閃輝暗点

 閃輝暗点(せんきあんてん)とは脳の虚血(血液不足)により視
界に、ノコギリ状のギザギザしたような光が現われたり、モザ
イクがかかったように見えたり、事象がゆがんでみえたり、ゆ
らゆらしたり、きらきらしたり、ぼやけて見えたり黒くなった
り、もやがかかったようになったり、見える幅が狭くなったり
等の、視野が障害され見えにくくなる状態を言います。最初は
一部分だけだったのが段々広がって視界がさえぎられるように
なっていきます。
 閃輝暗点の前後に頭痛やめまい、嘔吐等が生じる場合があり
ますが、自覚症状が何も出ないこともあります。両目に起こる
場合や、左眼、右眼だけの場合もあります。このように光の形
状や色、光っている部分の見え方、ゆがみ方には、かなりの個
人差があります。通常1030分程度でおさまりますが12時間
位続くこともあります。1回で終わることもありますが一日に
何度も繰り返して発症するケースの方が多いです。
 芥川龍之介が重度の閃輝暗点だったことから、彼の著書『歯
車』に閃輝暗点のことが描かれています。彼は医師からこの症
状の適切な説明や対処法が受けられなかったことで不安感が増
していき精神を病み自ら命を閉じることになります。閃輝暗点
に限らずどのような症状でも、得体が知れない事が身の上に突
然発症したとき、人は極度の不安感と恐怖にさいなまれます。
理由がわからない、どうしたらいいかわからないというものほ
ど不安なことはありません。
 病気や症状には必ず根拠と機序が存在します。自分自身でそ
の根拠と機序を把握し対処法を知っていれば不安感や恐怖感は
軽減できます。「病(やまい)は気から」と言われるように、人
の身体は不安や恐怖を感じると肝臓が一瞬にして充血し、血液
の循環、配分が大きく乱れます。血流が滞り症状を進行させて
しまうのです。

【目と脳の関わり】
 閃輝暗点は単に目だけの問題ではなく脳との関わりが根底に
あります。脳の虚血により、脳の血管が収縮、拡張を繰り返す
ことで発症します。脳は血液がめぐることで養われていますが、
血液が不足してしまうと(脳の虚血)、体はいち早く脳内に血液
をめぐらせようとするため、血管を収縮させます。庭にホース
で水をまくときに、ホースの先を指でおさえて細くすると、水
が勢いよく流れ遠くまで噴射するのと同じ原理です。血管を収
縮させ拡張し、また収縮させるという作用を繰り返すことで脳
内に血液をまわそうとするのです。
 このとき脳圧(脳の圧力)は一時的にはねあがります。圧力を
上げることで血流を促すためです。目は脳と密接に関わってい
るので、脳圧が急上昇すると眼圧も一気に跳ね上がります。眼
圧が急上昇した時に閃輝暗点は発症しやすくなります。貧血で
造血力が低下した人にも起きやすくなります。

【心身の状態とも関わりがある】
 心労や精神的ストレス(対人関係、家庭不和、仕事に対する
悩みや不満感、仕事上のトラブル、経済的不安、子どもの悩み、
介護疲れ等)の持続、寝不足や過労、疲れすぎ、休日がとれな
い、自分の時間がとれない等の現状が続くと、人の身体は「脳
疲労」を起こします。脳が疲弊し脳幹部に熱がこもり(脳の炎
)、神経に炎症を起こし、神経細胞に変異が生じます。

 脳の疲弊を回避するためには、脳に刺激や光を入れない事が
重要です。スマホ、ゲーム、パソコン、読書、テレビ等、脳に
刺激が入るものは禁物です。
目に症状が現われた場合は(閃輝暗点、白内障、緑内障、飛蚊
症、視野狭窄、網膜剥離等)、脳がキャパオーバーで、限界に
きていると思って下さい。目を閉じて光を遮断して休養しなさ
いという体からの警告になります。目を休ませるために強制的
に目を閉じるように司令が出るのです。この警告を無視し、生
活改善を怠っていくと体はさらなる対応として脳を攻撃し始め
ます(脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血、脳腫瘍等)


【どう対処していけばいいのか】
 脳の虚血を改善するために日本伝承医学ではまず、心臓調整
法により心臓のポンプ力を高めて脳内へ十分な血液がまわるよ
うにします。肝臓胆のう叩打法により血液の循環・配分・質を
整え、自律神経調整法によって脳の炎症を除去し自律神経のバ
ランスを整えます。脳の虚血が改善されれば脳圧が下がり眼圧
も正常に戻ります。

 個別操法として日本に古来より伝授されてきた「目の操法」
を用います。学技の詳細は有本政治著:「日本伝承医学の目の
操法」を参照下さい。
 家庭療法としては肝臓と頭部の局所冷却法が有効になります
(日本伝承医学家庭療法の項参照)。病気や症状は家庭療法とし
て自分自身でできることは他にもたくさんあります。日本伝承
医学は先人達が綿々と継承してきた知恵や学技の叡智となりま
す。

≪参考文献≫ 有本政治著:「日本伝承医学の眼の治療
             「眼の疾患を捉えなおす
             「眼と脳の関係
             「眼病」 
             「日本伝承医学の家庭療法