飲水学
「飲水学」(いんすいがく)とは、生命活動において健康を維持
するための正しい水分摂取の方法論になります。薬で治すのでは
なく、水分を補給することで、不調を改善したり病気になるのを
未然に防ぐための原理になります。
「お水は飲んでいますか?」の問いかけに、皆様方は「はい、
飲んでいます。」と言われます。しかしよく聞いてみると純粋な
水ではなく、ほとんどの方が水の代わりにお茶や他の飲料水を飲
んでいることがわかりました。草花や金魚、猫や犬に、ウーロン
茶やルイボスティ、炭酸水、コーヒーや紅茶等をあげないように、
生命体にとっては水が必要なのです。水以外のものを草花に与え
続けると枯れてしまうように、生命を維持し細胞を活性化させる
ためには、水でなくてはならないのです。
私たちの体からは汗や排尿で一日1.5~2リットルもの水分が
排出されます。逆算すると毎日1.5~2リットルの水の摂取が必
要という事です。どれくらいの量の水が必要か、なぜ必要なのか、
どういう飲み方をすればいいのか?
このような飲水学の知識を取得するだけで、不調を改善し健康な
身体を保つ事ができるのです。水は生命体にとっての健康の基本
と言えます。
【頭部冷却法が有効な理由】
人の体は外気温が高くなると汗をかいて自ら体温を冷やして調
節します。脳内温度(脳温)が上昇し自律神経が乱れると、この
体温調節機能が破綻してしまい、脳内に熱がこもり、脳温が急激
に上昇してしまいます。脳温が上昇するとタンパク質が変性を起
こし生命活動が危機に晒されます。変性した細胞が細胞死すると
二度と修復は不可能になります。
人間の体は気温が体温を超えると、自律神経のバランス(交感
神経と副交感神経のバランス)が乱れるという性質があります。
自律神経は体温調節だけではなく、心拍・呼吸・脈拍・代謝・
排泄等を司る要の神経になります。猛暑の時期に体調を崩しや
すくなるのは、脳内温度が上がり脳に熱がこもることが根本原
因となります。
日本伝承医学が推奨しているアイスバッグと氷枕による頭部冷
却法(ひたい・首筋・後頭部等)が有効な理由はここにあります。
【一日どれくらいの水の量をどのように飲んだらいいのか?】
世界保健機構(WHO)では健康維持のために一日コップ一杯の水
(180~200cc)を8回以上摂取することを推奨しています。冷蔵庫
から出したばかりの冷えた水ではなく、常温のぬるめの水にしま
す。飲み方は一気にのみ干すのではなく、時間をかけて少しずつ
飲むようにします。
トイレが近くなるのを避けるために就寝前の水を控える方がい
ますが、水を控えてしまうと代謝が悪くなり却って体に害を及ぼ
します。夜間就寝時には500ミリリットルもの水が体から失われ
ています。水を飲まないと就寝時に熱が体内にこもり、脳や臓器
が養われなくなってしまうのです。代謝が悪くなり脳内に熱がこ
もったまま朝を迎えることになるので、朝起きたときにだるさや
倦怠感、疲労感、頭痛等が残ります。
また、夜中に3~4回位トイレに行くことは悪いことのように思
われていますが、目が覚めたら毎回必ずトイレにいくようにしま
す。年をかさねるとしわや白髪が増えるように、眠りの質は低下
していきます。夜中に目が覚めてトイレに行き歩くことで、循環
が高まり低下した心臓機能が修復され代謝が良くなります。誘眠
剤等を用いると一度も起きないで眠ってしまうので、血流が悪く
なり(血行不良)しびれや麻痺が起きやすくなります。夜中に起
きて歩くことで、排尿することで血行を良くしているのです。
このように夜中に目が覚めてトイレに何度も行くことは、悪いこ
とではなく体を守るための正の対応となります。
日本人は健康に無知な民族と揶揄されています。それは全てを
薬や医者任せにし、本来自身に備わっている生命観を見失ってい
る所にあります。人間には元来自己治癒力というものが備わって
います。水の摂取をはじめ、食事、歩行、運動、呼吸法等の生活
習慣を見直していくだけで、健康な心身を維持していくことがで
きるのです。
≪参考文献≫ 有本政治著:日本伝承医学家庭療法
『食・息・動・想・眠』
「眠りの質」
【口渇中枢】
喉が渇くと水を飲みたいと感じる「口渇中枢」(こうかつちゅ
うすう)の機能は、年と共に低下します。水を飲みたいと感じな
くなっていくので、脱水症状や熱中症が、高齢の方に多くなります。
口渇中枢は脳の視床下部から発令されるため、若い人でもスト
レスや寝不足、脳疲労等で脳に炎症が起き、脳内温度(脳温)が
上昇してしまうと、視床下部が正常に働かなくなるので、喉の渇
きを感じにくくなります。一日分の水として1.5~2リットルの
ペットボトルをテーブルや机に出しておいて、計測しながらこま
めに水を飲む習慣をつけるようにします。
【生体リズム】
人間には生体リズムと呼ばれる、身体リズムを整えるための
体内時計(概日リズム)が備わっています。生体リズムは心拍や
呼吸、脈拍、血圧、睡眠等の生命維持に必要な様々な役割を担っ
ています。こうした基本的な生命維持の発令を出す所が、脳の
視床下部になります。脳に炎症が起きてしまうと自律神経がバラ
ンスを崩すため、口渇中枢だけではなく生体リズムが大きく乱れ
てしまう事になります。
人間の生体リズムには7日に一度休息をとるという周期があり
ます。休息とは何もしないでのんびりひとりで過ごすことを指す
ので、人に会ったり遠出や外出したりする日は除きます。仕事以
外での予定や、家族や友達との外出等を除いた自分だけの休日が
一週間に一度は必要になります。
また自律神経は精神作用とも深く関わります。時間に追われる
生活をしているとストレスが蓄積し脳疲労を発症させます。自分
だけでのんびりとした時間を過ごすことで自律神経のバランスが
整い、心身共にリラックスすることができるのです。家族や子ど
もがいる場合は、ひとりだけの時間を作ることは至難の業になり
ます。時間は意識して生み出すようにしていかなければ、脳疲労
を改善していくことはできないのです。
【水が飲めない子が増えてきている】
昨今水が飲めない子、水を飲もうとしない子が増えてきて社会
問題になっています。熱中症予防のため学校で指導しても、唇を
濡らすだけで、コップにくんだ一杯の水が、なかなか飲めないそ
うです。スポーツドリンクやジュース等の味のある水分に慣れて
しまっているため、味がないおいしくない、ぬるい水が飲めない
のです。飲もうとしても飲み込むことができないのです。自動販
売機があらゆる所に設置され、飲みやすい味がついた飲料水が
あたりまえになってしまった環境にも問題があるかと思います。
飲み物が水しかなかった時代の原点に立ち返り、健康の基本で
ある水を今一度見直し、日常的にとる習慣をつけていきたいもの
です。