頸椎操法
頸椎は7個の椎骨で構成され、その上に重い頭部を載せてい
ます。頭部の重さの圧をうまく分散させるために前方に弯曲
させて頸椎アーチ(前弯カーブ)を作っています。頸椎の前弯
カーブは、胸椎の後弯カーブ、腰椎の前弯カーブと連動しな
がら理想的な生理的カーブを形成しています。
この頸椎アーチにひずみが生じると重い頭部の圧力が一点に
集中してきます。アーチの中央部である頸椎4番に集中するの
で4番が凸出するのを避けるために、頸椎4番と5番を変形
(くっつける)させることでアーチ構造が崩れるのを防ごうと
します。さらに補強が必要な場合は頸椎6番までも変形融合
させます。頸椎の狭窄や変形のほとんどが頸椎4番と頸椎5番
に生じるのには、このような理由があるのです。
≪参考文献≫『人体バナナ理論/人体積木理論』著:有本政治
※脊柱はS字カーブをしていますが下部構造にひずみが生じる
と上部で調整することで直立を維持しようとします。つまり
頸椎に現われる症状は脊柱のカーブの逸脱が原因にあり、こ
の生理的カーブの乱れは根本要因となる内臓機能(心臓・肝
臓胆のう)から正していく必要があります。
【日本伝承医学の頸椎操法
】
日本伝承医学の頸椎操法は整体法やカイロプラクテック等
で用いられる矯正法とは原理が異なります。その部位だけを
みて変位して固着した椎骨を元に戻すという概念ではなく、
ヒビキを失った椎骨にヒビキを回復させることを目的として
います。日本伝承医学の治療は骨の特性である圧電作用と骨
伝導を用いて骨に振動や圧のヒビキを加えて微弱な電気を発
生させ、骨髄機能を発現させることを主体としています。
物体の回旋運動には三つの軸が設定されています。「前後回
転軸」「左右回転軸」「回旋回転軸」の三方向です。ある回
転軸に対して、異なる方向の回転軸を加えると二種の異なる
回転軸が合わさり回旋が生み出されます(三軸修正理論)。
この原理を用い、首の左右回転と前後回転を微妙に組み合わ
せることで首の回旋運動を生起させることができます。
三軸修正理論・・・身体の三軸は縦軸(垂直軸)と横軸(水平
軸)と回旋軸(回転軸)になります。解釈は諸説ありますがこ
の三つの軸が整うことで身体のバランスが整い不調が改善さ
れ本来の自然な身体に戻るという理論になります。日本伝承
医学では三軸を、身体軸(骨格・筋肉・内臓)、精神軸(情緒
と心)、環境軸(家庭・仕事・対人関係)として捉えています。
頸椎の可動も、前後屈(屈曲・伸展)と側屈(左右の傾き)と回
旋の三軸が連動しています。一軸のみを動かしてもロックは
外れにくいのですが二軸(左右回転軸と前後回転軸)を組み合
わせることで可動が出ます。首の正常な回旋運動を生起させ
るためには二軸を組み合わせれば自然に回旋運動が作り出せ
るのです。
頸椎操法では受者の椎骨に術者の拇指腹を圧定し、回旋し
てきた頸椎骨が拇指腹に圧が加わることを確認します。故に
拇指腹で椎骨に強い力を加える必要はありません。
≪頸椎の右回旋運動を作り出す法(右回旋がつまる)≫
右 旋がロックしている場合は、回旋+側屈+前後屈の複合ロ
ックになっています。二軸の回転軸が調整されると関節包の
緊張が抜けて(ゆるみ)、首の回旋運動が戻ります。圧定して
いる拇指腹で確認して操作は終了します。
≪関節包≫
頸椎の各椎骨の間には椎間関節があります。その関節を包ん
でいる薄い袋状の組織を関節包(かんせつほう)と言います。
関節包は筋肉より深く神経が入りくみ、微妙で微細な可動に
敏感に反応します。
頸椎は7つの椎骨が積み重なり、一つ一つが連動してわずか
に回旋・側屈・前後屈をします。精神的ストレスによる交感
神経の緊張、肉体的ストレスや過労による筋緊張があると関
節包がねじられ、縮み、固まり伸びなくなります。こうなる
と関節の動きの許容範囲が極端に制限され、いわゆる「首が
まわらない」(回旋制御)状態となります。
関節包には感覚センサー(固有受容器)があり、関節の緊張
状態を常に脳へ送っています。緊張が続くと脳は、「この関
節は危険だから動かしてはいけない」と瞬時に判断して筋緊
張と可動制御の指令を脳へ送ります。首に異常が起きた時に
筋肉をもんだりおしたりしても治らないのは、脳へ指令を送
る関節包が筋肉より深部にあるからです。関節包がゆるむと
急に可動(回旋)が戻るのは、関節包の緊張がとれて感覚セン
サーが正常に働き、脳へロック解除の指令を発するからにな
ります。日本伝承医学は頸椎にヒビキを与えることでこの関
節包の緊張を解除していきます。
※頸椎の左回旋運動を作り出す法(左回旋がつまる)と
下位頸椎ロック(後屈でつまる、痛い)については日本伝承
医学実技解説書(著:有本政治)を参照
頸椎は自律神経と非常に関連が深いため、精神的ストレス
があると首を寝違えたような痛みが急に発生します。体に起
こる症状はその部位だけで発症するのではなく、精神状態や
内臓機能とも深い関りがあるのです。
「氷山の一角」という言葉があるように、目に見える部分だ
けをみるのではなく水面下に潜む氷山を見抜いて舵をとる先
見の明が大事です。
首に症状があるときは、日本伝承医学ではまず下部構造の
ねじれのゆがみを正し、自律神経調整法により交感神経の緊
張をゆるめます。心臓のポンプ作用を高め(心臓調整法)、
肝臓胆のうの腫れ(炎症)を除去します(肝胆の叩打法)。
個別操法として頸椎調整法を用い、頸椎にヒビキを与え微弱
な電気を発生させ関節包の感覚センサーを正常に復し、緊張
した僧帽筋上部、斜角筋をゆるめていきます。この治療によ
り頸椎の逸脱した前弯カーブが戻り正常なアーチを取り戻せ
ます。
≪参考文献≫『人体バナナ理論/人体積木理論』著:有本政治
発行:初版1976年 有限会社日本伝承医学研究所
再販2016年
「頸髄神経」
「頸椎狭窄症」
「斜角筋症候群」