞
(造血幹細胞)
スイッチを入れ造血力と細胞新生力を高めます。

 日本伝承医学が距骨を人体の要の骨として捉えている理由はここにあります。
距骨を介して、造血力と細胞新生力、すなわち免疫力と生命力を高めていくこと
ができるからになります。

≪参考文献≫著:有本政治

      「頭と肝臓の局所冷却法は何故必要なのか

人体に電気を発生させる原理は骨の圧電作用

       骨伝導系が作動すると人体に何が起きるか
   
       日本伝承医学とはどういう治療法なのか

       日本伝承医学は現代の遺伝子治療

       筋萎縮性側索硬化症(ALS)