人の体のナゼとワケ〜白内障の本質

人の体の持つ、命を守る対応の多様さと、その段階的な仕組みには、いつも
感心させられます。それらは正に"人智を超える"と言う表現が当てはまります。
これらの対応を知れば知るほど生命の偉大さを感じます。
毎日の臨床の中で患者さんに「命ある者の起こす事は、必ず意味があります。
その意味は、体をより悪くなる方向にもっていったり、命を縮めるために起こし
ている訳ではなく、逆に最後の最後まで命を守るために対応していますから、不安
に思わなくていいのです」と話しています。あなたの症状はこういう理由で起こっ
ていますから、こうすれば回復に向かいますと説明してあげる事で、患者さんの
不安を少しでも取り除く事が、臨床家の務めと心得え、日々臨床に従事しています。

日本伝承医学の病因論は、症状を一方的に悪い反応と捉えず、何かを守るた
めの必要な対応という視点で捉えています。この視点に立って「白内障」の本質
を解説致します。まず現代医学的な所見と治療法を説明しておきます。
白内障とは、目の中の水晶体(レンズ)が濁る症状の事です。目の中のレンズ
が濁ることにより、視力が低下して以下のような症状が出ます。

@かすんで見えるA明るい所に出るとまぶしくて見えにくいBどんなに調整
しても眼鏡が合わないCぼやけて二重、三重に見える。以上のような症状です。
白内障は、水晶体内の蛋白変性により起こるとされています。白内障で最も多
いのは加齢に伴う「加齢性白内障」です。60歳代で70%、70歳代で90%、80歳
以上になるとほとんどの方に、白内障による視力低下が認められます。
老化や加齢以外の原因として、目の外傷、アトピー性皮膚炎、糖尿病、栄養失
調などにより、若いうちから発症する場合もあります。その他にも遺伝によるも
の(先天的)、放射線や赤外線照射、ステロイド剤・抗精神薬などの副作用、
網膜剥離や緑内障等の手術の後遺症として発症することもあります。

治療法としては、一旦白内障が進行して水晶体が混濁すると、薬などで元の透
明性を回復する事は出来ません。手術以外の方法は現在のところ無いのが実
状です。白内障が軽度で、あまり視力に影響のない場合は点眼薬や内服薬に
よる進行予防が行われますが、現在までに開発された「抗白内障薬」では進行
を阻止する事は不可能と言われています。
白内障手術は水晶体の濁りを吸い出し、人工の水晶体「眼内レンズ」を移植す
る方法が一般的です。しかし時間の経過と共に水晶体の濁りは再発してしまい
ます。ただ眼内レンズ挿入により視力はある程度確保されます。
以上が現代医学における所見と治療法になります。次に日本伝承医学の捉え
る白内障の本質を解説致します。(ここでは主に加齢性によるものをとりあげ
ていきます)

日本伝承医学の病因論は、病気や症状を正の対応という視点で捉えています。
生きている体の起こす事は、意味のない事はしません。それが今の自分にとっ
て苦痛で不都合なことであっても、人智を超えたところで命を守る対応が行われ
ているということです。命を守る対応ならばこれを封じ込めたり、取り除く事は本
来するべきではないのです。しかしそれが真実であっても、苦痛や不都合はすぐ
にでも取り除きたいのが人情であり、それが必要な場合や状況も当然あります。
ましてや目の場合は、物が見えにくい不自由さと、不安や危険度が伴います。
生活上、職業上やむを得ない場合がある事は否定出来ません。ただ白内障の
根拠と機序を正しく知った上での判断が必要かと思います。
結論的に言いますと、白内障とは、目の水晶体を濁らせる事で入って来る光や
色の刺激を軽減し、脳の興奮を抑えると共に、脳圧を高めないために体が対
応している姿になります。

背景には目の光の入ってくる量の調節能力の減退があり、これ以上強い光の
刺激は脳に負担が生じる場合と、脳内の圧力の上昇がこれ以上持続すると、
脳溢血やクモ膜下出血の危険があると、体が判断した場合の命を守る対応の
発動の一段階になります。
目に入って来る光の量の調節は、目の瞳孔が担っています。脳への刺激の中
で最も強いのが光になります(二番目は音になります)。強烈な光は眼をくらませ
脳を破壊します。この瞳孔の光の量の調節は眼の機能の中でも一番重要な
働きになります。故にこの機能は最後まで守る必要があるのです。高齢になっ
て目や耳の働きが低下するのは、加齢のためだけではなく、余分な刺激を脳
に入れなくして、脳を休め、脳圧の上昇を抑える対応が働くからです。
この瞳孔の機能に減退が起きた場合、体はこれを守る対応をしていきます。この
一段階の対応が水晶体を濁らせる事で光を制限しているのです。さらに言及
しますと、この瞳孔は人体の中で生命力のいちばん現れる場所になります。
目力(めじから)という言葉がありますがこれは瞳孔を指していると言ってもい
いのです。目全体の力ではあるのですが、主体は瞳孔にあります。目が生き
ているか死んでいるかは、瞳孔の状態にあるのです。目が死んでるという表
現は、体力、気力とも衰えてる事を意味します。これを証明するのが、瞳孔が
死の判定箇所であるということです。公式の死の判定は心肺停止と、瞳孔の散
大、肛門の脱出をもって判定されます。死の判定に使われるという事は、裏を
返せば生命力の発現場所という事になります。

つまり瞳孔の機能に減退が起きた事は、生命力低下の現れであり、
大変由々しき問題として受け止めなければなりません。白内障発症は、自ら
の生命力の指標として受け止めなければならないのです。故に目を治療する
だけでなく、低下してきている生命力や免疫力を高めることが不可欠であり、
これらを高める事で進行を食い止め、回復が図れるのです。

次に脳圧の上昇が問題になります。脳圧が高くなるとどうしていけないかと言
うと、脳溢血やクモ膜下出血を引き起こす要因となるからです。脳の血管障害
は、血圧が高くて切れるわけではなく、脳圧の問題になります。その証拠には、
90以下の低血圧の人であっても脳溢血やクモ膜下出血、脳梗塞等が多く発生
しているからです。脳圧の一気の上昇と脳圧の高い状態の持続が脳溢血、クモ
膜下出血、脳梗塞を引き起こすのです。

ではどういう時に脳圧が上がるかと言うと、脳内に虚血(血液不足)と毛細血管
内に血液の停滞がある時に起こります。脳に血液の供給不足が起こり、脳に充
分な血液が無い場合、少ない血液を早く脳内に巡らせる必要から脳圧を上げる
事で対応しています。もうひとつは脳の毛細血管内に赤血球連鎖(ドロドロベト
ベト血液)があり、血流を停滞させたり、詰まったりした場合に、脳圧を高める事
でこれを流す対応をとります。このように脳圧の上昇は必要な対応なのですが、
一気に上昇したり高い状態の持続は脳の血管を押しつぶし、流れの圧力が血
管の弱い箇所を破る原因となるのです。この脳圧の急激な上昇や持続を防ぐ
対応として、脳への刺激を弱めるために、光を制限せざるを得なくなります。瞳孔
の持つ光の絞り機能減退を補う対応と、脳圧の一気の上昇を防ぐ対応として水
晶体の濁りは発生しているのです。以上が白内障発生の機序になります。

白内障の発症機序は明らかになりましたが、その根拠となる部分の解明が必要で
す。瞳孔の弱りの直接的な要因、脳の血液不足、毛細血管内の赤血球連鎖の
要因を解明する必要があります。また水晶体の濁りはどうして起こるのかについ
ても言及します。これらの問題を解決するためには、目自体の問題、目と脳の関
係、脳と体全体の関係というように、目だけの問題ではなく、目と全体との関連の
中から捉える必要があります。

まず目本体の弱りの直接的要因となるのは、目の酷使があり、目への血液供
給不足と眼圧の上昇が挙げられます。目の弱りの原因の中で特筆すべきは
酷使による疲労です。目の使い方は前時代には考えられなかった状況を呈し
ています。現代人の目の酷使は尋常ではありません。パソコン、スマホ、テレ
ビ、ゲーム機、どれも輝度の高い小さい画面を見続けます。これらを長時間や
り続けるわけですから目の酷使は計り知れません。目を使い続ける事から、
組織の疲労と熱の蓄積が起こります。

生きている体は、疲労回復のために目に血液を集めることから、充血と熱が
発生します。これは常に目に充血と炎症を起こさせ、この持続は組織に熱変
性を生起します。さらに拍車をかけて脳への知識や情報の詰め込み、人間関
係による精神的ストレスの蓄積は、脳と目の両方に熱をこもらせます。この熱
の発生とこもりによる熱変性が水晶体を濁らせる直接原因なのです。

こういう状態の持続は、目が大量の血液を消費し、血液供給不足を引き起こ
します。血液の供給不足は目のすべての機能を低下させる要因として働きま
す。特に目の運動機能やレンズの厚さを調整する毛様筋の機能を低下させて
いきます。目全体に血液の供給不足が起きると、少ない血液を眼全体に早く
巡らせるために眼圧を上げる事で対応していきます。これは必要な対応では
ありますが、眼圧の高い状態の持続は、目に熱を発生させることになるのです。
これも熱変性の大きな要因となります。局所的な目の弱りは以上の中から起こ
っています。

次に目と脳の関連を見ていきます。目という存在は、例えれば、大脳という”脳
味噌”の固まりが、マヨネーズ容器の口から丸く搾り出されて、骨の穴から出た
ようなものです。正に目は脳の一部といえる存在です。故に脳内の影響を受け
やすく、特に脳圧が高くなると、その圧力で眼球が前方に押し付けられます。
この持続によって眼圧が上昇します。これは前記した血液の供給不足の場合
と同様に眼全体に熱を発生させるのです。これも熱変性を引き起こす要因とし
て働く事になります。

次に目と脳と体全体の関係を見ていきます。目を含む脳は、人体の中で一番
大量に血液を消費する場所になります。脳には常に新鮮な血液を供給しなけ
ればなりません。故に脳は全身の血液の循環、配分、質(サラサラかどうか)
の状態が反映されます。脳に血液が不足すると言うことは、すなわち目にも血
液が不足するという事です。このように目や脳の血液供給不足は全身の問題
として考える必要があるのです。

全身の血液の循環、配分、質(赤血球の連鎖)に関与しているのは、内臓の
心臓と肝臓、胆嚢(たんのう)になります。心臓のポンプ力が弱れば、血液を循
環させる力が弱り、脳への血液供給不足が生じます。次に血液の固まりのよ
うな大きな臓器である肝臓に充血が起きると、大量の血液が肝臓に集まり、全
身の血液配分を乱します。これにより脳や目に血液不足が生じるのです。
東洋医学では肝臓と目や頭を密接に結び付けて捉えています。「肝は目に開
きょうする」と言う表現で、特に肝臓との目の関係を重視しています。肝臓の働
きが落ちると目に弱りが起こり、すべての眼病につながると捉えています。

具体的には血液の供給不足が原因です。次に血液の質(赤血球の連鎖)に関
与するのが胆嚢になります。胆嚢から放出される胆汁は、極めて苦い物質で、
この苦い成分が血液の熱を冷まし、一定の温度に保つ働きを担っています。
胆嚢の機能が低下し、胆汁の分泌が不足すると血液が熱を帯び(血熱)、熱変
性により赤血球の連鎖が起こります。これがいわゆるドロドロ、ベトベトな血液
です。連鎖して大きくなった赤血球が毛細血管内の血流を停滞させたり、詰ま
りを発生させます。血流の停滞は速く血液を流す事が出来ず、脳や目に血液
供給不足を起こします。さらにこれは脳内の毛細血管内にも血流の停滞と詰
まりを起こし、これを流す対応として脳圧を上昇させるのです。これも脳内に熱
を発生させ貯留させます。この目や脳の熱の発生と蓄積が、水晶体自体にも
熱をこもらせ、熱変性によりタンパク凝固をもたらします。例えれば目玉焼きの
卵の白身の部分が熱により白くなる様な現象が、そのまま水晶体に起こったと
いうことなのです。これが水晶体の濁りの本質となります。

以上の根拠と機序の中から、目本体の血液不足、眼圧の上昇、脳の血液供給
不足、脳圧の上昇、熱発生の機序、濁り発生の機序が一連の流れの中で見え
てきます。目の症状は目単体で起こるのではなく、上記の関連の中から起こる
べくして起こっており、また何かを守る段階的対応の中から発生しています。
つまり白内障は上述通り起こるべくして起こり、水晶体を濁らせて、”すりガラ
ス”状態にする事で、目に入る光を制限し、脳の興奮を抑制すると共に脳圧の
上昇を抑え、脳の血管障害(脳溢血、クモ膜下出血等)を防ぐ大切な対応をし
てくれていたという訳です。

故にこれを薬や手術によって、目だけを見えるようにしてはならないのです。
生物というものは、命を守るためにはこんなことまでするのかと思われる対
応を示します。しかしこれは深く考慮すれば極めて当たり前の事です。現存す
る生物は、人類も含めて何百万年から何億年という年月の中で、あらゆる環
境、条件を生き抜き、様々な細菌、ウイルスに抗する耐性力を獲得し、体を
元に戻す力を幾重にも設定し、命を守る対応力を身につけたからこそ、現代ま
で生き延びているのです。命に関わる事態に結び付くものは、幾重にも対応出
来る手段を獲得しています。水晶体を濁らせて光を制限することも対応の一段
階にあたるのです。

白内障を手術によって見えやすくした場合、光の制限がなくなり、強い光と色が
脳を刺激します。これは脳を興奮させ、脳圧を上昇させていきます。脳圧の上
昇は前述してあるように、脳の血管障害の危険度を高めます。生きている体は
これを回避するために、直ちに対応力を発揮します。光のまぶしさを遮断する
ように目を閉じさせたり、目を細めて対応します。サングラスを掛けないと目が
開けられない状態にします。しばらくこうする間に水晶体を再び濁らせるのです。
手術をしても再び水晶体に濁りが発生するのはこういう理由になります。
しかし手術の際に眼内レンズを同時に挿入するために、視力そのものの低下
は顕著に現れません。このために体は違う対応を選択する事になります。
目の明るさは低下しますが 、眼内レンズにより物体はよく見えます。脳への刺
激は続くため、物体を写し出す部分の網膜やレンズの厚さを調節する毛様体
等への刺激を避ける対応を取らせることになるのです。つまりさらに重篤な眼
病や頭部に関わる様々な症状を生起させる結果となるのです。
耳からの音の刺激を制限するために、難聴や突発性難聴、神経を遮断する顔
面神経麻痺等を発症しやすくさせます。さらに脳圧の上昇の持続は脳梗塞を
発生させやすくしたり、脳への刺激をできるだけ少なくする対応としての”認知症”
の発症にも繋がるのです。

それでは白内障の対策はどうあるべきなのでしょう。それはこれまで詳細に白内
障の根拠と機序を解説してきた中に見い出すことが出来ます。生命力の表れ
の二大箇所の一つにあたる瞳孔の機能を上げるためには、自身の低下した生
命力や免疫力を高める必要があります。目や脳の血液供給不足と脳圧の上昇、
脳内の熱のこもりを元に戻すためには、全身の血液の循環、配分、質の乱れ
を整えなければなりません。さらに直接的な脳や目の治療法も必要です。
これらの全てを合理的に速やかに改善出来るのが日本伝承医学の治療法に
なります。生命力や免疫力を高めるといっても、何をどうすればいいのかわかり
にくいものです。当然これには日常の生活習慣が大きく関わっています。生活
習慣の見直しは自己努力無くして達成出来ません。その中でも食事と睡眠、歩
行や運動の見直しは必然となります。

生命力とは具体的には細胞の新生力に置き換えられます。また免疫力とは血
液そのものであり、血液を作り出す造血力がこれに相当します。生命力と免疫
力を高めるには、細胞新生と造血を活発にする事になります。細胞新生と造血
は共に人体の骨髄が担っています。つまり骨髄機能を発現する事が生命力や
免疫力を高める具体的な方法になります。

日本伝承医学の治療法は、骨髄機能を発現させる目的で構築されています。
生命力と免疫力を高めるには最適な技法となります。
また内臓的には、肝心要と言われるように肝臓(胆嚢を含む)と心臓の働きを
中心に技術が作られています。これは前述してありますように、全身の血液の
循環、配分、質(赤血球の連鎖によるドロドロベトベト状態)の乱れに関与する
のは肝臓(胆嚢を含む)と心臓であります。これを元に戻すには正に肝心要の
治療が不可欠になります。これに合致しているのが日本伝承医学の治療法に
なります。全身の血液の循環、配分、質の乱れを正す事で、目や脳の血液供
給不足を補い、赤血球の連鎖を取ることで、脳や全身の毛細血管内の血流の
停滞と詰まりを改善していきます。
肝臓(胆嚢)と心臓の治療により眼圧や脳圧の上昇を元に戻し、脳の熱の発生
とこもりを取ることが出来るのです。これにより水晶体を濁らせ、光の量を制限
する必要がなくなり、濁りの進行を食い止めることができます。

さらに家庭療法として推奨する頭と肝臓の氷冷却法は、脳内の熱のこもりを除
去し、脳圧を下げるのに有効です。また肝臓の充血と熱を取り肝臓機能を高め
ます。そして目の直接的方法として、目を氷で冷やします。この方法は両目の
上に濡れタオルを載せ、その上にアイスバックを置きます。こうする事でタオルが
まんべんなく冷え、気持ちよく冷却出来ます。時間は各人の気持ち良い感覚に
従って行ないます。また額の冷却も行ないます。日本伝承医学では、個別の操法
として目の治療技術があり、これも合わせて行ないます。
以上のように、白内障の根拠と機序に根ざした治療を行なっています。薬や手術
という方法だけが対処ではありません。白内障の本質をこのように認識し、治療
の選択の、ひとつになる事を願います。またすでに手術を受けられている方も、
日本伝承医学の治療と氷冷却法は、再発、重症化、脳血管障害の予防になりま
す。

≪参考文献≫有本政治著:

眼と脳と全身の密接な関係

目の操法

眼病を眼だけで処置すると、脳溢血やクモ膜下出血、脳梗塞等の脳血管障害を起こしやすくなる」

眼の疾患をとらえ直す