膝の痛みと違和感~ヒアルロン酸注射が良くない理由
 

人体のすべての関節内には機械のオイルの様な役割をもつ関節液(滑液)が内包
されています。関節液は滑膜(かつまく)で作られるので滑液とも呼ばれ、ヒアル
ロン酸や、たんぱく質等を含んでいます。関節包(かんせつほう)という袋状の中
にあり、骨と骨の連結場所となる関節がスムーズに動くよう、潤滑液の働きをして
います。
 滑液の補充と循環は関節包の膜を通じて行なわれる仕組みになっています。
滑液の粘度は一定ではなく、通常は粘度の高いネバネバ状態で存在し、関節内に
炎症が生じると粘度をサラサラにして関節包膜の透過性を高めて関節内の炎症
(
)を除去するように作られています。
 整形外科で行なわれている関節内の炎症を除去する方法として、ヒアルロン酸
の注入法があります。この方法は一時的には関節内の炎症を除去し、膝の動きと
痛みが楽になりますが、関節内に熱が発生する機序を考えていない対症療法のため、
すぐに再発してしまいます。その度にヒアルロン酸を注入する注射を行なっていく
とヒアルロン酸の量が増え粘性が増すため、内外との滑液の透過ができなくなり
ます。結果的に膝関節内の炎症が慢性的になり、治まらなくなってしまうのです。
また注入されたヒアルロン酸の成分が体内の自然成分の滑液の効能に異変を生起
させ、本来の滑液の働きを低下させる要因としても作用します。

【滑膜】
 関節液は滑膜(かつまく)で作られるので滑液(かつえき)とも言います。滑膜は
関節包の内面を覆っている薄い膜状の組織で、滑膜細胞(かつまくさいぼう)
疎水性結合組織(そすいせいけつごうそしき)で形成されています。関節軟骨周辺
に付着し、関節軟骨と共に関節腔を形成しています。その生理機能は、関節液の
産出、関節液との物質交換、関節の安定性に対する作用になります。
 この滑膜が炎症を起こすと(滑膜の炎症=滑膜炎)、痛みや変形の原因となります。
滑膜の炎症は慢性化すると軟骨や骨にまで病変が及び、破骨細胞と造骨細胞の
バランスを乱し、骨の質を低下させます。炎症性のサイトカインが破骨細胞だけ
を活性化してしまうので、骨破壊の状態を引き起こしてしまうのです。
 ※サイトカインとは免疫細胞から分泌される情報伝達を担うたんぱく質になります。 
 
 関節内に炎症が起きると滑膜に白血球が浸潤し滑膜に過形成(肥厚)が生じ、
関節液内に白血球が入ってきます。炎症性のサイトカインを攻撃するためです。
人為的に注入されるヒアルロン酸は敵(異物)とみなします。貼るタイプのヒアル
ロン酸や錠剤等も同様です。白血球は異物から体を守る働きをするのでこれらを
異物として感知し、白血球数を急速に増加し異物を包み込み細胞内にとり込み
処理します。薬剤等を長期に渡り投与、服用し続けると急性白血病等に罹患する
確率が高くなる背景はここにあります。

【ヒアルロン酸】
 皮膚や関節軟骨、関節液等の体内の様々な部位には高分子量の物質であるヒアル
ロン酸が存在します。多くは細胞と細胞の間に存在し、関節のスムーズな動きを
助ける潤滑作用と水分子を多く保持する性質により、クッションのような役割を
果たし軟骨の衝撃吸収作用を助けています。
 ヒアルロン酸は1グラムで6リットルの水を保持できるほど保水力に優れています。
ヒアルロン酸は眼球の硝子体にも多く含まれ、緩衝作用や組織形状維持の働きを
しています。
 ヒアルロン酸を作り出す力は加齢と共に減少していくので、年をとると関節液
としての働きが悪くなり膝の動きは鈍くなっていきます。若いときと同じような
トレーニングや運動法を行なっていると体がダメージを受けて、関節に炎症が
起こりやすくなるので気をつけます。

 関節内に炎症が起こると、体は炎症を鎮めるために関節液を多量に分泌するので、
ヒアルロン酸を含んでいる関節液の濃度が薄まります。濃度を低下させ粘性を下げ
てサラサラ状態にして、滑液の循環を高めることで熱を除去しようとします。
熱を除去しようとしているのに外部からヒアルロン酸を注入してしまうと、粘性
が増し膜の透過性が消失し、余計に熱を貯留することになります。体は関節の
破壊を食い止めるために次なる対応を迫られ、関節の形を変えてまでも関節内の
循環を守ろうとしていきます。この状態が変形性膝関節症になります。
()「変形性膝関節症を捉え直す」

 関節内の炎症を鎮めるには、過度な運動や仕事は避け、アイスバッグでの局所
冷却法を行なうことが効果的です。静養し患部を冷やすことで内部の熱を速やか
に除去することができます。

【関節液は軟骨の栄養源】
 関節軟骨組織内の軟骨細胞では関節の健康が維持できるように軟骨細胞に供給
する栄養が必要になります。軟骨には血管がない為、軟骨細胞への栄養は関節液
(
滑液)から受けています。関節の適度な運動により、関節液が軟骨細胞まで浸み
込んでいき、栄養を送り込むことによって、柔軟性や緩衝性を維持し、関節を
滑らかに動かすことができます。ところが長期に及ぶ入院や、寝たきりの状態が
続き関節を動かさないでいると、軟骨細胞が傷んでしまい、軟骨細胞に充分な
栄養が送られなくなり、関節液の新陳代謝が悪くなります。
 「流れ水は腐らず」という諺があります。たまっている水はくさるけれど、
循環して流れている水は新鮮でくさらないということです。この原理は人体にも
あてはまり、関節液が常に循環して環流していれば、関節液から栄養が受けられ
潤滑液としての役割が果たせ、膝の炎症や膝痛等は起きないという事になります。

【日本伝承医学からの考察】
 日本伝承医学では、体の上体に起こったねじれのゆがみが下肢に及び、下肢中間
に位置する膝関節にねじれが生起され、この状態での膝の酷使、外部からの応力
により、膝に症状(炎症)が現われると捉えています。その前提として、
胆汁(たんじゅう)の分泌不足が挙げられます。胆汁には血液の連鎖を防ぎ、血液
の熱(血熱)を冷ます作用がありますが、肝臓の機能低下(過労心労ストレスの持続)
により胆のうが腫れ、胆汁が分泌不足になると血液が熱を帯びます。

 熱変成により赤血球が連鎖し、血液がどろどろでべたべたの状態になり毛細血管
をつまらせ、膝関節に熱を発生させていきます(膝の炎症)。膝に起こる症状は
その部位だけをみるのではなく、このように内臓との関連の中で捉えていかなけれ
ばなりません。

 日本伝承医学では全体調整で身体のねじれのゆがみをとり、心臓調整法で心臓
のポンプ力を高めていきます。肝臓(胆のう)調整法と血液の質を上げる操法を用い、
血液の循環・配分・質を整えてから膝の個別操法に入ります。膝関節が炎症を
起こさなくてもいいように、身体を内臓から調整していきます。家庭療法として
の局所冷却法を必修とし、症状の改善に努めていきます。

【日常生活で気をつけること】
 膝に痛みや違和感があるときに、鍛えなければいけない、運動療法をしなけれ
ばいけないと思い込み、屈伸したり、長時間の歩行をしたり、階段の上り下りを
したり、大股で早く歩いたり、トレーニングやストレッチを行なう方がいますが、
却って逆効果で症状を悪化させてしまいます。過度の歩行や運動は、オーバーワーク
で関節に炎症を引き起こすからです。痛みや違和感が発症したときは、少し静養し
休みなさい、横たわる時間を多く作りなさい、という体からの警告サインである
ということを忘れてはいけません。
 運動療法とはたくさん歩くことではなく、適度な歩行のことをさします。
歩くことで関節に重力圧がかかり、滑液が循環できます。1日3000歩~5000歩位迄
を目安とします。大また(大幅)で歩くと膝や足関節に負担がかかるので、小また
(小幅)で歩くようにします。肘を曲げて手を振って歩くと、心臓や肺に負担が
かかり苦しくなるので、手は下にさげて自然体で歩くようにします。買い物した
物や、荷物を持って歩くのも良くありません。手ぶらで歩きます。膝やふくらはぎ、
足首等に違和感があるうちは、過度の歩行や全力で走ったりジョギングはいけま
せん。激しいトレーニングやストレッチ、階段の上り下りも避けます。
 体に良かれと思ってやっている見誤った運動法が、却って症状を悪化させること
になるので注意してください。できるだけ膝に負担をかけにようにして過ごすよう
にします。
 ※なぜ膝痛や関節痛みが起きるのか、なぜ炎症が起きるのかの詳細は、下記
  項目に根拠と機序が明記されています。炎症を除去するための局所冷却法は
  受診時に説明しています。


≪参考文献≫ 著:有本政治

         膝痛をとらえなおす
         
         続膝疾患~変形性膝関節症を捉え直す

     「サッカーのゴン中山選手~の膝痛は何故良くならなかったのか

         「膝疾患の冷却について

     「家庭療法としての局所冷却法
 

         「日本伝承医学の膝の治療