初夏に胆のう炎が起きる理由   2016.5.22 有本政治

 胆のうから分泌される胆汁は、単なる消化酵素の役目を担うだけでなく、
体の体液や血液の成分濃度、熱を調整し一定に保つ作用があります。また、
胆汁には苦寒薬(くかんやく)として、体液や血液の熱をとる作用があります。
苦寒薬とは、漢方薬の主体となるもので「良薬(りょうやく)口に苦(にが)し」
と言われるように、苦い生薬(しょうやく)を用いることで体内の炎症や内熱
をとり去り体の機能を回復させていきます。つまり胆汁はこの苦寒薬と同様
の抗炎症作用を担っています。最近は5月になると気温が上昇して、夏日(25度)
の日が多くなります。これにより体内には熱の貯留が発生します。この時期、
まだ体内には体温上昇の対応ができていないため、体内の熱を冷まそうとする
ため、胆汁の分泌が活発になります。
 
 またもともと遺伝的に心臓が弱い人は、肋骨の345番の働きが悪く心臓
部に熱がこもりやすく、心臓部から噴き出す血液にも熱を帯びやすくなります。
外界の気温上昇により、体全体が温められ、ますます血液に熱をもってきます。
この血熱(けつねつ)をとり去ろうと、体は胆汁の分泌をさかんにしていきます。
苦い胆汁を出し熱を処理しようと働くのです。血液に混ぜて熱を下げようと
るのですが、胆のう機能が弱い人は、この胆汁の分泌がうまくいかず、胆のう
機能をあげるために、胆のうに熱を発生させて懸命に働きます。
 熱の発生は胆のうに炎症を起こし、胆のう肥大を引き起こしていきます。
このような理由から、5月の中旬くらいから夏場に向かって胆のう炎を起こす
人が多くなるのです。さらに、胆のう炎がひどくなると、体はこの熱を処理
しきれなくなり、胆のう当該部に帯状疱疹を発生させ、熱を体外へすてる手
段をとっていきます。心臓本体も熱をもち、これを排出するため、口角炎等
も起こしやすくなります。
 また、血液に熱がこもってくると、この血熱をとり去ろうと、体は胆汁だけ
ではなく、すい臓のすい液までも総動員し、体液を変えていこうとします。
体液や血液の働きを守り抜こうとするのです。
 
 夏は心臓の季節と言われるように、元来、心機能の弱いタイプの人は心臓に
負担がかかり、心臓に熱がこもりやすくなります。この熱を下げるためにも胆
のうに負担がかかり、胆のう炎の発生につながるのです。さらにすい臓にまで
も機能低下を生じさせていきます。胆汁は、肝臓で生成されるため、胆のう機
能が弱れば、必然的に肝臓の機能も低下していきます。これにより、人体の要
となる“肝心要”(かんじんかなめ)に弱りを生み、体調をくずす大きな要因
となるのです。

(追記)

 医聖(いせい)とよばれていたヒポクラテス(紀元前460年生)は、胆汁の機
能に着目し、胆汁を体液の主体ととらえていました。四大体液説を唱え、発
病のメカニズムを四つの体液(血液・黄胆汁・黒胆汁・粘液)によって合理的
に説明しようとしました。病気を生物に起こる自然現象としてとらえ、すべ
ての環境条件が病を発生させ、人の体質、気質に影響を及ぼしていくという
ことを明らかにしました。彼の生命観、人体観は、独立したひとつの学とな
り、後世の医学に多大なる影響をあたえました。
 彼の提唱した四大体液説の中に胆汁を二つおいていることからも、胆汁の
重要性をうかがい知ることができます。胆汁を単に脂肪を分解するだけのも
のでなく、体液の組成に関わる大事な体液調整作用としてとらえていたのです。

()古代ギリシャでは、黄胆汁は肝臓で、黒胆汁は脾臓で作られていると考
えられていました。またヒポクラテスはうつ状態をメランコリー(黒胆汁質)
躁状態をマニー(黄胆汁質)ともよび、精神状態との関連の中で体の症状をと
らえていました。


アイスバッグでの局所冷却のすすめ


 胆のう機能が弱ると、胆のうに炎症を起こし、機能を活発に働かせようと
します。胆のうは体の右に位置しているので、右の腰、右のわき腹が引きつ
れ、腰痛や全身のだるさを引き起こしていきます。また胆のうの炎症は、右
わきに筋肉の引きつりを起こすため、右肩を巻き込み、四十肩、五十肩へと
進行します。右ひじや手首にも関節痛を生じやすくなります。このような症
状を回復させるためには、余計な熱を速やかに除去し、本来の胆のうの働き
(胆汁を出すこと)をとり戻す必要があります。そのために局所冷却はかかせ
ないものとなります。

 胆のうは肝臓に内包しているため、肝臓部からの冷却で胆のうも同時に冷
却できます。冷却することにより胆のうの炎症がとれ、機能が改善され、充
分に胆汁を分泌することができます。同時に肝臓機能も整い、全身の血液の
循環・配分・質も正常になります。
 また胆のう機能が低下すると、すい臓に負担がかかります。すい臓に負担
がかかると、一時的に血糖値が上がり、全身的だるさをまねきます。それ故
すい臓の機能回復をはかるために、背中側の両ひじと脊柱を結んだ部分を、
背中から冷却することも必要です。局所冷却は内部の炎症を抑え、余分な熱
をとり去り、体の循環を助け、健康維持に大いに効果があります。
 日本伝承医学では、心臓調整法、肝・胆の叩打法を用いることにより、心臓
胆のうの両面から機能回復をはかる治療を行なっています。  

≪参考文献≫有本政治:著

何故春先に肝臓、胆嚢が機能低下(炎症、腫れ、充血)を起こしやすいのか

春先(1月〜2月)に体調を崩しやすい理由

胆のうをとらえなおす