肝性脳症
肝性脳症は肝硬変等の慢性的肝疾患の経過の中で発症する病
態で、肝臓の解毒機能が低下することによって生じる合併症の
ひとつになります。肝臓に関わる疾患ほど初期の段階での対処
法が大事です。
肝臓に炎症や充血がみられた時点で肝臓の解毒作用は低下し始
め、神経毒性物質であるアンモニアが血中に蓄積してきます。
この初期症状で生活習慣を見直し、日本伝承医学の治療と併用
して肝臓の局所冷却をしっかり行なっていけば重症化せずにす
みます。炎症(充血)を薬剤等で封じ込めてしまうと、体は熱の
排出先を失ない、症状を深刻化させます。
 私たちの体は最後まで命を守るように働きます。ところが
初期の時点での警告サインを無視し続けていくと生命維持機構
を破綻させる肝性脳症にまで至るリスクが高くなります。
※生命維持機構とは解毒・代謝・意識維持等の生命を支える全
身の機能のことを指します。
 日本伝承医学では毎回肝臓の反応を診ていきます。機能低下
している場合は石のように固くなっています。疲れや職場や家
庭内でのストレス、忙しすぎたり、いやなことがあると肝臓は
瞬時に充血します。自覚症状が出ていない場合でも肝臓に反応
が現れたら肝機能は低下しています。この時点で気を付けるよ
うにします。血液の再生周期に合わせて治療は2週間に1度の
ペースで進めています。病状改善のためには家庭療法としての
肝臓冷却、頭部冷却は必ず行なうようにします。
【肝硬変】
 肝細胞が繰り返し大量に死んで減少していきます。体は線維
化することで補修を試みますが、補修により肝臓は硬くなり機
能低下します。臓器が固まり役目を閉じようとする姿は終末像
で、不可逆的な病変になります。
 生命は最後までその命を守るために働きますが、初期の段階
での警告やサインを軽くみてしまうと生体は最終対応をとります。
硬くなり固めてその部位を放棄してまでも生き続けようとしま
す。人は理不尽なことで罵倒されたとき、固まります。心の最
終防衛反応です。死後硬直は肉体が固まります。命が終わった
ときです。
【肝性脳症】
 肝性脳症は長期に渡る慢性の肝臓疾患により肝臓の解毒作用
に破綻が生じ、有害なアンモニアの分解処理ができなくなり、
有害物質が脳に達することによって発症します。アンモニアは
体内に残してはいけない毒性物質で、脳に最も影響を及ぼしま
す。黄疸、腹水、むくみ、出血、記憶障害、認知症、睡眠障害、
震えやしびれ等を伴い、進行すると意識混濁を起こし思考が働
かなくなります。精神面では切れやすくなる、おこりっぽい、
すぐ怒鳴る、イライラする、うつ症状、無気力、不安症等の症
状が現れます。肝性脳症は中枢神経系の機能障害で重症化する
と意識障害を呈する重篤な病状になります。
 初期の段階では臭覚や味覚障害が起こります。五感(臭覚・
味覚・視覚・聴覚・触覚)は生命維持にとってなくてはならな
いものですが、その中でも臭覚と味覚は安全や危険を察知する
本能的な感覚で、最後まで機能が維持されます。臭覚を失うと
有毒ガス等が探知できなくなり、味覚を失うと腐敗物質や有害
物質をとり込んでしまうことがあり、視覚や聴覚に比べて死に
直結する危険が高いからです。故に高齢になると視覚や聴力は
徐々に衰えていきますが、臭覚と味覚は最後まで衰えないのです。
 この臭覚の機能を失わせるほどの強い有毒物質がアンモニア
になります。
アンモニアは通常、肝臓の解毒作用で分解され尿素に変換して
尿として体外へ排出されますが、肝臓機能が低下するとこの解
毒作用ができなくなり、アンモニアが血液中に留まり脳へ廻っ
てしまいます。慢性的な肝疾患や肝炎、肝硬変等で肝細胞の働
きが低下するとアンモニアを尿素に変換できなくなるのです。
その結果、血中アンモニア濃度が上昇します(アンモニア脳症)
高濃度アンモニアは血液脳関門を通過して脳に到達します。
 血液脳関門は有害物質から脳を守るバリア(関門)になります
が、アンモニアだけは小さい脂溶性の形態で通過することがで
きます。通過したアンモニアは神経細胞の機能を著しく低下さ
せ、意識障害や異常行動、昏睡状態等を発症させます。肝性脳
症の進行は命に関わる危険性を伴う病状です。
【水の摂取がなぜ大事か】
 肝性脳症を誘発させないためにはまず日ごろから水の摂取が
大事です。水を飲むことで代謝が良くなりアンモニア等の有害
物質を体外へ排出しやすくなるからです。水の摂取が足りない
と尿の量が減り、有害物質が体内にたまりやすくなります。
肝機能を低下させないためには一日1.52リットルの水の摂取
が必要です。意識して飲む習慣をつけます。
【アンモニア脳症】
 通常は尿として排出されるアンモニアが、肝機能低下で排出
されずに体内に留まり、血中アンモニア濃度が上昇すると、増
えすぎたアンモニアが脳に作用して、脳神経の働きを阻害しま
す。この状態をアンモニア脳症と言います。
 初期症状では集中力や記憶力の低下、ぼんやりする、だるさ
や疲れやすさ、眠気が強い、気分が落ち込む、イライラする、
おこりっぽくなる、切れやすくなる、ミスが多くなる等がみら
れます。進行すると意識がもうろうとして生命予後に深刻な
影響を及ぼすこともあります。
 このような初期症状がみられたら肝機能が低下しているとい
う自覚をもち、生活習慣からまず変えていきます。日本伝承医
学の治療では肝臓の反応を毎回診ていきます。自覚症状がなく
ても肝臓に反応が現れたら肝臓機能が低下しています。
※生命予後とは、病気に対して今後どれくらいの期間生きるこ
とができるか、今後どのような経過をたどるかを予測すること
を意味します。病気になった場合の命に関わる見通しや可能性
のことを言います。生命予後の指標として「生存率」が広く用
いられます。
【尿素と尿酸の違い】
 尿素と尿酸は混同されがちですが化学構造も生成過程も異な
り、違う物質になります。尿素は主に肝臓で作られ、体内の余
分なアンモニアを変換して発生します。アンモニアは毒性が強
いため、肝臓でアンモニアを分解して尿素という毒性が少ない
物質に変換して尿として腎臓から体外へ排出させていきます。
 尿酸は体内の核酸(DNARNA)が分解される過程でできる物質
で、過剰になると痛風等の原因となります。体内の古くなった
細胞や食物由来(食べた物に含まれている成分)の核酸は分解
されると、その中のプリン体から尿酸が生成され腎臓を通じて
体外へ排出されます。
DNA(デオキシリボ核酸)は細胞の中で遺伝子情報を持つ物質
になります。  RNA(リボ核酸)DNAの情報をもとにたんぱく
質を作る働きをする物質になります。DNARNAのことを核酸と
言います。
※プリン体とは体の中でエネルギーや遺伝情報の材料となる
重要な物質になります。細胞の新陳代謝で自然に作られたり
分解されたりします。
※尿酸値を下げる薬の長期服用は血液の質を徐々に低下させ、
血液をろ過する腎臓に負担をかけ腎臓機能を低下させます。
人工透析の根本要因にもなります。
≪参考文献≫
痛風の原因とされる尿酸は薬で下げてはいけない」著:有本政治
【アンモニアは気つけ薬】
 アンモニアは有毒な物質で、体内に蓄積されすぎると肝性脳
症等を引き起こしますが、その強い刺激性を利用して一時的に
意識をとり戻すために使われることがあります。アンモニア水
の強い刺激臭を吸うことで脳が一時的に刺激されて意識が戻る
のです。以前は気つけ薬として救急現場で用いられていました
が現在では、安全で効果的な意識回復法が確立されているため
アンモニアは使用されなくなりました。
【羽ばたき振戦】
 肝性脳症は精神神経症状で重症度によって04の段階に分け
られます。
0段階(潜在性)では精神機能の障害が潜伏している状態となり
ます。注意力、記憶力、集中力に低下がみられ始めます。1段
階では見当意識障害、性格の変化、睡眠障害、判断力の低下が
起きます。見当意識障害では時間や場所、人物等に関する認識
が曖昧になり、わからなくなったりします。2段階(中度肝性
脳症)になると「羽ばたき振戦」(はばたきしんせん)という特
有の症状がみられます。両腕を前に伸ばして手の甲を上にして
手首を背屈させ保持しようとすると、手が小刻みに震える症状
が起きます。この段階では日常生活に援助が必要になる場合が
あります。3段階(重度肝性脳症)では混乱や幻覚、錯乱状態
が現れます。振戦が激しくなり筋肉が硬直してきます。4段階
(昏睡状態)では完全な昏睡状態となります。神経系の異常に
よる不随意の筋収縮が起きます。
 肝臓の症状はこのように段階的に進行していきます。重症化
させないためには初期症状の時点での正しい対処法が大事です。
羽ばたき振戦とは、自分の意思とは関係なく手や指が震える
症状のことを言います。両手を前に伸ばして手のひらを前へ突
き出したときに鳥が羽ばたくように手が震える様子から羽ばた
き振戦と言われるようになりました。
【肝臓障害は人格が変わる】
 肝臓病は「性格が変わる病気」とされてきました。肝臓機能
が低下して脳にアンモニアの有害物質が廻り脳障害が起きると
人格が変わったようになるからです。脳神経が侵されるとおこ
りっぽくなったり切れやすくなったり、ささいなことでもいら
ついたり怒鳴ったりします。かと思えば急に黙って静かになっ
てうつ状態になったり不安症を引き起こします。気もちの浮き
沈みが激しく、怒鳴っては静まる、いらついては落ち込むとい
う症状を繰り返し、自己嫌悪に陥ります。
 このような状況が続くため、周囲からはあの人は肝臓障害だ
から人格が変わったと言われます。特に今まで穏やかだった人
が切れやすくなったり怒りっぽくなったりするので、中身の人
間が入れ替わった、何かにとりつかれた、憑依されたなどとも
言われてしまいます。自分で最近、切れやすいと感じたら、心
身共に疲弊して肝臓が機能低下している自覚をもちます。周り
の空気感が悪くなり自分自身も居心地が悪くなるので、できる
だけ早く気もちを切り替えるようにします。
【日本伝承医学の治療】
 日本伝承医学は肝心要(かんじんかなめ)の医学と言われるよ
うに、肝臓(胆のう)と心臓におもきをおいて学技が構築されて
います。手技療法による肝胆の叩打法は肝臓の炎症(充血)を除
去することができる唯一の治療法となります。
 肝機能低下から脳内に廻った有害物質(アンモニア)を処理す
るためには脳内の炎症を除去しなければなりません。炎症を抑
えることで毒性物質から受ける脳のダメージ(損傷)を軽減でき
るからです。
 日本伝承医学では自律神経調整法、後頭骨擦過法により脳内
の炎症(熱のこもり)をとり、脳幹部の機能を正常に復します。
「日本伝承医学リモコン操法」は脳の調整法とも言われ、起死
回生の術として日本古来より用いられてきました。肝臓障害を
改善するために、家庭療法としての頭部と肝臓の局所冷却法を
行なうことは必須です。
≪参考文献≫ 「日本伝承医学家庭療法」 著:有本政治
       「肝臓の病気と肝硬変、そして合併症
       「肝臓を捉えなおす
       「日本伝承医学自律神経調整法と後頭擦過法