「胆のうをとらえなおす」は2004年に記したものになります
胆のうをとらえなおす
 有本政治

胆汁の概念

胆のうから分泌される胆汁(たんじゅう)は、単なる脂肪の消化吸収の役
目を担うだけでなく、体液、血液の成分濃度、熱を調整し一定に保つ作用が
あります。
また、胆汁は極めて苦い味のする体液で、苦寒薬(くかんやく)として、血
液、体液の熱を取る作用があります。苦寒薬とは、漢方薬の主体となるもの
で「良薬(りょうやく)口に苦(にが)し」と言われるように、苦い生薬(しょ
うや)を用いることで、体内の炎症や組織の内熱を取り去り、体の機能を
回復させていきます。
つまり胆汁は、この苦寒薬と同様の体液調整作用を担っています。胆汁の分
泌に異常が生じた場合には、血液、体液が熱をもち、この影響で赤血球同士
がゆがんだり、くっつき合ったりしてしまいます。さらに、血液の粘性が高
くなりどろどろとした血液状態となり、血液の循環を停滞させ、毛細血管を
つまらせる原因となっていきます。このように胆汁の分泌が悪くなると血液
の質が低下し、循環を悪くし、成分組成を大きく乱します。この血液の質、
循環、成分を元に戻す対応として体は、一過性に血糖値を上げたり、血圧を
高くしたり、尿酸値を高くしたりしていきます。
糖尿病やリウマチ、高血圧、痛風などの病の背景には、胆汁の分泌低下が存
在していたのです。

 また、胆汁は腸の機能保全には欠かせないものであり、胆汁の分泌が低下
すると、便の生成にも大きく影響し
てきます。胆汁が出なくなると臭い黒緑
色のタール状
の便が出たり、便秘や下痢を交互に繰り返していきます。
そして過敏性大腸炎、大腸ポリープなどを引き起こし、最終的には大腸がん
へと移行していく場合もあります。

 病気や症状の始まりには、体内の熱と炎症が必ず存在しています。この内
熱や炎症を取り去り、体を回復
させてくれる大切な役割を果たしているのが
胆汁になり
ます。  

胆のうと胆汁について

 胆汁は、肝臓の肝細胞で作られています。そして肝管に集められ、胆のう
という袋に運ばれます。胆のうは筋肉質の袋で、運び込まれた胆汁から水分
を絞り取り、約510倍の濃さにして胆汁をこの袋の中に蓄えていきます。

 胃で消化された食べ物が十二指腸に送られてくると、ホルモンの合図で胆
のうの袋の筋肉が収縮して胆汁が出され、胆管を通って十二指腸に分泌され
ます。そして消化物の中の脂肪分をすい液とともに分解、吸収し排出してい
きます。

  胆汁は肝臓の細胞で作られる弱アルカリ性の黄色い液で、大人の場合
1日約0.5〜1リットルほど分泌します。
中に含まれる成分は水分、胆汁酸、
ビリルビン、コレステロールなどになります。胆汁の主成分である胆汁酸は、
肪を乳化する働きをもっています。脂肪を消化、吸収しやすい形に変える
のが主な作用になります。胃から送られてきた消化物の中の脂肪は、十二指
腸で胆汁酸に乳化されることによって、はじめてすい液との共同作業で完全
に消化されていきます。
胆汁にはこのように脂肪の消化、吸収作用があります。

 現代生理学的には、胆汁の作用をこのように解釈しています。しかし、胆
汁の作用として最も重要なことは、胆汁のもつ苦味(にがみ)の成分にありま
す。苦味には熱を冷ます性質があります。つまり胆汁には体内の炎症をしず
め、体液や血液の成分を調整し、不必要な熱を取り去ってくれる作用がある
のです。

胆汁不足は血液の熱を高くする

 胆のうは肝臓の裏側に、親指のような形をしてぶらさがっています。肝臓
は、体の中で最も中身のつまった臓器で、肝細胞によって形成されています。
生命維持にとって、重要な働きを担う肝臓の作用を挙げてみます。

 @ 栄養の調整、貯蔵作用
   グリコーゲンとして栄養素を貯蔵し、血糖として全身の血液に流します。
A 解毒作用
   体内の新陳代謝によって生じた毒性のある物質を分解して無毒化し、尿
  素という物質に変えていきます。

B 赤血球の分解作用
   古くなった赤血球の中のヘモグロビンを分解して、ビリルビンという胆
  汁の成分に変える作用があります。
C 体熱の維持作用
   肝臓の細胞が活動するときには、たくさんの熱を発生させます。この熱
  を血液によって全身に配分し、体温の約七割をこの熱によって維持して
  います。
このような肝臓の働きを補佐したり、ときには抑制したりしていくのが胆
汁の役目になります。
「肝胆合い照らす」というように、肝臓と胆のうは表裏の関係にあり、お互
いに助け合い協調し合って、生命を維持していくために大切な役割を果たし
ています。
 肝臓で作られた胆汁は、胆のうに蓄えられ、必要なときに分泌される仕組
みになっています。
臓機能が低下すれば胆のう機能も低下し、胆汁の生成、
分泌にも異常をきたしてきます。また、胆汁の生成、分泌に支障をきたして
くると、肝臓の重要な働きである解毒作用、赤血球の分解、体熱の維持作用
が低下してしまいます。それは胆汁の血液、体液の熱を取る作用の低下にも
つながり、血液は熱をもつことになります。これを血熱といいます。
 私たちの体は血熱が生じると、血液の粘性が高くなり、どろどろした血液
状態を作り出していきます。さらさらした川の流れは速く、どろどろした川
の流れは遅いように、血熱は血流を停滞させていきます。また、血熱による
熱の作用で、赤血球の形がゆがみ、赤血球同士がくっついてしまいます。
 毛細血管の直径は髪の毛の約1/10くらいの太さで、約6〜20マイクロメー
トル(マイクロメートルはかつての単位でミクロンといい1/1000ミリをさし
ます)になり、その中を中央がくぼんだ円盤状の形をしている、直径約8マ
イクロメートルの赤血球が流れています。
そして赤血球の直径より細い径の
毛細血管に入るときには、
円盤状の赤血球は形を細長くパラシュート形のよ
うに変え
ていきます。しかし血熱で赤血球同士がくっつき合ってしまうと、
毛細血管に入り込むことができなくなってしまう
のです。赤血球はそこで通
過することができずに止まり、
血液の流れを停滞させたり、毛細血管をつま
らせたりしま
す。この毛細血管のつまりは、組織、器官の血行不良をまねき
ます。そして全身的にも局所的にも免疫力をおとすこ
とになります。
 免疫力が低下すると体は、それを元に戻そうとするために、風邪などをひ
かせ、全身的発熱で対応していきます。
この時点で人為的に熱を下げてしま
うと次の対応として、
体は局所に炎症を起こすことで、組織の機能の回復や
免疫
力を高めていこうとします。肺炎、肝炎、胆のう炎、腎炎などの症状が
これにあたります。胆汁の分泌不足から生じ
る血熱は、人体の全組織を養っ
ている血液の質を悪化させ、
各種の疾患を生む大きな要因として働くことに
なります。

胆汁不足は血液の質を低下させる

 胆汁は小腸の一部である十二指腸ですい液と合わさり、食物からの栄養を
消化吸収していきます。
胆汁の分泌が不足すると、脂肪の乳化作用が低下し、消化吸収作用がおちて
いきます。栄養物の消化吸収が正常に働かないと、不純物や有毒な物質が門
脈を通り、それらの毒素が肝臓に返されてしまいます。門脈とは、小腸で消
化、吸収した栄養素を肝臓へ運ぶ動脈のことで、毒素が門脈から肝臓に返さ
れてしまうと、肝臓はその解毒作用に追われ、機能を大きく低下させること
になります。肝機能の低下は肝臓の解毒作用、赤血球の分解作用を低下させ、
血液の成分、質を大きく乱していきます。
 この血液の質、成分を元に戻す対応として体は一過性に血糖値を高くして
いくことでエネルギー不足を補おうとします。これが血糖値を高くする理由
になります。糖尿病の原因はこのように胆汁不足から起因していたのです。     
 また、胆汁不足により肝臓の解毒作用が低下すると、アンモニアを分解
ることができず、血液中の尿酸値が著しく高くなります。体はたんぱく質を
分解することで、エネルギーを得ていますが、その過程で生じるアンモニア
が分解されないと、血液中の尿酸値が高くなってしまいます。尿酸の異常は、
赤血球同士をくっつけ、筋肉や関節の毛細血管をつまらせていきます。そし
て関節や筋肉に痛みやしびれを発生させます。リウマチや痛風等の症状は、
ここに原因があったのです。
このように、胆のうの胆汁分泌不足は、肝臓、胆のうを相乗的に機能低下さ
せることになり、全身の他の組織、器官に大きな影響を与えることになりま
す。そして糖尿病や痛風、リウマチ、手足のしびれ、まひ、筋肉の痛み、関
節の痛み等の症状を引き起こす要因となっていきます。

 

胆汁不足が大腸に及ぼす影響

 
胆汁の主成分であるビリルビンは、大腸において腸内細菌の分泌物と化
合して、壮大な化学工場を営んでいます。そして、便の形成に不可欠なウロ
ビリンという物質を作り出しています。
胆汁の分泌不足は大腸内の腸内細菌の分布を乱し、有害な腐敗、発酵を促進
します。消化不良から有毒ガスを発生し、それがおなかにたまり、腹部が張
るガス腹の症状を引き起こしたり、悪臭をもったおならを出させていきます。
 また胆汁が不足すると熱を取る作用が低下し、内熱のために便が枯燥して
便秘がちになります。便秘が続くと体はますます体内に有毒な物資を停滞さ
せていきます。そして体は次の排出対応手段として下痢という形をとってい
きます。そして便秘と下痢を交互に繰り返していきます。45日間便秘が
続いたかと思うと、一気に下痢になってしまう症状を繰り返していくのです。
これは胆汁の不足により脂肪の分解、吸収ができないため正常な便の生成が
できないことから生じます。有害物質が腸内に発生するため、下痢という手
段を用いて排出しようとしているのです。しかしこの便秘、下痢の症状を薬
などで人為的に抑制してしまうと、体は次なる命を守るための対応にせまら
れていきます。
 薬による対症療法は大腸壁に徐々に内熱を生じさせ、炎症を発生させます。
そして炎症だけで対応しきれなくなると、小さなおできを作って熱をすてよ
うとします。これが大腸ポリープになります。つまり便秘や下痢の症状を薬
等でおさえてしまうことにより、体は大腸にポリープをつくり、これをなお
取り去る処置をしてしまうと最終的には大腸がんへと移行することにもなり
ます。便秘や下痢を、ただ現象面だけの対応としてとらえるのではなく、内
する胆汁の分泌異常という認識でとらえていくことが大切です。  

 胆汁不足が心臓病を引き起こす

 胆汁の分泌低下の裏には、必ず肝臓の機能低下、すなわち肝臓の充血、
症が存在します。内臓の中で最大の実質臓器である肝臓の充血は、全身の血
液の配分を大きく狂わせる要因となります。遺伝的に心臓機能の弱い人は、
全身の血液の配分が乱れることによって、心臓の虚血状態と毛細血管の循環
不全を引き起こしていきます。また胆汁不足は、血熱を生じさせ、毛管内の
赤血球同士をくっつけ、毛細血管の流れを悪くしたり、血管のつまりの要因
となります。そして動悸、息切れに始まり、狭心症、心筋梗塞、心室細動な
どの心臓病の原因となっていきます。
 もともと遺伝的に心臓が弱い人は、肋骨(ろっこつ)の3、4、5番の動
が悪く、心臓部に熱がこもりやすく、心臓部から噴き出す血液にも熱を帯び
やすくなっています。特に夏期の猛暑時には、体全体が温められ、ますます
血液に熱をもっていきます。この血熱を取り去ろうと体内は胆汁の分泌をさ
かんにしていきます。苦い胆汁を出し、熱を処理しようと懸命に働くのです。
血液に胆汁を混ぜて、熱を下げようとするのですが、心臓機能が低下してい
る人は、この胆汁の分泌がうまくいかず、胆のう機能をあげるために、胆の
うに熱を発生させていくのです。そして熱の発生は胆のうに炎症を起こし、
胆のう肥大を引き起こしていきます。このような理由から夏に胆のう炎を起
こす人が多くなります。さらに、胆のう炎がひどくなると、体はこの熱を処
理しきれなくなり、胆のう当該部の皮膚上に帯状疱疹を発生させ、熱を体外
へすてる手段をとっていきます。また、心臓本体も熱を除去しようとするた
め、口内炎、口角炎、舌の腫れ、しびれ等をも引き起こしやすくなります。
心臓の反応は口や舌に表れるため、このような症状を発生していきます。

そしてもっと血液に熱がこもってくると、この血熱を取り去ろうと体は胆
だけでなく、すい臓のすい液までも 総動員し、体液を変えていこうとしま
す。体液、血液の働きを最後まで守り抜こうとするのです。心臓機能の弱い
人はこのような観点から胆のう機能が弱り、すい臓にまでも機能低下を生じ
させて行くことになります。
 また心臓が弱い人は、胆汁の分泌不足により心臓にこもった熱を処理し
うとするため、上半身に大汗をかく傾向があります。発汗することで余分な
熱を体外へすてようとするのです。そして発汗面積を拡大するために上半身
を太らせ膨張させていきます。遺伝的に心臓が弱い人は、このような理由で
太っていくので、これを無理なダイエットでやせてしまうと、心臓にこもっ
た熱を排出することができなくなり、ますます心臓に負担をかけてしまうこ
とになります。
 心臓と胆のうは密接な関わりがあります。これらは共に収縮することで、
袋から血液や胆汁を噴出させているので、同作用を有する器官とみること
できます。
また子宮や精のうも胆のうと同じ作用を有する袋となります。似たものは
たように働くという観点で人体を探求していくと、身体各部の関連性が改め
てわかり、認識されていきます。体に生じる様々な症状は、その個所を部分
的にみるのではなく、全体との関連性の中で見ていくと、今まで気づかなか
った真実が明らかにされていきます。

 胆汁と脳循環障害との関わり

 胆汁の分泌低下は、血熱を生じさせます。血液が熱をもつと、全身の毛
血管の流れが悪くなり、毛細血管がつまっていきます。特に脳内は、血管網
の海といわれるように毛細血管が綿(わた)のように分布しているため、血熱
は脳内の血液の循環を悪化させていきます。血液循環に支障をきたすと、脳
内に一過性の虚血状態が起こり、頭痛やめまいが起きます。しかし、これら
の症状を薬で抑制してしまうと、脳内は血液の循環を守るために脳の圧力
(脳圧)を高くしたり、熱をすてる手段として、脳梗塞や脳出血を引き起こし
てしまうことになります。
 また、胆汁の分泌が悪いということは、肝臓で作られる胆汁が不足して
るということになります。肝臓と胆のうは一体のものであり、胆汁の分泌が
悪くなれば、肝臓も機能低下を起こしていきます。肝臓の機能低下は肝臓を
充血させ、全身の血液の配分を大きく乱していきます。肝臓に血液をたくさ
んうばわれると、脳内や全身の他の組織、器官に血液不足の状態をつくりま
す。そして脳内は血液の循環を守ろうとするため、まず全身の血圧を高めま
す。そして次に脳内の圧力を高めて、血液を一刻でも早く脳に送ろうとしま
す。脳圧の上昇は、血熱と相まって、脳内の温度を上昇させていきます。特
に脳の中心部である脳幹部の温度を上げ、脳幹部にあるホルモン中枢、自律
神経中枢の働きを低下させていきます。
 胆汁が不足すると血熱が発生し、脳内の血液循環が悪くなり、毛細血管
つまらせていきます。体はこれを回避しようとするため、脳圧を高め、脳内
温度を上昇させていくのです。胆汁の分泌不足は、このような機序で脳の血
液循環と関わってきます。
 

 胆汁不足と高血圧症との関係

 日本人の生活習慣病(高血圧症、糖尿病、心臓病、脳循環障害等)の要因
は、精神的ストレスに起因した肝臓の機能低下があります。肝臓の機能低下
は、全身の血液の配分・循環・質を大きく乱す要因となります。また肝機能
が低下すると、胆のう機能も低下し胆汁の分泌が不足していきます。
胆汁不足は血熱を生じさせ、血液中の赤血球同士をくっつけ、血液をどろ
ろの状態にしてしまいます。これは血液の流れを著しく阻害します。
血液の流れを速くするために体は、血圧を高めることで対応していきます。
これが高血圧という状態になります。つまり胆汁不足は高血圧症の影の要
として深く関わっていたのです。

 胆汁と精神作用との関わり

 医聖とよばれるヒポクラテス(紀元前460年生)は、胆汁の機能に着目し、
胆汁を体液の主体としました。胆汁を単に脂肪を分解するだけのものでなく、
体液の組成に関わる大事な体液調整作用としてとらえていたのです。
彼は四大体液説を唱えて、体液の乱れが病気や様々な症状を発生させるも
としました。そして発病のメカニズムを四つの体液である血液・黄胆汁(
うたんじゅう)・黒胆汁(こくたんじゅう)・粘液によって合理的に説明しま
した。また、病気を生物に起こる自然現象としてとらえ、環境条件が病を発
生させ、人の体質、気質に影響を及ぼしていくということを明らかにしまし
た。彼の生命観、人体観は、独立したひとつの学となり、医の聖人、医聖と
われ、後世の医学に大きな影響を与えました。
 

 後世の医学は、分科の学として細かく細分化され、精神と肉体を分離し
形で、肉体つまり物質のみの偏重の医学と化してしまいました。しかしヒポ
クラテスは医学を自然条件との関わりの中からとらえ、精神と肉体を分離し
ないで、相互の関連性の中から解明してきました。  
彼の提唱した四大体液説の中に胆汁を二つもおいていることから、胆汁の
要性をうかがい知ることができます。彼は黄胆汁は肝臓で、黒胆汁は脾
(
ひぞう)で作られるとし、気分が高まる躁(そう)状態をマーニー、黄胆
気質と呼び、気もちが沈むうつ状態をメランコリー、黒胆汁気質として二つ
の気質に分けました。この考え方は、古代中国で発生した漢方医学とも共通
しています。
 漢方医学の原因論は、まず精神感情の乱れが先に存在し、これに自然の
候条件である「風・寒・暑・湿・燥・火」が作用して、病気を発生させてい
くとしています。また、情動の乱れを「怒・喜・思・悲・恐・憂・慮」の七
つに分類し、人体の内臓の五臓六腑と対応させています。その中で「怒」
あたる、おこったり、イライラしたり、精神亢陽状態を肝臓、胆のうに配当
し、「思」のおもう、悩む、憂う、沈み込むを脾臓に配当しています。
脾臓は別名、左肝(左の肝臓)ともいわれ、単に脾臓のことだけではなく、
い臓を含めた消化器全般をさしています。この漢方医学のとらえ方はヒポク
ラテスの唱えた、躁状態を肝臓の黄胆汁質、うつ状態を脾臓の黒胆汁質とし
た原理と呼応しています。また漢方医学では肝臓、胆のうと脳()を密接に
結びつけ、肝臓、胆のう機能の低下は、頭痛、めまい、脳循環障害、精神疾
患と深い関わりがあることを説いています。

 これらの古代の東西両医学の共通性は、胆汁の分泌低下が、精神状態と大
きく関わりがあるということを明らかにしている点にあります。胆汁不足は、
血液、体液の熱を取る作用の低下につながり、それは脳内に熱を貯留させ、
ホルモン中枢、自律神経中枢までも狂わせてしまうことになるのです。また、
肝臓は脳内ホルモン、脳の神経伝達物質を産出し、分解する場所でもあるた
め、肝機能の低下から生じる胆汁不足は、様々な精神的疾患を引き起こすこ
とになります。
このように胆汁は単に脂肪の消化吸収の役割を担うだけでなく、実は精神状
態にも非常に大きく影響していたのです。
 私たちの体には、もともと疾病に対して自然に回復しようとする力が備わ
っています。病気や症状を自然現象としてとらえ、病院や薬まかせではなく、
自らの意思で治そうとする気力をもつことが大切です。
自然界の生物の中で、人間だけが人間脳という頭脳を与えられてきました。
頭を持ったが故に、傷ついたり、思い悩んだりしながら様々なストレスを抱
え、人間社会の中で生きています。命ある限り、このすべての悩み苦しみか
らのがれられるということはありません。ストレスは瞬時に肝臓をうっ血さ
せ、胆のう、心臓、すい臓、大腸等の他の臓器にも支障をきたしてきます。
肝機能を正常に働かせ、体の内部から整えていくためにも、できるだけ日々
の暮らしの中で精神的ストレスをためないように、少しでも軽減できるよう
に、気もちを切り換えていきたいものです。 

胆のうと筋肉、関節との関連

 苦い体液である胆汁の分泌不足は、血液、体液に熱を帯びさせ、血液の粘
性を高めます。このため全身の毛細血管の血液の流れが悪くなり、全身の筋
肉を疲労させ、関節等の痛みの原因となっていきます。この痛みは全身に波
及し、体中が異様に痛くなることがあります。特に漢方医学における胆経(
んけい)上である、体の側面の筋肉群に痛みを発生しやすくします。
また股関節痛、偏頭痛、首の側面から肩にかけての痛みとこり、側腹部の痛
み、大腿部(だいたいぶ)側面の痛み、膝(ひざ)、下腿の外側の痛み、ひじの
内側の痛みなどを生じさせます。足関節のねんざも起こしやすくなります。
 股関節に痛みが発生する場合、その原因の多くが、胆のう機能の低下、胆
汁の分泌不足にあります。体の側面部の筋肉の引きつり、固さが持続するこ
とで、股関節が位置異常を起こし、痛み、癒着、変形等へと移行してしまう
のです。
また胆汁の分泌不足は右の肩関節の痛み、四十肩、五十肩の発生の原因とし
ても作用します。右肩の肩鎖関節(けんさかんせつ)という所は、現代医学の
診断においても、胆のうとの因果関係がはっきりと明示されている場所にな
ります。
(上腕)の動きのほとんどは鎖骨(さこつ)の回旋と拳上によって達成されて
います。肩鎖関節が動かなくなると肩の運動が大きく制限され、この状態が
継続していくことで痛みが起こってきます。特に右肩から右腕にかけて痛み
が発生してきます。

 胆のうは人体の右側に位置しているため、胆のうが肥大したり、炎症をも
ったりすると、機能低下した胆のうを保護しようとするために、右腰部から
側腹部にかけて筋肉を固めていきます。この状態が続くと脊柱を歪め、腰椎
を右側に傾け、腰椎と胸椎の移行部に捻れの歪みを発生させます。そして右
腰部からでん部、坐骨(ざこつ)、大腿部の後側と外側に痛みとしびれが発生
します。
 胆のうは人体の右脇腹にあり、胆のうの機能低下は、その周辺の筋肉を固
めることで内臓を保護しようと働きます。これにより人体の右側の筋肉や関
節に様々な症状が出やすくなります。坐骨神経痛も右側に出やすくなります。
しかし反応は右側面だけではなく、胆のうの機能低下が心臓や、すい臓にま
で影響してきた場合には、左側面にも同じような症状が起こります。特に左
側は偏頭痛、左股関節痛の症状として現れます。
 このように胆のうの機能低下は全身の筋肉、関節の痛みと大きく関わって
いきます。右肩や首筋から背中にかけての痛み、関節の節々、股関節や側腹
部等に痛みが生じた場合は、その現象だけをみるのではなく、胆のう、そし
て肝臓という臓器の弱り、機能低下から、起因しているということを忘れて
はなりません。体の痛み、症状を緩和していくためには、根本的には体の内
部からの機能回復をはかることが先決です。
 

胆汁不足と皮膚病との関わり

 胆のうと肝臓は表裏一体の関係にあり、相互に相乗的な症状を引き起こし
ます。肝臓の解毒作用の低下は、体内に内熱と毒素の貯留を引き起こします。
そして肝臓機能が低下すれば、胆のう機能も低下し、胆汁の分泌不足が起こ
り、血液、体液に血熱を生じさせます。これを回避する対応手段として、体
は皮膚病を発生させ、熱と毒素を体外へ排出しようとします。初期的な反応
は、全身の皮膚のかゆみから始まり、次に皮膚が黄色身を帯びてきます。皮
膚がかさつき、体中が異様にかゆくなってきます。
肝臓、胆のうが関与する皮膚病の代表的なものが、じんましんとアトピー性
皮膚炎になります。皮膚病とは体内の内熱と毒素を排出するための手段であ
り、その根底には胆汁の分泌不足が大きく関わっていたのです。

 胆のうを取り去った場合

 胆のうとは、単に胆汁を貯めて流す袋ではありません。
肝臓で生成された生胆汁を胆のうに貯留させて、胆汁の約94%をしめてい
る水分を蒸発、ろ過させて主成分である胆汁酸の濃度を高める働きをしてい
ます。
なぜこのような作業をするかというと、生胆汁を濃縮することによって濃度
の濃い、最も苦い味の胆汁を作るためになります。
これは海水を煮つめて塩を作る工程に似ています。こうして作られ胆汁は必
要なときに、必要な量を袋を収縮させ、小腸の入り口である十二指腸に分泌
しているのです。ところが胆のうを手術で除去した場合には、この胆のうの
機能が果たせず、生胆汁のまま薄い胆汁が胆管を通って、小腸へ垂れ流しの 
状態で常時流れてしまいます。
 

この濃度の薄い胆汁は、小腸内に送られても胆汁本来の働きができないた
め、すい液との共同による脂肪の分解、吸収がうまくいかなくなります。そ
のため体はこれを補おうとし、すい液を多量に出していきます。これはすい
臓に大きな負担をかけ、すい臓は機能低下を起こしていきます。そしてすい
液の生成不足、インスリン、グルカゴンの分泌異常を引き起こします。
体は、このエネルギー不足を補うため、血糖値を急激に高めていきます。必
要があって血糖値をあげているのに、これを薬で抑えてしまうと、ついには、
糖尿病にまで移行してしまうことになります。
 また小腸に胆汁酸が不足すると、カルシウムの吸収が適切に行えなくなり
ます。カルシウムは生命維持にとって欠かすことのできない物質になります。
体は命を守るためにカルシウム濃度を厳密にコントロールしています。この
ため骨に蓄えてあるカルシウムを大量に溶出し始めます。当然骨量が減少し
ていき、この状態が続くと、副甲状腺から出ているカルシウム濃度を高める
ホルモンの、分泌機能に異常が生じてきます。
これを薬で補ってしまうと自律神経のバランスをくずし、交感神経を緊張さ
せ、首や肩のこりを生じさせます。首の動きが制限され、痛くて首を前屈す
ることができない状態にまで発展してしまいます。これは全脊柱に連動し、
慢性的な腰痛をも生み出していきます。
 胆のうを除去してしまうと体はこのように、他の組織、器官に様々な影響
を及ぼしていきます。脳循環障害、心臓疾患、リウマチ、痛風という病気を
発生させる確率も高くなっていきます。
人体中の臓器に不必要なものなどは、ひとつもありません。
どの臓器も他との関連性の中で、命を守っていくために重要な役割を果たし
ているのです。
 

手術や薬物で処置するとどうなるか

 一般的に胆汁うっ滞の原因と考えられている胆石や胆管狭窄は、胆汁の分
泌を阻害するものととらえられています。しかしこれは誤った認識になりま
す。体は胆のうに結石を作ることで、胆汁の濃度を濃くする目的と、胆汁の
流れを速くする目的を果たしています。必要だからこそ、石を作っているの
です。この結石を砕いたり、手術で取り去ってしまうと、体はますます胆汁
の分泌低下を引き起こします。
 また胆管狭窄も同様で、胆管の径を細くすることで胆汁の流れを速くする
応の姿となります。胆管狭窄を手術で拡張してしまうと、胆汁の流れが
ゆるやかになってしまい、十二指腸への胆汁の分泌がかえって低下してしま
います。このような対症療法に終始していくと、体はますます命を守るため
の対応手段をとっていきます。そして最終的には胆のうがん、胆管がんへと
移行してしまうことにもなります。
 胆汁のうっ滞により症状として表われる黄疸、大腸の異常(便秘、下痢)
皮膚のかゆみ、皮膚病等を薬で消し去ってしまうということは、あくまでも
その場しのぎの対症療法にすぎません。それどころか薬物の長期使用は、交
感神経の緊張を助長し、内臓をコントロールしている自律神経(交感神経と
副交感神経)のバランスを乱すことになり、肩こり、腰痛に始まり、他の臓
器の機能低下を進行させていきます。特にすい臓の病気、心臓病、脳の循環
障害を発生させてしまう大きな要因となっていきます。
 私たちの体には本来、自分の力で元に戻そうとする力が備わっています。
薬や手術等の一時的な対症療法を選択したことにより、症状が治まったかの
ように錯覚しがちですが、実は、現象に表われなくなっただけで、体内の潜
在下でもっと深刻な状態になっているということを理解して頂きたいと思い
ます。
 

正しい対処法
 局所冷却法
@肝臓冷却法
 内臓最大の中身のつまった臓器である肝臓は精神的なストレスによって、
一番影響を受ける場所になります。肝臓の充血、熱の発生がすべての病気
のはじまりであるといっても過言ではありません。肝機能の低下は、胆汁
の生成を低下させ、胆汁不足を引き起こします。肝臓部を氷で冷却するこ
とにより肝臓の充血と熱を円滑に除去することができます。最低二十分、
急性の場合には、二時間くらい行なって下さい。
A胆のうのピンポイント冷却法
 肝臓に内包された形で存在している胆のうは、親指大位の大きさになりま
す。この部分を一点集中で冷却する方法がピンポイント法になります。肝
臓冷却により胆のうも同時に冷却できますが、冬期などの外気温が下がっ
ているときは、氷をあてる面積を小さくすることで、寒気を感じることな
く、速やかに冷却が行なえます。
Bすい臓冷却法
胆汁のうっ滞は、すい臓に負担をかけ、すい臓機能を低下させます。低下
した臓器というものは、必ず内部に熱がこもり炎症を起こしています。
その余計な熱を取り去るために、冷却法が効力を発揮してくれます。すい
臓を冷却することで、肝臓、胆のうの機能の回復も同時に促進することが
できます。
C頭部冷却法
肝臓、胆のうの機能低下は、脳の血液循環を悪くし、脳に虚血状態を作り
ます。脳の血液不足を回避するために体は脳圧を高くすることで血液を速
く流そうとします。脳圧の上昇は、脳の中心に熱の貯留を引き起こし、脳
幹部にある自律神経中枢、ホルモン中枢の働きが乱れ、様々な症状を引き
起こしていきます。脳内の余計な熱を速やかに排出させていくためにも頭
部冷却は重要になります。
 

日本伝承医学の治療法

 日本伝承医学の技法は、人体内の電気レベルを高め、同時に人体電気の流
れを促進します。これにより全身の血液の循環を良くして、生命力を高めて
いきます。
病気や症状の背景には、血液の循環・配分・質の乱れが存在しています。血
液が正常に通わなければ、機能低下が起こり、病気を発生させてしまいます。
この血液の流れを改善していくことが病気を治していく上で大切な要素とな
ります。
 体内の血液を流しているのは、心臓ポンプ作用、重力作用、筋肉ポンプ作
用になります。そしてもうひとつ重要な視点は、赤血球が持っている磁気作
用になります。この磁気作用によって血液は循環しています。つまり血液は
電磁誘導によって流れているのです。電磁誘導ということは、体内に電気が
必要になります。人体電気のレベルが高くなり電気が正常に流れなくては、
血液は流れません。この電気レベルが低下した状態が、病気になります。
 日本伝承医学の技術は、骨の特性に着目し、骨に圧を加えることで体内に
電気を発生させていきます。これにより人体の低下した電気レベルを瞬時に
高めていきます。体の一方の極である足に三指半操法、リモコン操法を行な
い電気を発生させ、頭との間に電位差を作り、体内に電気を流します。次に
心臓調整法を行なって、脳の延髄と心臓を電気的にバイパスすることにより、
頭部と全身の流れを作り、電気と血液の流れを変えていきます。
 今、一億総肝機能低下といわれる時代にあって、精神的ストレスや心労か
らくる肝機能低下から、ほとんどのかたが胆のうの機能も著しく低下してい
ます。胆のうの機能低下は、胆汁の生成、分泌異常をまねき、血液の質を悪
化させ、様々な症状や病気を発生させていきます。つまり病気のほとんどが、
胆汁不足から起因しているといっても過言ではありません。
 胆汁には苦い体液として、血液、体液の熱を取り去る重要な働きがありま
す。日本伝承医学では、胆のうと同時に肝臓の機能回復を図る目的で、胆の
う、肝臓叩打法を行ないます。そして血液の質を高めるために、膝上大腿部
叩打法を行ないます。また親指擦過法と頸椎(けいつい)の調整法を用いて、
体内の熱を除去していきます。これらの技術は、肝臓、胆のうの機能回復を
はかるとともに、その人が本来もっている自然の力を最大限に引き出して、
免疫力を高めていくことができる操法となります。
 日本古来から、綿々と受け継がれてきた日本伝承医学の治療と共に、家庭
でだれもができる氷冷却法をどうぞ実生活の中に取り入れ、健康維持に努め
て頂きたいと思います。
 

病気の本質

 人類はことばをもち、人間脳という頭で考える脳を授かったために、自然
良能への生命観を見失ってしまいました。自分の体にとってほんとうは何を
すれば良いのか、判断できなくなってしまったのです。
自然界の動物たちはあるがままの姿で生き、自然が与えた寿命をさいごまで
まっとうして死んでいきます。人間だけがことばという手段をもち、人間脳
を駆使して生きています。しかし私たちはことばと、この頭脳のおかげで、
感情を表現できるようになりました。でもそれは、社会と人間関係の中で生
きていく上で、様々な精神的ストレスを発生させることになったのです。
「病は気から」といわれるように、病気や症状の根底には、必ず心労や精神
的ストレスが知らず知らずのうちに蓄積しています。心労の持続はまず、肝
臓と脳に充血と熱を発生させていきます。肝臓の充血、炎症が起こること、
全身の血液の循環・配分・質が大きく乱れ、胆のうに影響していきます。肝
機能の低下は胆のう機能をも低下させ、胆汁の分泌異常を引き起こし、様々
な病気の要因となっていきます。
 つまり単に内臓の機能障害ととらえていた症状のすべての根底には、精神
的ストレスや心労が存在していたのです。人は人間社会の中で人と関わって
生きていく以上、悩み、苦しみ、迷いからのがれることはできません。だか
らこそ少しでもストレスをためないように、軽減していうように努めること
が、症状を改善していくためには何よりも大切になります。
 私たち人間を含め、生物には自分自身の内に、最後まで命を守ろうとする
ために働く自然に備わった力、生命力、自然治癒力が存在しています。
体に生じる様々な症状や病気を悪の対応ではなく、命を守るための正への対
応の姿として受け止め、自らに内在している自然の力を最大限に生かして、
与えられた寿命をまっとうして頂きたいと思います。