はじめに

 

日本伝承医学では慢性疲労症候群をはじめ、病や体に生じる症状を
肝臓
(胆のう)と心臓(脾臓)の、このふたつの弱りからくる反応として
とらえています。

 肝臓には胆汁を作る大切な役割があります。胆汁は胆のうに蓄えられ
胆のうから分泌されます。胆汁は苦く、苦漢薬ともいわれ、炎症を鎮め
てくれる働きがあります。しかし、肝臓の機能低下によりこの胆汁が不
足すると、血液は熱
(血熱)をおび、どろどろの状態となり、体の各部位
に痛みやしびれを発生させ、様々な症状を引き起こしていきます。

 また心臓はいうまでもなく体の中枢部であり、心臓なくして命は存続
できません。と同時に、心臓の補佐役である脾臓も、なくてはならない
存在になります。脾臓には血液の貯蔵機能があり緊急時に血液を放出す
る働きがあります。
脾臓は左肝(左の肝臓)ともいわれ、右の肝臓に匹敵
する重要な臓器になります。

 日本には古来より「肝心要(かんじんかなめ)」という言葉がありますが、
肝臓と心臓が何よりも大事であるということを昔の人たちは天然に知って
いたのでしょう。肝臓と胆のう、そして心臓と脾臓を合わせて、日本伝承
医学では肝心要としてとらえています。低下した肝臓と心臓機能を高め、
胆汁の分泌を促し、弱った脾臓を回復させていくことを治療の主体として
います。慢性疲労症候群に表れるひとつひとつの症状も、日本伝承医学の
治療で改善していくことができます。

 私たちの体には本来自己治癒力というものが備わっています。免疫力と
生命力を高めながらその治癒力を引き出し、健康を取り戻していくこと。
これが日本に古来から伝承されてきた日本人の健康法、日本伝承医学にな
ります。


 日本伝承医学の観点から慢性疲労症候群の各症状をとらえています

慢性疲労症候群(CFS)  
 1984年にアメリカのネバタ州で原因不明の疲労患者が集団
発生したことから
chronic fatigue syndrome(慢性疲労症候群)と
名付けられました。日本では1990年に発症が報告され1992
年に診断基準が作成されました。

 症状は、極度の疲労感に伴い、筋肉痛、関節痛、リンパ節の腫れ、
睡眠障害(不眠、多夢)、自律神経障害、眼病、視力障害、咽頭痛
口内炎、舌炎、微熱、耳鳴り、甲状腺炎症、頭痛、腹痛、下痢、
大腸炎、頻尿、不整脈等の様々な症状を併発し、仕事や日常生活に
大きく支障をきたしてきます。重度の病症にもかかわらず、病名
から慢性疲労と混同されやすいため、単なる疲労と周囲から誤解
されやすく、この病状に対しての理解が少ないのが現状です。
  
 日本の患者は推定28〜38万人と言われていますが、症状が
他の病気と区別しにくく、的確に慢性疲労症候群と診断できる医師、
病院等が少ないので、明確な患者数は定かではありません。
年齢的には20〜50歳代の女性にやや多くみられますが、子ども
や、60歳以上の方、男性も発症しています。
 
 発症の原因は不明ですが脳神経系に明らかに異常がみられるため、
世界保健機関
(WHO)の国際疾病分類においては、神経系疾患に分類さ
れています。また、免疫系、内分泌系、エネルギー代謝、心臓血管系
にも異常がみられており、極めて複雑な難病となります。しかしい
まだに国からの難病指定の認定は得られていません。
(車椅子や寝たき
りの重症の方が全体の
4分の1に達しているにもかかわらず、公的支援は皆無
であり身体障害者手帳を取得できた人は
0.01%に過ぎないと推定されています)-
 難病は現在5000〜7000余の疾患があるといわれますが、医
療費助成の対象になっているのは、わずか56だけの疾患に限られて
おり、医療費助成の対象を今後早急に拡大していく必要性があります。
 
 症状は広範囲の炎症と、多系統に渡る神経病理を強く示すために、
慢性疲労症候群ではなく、筋痛性脳脊髄炎という病名を使用した方が
適切であるという見解があります。

 以下に慢性疲労症候群の具体的症状を明記します。これらの症状が
ほぼあてはまれば、慢性疲労症候群とみなされますが、あまりにも
多岐にわたる症状がみられるため、膠原病、ベーチェット病、リウ
マチ、線維筋痛症、シェーグレン症候群、うつ病、自律神経失調症、
心臓疾患等との判別が困難になります。

 中でもうつ病や線維筋痛症と症状が似ている所があるため誤診が
頻発しています。判別基準としては、うつ病や線維筋痛症は精神的
作用によるものが大きく、無力感に陥り、家事や仕事、社会活動等
への気力が消失しやすいのに対し、慢性疲労症候群は体がだるくて
思うようにならないことから始まり、物事に対するやる気や意欲は
あまり消失しないという点です。しかし体のだるさから意欲が消失
して無気力状態に陥ることもあります。
 
 誤った診断で、うつ病ではないのに、抗うつ剤を長期に渡り服用
し続けて、逆に脳内物質のバランスを崩してしまったというケース
もありますので気をつけてください。病気や症状は医者任せにする
のではなく、私たちひとりひとり、理解と認識を深め、自分自身で
も見極めていく力を培うことも必要です。自分の体の不調、異変は
誰よりも自分がいちばんよくわかっています。病気になったとき、
最も理解ある主治医とは、本当は自分自身なのかもしれません。

 
 以下に慢性疲労症候群の症状を解説していきます。
極度の疲労感 
 長期(6ヶ月以上)にわたり、起きていられないほどの強度の疲
労感にみまわれます。今まで普通に生活していたのに、突然発症す
ることが多いことから、感染症との見方もありますが、過重労働や
過度のストレス、オーバートレーニング等のケースでも発症してい
るため、原因は定かではありません。

 極度の睡眠障害を伴うために何時間寝ても疲れがとれません。
夜中じゅう、全力で走り続けていたような倦怠感、虚脱感、筋肉痛、
神経痛にみまわれます。朝起きても体がだるい、また横になりたい、
ずっと横になっていたいという心境です。

 普通はどんなに疲れても十分な睡眠と休養をとれば回復していき
ますが、慢性疲労症候群の場合は、いくら休養しても一日中寝てい
ても疲れがとれないことが、特徴になります。

 
関節痛や筋肉痛
 頸椎、肩、肩甲骨、上腕骨、膝関節、股関節、腰椎、仙骨等に
異常な痛みやしびれ、こり感を発症します。

 これらの痛みやしびれは、血不足が起きた所に血液を供給しよう
とするために生じます。痛みを引き起こして心臓を拍動させ、脳や
体の末端まで血液を流そうとしている対応の姿になります。


頸椎の痛みについて
 頸椎(首)は頭を支えている大事な骨になります。ここにゆがみ
やしこりが発生すると、頸椎が頭部を支えていくことができなくな
り、首から上に大きな石が常に乗っているような頭重感や痛みが発
生します。細い首だけでは頭が支えきれなくなり、机に肘をついて
手のひらで頭を支えたり、壁や椅子の背もたれに頭をつけて補助し
ていくようになります。ひどくなると、重くて頭が持ち上がらなく
なり、車椅子や寝たきりになってしまう場合もあります。

 頸椎は脊柱の上部に位置する7個の骨になります。この部位にゆ
がみが起こる理由として、下部の腰椎、胸椎のゆがみ、ひずみが考
えられます(まれではありますが、頭部からゆがみが発生すること
もあります)。

 脊柱は下部構造にゆがみが起こると、バランスをとるために上部
で調整していきます。積木を高く積み上げていくときに、崩れない
ように上部をだんだんジグザグにしてバランスをとっていくのと同
じ原理が人体にも働きます(参照:人体積木理論)。

 それ故、頸椎におこるゆがみや痛み、こり感をとるためには、
下部構造である腰椎、胸椎のゆがみを調整していく必要があります。

 腰椎や胸椎にゆがみや痛みがあるということは、内部に位置して
いる臓器に必ず炎症や肥大が起きています。炎症を起こして肥大し
た臓器を守るために、骨は臓器に合わせて突出し、ゆがみやひずみ
を起こしていくのです。つまり表に出ている症状は、単にその部位
だけで発症するのではなく、内部の臓器の機能低下が関与している
ので、患部だけを診ていくのではなく内臓の弱りから改善していく
ようにします。

(参)人体積木理論とは、積木の積まれた姿を人体構造にたとえ、
体に起こるゆがみを解説したものです。私たちの体の骨は、高く積
み上げられた積木のような状態で、縦長の構造体を形成しています。
積木をできるだけ高く積むためには、重力線上にバランスをとりな
がら積んでいきますが、体にもこの原理があてはまります。

 体は脊柱にS字カーブを作ることによって、バランスをとってい
きます。しかし内臓部に異常をきたすと、このS字カーブのバラン
スが崩れてしまいます。脊柱のS字カーブが崩れることによって、
腰椎、胸椎、頸椎と様々な箇所に痛みを発症させていきます。
脊柱のゆがみは頭痛や肩こり、めまいの原因にもなります。
(詳細
は日本伝承医学のホームページの『人体積木理論』の項に明記)。


肩、肩甲骨、上腕骨の痛みについて
 四十肩や五十肩のような症状が出ます。
重度になると、ある方向に腕を動かしたときや、ある方向から力が
加わったときに、腕をもぎとられるような激痛が起きます。じわじ
わと骨の内部に浸透していくような痛みです。日常生活では洋服の
脱ぎ着や洗髪、髪の毛をとかしたり、棚の上の物を取ったり、引き
戸を開けたり閉めたりという動作ができにくくなります。

 両手を体の脇につけてそこからゆっくり挙げていきます。肩から
上までは挙がるが、両手が耳につかない場合は、鎖骨の拳上に支障
をきたしています。両手が肩、もしくは肩の下位までしか挙がらな
い場合は、肋骨部に支障をきたしています。肋骨に内包されている
心臓にも弱りがきていると思って下さい。両手が肩、肩の下方まで
しか挙がらない状態の時には、仕事をしばらく休み、十分な睡眠と
養生が早急に必要です。

 次に痛みが右側か左側かによっても起因が異なります。症状が右
側に出る場合は肝臓や胆のうの弱り、左側に出る場合は心臓、脾臓
の弱りを意味します。

 右側の症状から説明していきます。まず右側に痛みが出ている場
合は、肝臓が充血して炎症を起こしています。肝臓は体の右寄りに
位置する人体最大の臓器で、この臓器が充血して肥大すると、体は
左ねじれを起こします。右側の肩を巻き込もうとしてゆがんでいく
ため、右側全体に負担がかかり、右肩、右腕、右肩甲骨に痛みを発
生します。

 また、肝臓が機能低下すると、胆汁が生成されなくなり分泌不足
になります。体は少しでも胆汁を分泌しようとするために、胆のう
をしぼり込むように右肩を下げて巻き込み、左へねじれていきます。

 胆汁は苦寒薬ともいわれ、血液の熱(血熱)を除去し、血液をサ
ラサラに保ってくれる重要な役割をになっています。故に胆汁の分
泌不足は、血液をどろどろにするため、血液の循環が悪くなり、肩
だけではなく、あらゆる関節や節々にまで痛みを発生させていきま
す(参照:胆汁の概念)。

 次に左側の症状を説明します。左側の痛みの原因には心臓機能の
低下があります。心臓が弱ると体は心臓の血液の吹き出しを守り、
ポンプ力を補うために右側にねじれ、左肩を巻き込んでいくため、
左側一帯に痛みを引き起こします。

 また左側に痛みが発症する場合は、脾臓の弱りも関連します。
脾臓には血液の貯蔵機能があり、緊急時に血液を放出する働きがあ
ると共に、老化した赤血球を破壊し、除去処理をします。また、
リンパ球を作る大事な役割を果たす場所でもあり、免疫機能の要と
も言えます。脾臓は左肝(左の肝臓)ともいわれ、人体のエネルギ
ーの集約場所、心臓の充電池の役割を果たす場所でもあり、右の肝
臓に匹敵する重要な臓器になります。

 この脾臓が炎症を起こし肥大すると、左肩、左腕、左肩甲骨から
左体幹部にかけての一帯に痛みを起こします。脾臓の炎症がひどく
なると左側だけではなく、背中から胴体全部が激痛にみまわれます。
横向きに寝ても体位を変えても痛みがひどいために眠れなくなります。
 脾臓の炎症、肥大を緩和するためには、脾臓部(左乳の下、左脇の
下方付近
)の局所冷却が著効を示しますので、就寝時にアイスバッグ
で毎日冷却をして下さい。炎症がとれて自然治癒するまで約2か月
位かかるときがありますが、局所冷却は継続することで効果があり
ますので続けるようにして下さい。

()胆汁の概念・・・医聖(いせい)とよばれていたヒポクラテス(
元前
460年生)は、胆汁の機能に着目し、胆汁を体液の主体ととらえ
ていました。四大体液説を唱え、発病のメカニズムを四つの体液
(血液・黄胆汁・黒胆汁・粘液)によって合理的に説明しようとしま
した。病気を生物に起こる自然現象としてとらえ、すべての環境条
件が病を発生させ、人の体質、気質に影響を及ぼしていくというこ
とを明らかにしました。

 彼の提唱した四大体液説の中に胆汁を二つおいていることからも、
胆汁の重要性をうかがい知ることができます。胆汁を単に脂肪を分
解するだけのものでなく、体液の組成に関わる大事な体液調整作用
としてとらえていたのです。
 古代ギリシャでは、黄胆汁(おうたんじゅう)は肝臓で、黒胆汁
(こくたんじゅう)は脾臓で作られていると考えられていました。
またヒポクラテスはうつ状態をメランコリー
(黒胆汁質)、躁状態を
マニー
(黄胆汁質)ともよび、精神状態との関連の中で体の症状をと
らえていました(詳細は日本伝承医学疾病『胆汁の概念』の項に明記)。

 
自律神経の障害と睡眠障害
 慢性疲労症候群は脳神経系に異常がみられることから、自律神経
の障害と関連していることが明らかになっています。

 自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、この症状は、
心身をリラックスさせる副交感神経が働かず、体を緊張させる交感
神経が常に働いている状態になっています。つまり精神状態が安ら
ぐことなく、いつも緊張しているためとても疲れます。

 自律神経に障害をきたす原因としてはストレスがあげられます。
ストレスとは単に、心労や不安、悩み、心配事、不快感等だけを示
すものではありません。ストレスには、ストレス状態を引き起こす
要因のストレッサーというものが存在します。ストレッサーが加わ
ることでストレスを発生していきます。

 ストレッサーには騒音、悪臭、排気ガス、光、色、放射線、湿度
等の物理的なもの、活性酸素や薬物等の化学的なもの、ウィルス、
細菌による感染等の生物的なもの、そして対人関係、不安や恐怖、
怒り、悩み等の心理的(精神的)なものがあります。日常生活の中
で私たちは常にこうしたストレスにさらされているために、自分で
も気がつかないうちにストレスを受けている場合があります。

 ストレスに対する作用を主に司っているのが間脳視床下部であり、
その指令の伝達網の役割を果たしているのが自律神経系や内分泌系
(ホルモン分泌)になります。慢性疲労症候群の方は、この自律神
経系や内分泌系の機能が著しく低下しています。

 また、交感神経が過度に働いているために、極度の睡眠障害にも
陥ります。眠るとまたすぐに目が覚めてしまう、一度目が覚めてし
まうとなかなか眠れなくなる、眠っても寝た感じがしない等のよう
な症状が出ます。

 深い眠りのノンレム睡眠状態になりにくいために、夢を非常に多
くみるのも特徴です(多夢症状)。人はレム睡眠(夢を見るときの
浅い眠り)とノンレム睡眠(夢を見ない深い眠り)を1時間半(1
〜2時間内の個人差有)の間で繰り返していくのですが、常に浅い
眠りのレム睡眠の状態が続く為に、起きた時に異常なだるさや倦怠
感にみまわれます。夜中じゅう、10分おきくらいに、誰かにたた
き起こされているような感じです。これが毎晩続くのでかなりつら
いです。

 このように交感神経が緊張して自律神経のバランスが乱れている
ときには、脳に炎症が起き、脳内に異常な熱を帯びているので、と
にかく夜間氷枕で後頭部を冷却することです。そして氷枕の他にア
イスバッグも使用してひたいや首すじ、首の後ろも冷やします。
冷却することで、脳内にこもった余計な熱が除去されて、自律神経
のバランスが整い、安眠できるようになります。眠れないときや頭
痛がひどいとき、冷却にまさる力はありません。

 日本では古来から、「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」と言い、血液
の循環を良くして体調を整えるために「足元は温め、頭は冷やす」
と言われています。就寝時に足元は湯たんぽであたため、頭は氷枕
で冷やします。電気毛布や電気あんかは、乾燥させ皮膚機能を落と
すので必ず湯たんぽを使用します。保冷剤等は初めは0度以下にな
っているので冷たすぎ、溶けるとすぐに温度が上昇してしまうので、
冷却には氷を使用します。氷は溶けてもしばらく氷水の状態で0度
を保ってくれます。0度は生体の組織を保つ適温になります。


 脳の炎症について
 脳に炎症が起きて熱を持ち、脳の一部にタンパク質の固まりがで
き、白いホワイトスポットが
MRIで映るのも、慢性疲労症候群の特
徴のひとつになります。

 私たちの脳は、脳脊髄液という液体に包まれて守られています。
自律神経のバランスが乱れて交感神経が緊張したり、脳内物質のセ
ロトニン等が減少したりするときには、脳に炎症が起きて脳内に熱
をおびています。脳脊髄液がぬるま湯状態になってしまい、脳温
(脳内温度)が上がり、脳内物質のバランスが乱れ、正常に働かない
状態になっているのです。故に、頭部の局所冷却が重要になって
きます。ひたいや後頭部の他、首筋を冷やすことで、脳へ冷えた
新鮮な血液と脳脊髄液をめぐらせることができます。脳の炎症がと
れて脳温が下がっていけば、症状は徐々に緩和されていきます。


脳の虚血(血液が不足している状態)について
 慢性疲労症候群の方は、脳が虚血状態に陥り、脳の特定領域で血
流量の低下がみられます。血液は命の源
(みなもと)であり、生きて
いく上で大事な栄養源になります。その血液が不足したり、とどこ
おってしまうと脳内に充分な栄養が行き渡らなくなってしまいます。
その結果、必要な脳内物質が減少したり、前頭葉が萎縮したり、脳
の一部
(眼窩前頭皮質等)に機能低下が起こります。思考力や集中力
が低下したり、記憶が欠落したり等、精神面でも様々な症状を発症
させていきます。

 また脳が虚血状態になると、体は首を固めることによって、脳が
これ以上、血不足にならないようにしていきます。首が左右に動か
なくなりますが、脳への血流が改善されれば首は回るようになりま
す(1〜3週間位かかる場合もありますが、首が動かない時には
このような理由があるので、無理をして動かさないようにします)。

 脳の虚血を改善し、十分な血液を巡らせるためには、脳の炎症、
熱を速やかに取り除くことが必要です。そのためにはアイスバッグ
での頭部冷却が有効になります。首が動かないときには、心臓から
脳への血流を促すために左側の首筋の冷却も行ないます。合わせて
肝臓
(右乳の下)の局所冷却も行なうようにします。
 肝臓は血液を司る臓器で、体に痛みや症状がでているときには肝
臓が充血し、全身の血液の循環が乱れています。局所冷却により肝
臓の充血がおさまれば全身への血液の循環が良くなり、脳への血流
も改善できます(詳細は『家庭療法局所冷却について』の項に明記)


眼窩前頭皮質について
 慢性疲労症候群の方は、脳の眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)
に萎縮がみられる場合があります。眼窩前頭皮質は、感情の制御、
苦痛や恐怖の記憶を消す働きのある大事な部位になります
(眼球上
部の奥。目からひたいにかけての奥の部位
)
 眼窩前頭皮質は「思考する脳」「感じる脳」とも言われ、ここが
萎縮し機能低下が起こると、苦痛や恐怖心がいつまでも記憶から消
えなくなり、悩み苦しみ続けます。

 また近年、脳のMRI(磁気共鳴断層撮影)で心的外傷後ストレス(PTSD)
の症状が強い人ほど、この眼窩前頭皮質が萎縮していることがわか
りました。

 人は普通、嫌なことや苦痛、悲しみは歳月とともに自然に忘却で
きるように脳が働きます。だから悲しい出来事に遭遇してもまたが
んばって生きていけるのです。しかし眼窩前頭皮質に機能低下と萎
縮がおきると、忘却装置が働かなくなってしまうため非常に生きに
くくなります。

 改善していくためには、まず脳内の炎症をとり、十分な血液を脳
に行き渡らせることです。眼窩前頭皮質は眼球上部奥に位置してい
るので、ひたいを氷を入れたアイズバッグで昼夜冷却します。睡眠
時には後頭部に氷枕を敷き、ひたいにはアイスバッグをずっとあて
て寝るようにします。冷却によりかなりの炎症はとれます。

 脳内に炎症が起き、充分な血液が行き渡らなくなる根本的原因に
は心臓の弱りがあるので、心臓に負担をかけすぎないように、無理
をしないように心掛けて生活していくことも必要です。
 

 咽頭痛・口内炎・舌炎
 喉や口内に痛みや炎症(口内炎)が起きているときには、内部に熱
を帯びているため、氷での冷却が痛みの緩和に効果的です。喉の場
合は氷を入れたアイスバッグで首筋を冷やします。口内や舌の痛み
の場合は、氷を口に含み、口の中全体を直接冷やします。おなかが
ふくれてしまうので溶けた水は飲まないで、吐き出すようにしてい
きます。痛みがひどいときは1回30分位を一日何度も行ないます。

 心臓に弱りが出てくると、口内炎は唇や頬の裏側ではなく、舌の
ふちや舌の裏側、喉の奥にできるようになります。舌や喉にできる
口内炎は、穴が閉じるまで日数がかかります
(12ヶ月位)。ひとつ
の箇所が治っても次から次へと穴を開けていきます。また、舌や喉
の奥にできた場合は、固形物を口に入れたとき、食物が通過すると
きやつばを飲み込んだときに、魚の骨がつかえているような、針が
刺さっているような、激痛が走ります。耐え難い痛みで、連鎖して
頭の芯部や心臓の裏側(脊柱)に激痛が波及します。

 口や喉は、体の中でも熱を排出しやすい場所になります。この部
位に痛みや炎症が起きている時は、体の内部の余計な熱を排出して
いる対応の姿で、熱が除去されれば次第におさまっていきますので
痛くても塗り薬や痛み止めは極力避け、できるだけ経過をみるよう
にして下さい(参照:『局所冷却について』喉・口の冷却法)。

 口内や舌の痛みや炎症は、心臓を鼓舞させ、血液を全身にまわし、
循環を良くしようとする対応になります。それ故、開いた穴を人為
的にふさいでしまうと、体は熱の排出先を失ってしまうため、炎症
をより内部へ進行させていきます。舌や口内に起きる症状は、心臓
と脳内の熱の反応の姿であり、必要があって開けているので、でき
るだけ封じ込めないようにします。


下痢について
 長期に渡り下痢が続く事があります。一日10回〜20回もの水
下痢が2週間〜3ヶ月位続く事がありますが、下痢は体が必要とし
て起こしている対応なので、できるだけ薬で止めないようにしてい
きます。

 下痢は腸だけの問題で起きるのではなく、脳の働きとも関わって
います。小腸はリトルブレイン
(小さな脳)とも言われ、脳内物質の
セロトニンの約9割は、脳内ではなく小腸に蓄えられています。
いやなことがあったり極度に緊張すると急におなかが痛くなりトイ
レに行きたくなってしまうのは、小腸の働きが自律神経と関連して
いるからになります。

 また下痢は肝臓機能の低下による胆汁の分泌不足も起因します。
過労や心労、ストレスが加わると私たちの体は一気に肝臓が充血し
機能低下を引き起こします。肝臓は胆汁を生成している大事な臓器
であり、胆汁が正常に分泌されなくなると血熱を帯び体内に炎症が
起きます。

 腸内では速やかにこの熱を排出させようとするために下痢という
手段をもって熱を体外へ排出していきます。病気や体に起こる症状
はすべて炎症であり、この炎症をしずめるすべを体は天然に知って
いるのです。

 このように下痢は、自律神経のバランスや過労、心労、ストレス
等の精神状態とも深く関わっているため、改善するためにはその根
底にある問題とも向き合い解決していく必要があります。時間はか
かりますが心労やストレス等が軽減され胆汁が正常に分泌されてい
けば便も次第に形成されるようになります。


 以上記載した症状の他に慢性疲労症候群には、便秘や腹痛、頻尿、
リンパ節の腫れ、微熱
(2週間〜2ヶ月程の長期に及ぶ事がある)耳鳴り、
視力障害、目の充血、ドライアイ、頭痛、めまい、食欲不振、
味覚障害、吐き気、過呼吸、気管支炎、パニック発作、動悸等の
様々な症状が表れてきます。

 リウマチや線維筋痛症のように、関節や節々が異様に痛くなった
り、ベーチェット病のように有痛性の口内炎や下痢、陰部に痛みや
しこり、脂肪腫を発症することもあります。症状があまりにも多岐
に渡るために、判別が非常に難しく、違う診断名がくだされてしま
う事が多いのも現状です。

 医師から告げられた事に疑問を感じたり、納得できない場合は、
自分が信頼できる先生や理解してくれる人に出会えるまであきらめ
ないことが大事です。

 「病は気から」と言われるように、気持ちが萎えてしまうと、
症状はどんどん悪化してしまいます。体が弱ったとき、具合が悪い
ときに、心底自分の体調をわかってくれる良き理解者にめぐり会え
ることは大きな支えとなり、症状改善の一歩につながります。


 日常生活で気をつけること
 私たちの体は仕事や家事、運動をした後、消費したエネルギーを
自動的に補給することができます。体は機械よりも実に精妙にでき
ているのです。

 しかし慢性疲労症候群の場合は、エネルギー代謝に障害があるた
めに、労作により消費したエネルギーを補充することができません。
蓄えてあるエネルギーを使い切ってしまったら、いくら休養しても
次に補給することができないのです。

 ここで重要なことはエネルギーを全部使い切らないで蓄えておく
ということです。それには頻繁に休憩をとり体を横たえることが必
要です。人間が集中できる時間は約45分です。つまり45分位に
一回は休憩が必要になります。

 家事の場合はこのような時間調整ができますが、勤務している場
合はなかなかできません。しかし、自分の体の
SOS(危険信号)を無
視して酷使し続けたら、充電したエネルギーは無くなり、供給する
ことができなくなります。

 体は弱ってくるとどこかに必ずサイン、徴候を私たちに送って知
らせてくれています。不調を感じたら、その警告を無視しないで、
仕事を中断し休養できる状況を作ることです。自分がこれまでがん
ばって築いてきたことや仕事を止めるのは、決断と勇気が要ります。
しかし慢性疲労症候群に限らず、体調を崩したときや病気のときに
は、十分な休養が必要なのです。

()起きられるのにずっと寝ていたり、休養ばかりしていると、体
が固くなり、筋肉が萎えてかえって痛みを発生させたり、体調が乱
れてしまうことがありますので適度に動き、活動することも大事で
す。自分の活動量を認識して、それを超えないよう休息をとりなが
ら行動していくことです。

 車椅子や寝たきりの方は、指先や足指、口、歯、あご等、残存能
力のある部位を少しずつ動かしていくようにします。特に歯をかち
かち音を立てて合わせていく運動は大事です。口を大きく開けて上
下の歯を噛み合わせていくと、脳へ刺激が送られ活性化され、意欲
や気力が出てきます。
(歯の運動は歩ける方も毎日行なっていきましょう)。


 薬を極力避けたい理由
 ひとつの症状だけでも耐え難い苦痛になります。これが次から次
へと様々な症状を発症させていくのが慢性疲労症候群の特徴になり
ます。全ての病気を自分ひとりが背負っているような苦しみです。

 薬の服用は一時的にらくになり治ったかのような錯覚にみまわれ
ますがこれは治ったのではなく症状を封じ込めているにすぎません。

 微熱は熱を出すことで体内の炎症をしずめてくれているので解熱
剤を使用しないようにします。長期に渡り解熱剤や抗生物質を服用
すると、熱の排出先を失った体は血液を攻撃し始め急性白血病等を
原発させてしまうことがあります。

 頭痛やめまいは、痛みを起こし血圧を一気にあげることで脳への
血流をうながしているので、頭痛薬や降圧剤を使用すると脳内がま
すます虚血になっていきます。
 血圧とは血液を流す力であり血圧を上げて懸命に血液を流そうと
しているのでこれを薬で下げてはいけません。降圧剤の長期服用は、
体から血液を流す力を奪い、筋肉を衰弱させ、麻痺させ、最後には
体を動けなくさせていきます。

 下痢は体内の熱や毒素を排出しているので、下痢止めを使用して
しまうと体は熱の排出先を失い、より内部に症状を進行させていき
ます。 

 舌炎や口内炎は、心臓の熱を捨てている対応なので、熱の排出が
おさまれば自然にふさがっていきます。舌に穴があいたときは
2
間〜
1ヶ月位かかりますが、養生して回復を待ちます。副腎皮質系
の塗り薬を使えば痛みは瞬時にとれますが、体は熱の排出先を失い
ます。体は熱の排出先を失うと次の手段として、腫瘍やがんを形成
していきます。
(日本伝承医学疾病観:がんをとらえなおす参照)
 病気や様々な症状はすべて炎症から始まり、私たちの体は、その
炎症を速やかに鎮め、熱を体外へ排出しようとします。すべては命
を守るように懸命に働いているのです。故にその部位の症状だけを
薬で封じ込めないようにしていきます。


日本伝承医学における病気のとらえ方
 同じ環境にいてウィルスや細菌に感染しても、症状が重い人、軽
い人、全く表れない人がいます。これは、その人が持つ生命力・
免疫力の違いによって生じてきます。先天的に心臓機能が弱い人は、
生命力や免疫力も弱く、感染した場合、症状を発生しやすくなりま
す。心臓機能がじょうぶな人でも過労や睡眠不足等で体が弱ってい
るときには、発症しやすくなります。

 また心臓だけではなく肝臓、胆のうの弱りも病気には大きく関与
してきます。胆のうは肝臓に隣接、内包されている部位で、重要な
役割をになっています。過労や心労、ストレス等で肝臓が充血し炎
症を起こすと身体中の血液は熱を帯びます
(血熱)
 胆汁には血熱を冷ます働きがあるので、胆のうはフル回転して胆
汁を必死に出し、血液の熱を冷まそうとします。その結果胆のう機
能は著しく低下し胆汁の分泌不足を引き起こします。胆汁が分泌さ
れなくなると、血液は熱を持ち、どろどろの状態になっていくため
に、体のあらゆる所に痛みや障害が発生します。また、全身の毛細
血管の炎症
(血管炎)も併発します。この機序が病気や様々な症状を
引き起こしていきます。

 人は生活していく上で、何らかのストレスを受けています。スト
レスが全く無い状態というのはありえません。それ故、睡眠や食生
活、適度な運動等の日常生活に気をつけながら、ストレスと上手に
共存していくことを心がけるようにします。

 過度のストレスにさらされた時には、肝臓が肥大しているので、
肝臓部の局所冷却を実践します。肝臓機能を戻して胆汁の分泌を促
すことが必要です。(肝臓の局所冷却法は『家庭療法局所冷却につ
いて』の項に明記)。

また肝臓とともに、心臓機能も上げていかなければなりません。
体がだるいと感じてきたら心臓に弱りがきていると思って、体をい
たわって下さい。この時点で、仕事や家事等で無理をすると、症状
を悪化させてしまいます。「肝心要
(かんじんかなめ)」と言われる
ように、肝臓
(胆のう)、心臓(脾臓)の二大臓器は私たちの体にとっ
て大切な役割をになっています。肝心に弱りが来たら、まずは十分
な睡眠と休養をとることを忘れないでください。

 アメリカのネバタ州で集団発生した時、慢性疲労症候群はウィル
スによる感染症と一時断定されましたが、その後の罹患者からの症
状で、感染症ではなく個人で発症しているケースも多々あることが
わかりました。ウィルスによる感染はあくまで引き金であり、根本
の原因にはその人の持つ生命力・免疫力の低下があったのです。

 生命力とは細胞新生力であり、免疫力とは造血力になります。
つまり、細胞を新生する力と血液を造り出す力が低下したとき、
人は病気になってゆくのです。

                    日本伝承医学心理療法士
                      内田 多美子 2013年記
       


   本文中の詳細は日本伝承医学のホームページ各項をご覧下さい
 『日本伝承医学の人体観』〜人体積木理論
『日本伝承医学の疾病観U』〜胆のうをとらえなおす
                       胆汁の概念
『日本伝承医学家庭療法』〜局所冷却法(喉・口・舌の冷却法)
『日本伝承医学生命観』〜日本伝承医学とは
『日本伝承医学』〜日本伝承医学の治療について
『日本伝承医学疾病観T』〜がんをとらえなおす
『日本伝承医学治療院』治療案内、往診について

※日本伝承医学では、体に生じる痛みや症状を内部から改善」していく手技療法
の治療を行なっています。心臓、肝臓、胆のう、脾臓等の働きを高めながら、その
人の持つ治癒力を最大限に発揮させて、生命力(細胞新生力)と免疫力(造血力)
を高めていくので、慢性疲労症候群による各症状も改善していくことができます。
受診については、日本伝承医学治療院の項を御覧下さい。