膀胱炎を捉えなおす 2023.5.9.有本政治

 病気や症状は表面に現われる細菌やウィルス説だけでみて
いては根本的解決方法を見出すことはできません。物事はこの
ような氷山の一角的な思考法ではなく、水面下に潜む全体的
思考法で捉えていかなければなりません。
 日本伝承医学は東洋医学の分野になりますが、体に起こる症
状を局所、部分的にみるのではなく、季節の移り変わり、時
間の経過、生活習慣、遺伝的体質、精神作用等を含めた総合的
な観点から捉えなおし、改善に努めていきます。
 この章では細菌という局所的観点からではなく、背景にある
免疫力と生命力の低下と内臓(心臓、肺、腎臓、小腸)との関連
の中で膀胱炎を捉えなおしていきます。

【膀胱炎の本質】
 膀胱炎の原因とされる細菌感染は根本原因ではなく、結果と
して起こっているものになります。内臓機能の低下から先に
膀胱に弱りが起き、免疫力が低下した状態の中で、大腸菌等の
細菌に感染してしまうことで発症します。
体は細菌の増殖を抑えるために炎症()を発生させ血液を集め、
膀胱の機能回復を図ります。これが膀胱炎の本質になります。
 症状としては頻尿、排尿痛、残尿感、尿混濁、血尿、倦怠感、
発熱等があげられます。排尿後に腹部や陰部に激痛が起きる
場合もあります。
 風邪やインフルエンザ等の発生機序も同様になります。イン
フルエンザ等の高熱はウィルスを殺菌し増殖を抑える働きと、
弱った肺や気管支機能の回復を図るために炎症()を起こして
います。人は38.3度の高熱で免疫機構にスイッチが入り、本来
備わっている免疫力(自己治癒力)が作動します。故にこの熱は
薬剤等で下げないようにします。
 細菌やウィルス感染等は、免疫力が低下した状態が背景にあ
り、免疫機構を高めるために罹患している病状になります。
実際にインフルエンザもコロナの感染も、家庭や職場で集団
感染しているにも関わらず、免疫力がある人は罹患しないの
です。
 現代医学では病気の原因を外的要因だけに求めますが、本質
は自己の免疫力と生命力の低下にあるという事を認識する必要
があります。

【要因()】遺伝的体質(心肺機能の弱さ)
 病気や症状は遺伝的(先天的)体質がベースにあり、そこに
後天的要因が加わり発症します。膀胱炎を起こしやすい方は
先天的に心肺機能(心臓と肺の機能)に弱さ(低下)があります。
 身体の生理機能は血液の循環・配分・質によって維持されて
います。心臓機能が低下すると心臓のポンプ作用の働きが弱く
なり各臓器に充分な血液が行き渡らなくなります。肺の機能が
低下すると、酸素を血液に送り込む機能が弱くなり、血液の質
が低下していきます。つまり先天的に心肺機能が弱いと血液の
循環・配分・質が著しく低下し、本来もっている生理機能が弱
まってしまうのです。生まれもっている機能(体の力)が弱いと、
抵抗力も弱く、細菌やウィルス等に感染しやすくなるので膀胱
炎を発症するリスクも高まります。

【要因(2)】心臓、肺、腎臓、小腸との関連性
 漢方医学(東洋医学)では五臓六腑の内臓の機能低下を病気の
原因と考え、内臓の一つ一つは単体で発病するのではなく他の
臓器との関連の中で起こると考えています。その関連性の中
では膀胱は腎臓と表裏(ひょうり)の関係を為し、膀胱と肺は
時間的陰陽関係にあり、膀胱と心臓は十干の関係にあります。
つまり膀胱と腎臓、肺、心臓は密接な関わりがあります。

 心・肺・腎に弱りが起きると、その対極側にある膀胱にまず
炎症が生じます。膀胱に炎症が起きる背景には心・肺・腎の弱
りがあり、膀胱炎を起こす人のほとんどが遺伝的に心肺機能の
弱さをもった人であるということになります。
 心臓と小腸は表裏の関係にあり、どちらも体の熱源としての
働きを担っています。心臓は「君主の火」で小腸は「相火(そう
)」と表現します。膀胱炎は小腸に火をともすアルコールラ
ンプの役割を担っています。全身に血液をめぐらす役割の心臓
機能が弱ると体は機能低下するため、体の下部から炎症()
起こさせることで(膀胱炎)、機能低下した小腸を温め機能回復
を図ります。小腸の働きが低下すると膀胱に火をともし機能
回復を図るのが膀胱炎ということです。
 小腸はリトルブレイン(第二の脳)とも呼ばれ、脳への司令塔
であり、その小腸に火を灯すことができるのは、膀胱だけに
なります。小腸の真下に位置する膀胱は熱源としての役目を
果たしているのです。
 心臓と小腸は表裏の関係にあり、心臓は上部(上焦)の熱源で、
小腸は下腹部(下焦)の熱源として働きます。小腸が弱ると腸温
(腸内温度)が低くなり食べ物を腐熟することができず、
(血液)や肉(筋肉)となりません。このためには小腸には
一定の熱が常に必要になります。腸温はストレスが加わっても
下がります。ストレスにより肝臓が充血するため腸に充分な
血液が行き渡らなくなるからです。

【要因(3)】精神的ストレス
 人間はストレスに最も弱い生き物になります。精神的ストレ
スがあると肝臓が一気に充血(炎症)し、下部に位置する胆のう
が腫れてきます。胆のうの腫れは胆汁分泌不足を招き、血液の
循環・配分・質を乱し、脳が虚血(血液不足)となります。体は
脳へ速やかに血液を廻そうと働くため、中枢部である脳幹に熱
(炎症)を発生させていきます。脳幹の視床下部が熱により障害
されるため、全神経伝達網(ニューロンネットワーク)が狂い、
各臓器の生理機能が大きく阻害されていきます。
 小腸は大腸と共に人体の免疫力の源となる場所です。リトル
ブレインと言われ、脳内物質のセロトニンの約90%は小腸に
存在しています。ストレスによる影響を大きく受ける臓器は、
この小腸になります。血液が充分に行きわたらなくなるため
腸内温度(腸温)が下がり、小腸が機能低下します。体はこれを
回避するために礎である膀胱に火を灯し炎症を起こさせ、腸温
をあげていきます。膀胱炎にはこのような意味があるのです。
故に薬剤を用いても、ストレスが解決しない限り、薬効が切れ
たときに再発してしまうのです。薬剤を繰り返し使用すると
体は化学物質を異物と感知し、異物を攻撃するために白血球を
急激に増やしていきます(急性白血病)

【要因(4)】低体温症
 膀胱炎を起こす要因の一つに体全体の冷えと下腹部の冷えが
あげられます。低体温(35度台)の症状の人が膀胱炎を起こし
やすくなります。
 人の体温は脇下計測で36.336.5度位が標準で35度台を
低体温症と呼びます。口内検温では0.51度近く高くなります。
口内や舌(口内炎や舌炎)、咽頭部、気管支部に炎症がある場合
は口内の温度は脇より12度上がります。

 低体温症だと基礎代謝が低下し生理的機能が働かず、各臓器
や脳を正常に養う事ができません。免疫力も下がる為、細菌や
ウィルスにも感染しやすくなります。生理の周期も乱れるため
妊娠しにくくなります。日本伝承医学では、心臓、脳、腸の
働きをとり戻すことで低体温症を改善していきます。

【日本伝承医学的考察】
 膀胱炎の症状に頻尿(10分間隔毎)がありますが、これは膀胱
の炎症を鎮め、冷やすために体が膀胱に大量の水を集めるため
の対応になります。また頻尿は精神的ストレスの蓄積による脳
の炎症、脳圧の上昇を抜く対応も担っています。故に薬剤等で
止めてはいけません。抗生物質等を使い続けると薬に対する
抵抗力が高くなり効かなくなるだけではなく耐性菌が次々に
連鎖していきます。

休眠しているがん細胞を原発させる要因にもなりますので、
化学物質の使用は極力避けるようにします。
 また頻尿を避けるために水の摂取を控える方がいますが、水
を控えてしまうと代謝が悪くなり、細菌が膀胱に長く留まり
余計に症状を悪化させることになります。水を飲むから頻尿に
なるのではなく、普段から水をあまり飲まない事で老廃物の
排出が滞り、代謝が正常ではなくなり膀胱炎を発症しやすく
なるのです。
 回復のためには生活習慣(食・息・動・想・眠)を正し、根本
要因である心臓と小腸、肺、腎臓の回復を図ることが不可欠に
なります。日本伝承医学の治療では、心臓調整法と腸に血液を
集める操法を用いることで体質的な弱さを補い、慢性的な膀胱
炎を改善していきます。また家庭療法としての頭部(後頭部、
ひたい、首筋)と肝臓冷却を行なうことで、脳の炎症と脳圧の
上昇を除去し、脳幹部からの基本的生命維持機構への中枢指令
を正常に戻し、弱った体(免疫力と生命力の低下)の機能回復を
促進させます。

【生活習慣で気をつけること】
 膀胱炎の起炎菌は大腸菌が最も多く7595%を占め、その他
腐生ブドウ球菌類等によって発症していますが、体内の毒性物
質産出から発症する場合もあります。勤務中や授業中等で排尿
を我慢することで膀胱壁が過剰に伸び周囲の血流が阻害される
ことで膀胱に虚血状態が起こります。血流が滞ることで毒性物
質が産出される虚血再灌流障害が生じ、膀胱機能が低下し膀胱
炎を発症させていきます。

 
※虚血性再灌流障害とは、虚血状態の臓器や組織内に血液再灌
流が起きた際に微小循環において種々の毒性物質が産出される
障害を言います。
 尿意は自律神経が支配している為、会議や式典、バス旅行、
登山等の場面で、膀胱に既定量がたまっているのに(250300ml)
緊張している為尿意が感じられなくなりそのままやり過ごして
しまう場合があります。自宅に帰りほっとしてあとから膀胱炎
の症状が現われ、気づくことがあります。日頃より尿意は我慢
しないでこまめにトイレに行く習慣をつけるようにします。
 人間は一日に1.52リットルの水分を排出しています。
つまり水の摂取は毎日同じくらいの量が必要だという事です。
睡眠不足も免疫力を大きく低下させる要因になりますので、
横たわる時間をできるだけ多くとることも大事です。

頭寒足熱の原理で、脳幹部の熱を除去するために頭部は冷やし
ますが、おなか周り、下半身、足元は冷やさないようにします。
刺激の強い物(辛いもの)や油っぽい物(揚げ物、中華類等)
控え、和食中心の食生活にしていきます。

※生活習慣についての詳細は下記の食・息・動・想・眠の項を
 参照下さい。

【日本伝承医学は総合診療】
 4000年余の伝統を持つ漢方医学(東洋医学)は、今から
1500年前に中国から日本に導入されました。室町時代からは
日本でも独自の医学として発展していきます。明治時代になる
とドイツ医学(西洋医学)が主流となり、明治16年にドイツ医学
を学んだ者のみを医師とする法律が政府により施行されました。
 西洋医学(現代医学)は局所的に症状を分析し病巣や病因を
排除していくことを主体にしています。これに対し東洋医学
(
日本伝承医学/漢方医学)では、患部だけをみるのではなく、
症状を内臓との関連の中でみていき、季節(天候、気圧の変動)
や生活習慣、ストレス等の関わりの中で捉え、本来もっている
自己治癒力、免疫力、生命力を最大限に引き出し、高めていく
ことを主体としています。

 現代医学でも近年、各大学病院に総合診療科が設立され始め
ました。医療があまりにも細分化されすぎ限界にきたのです、
局所(患部)しかみず、人をみないで病状だけみていく診療に
終止符が打たれ始めたということです。
「病は気から」と昔から言われるように、人の気持ち、心、
精神を見ずして病巣を改善することはできません。逆に「気」
が充実していればどんな病気や困難にも最後まで心折れること
なく乗り切れるものです。
総合診療科とは、患者の人間性を重視し、意思や心情を考慮し、
病巣の特定臓器だけをみるのではなく、多角的に診療を行なう
医療になります。日本伝承医学はまさに東洋医学の総合診療と
言えます。

※下記項目は日本伝承医学のホームページからもご覧頂けます。

≪参考文献≫ 有本政治 著 :
       『日本伝承医学と漢方医学との関連性

        発行:2004年 有限会社日本伝承医学研究所

           頭寒足熱法

         「食・息・動・想・眠

        「頭部と肝臓の局所冷却法