全身性エリテマトーデス/自己免疫疾患 

全身性エリテマトーデス(SLEsystemic lupus erythematosus
指定難病49)は、自分の免疫システムが自分の細胞や組織を攻
撃してしまう自己免疫性疾患のひとつになります。全身のあら
ゆる臓器に炎症や組織障害が発症します。指定難病のひとつで
男女比は19で圧倒的に女性に多く見られます)
全身性エリテマトーデスをはじめ、膠原病、自己免疫疾患を理
解するために、はじめに免疫機構、免疫細胞、胸腺等について
明記していきます。


【免疫】
 一度伝染病にかかると次はその病気にかかりにくくなることを、
人は昔から知っていました。二度目に同じ伝染病にかからない
ことを「疫病(えきびょう)から逃れる」という意味で、免疫(
めんえき)と言うようになりました。
その後免疫反応は病原微生物(ウィルス、細菌、真菌、原虫等)
だけではなく、生体内に侵入してきたタンパクに対しても起き
ることが明らかになりました。現在、免疫の定義は「異物(
自己)の侵入から自己を防衛する生体反応」として位置づけら
れるようになりました。つまり免疫反応とは非自己と自己を
認識、区別して自己以外のものを排除する機構となります。
 非自己と自己を区別する指標は、細胞表面上のMHC(主要組織
適合遺伝子複合体)と呼ばれるタンパクになります。人間では
HLA(ヒト白血抗体)と呼ばれます。HLA抗原は自分自身の細胞の
証明書のようなもので、すべての細胞に存在します。これを
認識し非自己と自己を区別しているのが白血球の中のT細胞に
なります。
※タンパクは分子生物学上の呼び名で、たんぱく質は厚労省、
タンパク質は文部科学省の呼び名になります。各々呼び方が
異なりますが全てたんぱく(protein)のことになります。

【白血球】
白血球は血液成分のひとつで身体の異物の侵入に対し、体を
守る働きがあります。細菌等の異物が体内に侵入すると白血球
数が増加し、異物を細胞内にとり込み無害化します。つまり細
菌等の感染症に罹患すると血液中の白血球数が増加します。 

 白血球には主に好中球(4560%)、リンパ球(2545%)、単
(46%)、好酸球(13%)、好塩基球(01%)5種類があり
ます(男女の性別によっても比率は異なります)。これらを総称
して白血球と呼びます。
 好中球は顆粒球の一種で顆粒球の大部分を占めます。好中球
とリンパ球の割合が大事でこの両者の割合が、ストレス等によ
り自律神経のバランが崩れると(交感神経優位)、好中球が増加
し自己免疫疾患の引き金となります。
 好中球とリンパ球は免疫細胞になりますがこの二つは炎症細
胞と言われます。炎症が起こる場所に集まるからです。好中球
は主に急性期、リンパ球は慢性期の炎症に関与します。この
二つは炎症の指標として用いられ、好中球とリンパ球の比率
NLRという形で表わされます。高値(H)を示した場合、炎症反応
が強いという事になります。がんに罹患した場合、組織内に炎
症が起きるためNLRは高くなります。このように、好中球とリ
ンパ球は免疫系と神経系に関連しているだけではなく、炎症マ
ーカーとしても用いられ、がんの予後因子としての有用性も示
されています。

T細胞】
 T細胞は白血球の中のリンパ球の一種で、骨髄で作られ
(きょうせん)
で教育されて分化します。胸腺はT細胞の学校
(教育現場)のような役割を果たしています。胸腺(Thymus)
頭文字をとり、T細胞と名付けられました。その機能によって、
免疫応答を促進するヘルパーT細胞、免疫反応を抑制するサプ
レッサーT細胞、病原体に感染した細胞やがん細胞を殺すキラ
T細胞等に分類されます。分類は細胞表面のタンパク(細胞
マーカー)によって識別されます。T細胞の他に免疫細胞には、
B細胞、マクロファージ、樹状細胞等があります。T細胞の源
である幹細胞は骨髄から供給され、胸腺に入り分裂増殖を始め
ます。
 T細胞は骨髄で生まれ、胸腺で成熟していきます。胸腺でT
胞が、非自己か自己かを判定するので、この成熟過程(教育課
)はとても重要になります。しかし胸腺で行なわれる審査で、
合格判定がでるT細胞は、わずか5%の確率でしかなく、95
T細胞は適確な判断(非自己と自己の識別)ができなくて、
不合格となり自然抹消されていきます。判断が狂うと生命に
関わるからです。このT細胞の判定が狂った状態、もしくは狂
ったままのT細胞が消滅しないで生き残った場合に自己免疫疾
患が誘発されます。T細胞が正常に働かないと、非自己と自己
の判別ができなくなり自己を非自己として攻撃してしまうよう
になります。
 T細胞は免疫系の中で最も中心的役割を担っていて、T細胞が
無くなると免疫機構は破綻します。弱い細菌でも死に至る細菌
(病原体)と化し、体を攻撃してしまうのです。 
DiGeorge症候群(胸腺低形成症候群)・・・T細胞が欠損する遺伝病

【胸腺】
胸腺(きょうせん)は自己免疫疾患抑制に関わる重要な臓器に
なります。胸骨の裏にあり、心臓の上に乗るような形で存在し
ています。胸腺は未熟なT細胞を成熟させる免疫系に関与する
一次リンパ器官になります。またホルモンを産出する内分泌系
でもあります。
胸腺は生まれた時は1015gで、幼児期迄は活発に働き、
思春期で3040gまで大きくなります。成人後は年齢と共に
萎縮し、脂肪組織に置き換わっていきます。
免疫細胞であるT細胞は胸腺で成熟し、非自己と自己を認識
する免疫を培っていく為、加齢と共に免疫が低下するのは、
年と共に胸腺が萎縮して小さくなり、T細胞が減少していくか
らになります。


【造血幹細胞】
 T細胞の根源(みなもと)は骨髄の造血幹細胞(ぞうけつかん
さいぼう)にあります。T細胞は造血幹細胞で生まれ、胸腺で
教育を受け成熟し、生命にとって大事な任務を司ります。
造血幹細胞とは、骨髄(こつずい)の中で血球(けっきゅう)
を作り出す元になる細胞になります。中心部の海綿状の組織で
細胞分裂を繰り返し、血球を赤血球、白血球、血小板へと
「分化」させていきます。また造血幹細胞は細胞分裂の過程で、
自らと同じ造血幹細胞を複製する力をもちます。この機能を
「自己複製」と言います。このように造血幹細胞は「分化」と
「自己複製」という二つの機能を有し、骨髄の中でこの二つの
機能が巧みに調節されて造血が行なわれています。

 日本伝承医学は骨のもつ圧電作用を用い、この造血幹細胞に
スイッチを入れ、造血力と細胞新生力を高めていく治療になり
ます。全身性エリテマトーデスをはじめ、自己免疫疾患(膠原
病等)に著効を示す所以はここにあります。
造血幹細胞に働きかけることができる手技療法は世界で唯一
日本伝承医学になります。日本各地のみならず他国から当院の
治療を受けに来られるのは、東洋医学の分野でも、日本伝承医
学が骨髄機能を発現することができるからです。
医学も医療技術も何もなかった太古の時代に、日本の古代人
は骨に重要性を見出し、骨に圧や振動を加え骨のもつ圧電作用
を用い、骨伝導を介して全骨格に伝え、骨髄機能を発現させる
ことで病気を治すという治療法を生み出しました。この地に綿々
と伝承されてきた数々の技法は日本人の叡智の集大成と言えます。


【自己免疫性疾患とは】
 人間には本来、細菌やウィルスから身を守る免疫系が備わっ
ています。それが遺伝素因、環境素因(生活習慣、ストレス、
薬剤、放射線等含)等の要因により、本来守るべき免疫系が自
分の体を攻撃するようになってしまいます。(環境素因には体
内の環境、体内素因も含まれます)
 自己免疫疾患は、免疫が自分の正常な細胞や臓器を攻撃する
病気の総称になります。白血球の一種であるリンパ球のT細胞
(B細胞に指令を出す細胞)の異常が関係します。
 自己免疫疾患は胸腺におけるT細胞の異常の他、精神的スト
レスによる脳の炎症(脳幹部の熱のこもり)、自律神経、脾臓
との関連性もあります。

 【膠原病(結合組織病)
 全身性エリテマトーデスは膠原病(こうげんびょう)のひとつ
になります。膠原病はひとつの病気の名前ではなく、全身の血
管や皮膚、関節、筋肉、内臓等が炎症や変形を起こす病気の総
称になります。現在30種以上の病状が膠原病として認識されて
います。
 膠原病は免疫システムが自分の組織を攻撃してしまう自己免
疫によって引き起こされる病状になります。海外では膠原病と
言う名称は使用されなくなり、結合組織病と呼ばれています。
抗核抗体検査等、各種自己抗体検査により下記のように病名が
識別されます。
膠原病・・全身性エリテマトーデス/リウマチ熱/強皮症/皮膚
筋炎・多発性筋節炎/多発性
動脈周囲炎/関節リウマチ/シェー
グレン症候群/混合性結合組織病/成人スティル病
ANCA関連血
管炎/ウェゲナー肉芽腫症/ベーチェット病/サルコイドーシス
/抗リン脂質抗
体症候群/好酸球性筋膜炎/大動脈炎症候群/
桃動脈炎等
※混合性結合組織病(MCTD)・・・全身性エリテマトーデス様、
全身性皮症様、多発性筋炎/
皮膚筋炎様の症状が混在し血液検
査の結果で抗U1-RNP抗体が高力価陽性となる疾患で1993
年に厚
生労働省が特定疾患に指定しました。

【なぜ自分を攻撃するのか】


 本来免疫は身体にとって有害な物質を攻撃し排除し体を守り
ます。ところが脳に炎症が起こり脳幹の視床下部に熱がこもる
と免疫機構に異常が起き、自分の組織を攻撃する自己免疫疾患
を引き起こします。正常な組織を異物()と認識してしまい、
異常な抗体を作り出してしまうのです。そして人体内の臓器や
組織を攻撃しはじめ炎症を生起させます。
 
 ウィルス等の異物が体内に侵入すると、免疫の司令塔である
T細胞が、異物を破壊する働きのあるキラーT細胞に指令を出し、
B細胞に抗体を大量に作るように命令します。ところが脳に炎症
によりニューロンネットワーク(神経細胞伝達網)が障害される
T細胞からの指令が狂い、B細胞の機能に障害が起き、異常な
抗体が作られてしまいます。正常な細胞が攻撃のターゲットに
されてしまうのです。
 またストレスにより自律神経の交感神経が優位になるとノル
アドレナリンが分泌されて白血球の一種である好中球が増加し
ます。交感神経が優位になる背景には心臓機能の弱り
(低下)
が存在します。 
 好中球が急激に増加し、リンパ球(白血球の一種)とのバラン
スが崩れると、好中球が自分を攻撃し始めます。好中球には
貪欲に細胞を食べる性質
(貪食)があるからです。
 自律神経が乱れ、血液成分のバランスが異常になったとき、
免疫機構が狂い、貪食の好中球が細菌等の敵だけではなく、
自身の味方の正常細胞も食べるようになってしまうのです。
 白血球のバランスを戻すには、リンパ球の比率を上げていか
なければなりません。リンパ球は副交感神経が優位な時(リラ
ックスモード時)に増えるので、そのためにはすべてのしがらみ
から逃れ、しっかり養生し休養する必要があります。人間はス
トレスに最も弱い生き物で、心に受けるストレスが肉体をむし
ばんでいくからです。

【交感神経優位は心臓機能の弱りを元に戻す対応】 
 自律神経の交感神経は、心臓機能が低下した時にも優位にな
ります。全力疾走の後、心拍数が早くなり汗が出ますが、この
ときは交感神経が作用しています。交感神経が優位になると血
圧が上昇し、血液を流す力が高まります。全身に速やかに血液
を巡らせるためです。逆に副交感神経が優位な時には血圧は下
がり、リラックスした状態になります。
 ストレスを受けると肝臓が充血し血液の循環、配分が乱れま
す。全身に血液を巡らせる必要性から心臓が過度に働くことで
機能低下を引き起こします。
 また、心臓機能は遺伝的要因も強く、先天的に心肺機能が弱
い人は、常に交感神経を緊張させ(優位な状態)、心拍数を高め
体を昼間の活動状態にさせます。本来就寝時には副交感神経が
優位になるのですが、心肺機能が弱い人は、夜間も身体は昼間
の状態になっているため、熟睡できず慢性不眠に陥ります。こ
れは眠れないのではなく、眠らせないようにして、就寝時にも
心臓の拍動(ポンプ作用)、代謝等を守っている対応になります
ので現状を受け入れ共存していく姿勢が必要です。
 人間の体は心臓機能を守ることを第一優先するために交感神
経を優位にさせていきます。しかし交感神経の緊張の持続は
白血球のバランスを乱す要因となり、自己免疫疾患のみならず
様々な病状を発生させる要因となります。
 自律神経のバランスを取り戻すためにも(交感神経と副交感神
経のバランス)十分な休養、休暇が必要です。仕事、家事、
育児、様々な業務等、人は忙しすぎると、オーバーワークで
いつかシャットダウンします。電源が落ちてしまい停止、全て
が終了となってしまうのです。

【脳の炎症はなぜ起こるのか】
 人間は精神的ストレス(プレッシャー・心労・不安・心配事
・恐怖心・いやな事やつらいこと、気になること等)を受ける
と肝臓が瞬時に充血し、全身の血液の循環・配分・質に乱れが
生じます。配分の乱れから心臓より上部に位置する脳に虚血
(血液不足)が生じます。少ない血液を速やかに脳内に廻らせ
る必要性から脳圧を上昇させます。この状態の持続が脳内に
異常な熱を発生させ炎症を引き起こします。
 この脳に生じる炎症は脳の中枢部である脳幹部に熱を蓄積さ
せ、基本的生命維持機構(呼吸・心拍・体温・自律神経・ホル
モン・情緒の安定等)を狂わせます。自己免疫疾患をはじめ、
病気はストレスによる脳の炎症から発症していくのです。炎症
を除去するためには後頭部冷却と首筋等の冷却が必須になります。

【脾臓は免疫器官】
 日本伝承医学では全身性エリテマトーデスをはじめ自己免疫
疾患を、免疫器官である脾臓(ひぞう)との関連性の中で捉えて
います。
 脾臓には古くなった赤血球を分解する働き、体に侵入してき
た病原菌や細菌やウィルスと闘う抗体を作る働き、新しい血液
を貯める働き、血小板の貯蔵庫としての働き等があります。
また全身のリンパ球の4分の3が脾臓に貯えられ体内で最大の
リンパ器官(二次リンパ管)と言われています。リンパ球には
神経伝達物質の受容体(アドレナリン受容体)が存在します。
これが精神作用と深く関わっていきます。
ストレス時には交感神経が優位になり、神経伝達物質である
ノルアドレナリンが脳内で分泌され、アドレナリン受容体

(
臓器、器官の細胞表面にあるタンパクの構造物)で受けとられ
ます。
免疫細胞にはアドレナリン受容体(ストレスの受け皿)
が最も豊富に発現しています。つまりストレスを受けると、
免疫細胞に加わるダメージが大きくなるという事です。
 脾臓には白脾髄(はくひずい)と赤脾髄(せきひずい)があり、
構造、機能が
異なります。白脾髄は動脈周囲のリンパ鞘と胚
中心から構成され免疫器官として機能します。白血球のひとつ
であるリンパ球(B細胞、T細胞)を産出し成熟させる場所になり
ます。リンパ球は抗体(異物による侵入から守る特殊なタンパ
ク)を作ります。通常は感染防御のための可溶性抗体を産出し
ますが、脾臓が萎縮し異常事態が起きると、不適切な自己抗体
が産出されてしまいます。脾臓の萎縮、機能低下は著しい免疫
力と生命力の低下を意味するのです。
 赤脾髄は、血液をろ過することにより不要な物質を取り除き
ます。赤脾髄には細菌、真菌、ウィルス等の微生物を消化する
食細胞が含まれています(好中球やマクロファージ)。また赤脾
髄は赤血球の状態を常に監視し、古くなったり正常に機能しな
くなった赤血球等を破壊し除去する役割を担っています。
赤脾髄は白血球、血小板の血液成分を貯蔵する場所でもありま
す。
このように脾臓は免疫器官としての役割を担う重要な臓器
となります。

【脾臓の肥大と萎縮】
 血液の質が低下すると脾臓に汚れた血液があふれ、血液ろ過
装置としての機能がフル稼働になるため、脾臓が腫れて炎症を
起こします(脾臓の肥大、脾腫)
脾臓は汚れた血液を集めろ過し、血液をきれいな環境にしよう
と働きます。
血液の状態が悪くなると(血液の質の低下)、脾臓の働きが活発
になり、脾臓に血球と血小板をたくさん蓄えていきます。故に
脾臓は大きく肥大していきます。血液が脾臓に集まる為、他の
部位は逆に貧血となります。
 脾臓が腫れたり肥大するのは(脾腫)このように血液の質を
守る対応になりますが、脾臓が萎縮し固くなるのは重度の状態
になります。臓器というものは、機能低下が極限までくると
萎縮し固まり、その機能を閉じようとします。所謂臓器不全の
状態です。
 精神的ストレスの長期に及ぶ持続、生活習慣の乱れ、過労心労
が重なり、血液の質の低下が極限まで達すると、脾臓の肥大も
極限まできて、対処できなくなります。次に体がとる対応は、
その臓器の機能を閉鎖するために、萎縮し固まることです(臓器
不全)。脾臓の萎縮は極限まできた最終対応と言えます。
 肝硬変も同様の機序になります。肝臓の炎症(肝炎)が長期に
及ぶことで(慢性肝炎)、肝臓の組織が線維化し固まっていきま
す。肝臓がん、肝性脳症等に命に関わる重篤な病状へ移行する
リスクが高くなります。
 肝炎や脾臓の炎症(腫れ・肥大)は初期の時点で、全ての生活
習慣を見直し、仕事を制限し、横たわる時間を多くとり、しっ
かり養生していけば改善できる症状になります。体は初期の
段階で幾重にも警告サインを発し、最後まで命を守ろうと働き
ます。警告サインを無視し続けていくと、症状は進行し重篤な
病状へと移行してしまうのです。
≪参考文献≫有本政治著:『がんをとらえ直す』

【脳の炎症が免疫機構を破綻させる】
 脳に炎症が起きると中枢部の脳幹(視床下部)からの司令が狂い、
免疫器官である脾臓と接続する神経回路に異常が起こり、免疫
機能が著しく
低下します。本来神経回路は遮断され異常が発生
すると、神経可塑性
(しんけいかそせい)を促し新たな回路を造り、
遮断された部位を補うようにできています。ところが脳の炎症
(脳幹部の熱のこもり)により神経回路が誤った形で接続されて
しまうと、システム
(ニューロンネットワーク)が狂い非自己と
自己の区別ができなくなってしまい、自分で自己を攻撃し始め
ます。
 神経伝達網は脳幹の視床下部が担っています。脳に炎症が起き
ると脳幹部に熱がこもり、情報が狂いニューロンネットワーク
(脳の神経細胞情報網)に障害が発生します。中枢部(司令塔)
狂うことで正常な神経可塑性が促進されなくなる
のです。
 また視床下部は自律神経を調整しているため、この部位に熱
がこもると、自律神経のバランスが乱れホルモンバランスが
崩れます。自律神経とホルモンは互いに連動しながら働いて
いるからです。胸腺ホルモンはT細胞の機能分化促進等に不可欠
なため、脳の視床下部の炎症によるホルモン異常は免疫細胞で
あるT細胞にも大きな影響を及ぼします。

 脳の炎症を除去するためには、家庭療法としての頭部冷却が
有効になります。日本伝承医学では基本操法と肝胆叩打法で血液
の循環・配分・質を改善し、眼圧調整法、後頭骨擦過法、自律
神経調整法等により、脳内の炎症
(脳幹の熱のこもり)を除去して
いきます。自律神経のバランスが整うことで交感神経の緊張
(優位な状態)がとれ、免疫機構が修復され免疫力と生命力が高ま
ります。免疫力とは造血力で、生命力とは細胞新生力になります。
※詳細は「日本伝承医学の治療法」、「家庭療法としての局所
 冷却法」を参照下さい。

【ストレスが自己免疫疾患を誘発させる】
 1960年代に精神的ストレスが自己免疫疾患に影響をするという
事実が報告され、「精神免疫学」の概念が提唱されました。
1970年代には、精神状態と免疫機能を結びつける神経科学が
加わり、「精神神経免疫学」の分野が確立されました。1980年代
に入り、一次リンパ管である胸腺と骨髄、二次リンパ管である
リンパ節と脾臓の、両リンパ管にもアドレナリン作動性神経が
投射されていることがわかり、交感神経系による免疫系の制御
における解剖学的な根拠が明らかになりました。精神的ストレス
で自律神経の交感神経が緊張すると、免疫系が制御され免疫力
が低下するということが免疫学として立証されたのです。
 二次リンパ管である脾臓では、アドレナリン作動性神経は
T細胞の存在する領域だけに分布し、B細胞の集まるリンパ濾胞
の内部には入り込
まないという投射パターンをとることが明ら
かになりました
。司令塔であるT細胞からB細胞へ抗体を作る
ように指令を出すため、B細胞にアドレナリン作動性神経が伝達
されないと、リンパ球が働かず減少し抗体が作れなくなります
(免疫力の低下)。脾臓がストレスに非常に弱い臓器であるという
ことが立証されたのです。
※投射とは、感覚器官、低次中枢神経よりくるそれぞれの神経
インパルス
(活動電位)を大脳皮質において空間的に別々の領域
で受容することを言います。神経投射は、ある神経細胞の集団
が軸索を伸ばして別の標的となる神経細胞の集団にシナプスを
作ることを言います。

【全身性エリテマトーデスの症状】
 全身性エリテマトーデスでは免疫細胞の一種であるB細胞の
異常な活性化を伴う自己抗体産出の免疫異常になります。蝶形
紅斑(ちょうけいこうはん)が特徴的症状になります。顔()
赤い発疹が現われ、鼻筋から蝶が羽を広げたような紅斑になる
ためこのように言われています。
 この症状は脳内の炎症、熱のこもりを顔の皮膚から放出して
いる対応になります。脳は熱に最も弱い臓器のため、顔を赤く
し発赤させ内熱を除去しているので、その部位だけを封じ込め
る薬品等の使用は、自己治癒力、免疫力を低下させるので極力
避けるようにします。ステロイド剤は皮下から血液に入り、
白血球数を跳ね上げ血液組織を乱す引き金にもなりかねます。
長期に及ぶ使用は、脳内に内熱を封じ込めるため脳圧上昇を
助長させ、脳血管障害を発症させるリスクを負うことになり
ます。
 根底要因にある脳内の炎症は、就寝時の後頭部の冷却、首筋
のアイスバッグでの局所冷却により除去することができます。
首筋は頭蓋骨の様に骨で囲まれていないため、直接、脳への
血液を冷やす事ができるからです。冷たいきれいな血液が脳内
を巡ることで、血熱(血液の熱)がとれ、赤血球が連鎖したべと
べとでどろどろの血液の状態が改善され、顔面の発赤、炎症が
おさまります。
 全身性エリテマトーデスの症状は他に、円板状に盛り上がっ
た紅斑、光線過敏症(強い紫外線を浴びると皮膚に湿疹が出る
症状)、無痛口内炎、発熱、倦怠感、関節痛、ループス腎炎、
胸膜炎、心膜炎、脳血管障害、精神障害、脱毛、貧血、血小板
減少、白血球減少、臓器障害等が挙げられます。中でも精神
神経症状の重度が高く、気分障害、不眠症、無気力、精神不安
症等が発症しやすくまります。精神症状は長期に及ぶ場合が
あります。

 経過と共にこのような様々な症状が発生しますが、同時に
いくつもの症状が現われる場合もあります。症状や障害される
臓器は人によって異なります。ホルモンのバランスが崩れる
出産年齢前後、及び閉経に向けての体が準備を始める年代の
女性に多く見られます。閉経の前後10年~15年の幅で発症し
やすく更年期障害と間違われやすい病状になります。
※ループス腎炎とは、全身性エリテマトーデスに起因する糸球
体腎炎のことを言います。尿の、ろ過装置である糸球体に、
免疫複合体が沈着、細胞の増殖等で、ろ過機能が著しく阻害さ
れ腎臓機能が低下していく腎炎になります。

【自己免疫疾患に対する対処法】
 日本伝承医学では骨髄機能を発現させることで、造血と細胞
新生を活発化させます。そして病気の直接的要因となり血液の
循環・配分・質を整え、脳への血流を改善し脳の炎症を除去し、
自律神経のバランスを整えます。免疫機構が正常に働くように
調整することで自己免疫疾患を改善していきます。
 家庭療法としては頭部(後頭部、ひたい、首筋等)の局所冷却
法を日課として行ないます。生活習慣(食・息・動・想・眠)
あらためていくことが必要です。免疫力を高めるためには特に
(睡眠)が重要になります。病状を改善するためには、横たわ
る時間をできるだけ多くとるように心がけるようにします。

≪参考文献≫ 有本政治著:「家庭療法としての局所冷却法
              「食・息・動・想・眠
                          がんを捉えなおす
              「日本伝承医学の治療法」 
  「血液検査で特定できないものは膠原病として扱われる