菊池病の本質と対処法

 菊池病は1972年に病理医である菊池昌弘氏、藤本吉秀氏によ
って報告された良性のリンパ節炎になります。亜急性壊死性リ
ンパ節炎、組織球性壊死性リンパ節炎とも呼ばれ、首、脇の下、
鼠蹊部、耳の後等のリンパ節に腫れと痛みが起きます。
 首のリンパ節(特に右首)に発症することが多く、38度台の高
熱や痛み、しこりを伴います。関節痛や皮膚に湿疹や発赤、痒
み等が生じる場合もあります。また肝臓、胆のう、脾臓に炎症
や腫れがみられることがあり、体のだるさや慢性疲労、倦怠感、
体重減少等を伴います。風邪の時も発熱してリンパ節が腫れま
すが、菊池病は高熱やリンパの腫れが数週間から1か月以上も
続きます。
 悪性リンパ腫や急性白血病と初期症状がよく似ていることか
ら、見分けが非常に難しいとされます。これらの疾患は炎症反
(CRP)の上昇等を伴い、増殖した異常な免疫細胞が酷似して
います。
 症状の違いは良性炎症である菊池病は、養生すれば自然に回
復する一時的な免疫の暴走(炎症)で、悪性リンパ腫はリンパ節
等にがん細胞が無限増殖、急性白血病は骨髄や血液中で白血病
細胞が急激に無限増殖する点になります。
 菊池病は体の免疫細胞(T細胞や組織球)が一時的に過剰反応し
て腫れや壊死を起こしますが、この段階で疲労(過労)やストレ
(心労)が続くと、免疫の炎症がリンパ節内に留まらず全身の
骨髄等に波及してしまいます。
 発症年齢は20歳から30歳代の若年女性に多いとされてきまし
たが、2000年代に入り男女比は1:1に近づいてきました。小児
から高齢者に至るまで幅広い年齢層で発症するようになりまし
た。通常13か月でリンパの腫れや痛みは消えて自然治癒しま
すが、無理をすると再発したり全身性エリテマトーデス等の自
己免疫疾患を併発することがあります。
 菊池病の症状は免疫器官のリンパ節にあることから、背景に
は自己の免疫機構の破綻があります。免疫力が著しく低下して
いる状態であることをしっかり認識する必要があります。

菊池病を捉え直す
 現代医学では症状は一方的に「悪」とされています。悪とい
うことは体に悪い影響を与え、体を弱らせ、早く死に至らしめ
るということです。
 生命の本質は自らの命を存続させることにあります。つまり
最後の最後まで命を守る防衛機構が幾重にも備えられていて、
そのようにプログラムされているのです。体に起こる様々な症
状は決して異常()ではなく、命を守るための一時的な緊急対
応の姿と言えます。この視点から菊池病を考察していきます。
 菊池病は発熱させることで、体内の組織や器官の分子運動を
活発にして、弱った組織を元に戻そうとする修復反応になりま
す。喉の炎症も同様で、あえて局所に炎症(熱や腫れ)を起こす
ことで、弱った喉の機能回復をさせます。
 喉は外部からの病原体を防ぐ免疫機構の最前線(関所)です。
喉の免疫力が低下すると、体は危機を察知して急激に高熱を出
して全身の抵抗力を高めると同時に、最前線である喉にあえて
強い炎症を起こします。これにより低下した免疫力を急速に引
き上げ、病原体を撃退しようとします。これが菊池病の本質に
なります。症状を正の対応の視点から考察してみると、その本
質がみえてくるのです。
()男性よりも女性の方が平均寿命が78歳長いことから一般
的に女性の方が生命力が強いとされます。特に女性は18歳~30
歳代にかけては妊娠や出産に耐えうるように生命力が最も高ま
る時期となります。生命力が高いということは、弱った体を元
に戻す回復力が強いことを意味します。

 この年代は女性ホルモンの分泌が活発になり代謝力がピーク
を迎えます。代謝力が高いので、体内で熱を作り出すエネルギー
が極めて強い状態にあります。そのため女性はこの年代に高熱
を出したり免疫の要(かなめ)である喉に強い炎症を起こしたり
する対応が起きやすくなります。

精神と肝胆の関連性
 「病(やまい)は気から」と言うように、病気は気(精神)と深
い関わりがあります。過度なストレス(心労)は体内で異常な熱
となって蓄積され、免疫機構を破綻させます。その結果サイト
カイン(攻撃物質)を通常の何倍も放出させ、リンパ節の組織そ
のものまでも壊死(破壊)させます。これが菊池病に壊死性(えし
せい)とついている所以となります。

 過労や心労がある生活を続けると、常に自律神経の交感神経
が緊張した状態におかれます。交感神経の緊張は免疫系を乱し、
過剰な免疫反応(炎症)を誘発させます。自律神経と免疫細胞
(白血球等)は密接に連動しているのです。
 菊池病の主原因は免疫力の低下、免疫システムの過剰反応に
なります。高熱やリンパ節に腫れが生じた時は心身にかなりの
負担がかかって弱っています。この段階でしっかり休んで養生
することを最優先とします。

菊池病の根源には肝胆と脾臓機能の低下がある
 肝臓と胆のうは生命を維持していく上で重要な働きを担って
います。胆のうは肝臓で作られた胆汁を集める袋で、袋を収縮
させて胆汁を分泌しています。胆汁の働きは単に脂肪を消化吸
収するだけでなく、その苦い成分は漢方の「苦寒薬」と同様の
働きがあり血液の熱を冷まし、血液が連鎖しないようにしてい
ます。  
※血液の連鎖とは、血液がどろどろでべたべたの状
態をさします。
 胆のうが腫れると袋の収縮が制限されて胆汁の分泌が低下し
ます。血液の熱を冷ます作用が低下するので血熱(けつねつ)
生じ血液が連鎖して赤血球、白血球の質が低下します。特に白
血球の働きが低下すると免疫力が低下し、免疫細胞の主体とな
るリンパ球の働きも低下するので、リンパ節に腫瘍ができやす
くなります。
 胆のうが腫れて袋の収縮ができなくなると、袋の収縮を補う
対応として、体の右側面の筋肉骨格全体を縮めて、体の右側を
絞り込むことで胆のうの収縮を助けます。つまり上半身全体を
左側にねじり、右肩を下げて前下方に巻き込む体勢をとります。
首が左向きになり、右肩が前下方に下がり体が左にねじれた姿
勢となります。

 体はゆがんだこの姿勢を修復するために、首の回旋筋である
右側胸鎖乳突筋を収縮させます。この首の右側筋の異常収縮が
長期に及ぶことで、筋肉だけでなく、この部位にあたる喉の深
部、甲状腺に過度の圧が加わり、右喉の機能が低下します。
これが右喉のリンパ節の腫れや炎症につながっていきます。
菊池病のリンパ節の腫れが右首に発症しやすい理由はここにあ
ります。
 また上体の左ねじれと右肩の前下方への巻き込みは、右の鎖
骨の位置異常を起こし、右胸鎖関節と右肩鎖関節に関節のずれ
と内圧の上昇を引き起こします。胸鎖関節下には、リンパ節の
大きな分枝と集合体が分布しているので、リンパ節の内圧を高
め、首や脇下、胸部のリンパ節の腫れと炎症を誘発させます。
※右肩鎖関節部は内臓体壁反射の胆のうの反応が表れる所なの
でこの反応点と一致します。

 菊池病の特性のひとつである脾臓の腫れと炎症の根源は胆汁
分泌不足からくる血液の連鎖にあります。血液が連鎖してどろ
どろのべたべた状態になると、古くなった赤血球を分解する脾
臓に負担をかけ、白血球の主成分のリンパ球の質も低下します。
 このように菊池病は肝臓胆のうの機能低下、脾臓の機能低下等
の内臓機能と関わって発症します。病状はその部位だけをみる
のではなく、体全体との関連の中で捉えていくようにします。

良性であっても油断してはいけない
 「良性」という言葉には人を油断させる響きがあります。
医学用語としての良性は単に悪性ではないという事実を指して
いるに過ぎません。菊池病に問わず、良性だから大丈夫という
認識をもたないようにします。熱が続く時点で身体が重大な危
機にさらされているからです。
 菊池病は初期段階では風邪との判別がしにくく、抗生物質が
処方されます。ところが菊池病は細菌による感染症ではないの
で、いくら抗生物質を飲み続けても治りません。何回も抗生物
質を服用し続けていくうちに血液組織が破壊され、急性白血病
等を誘発させることもあります。
 抗生物質が効かない場合、ステロイド薬(副腎皮質ホルモン)
が使われますが、ステロイド薬にはリンパ球の形や数を変形さ
せてしまう作用や代謝異常を引き起こす作用、免疫力を低下さ
せる作用等があるので、長期服用は避けます。
低下した免疫力をもとに戻すためには薬剤の力ではなく、体を
休めて養生することが先決です。

菊池病、悪性リンパ腫、急性白血病の初期症状は類似する
 菊池病は悪性リンパ腫や急性白血病との早期鑑別において注意
を要する病状とされています。初期症状が非常に似ていて誤診
が起きやすいからです。
 この3つの病状はいずれも、数週間に渡る発熱と首等のリンパ
節の腫れがみられます。菊池病の異型リンパ球が悪性リンパ腫
と急性白血病の腫瘍細胞(芽球)と形態がよく似ていることから
血液検査での誤診もみられます。リンパ節生検でも識別が難し
い場合は、より高度な検査(骨髄生検等)が行なわれます。

 初期段階で養生すれば自然軽快する菊池病を、悪性リンパ腫
や急性白血病と誤診し、強い化学療法を行なったがために深刻
な副作用を発症してしまうケースもあります。
 診断時に不安を感じたら血液内科や総合診療科のある高次医
療機関への転院、受診を検討するようにします。より専門的な
検査を受けたいのでと伝え、紹介状を書いてもらいます。紹介
状があると全ての検査をやり直さずにすむので体にかかる負担
を軽減できるからです。
 3つの病状の中で、免疫力の著しい低下で発症し、進行が速い
のが急性白血病になります。骨髄の中で白血球の芽球(がん細
)が異常増殖するため、正常な好中球、単球、リンパ球等の
免疫細胞が作られなくなります(骨髄不全)

 骨髄不全とは骨髄の機能が低下することをさします。骨髄機能
が低下すると血液細胞が作られなくなるので、生命を維持する
ための最も基本的な仕組みが機能しなくなります。

 日本伝承医学は骨にゆり・ふり・たたきのひびき(振動)や圧
を加えて骨髄機能を発現させることができる唯一の治療技術と
なります。骨髄機能を発現させて免疫力(造血力)と生命力(
胞新生力)を高めていくので菊池病、悪性リンパ腫、急性白血病
に著効を示します。

対処法
 病状の背景にある肝臓胆のう、脾臓の働きを回復させ、喉、
首、脇のリンパ節炎症を除去する必要があります。菊池病は低
下した免疫力を元に戻すための必要な一時的対応なので症状を
薬剤等で封じ込めないようにします。リンパ節の腫れや炎症を
鎮めるには氷を用いた家庭療法としての局所冷却法が有効です。
※リンパの炎症を鎮めるための後頭部、額、首筋、肝臓胆のう
(右季肋部)、脾臓(左季肋部)、喉、胸鎖関節下、腫れたリンパ
節等の局所冷却法は受診時に指導していますので資料を読んだ
だけで行なわないようにして下さい。
 生活習慣(食事、睡眠、休養、運動)の見直しが急務です。
低下した免疫力を高めるためには特に睡眠時間が大切です。
体を回復させるためには、横たわる時間をできるだけ多くとる
ようにしてください。

 ≪参考文献≫日本伝承医学の「食・息・動・想・眠
 日本伝承医学では骨髄機能を発現させることで造血力(免疫力)
と細胞新生力(生命力)を高めていきます。直接的要因となる血
液の循環・配分・質を整え、脳の血流を改善し、自律神経のバ
ランスを整えます。肝臓胆のうの炎症をとり除く操法、喉の炎
症を鎮める操法も用います。免疫機構が正常に働くように調整
することで、免疫力の低下が主原因である菊池病を改善してい
きます。 
≪参考文献≫「悪性リンパ腫の本質と対処法」 著:有本政治
       「多発性骨髄腫~急性白血病、悪性リンパ腫」