何故、春先(1月、2月期)に肝臓、胆嚢が機能低下(炎症、腫れ、充血)を
起こしやすいのか               2017.1.18 有本政治

春は肝臓、夏は心臓、秋は肺、冬は腎臓というように、東洋医学では各季節ごと
に活発に働く臓器を配当しています。五臓(肝、心、脾、肺、腎)それぞれに、活発
に働く時期があるのです。その中で春は肝臓胆嚢(肝胆)が活発に働く季節に配当さ
れています。この季節ごとの配当は、何千年にも及ぶ人体と、それをとり巻く環境と
の関連を詳細に観察して得られた結論で、経験的事実に基づいています。現代医
学においても「体内時計」という概念で時間と人体生理の関係を解明しています。

植物が春に芽を出し、夏に繁茂し、秋に実をつけ、冬にまた地下に眠るという季節
の周期と同じ事が、人体内にもあてはまります。春に植物が芽を出すためには、
植物内の芽を出させる機能が活発に働く必要があります。これと同じ原理で人体生
理を円滑に作動させるためには、春先に肝臓と胆嚢が活発に働かなければなりま
せん。この時期に、肝臓と胆嚢が活発に働かないと、体内リズムが乱れ、体調を崩
し、病気を引き起こす要因となるのです。


『春は肝臓胆嚢が活発に働く季節に配当され、その稼働は年明けからスイッチが入る』

春の季節は暦的には3月、4月、5月を指しますが、体内時計のリズムとしては年
明けの1月から既に準備期間が始まります。1月、2月期を春先と言います。この
春に配当されている肝臓胆嚢の生理機能を高めるためには、命の源となる血液
が、肝胆に充分に供給される事が必要条件になります。そのために人体は、この
時期になると全身の血液の配分を変えて、肝胆に血液を大量に集める対応をとっ
ていくのです。

故に年明けの1月から体内時計のスイッチが入り、血液の配分が変わり始める
のです。この時期に呼応して肝臓や胆嚢に起因した症状を訴える人が増えてき
ます。具体的な症状として、胆嚢付近の痛み、嘔吐、気持ち悪さ、下痢、体のだ
るさ、息苦しさ、脇腹痛、右腰痛、右股関節痛、右の大腿部側面の違和感、右肩
痛、右首痛、右の偏頭痛等が挙げられます。この時期にこの様な症状を発する
方は、元々遺伝的に肝臓胆嚢機能が弱かったり、精神的なストレスの持続による
肝臓胆嚢機能の弱りが存在します。


『遺伝的に肝臓胆嚢機能が弱かったり、既に肝臓胆嚢機能に弱りがある人は、
肝胆に血液が集まっても機能を高める事ができない』

年明けの時期から肝臓や胆嚢に血液を集めようとするスイッチが入って、肝胆
に血液が集まります。しかし、元々遺伝的に肝臓胆嚢機能が弱い方や既に肝臓
胆嚢機能の弱りのある方は、これだけでは肝臓や胆嚢の機能を元に戻し、機能
を高める事ができないのです。この場合に生きている体は、肝臓や胆嚢の機能を
元に戻し、なおかつ、より活発にするために一時的に肝臓や胆嚢に熱を発生させ、
炎症や充血、腫脹を引き起こす事で機能の向上を図る対応を表わすのです。この
様な対応は肝臓や胆嚢だけではなく、人体内の全ての臓器の炎症も同じ機序で
起こります(詳細はホームページ、がんを捉え直すの項を参照ください)。


『肝臓や胆嚢の炎症の発生は必要な対応であるが、全身の血液の配分と質を
乱し、一時的に様々な症状を生起させる』

具体的な症状を前項で述べてきましたが、これらは全て”胆嚢”の腫れと炎症に
起因しています。肝臓は自覚的な症状はほとんど出ない”沈黙の臓器”と言われ
ていて、肝臓そのものに違和感は出ません。但し肝臓はレバーと呼ばれ、血を
固めた様な大きな臓器に血液が大量に集まることで、全身の血液の配分を大き
く乱します。このために血液が不足する場所が生起され、血液の供給と配分が
不足した場所に症状が発生します。

頭に虚血が起これば頭痛やめまいとなり、心臓に虚血が起これば動悸、息切れ、
息苦しさ、狭心症、心筋梗塞等が起こります。胃腸に不足すれば、吐き気、胃炎、
胃痙攣、便秘、下痢、大腸炎、過敏性大腸炎等を引き起こします。手足末端まで
回せる血液が不足するために、手足が氷の様に冷たくなります。いわゆる冷え症
です。

この様に全ての症状の直接的な要因には、全身の血液の循環・配分・質(ドロド
ロでベタベタの血液)の乱れが必ず存在します。その中で血液の配分と質に関与
するのが肝臓と胆嚢になります。血液の配分を乱すのは肝臓です。

血液の質(ドロドロでベタベタな血液)の乱れは、胆嚢から分泌される胆汁の分泌
不足から発生します。人体の漢方薬(別名”苦寒薬”)の働きをもつ苦い胆汁が不
足すると血液の熱を冷ます事ができなくなり、熱変性により赤血球の連鎖と変形
が生起されドロドロでベタベタの血液となり、血液の質を低下させていくのです。
また連鎖した血液が毛細血管に詰まりと停滞をもたらし、全身の血液の循環を
遅らせる要因となるのです。

この様に肝臓と胆嚢は、全身の血液の配分と質を乱す最大要因となります。また
全身の血液の循環を支配するのは当然心臓になります。故に病気や症状の直接
的な要因となる全身の血液の循環・配分・質の乱れに大きく関わるのが肝臓と胆嚢、
心臓になり、これを称して”肝心要”(かんじんかなめ)と言い表わすのです。


『胆嚢に炎症と腫れが起こる事で、右半身に症状が発生する』

胆嚢という臓器は、肝臓で作られた胆汁を胆嚢という袋に集めて、ここで約5〜10
倍に濃縮して極めて苦い物質に変え、必要に応じて袋を収縮する事で十二指腸
に分泌しています。胆嚢から分泌される胆汁は、消化酵素的に脂肪の分解と吸
収を助けるのが主な役目で、胆汁酸の生成、便の生成等を行なっています。
しかし最も重要な働きは、その苦い成分である胆汁の、抗炎症作用です。胆汁
は苦寒薬として、体内の炎症を鎮め、血液の熱を冷まし一定の温度に保つ働き
をしているのです。

この胆嚢が慢性的に機能低下を起こしているところに、季節の配当として肝臓と
胆嚢の機能を一段高める様に迫られた事で、血液が集まった事だけでは機能が
上げきれず、機能回復のために胆嚢に炎症を生起させてしまうのです。

この胆嚢の炎症は、機能回復のための必要な対応ですが、胆嚢に熱が発生し
胆嚢が腫れると、袋の収縮ができなくなり胆汁の分泌に制限が生じます。生きて
いる体は生命維持に重要な役割を果たす胆汁の分泌を守る対応として、袋の
収縮を助けるために体ごと胆嚢を絞り込む体勢をとるのです。

右の脇腹に位置する胆嚢を絞り込む体勢とは、体の右半身の側面を縮ませ、右
上半身を前下方に巻き込ませ、右の鼠蹊部(そけいぶ)を前上方に引きつらせま
す。この姿勢の大きなゆがみが、右半身に様々な諸症状を引き起こしていくので
す。胆嚢付近の痛み、脇腹痛、右腰痛、右股関節痛、右大腿側面の違和感、右
肩痛、右首痛、右偏頭痛、脂肪が分解できないことからの気持ち悪さや嘔吐、下
痢、ドロドロでベタベタな血液が毛細血管を詰まらせる事による体のだるさや息苦
しさ等、様々な症状を発生させるのです。これは、血液のポンプ装置である心臓に
大きな負担をかけ、遺伝的に心臓の弱い人は心臓の症状(動悸、息切れ、息苦しさ
狭心症)を発症させる引き金になります。

これらは全て胆汁の分泌を助ける対応としての、体全体を使った胆嚢の絞り込
み姿勢に起因しています。右半身に起こる症状の全ての根源が、この姿勢のゆ
がみにあるのです。


『どう対処すべきか』

春先に起こる症状のほとんどが、肝臓と胆嚢の熱と腫れ、充血に起因しています。
この根拠と機序が明らかになれば、改善する方法が示されてきます。

肝臓と胆嚢の機能を元に戻す事が命題になります。遺伝的に肝臓胆嚢機能が弱
い方もあり、既に精神的ストレスの持続による肝臓胆嚢機能減退の人もいます。
これを完璧に元に戻す事は容易ではありませんが、改善していくことは可能です。

これを短時間で合理的に達成することができるのが、日本伝承医学の治療法に
なります。古代日本人が開発した肝臓胆嚢調整法は大きな効力を発揮します。
右大腿骨を叩打する事で、肝臓と胆嚢の炎症を速やかに除去できます。肝炎、
胆嚢炎なら3日間程で炎症を鎮める事が可能です。一回の治療でも肝臓や胆嚢
の腫れをとる事ができます。

また家庭療法として肝臓と胆嚢の氷冷却法が大きな効果をもたらします。固定ベ
ルトで固定して24時間体制での冷却が必要です。氷冷却は長時間使用しても安
全です。また、心臓の働きを活発にするために、左首と心臓の裏側(左肩甲骨側
付近)の冷却が有効になります。このように日本伝承医学の治療との併用で、肝臓
と胆嚢の炎症と腫れを除去し、心臓の働きを高めることが求められます。これによ
り肝臓の充血がとれ、全身の血液の配分が元に戻り、胆嚢の腫れを除去し、胆汁
の分泌を促進する事ができるのです。
胆嚢の炎症、腫れがなくなれば、胆嚢の絞り込み姿勢が元に戻り、右側面に出
ていた諸症状が消失できます。春先に起こる様々な症状をこの様に正しく理解し、
対処していく事が大切です。