眠りの質を良くするために
自律神経の働きは年と共に低下していきます。20歳に比べる
と60歳ではその働きは約4分の1にまで衰えてしまいます。年を
とると白髪やしわが増えたり、筋力や体力が低下するのと同様
に、自律神経は加齢と共に老化します。特に女性は閉経前後
(40歳~50歳代)にホルモンのバランスの乱れから自律神経(交
感神経と副交感神経)が急速に乱れてきます。
自律神経は呼吸・体温・血圧・心拍・代謝・循環・消化・排
尿・排便・睡眠等の基本的生命活動(生体恒常性=ホメオスター
シス)を維持する機能を担っています。交感神経と副交感神経が
拮抗的に働き役割を果たして健康を保ちますが、40歳位から副
交感神経が衰え交感神経が優位になり、身体に様々な不調をき
たしてきます(不眠・めまい・たちくらみ・ホットフラッシュ・
うつ症状・不安症・パニック症状・情緒不安・頭痛・耳鳴り・
耳閉感・吐き気・口内炎・動悸・胸痛・息切れ・息苦しさ・頻
尿・不正出血・下痢・便秘・胃腸の弱り・心肺機能の低下・
股関節痛・膝痛・腰痛・肩痛・関節痛等)。
交感神経が常に緊張している状態になるため、眠りの質が大幅
に低下します。ノンレム睡眠(深い眠り)とレム睡眠(浅い眠り)
のサイクルが短くなり、50分~1時間で毎回目が覚めてしまう事
があります。一度目が覚めるとなかなか寝付けなかったり覚醒
して全く眠れなくなることもあります。早く床に就いても5分位
寝落ちするだけであとは3~4時間全く眠れずにあせる場合もあ
ります。眠れない時は眠らなくてもいいんだと思いイライラし
たり不安感をもたないで目を閉じてリラックスして横たわる事
が大事です。これらは体が夜間も交感神経を優位にさせて呼吸
・心拍等の心肺機能の働きを守るために、体を昼間の状態にし
て故意に眠らせない様にしている対応だからです。
人間は60歳位から老化が始まり、体の力(免疫力・生命力・筋
力)が急速に低下していきます。健康を維持していくためには眠
れなくても夜8時~9時には床に就き、朝6時頃まで横たわり体
を休めることが大事です。立位歩行する人間は四つ足動物と異
なり、横になることで初めて重力から解放され、臓器を休める
ことができます。横になる事で頭部(脳)に充分な血液をめぐら
せる事ができるので、脳の虚血(血液不足)を改善できます。
また一日の疲れによる脳と肝臓の炎症を除去するために、夜間
は氷枕での後頭部冷却と、アイスバッグの首筋、ひたい、肝臓
冷却を必ず毎日行なうようにします。冷却することで脳内の炎
症が除去されます。
自律神経は脳の視床下部から指令が出る為、疲れやストレス等
で脳内に炎症が起こると正常に働かなくなり、交感神経が常に
優位になり眠れなくなります。眠りの質を良くするためには、
上記の時間内に横たわることと氷枕とアイスバッグでの冷却は
必須となります。
眠りの質は食事をとる時間帯にも大きく左右されます。元来
人間は江戸時代中期までは一日二食の生活でした。三食になっ
たことで、夜間に消化(胃腸)に血液をとられてしまい、床につ
いても臓器を休めることができなくなったのです。固形物(食
物)をとったら寝るまでに6時間はあけなければならないと昔か
ら言われてきたのは、睡眠時には胃腸や各臓器を休ませなさい
という先人の叡智と言えます。
生活のリズムは朝食を6時~8時にとったら、次は12時~2時
迄に食べるようにし、夜8時~9時には床につくのが最善と言え
ます。眠りの質を良くしたいならばパンやパスタ、うどん、ラ
ーメン等の小麦粉は禁物です。これらに含有されるグルテンは
モルヒネに似たアミノ酸の配列をしていて依存性がとても高い
食物になります。パンは体に良くないとわかっていてもなかな
かやめられない理由はここにあります。グルテンは消化機能を
妨げ腸に害を及ぼすだけではなく脳腸相関から脳機能にも悪影
響を及ぼします。不眠症状を訴える患者さんのほとんどが朝食
にパン、昼食はパスタやうどん等の麺類を食べています。
不調を改善し健康に過ごすためには自助努力を伴います。今回
は眠りの質をとり上げましたが股関節痛や膝痛、腰痛等の背景
も上記と同様になります。横たわる時間が短かかったり、三食
の生活をしていると滑液(関節液)の循環が滞り、就寝時に体が
機能を修復することができなくなります。めまいや頭痛、倦怠
感等も同様で夕食をとってしまうと就寝時に脳の虚血が改善さ
れない為に生じてきます。食事や睡眠(床につく時間)、このよ
うな生活習慣を見直すだけで体は大きく変わっていくのです。
日本伝承医学では家庭療法としての局所冷却法と『食・息・動
・想・眠』を推奨しています。しかし患者さんの中には、嫌な
ことはやりたくない、食べたいものは食べたい、2食にするのは
抵抗がある、やることがたくさんあるから夜は早く寝られない
、冷却は氷がそんなに家にないからできない等、様々な理由を
述べて自助努力をされない方がおられます。病気や不調な症状
を改善していくために今一度生活習慣を鑑みて頂きたいと思い
ます。
《参考文献》有本政治著: 「食・息・動・想・眠」
「眠りの質」
「日本伝承医学の家庭療法」
「横たわる時間と睡眠が重要となる」