臍痛

(へそ)の内側には腹膜(ふくまく)があり神経が張りめぐら
されています。
胎児の頃は胎盤を介して母体とつながっていて、
臍から栄養や酸素を得ていました。産まれた後はその役割を
終えたかのように思われますが、臍周囲には自律神経が集中し
ているので「おなかの脳」言われ、大事な部位になります。
 臍の周囲の腹腔神経叢(ふくくうしんけいそう)は太陽神経叢
ともいわれ、この神経叢は精神状態と密接な関わりがあります。
脳の情動と関わる為、強いストレスやプレッシャーを受けると、
自律神経のバランスが乱れ、神経叢を介して臍に痛みが発生し
ます。この章では臍痛を精神状態との関連の中で考察していき
ます。


【腹膜】
 腹膜とは肝臓・胃・小腸・大腸等の腹部の臓器の外側と内側
の壁、横隔膜、骨盤底等をおおっている薄い膜になります。
広げると畳約1畳分(182㎝×91)にもなります。半透明膜で
毛細血管が網の目状に無数に走り、多数のリンパ管が分布して
います。腹部臓器を保護すると共に、生体膜として浸出、漏出、
分泌等の生理作用を担っています。腹膜に起こる炎症を腹膜炎
と言います。
 (詳細は下記腹膜炎の本質参照)

【リンパ管】
 リンパ管の中にはリンパ液と言う液体が流れています。全身
を巡る血液は、毛細血管から一部が染み出して体の隅々にまで
酸素や栄養素を届けます。そして再び血液まで戻りますが、
老廃物や水分(組織液)の一部は毛細リンパ管に入り、リンパ液
となります。毛細リンパ管は集まってリンパ管となり、最終的
には静脈に流入します。
 きれいな血液を体の隅々まで(抹消組織)届ける血管を上水道
に例えるならば、リンパ管は老廃物を集めて運ぶ下水道にあたる
器官と言えます。腹膜にはこのリンパ管が多数分布しています。
 リンパ液を浄化する役割は、リンパ管の途中にあるリンパ節
になります。

【臍炎】
 臍から汁や膿が出たり痛みが生じる場合を臍炎(臍の炎症)
言います。極度の心労(ストレス、重圧、プレッシャ-等)
肉体的疲労が合わさり、著しく免疫力が低下した時に発症しま
す。感染症とされていますが、体は感染させることにより熱を
発生させ、低下した免疫力をとり戻す対応をとります。
 人体は病原菌等に感染すると、菌に対抗するために自己免疫
機構にスイッチが入り、細胞を活性化し、熱を発生させるシス
テムが発動します。つまり感染症は、免疫力が低下した状態を
回避するために対応している姿と言えます。
 臍炎は汁や膿として余計な熱や毒素を排出させるために臍に
炎症を起こします。炎(えん)と付くように、臍内部に炎症が
起きている症状なので、ハンカチ等でくるんだアイスバッグで
臍上一点を集中冷却します。炎症が除去され痛みが緩和され
ます。生活習慣を正し静養し、睡眠時間(横たわる時間)を増や
し、免疫力を上げていく自助努力も必要です。

 臍炎は心身共に疲弊が限界まできた時に発症する病状なので、
臍に炎症が起きたときは、自分が思っている以上に体と心が
弱り切っているということを、自分も周りの人も認識し理解
するようにします。回復するためには、重責や重圧、仕事や
任務、様々な業務から離れ、心身共に養生することが必要です。

【尿膜管遺残/化膿性尿膜嚢胞】
 尿膜管とは臍と膀胱をつなぐ管で、この管は胎児期には胎児
の尿を母体に流すための通り道となっています。尿膜管は成長
と共に閉鎖、索状化して臍と膀胱とのつながりがなくなります
が、消失しないで残ってしまった状態を尿膜管遺残や化膿性
尿膜嚢胞と言います。
 胎児の約50%、成人の約2%にみられますが通常は無症状になり
ます。過労や心労、寝不足、極度のストレス等で自身の免疫力
が低下すると細菌感染等で臍から膿が出てきたり、赤く腫れて
きます。臍の炎症なので、アイスバッグで臍一点を局所冷却
することで痛みは緩和されます。

【過敏性腸症候群による臍痛】
 精神的ストレスを受けると自律神経のバランスが乱れ、腸の
働きが損傷されます。脳腸相関と言われるように、脳(精神)
と腸には密接な関わりがあるからです。過敏性腸炎による痛み
は、臍一点の痛みではなく、お腹周り全体に及び、水下痢が
一日何回も繰り返されます。腸炎と言われるように、炎症から
発症している症状なので、この下痢は整腸剤等の薬剤で止めて
はいけません。水下痢は内部にこもった熱や毒素を体外へ排出
している対応になります。

【他の原因で発症する臍痛】
 臍周囲の痛みは腸だけではなく、小腸・大腸・十二指腸の他、
胃、胆のう(胆管)、肝臓、膵臓、子宮、卵巣、大動脈等との
関連の中で発症する場合もあります。痛みは患部だけでみて
いくのではなく、体全体との関連の中で捉えていく
ようにします。

【臍下丹田】
 臍のすぐ下(69㎝下)臍下丹田(せいかたんでん)と言
います。丹田は関元穴(かんげんけつ)に相当し、この部位に
意識を集めて気を集中すると、呼吸が整い自律神経のバランス
が整います。ストレスは人間が脳で考えることから発生します。
ストレスを軽減するためには、考えることを考えない様にする
ように丹田に意識を集中させるようにします。臍痛は脳疲労
(精神疲労)を起こした時に発症していくため、心身共に休養が
何よりも必要になります。

【日本伝承医学】
 日本伝承医学では、腸の操法、自律神経調整法、眼圧調整法
等により、交感神経の緊張をとり去り、自律神経のバランスを
整えていきます。脳の熱のこもりを除去し、脳内温度を下げ
脳幹部機能(視床下部)を正常に復し、精神状態を回復に向かわ
せていきます。週12週間に1回が受診の目安となります。
治療と合わせて家庭療法としての頭部(後頭部、ひたい、首筋)
と肝臓の局所冷却法が必須となります
。初診時に局所冷却の
指導、小冊子、各種資料の説明があります。


 ≪参考文献≫  有本政治:著
           「家庭療法としての局所冷却法
           「脳腸相関
           「丹田の意味
           「腹膜炎の本質
           「自律神経失調症