ふくらはぎの症状の機序と対策
「ふくらはぎの症状は起きるべくして起きている」
スポーツ選手にふくらはぎ痛や肉離れ、下肢の故障が頻繁に
起きています。様々な処置法とリハビリ、筋力強化に取り組ん
でも良い結果は得られていません。現今の下肢疾患の捉え方と
処置では限界があるからです。局所的な運動系(筋肉骨格系)か
らのアプローチではなく総合的な視点に立っての対策を講じる
必要があると考えられます。ふくらはぎの障害は不可抗力な怪
我ではなく起こるべくして起きているからです。ふくらはぎに
起きる症状だけではなく、スポーツ障害の約8割は起きるべく
して発生しています。外部からでは気付かない
内部の劣化がすでに存在し、そこに外的な衝撃が引き金となり
発生していきます。この内部の劣化は運動による酷使のためだ
けではなく、体全体の姿勢のゆがみや、その人自身の健康状態、
体質、内臓との関連の中で起きています。跳んだり走ったりす
る運動能力の高い人は、体質的に心肺(心臓と肺)機能が低下し
やすい傾向にあります。その影響が筋肉や関節に及ぶことで、
局所の弱りと劣化をもたらしていくのです。
(参)「スポーツ外傷の8割は起きるべくして発生している」
不調や体の弱りを示す指標としての判定法には二つあります。
一つはふくらはぎと大腿後側筋によく痙攣(けいれん)を起こ
すことと臀部の筋肉の衰えと萎えです。もう一つは体力の限
界を示す「顎の上がり」と「手を腰に当てる」仕草になります。
この二つの兆候が出ている時は、体調不良や怪我を発生しや
すくなります。
臀部筋、大腿二頭筋、ふくらはぎの筋肉は全て下肢の後側の
筋肉で一連に繋がっています。これらの筋群は関節を動かす
運動筋になりますが、他の筋肉と違って重要な役割が与えら
れています。それは心臓から全身に噴出された血液を心臓ま
で還すための「筋肉ポンプ」としての役割を担う主動作筋と
なっている点です。その中でもふくらはぎの筋肉はその主体
となり、この作用から「第二の心臓」と呼ばれています。
つまり心臓との関わりが大きく、心臓に弱りが出てくると負
担がかかる場所となるのです。
また臀部の筋肉の形状は心臓と同じハート型をしています。
この形状は「形状ポンプ」と呼ばれ、下部が収縮する事で内
部の液体を上部に押し出すポンプの役割を果たしています。
このハート型の形状ポンプを長く伸ばした形がふくらはぎの
筋肉の形状となります。正に心臓の代役としての筋肉ポンプ
たる所以となります。つまり臀部の筋肉の萎えとふくらはぎ
の筋肉の痙攣は、心臓機能の弱りを意味しているのです。
就寝中にこむら返り(足がつる)が起きる場合も疲労や運動の
しすぎという短絡的な考え方ではなく、心臓に弱りがきてい
るという認識をもち、養生する必要があります。
次に「顎のあがり」と「腰に手を当てる」動作について説明
します。これらの動作は、息があがってきた時にとる、呼吸
を助ける無意識の仕草になります。顎を上げる事で気道を拡
げ、息を吐いたり吸うのを行ないやすくしています(下顎呼吸
も同様の原理になります)。腰に手を当てるのは、息を吐く時
に使用する肋骨下部の締め上げと、息を吐く時の主動作筋と
なる横隔膜の上昇を助ける動作になります。走った後などに
よく見られますが、これらは呼吸がしづらくなって、息があ
がってきたときにとるポーズになります。元来心肺機能があ
まり丈夫ではない体質の方に多くみられます。
心臓が停まれば死を意味し、呼吸が止まる事も死を意味しま
す。つまり生命を維持する上で、最後までその機能は守り抜か
なければならない最重要な場所が心臓になります。最重要とい
う事は当然弱らせないための補助機能を幾重にも備えています。
そのための補助装置の役割を担っているのが、第二の心臓と呼
ばれるふくらはぎの筋肉ポンプになります。生命に関わる重要
な役割を担うわけですから、ふくらはぎも最後まで弱りや劣化
が起きないように、強く丈夫にできています。そのふくらはぎ
に異常が起きるということは、本来はあってはならないことで、
生命力の弱りを意味します。ふくらはぎの損傷は他のスポーツ
外傷とは異なり、背景には心肺機能の低下、生命力の弱りが
存在しているのです。
「ふくらはぎの症状を引き起こす体のねじれのゆがみに
ついて」
体のゆがみとの関連は、私のスポーツトレーナー時代の経験
の中から導き出した「人体バナナ理論」に詳細が記載されて
います。体全体のねじれのゆがみが下肢に及び、股関節、膝、
足にねじれのゆがみの応力がかかり、その持続的なストレス
が筋肉、腱、靭帯、半月板に波及し、時間の経過の中で局所
の劣化をもたらすということです。
人体内部の筋肉、腱、靭帯をバナナの中身に例えています。
バナナの表面は全く異常がなくても、一皮剥いてみると中身
が黒ずんでいたり、腐りかかっている現象から命名したもの
です。下肢の筋肉や腱、靭帯、関節には表面上の異変や自覚
症状が無くても、内部の筋肉、腱、靭帯が劣化して、腐りか
かっている状態を例えています。その内部の異変と劣化をも
たらす一番の要因となるのがねじれの応力の集中です。物体
は単に折り曲げるだけと、ねじり切る応力集中とでは、内部
の破壊状態と熱の発生には大きな差が生じます。下肢の筋肉
や腱、靭帯に弱りと劣化、熱の発生をもたらしているのは、
下肢にかかるねじれの応力が最大要因となっているのです。
この下肢にねじれの応力を生じさせているのが、姿勢全体、
つまり体幹部(上体)のねじれのゆがみになります。
簡単な検査として、立位で上体を大きくねじってみると下肢
の股関節、膝関節、足関節にねじれの応力がかかる事が実感で
きます。この状態の持続が臀部、大腿、下腿の筋肉にねじれの
ゆがみを生じさせ、その応力集中により、外見に異変も自覚症
状も何もないまま、中身の腐ったバナナと同じ現象が筋肉に起
こり、弱りと劣化をもたらしていくのです。
(参)『人体バナナ理論・人体積木理論』
「ふくらはぎの筋肉に影響を及ぼす内臓との関連を
東洋医学から解説」
内臓とふくらはぎの筋肉との関係を解き明かすには、長い歴
史をもつ東洋医学の理論が必要になります。東洋医学とは生命
現象や生理現象の中心を内臓(五臓六腑)におき、身体各部と
の関連と全ての生理機能との関連を、精神感情とも結びつけて
総合的に説き明かしています。
全身の筋肉と内臓の関係も解明し、五臓六腑の一つ一つが全
身のどこの筋肉や皮膚に反応が出るかを線や面として示して
います。これを「経絡」と称し、全身を縦方向に上下する12
本の線(六臓六腑に対応)として示しています。
ふくらはぎの筋肉を通る経絡は、膀胱の反応線として配当さ
れています。
これを「膀胱経」と言います。その走行は頭部を含む体の背
部全面を流れて、臀部ー大腿後側ー下腿後側(ふくらはぎ)ー
足部まで走行しています。膀胱経は人体中一番長い経絡で、
特に背面部には脊柱に沿って五臓六腑の炎症をとる経穴(ツボ)
が並んでいます。故に昔から背中に灸や鍼をして、病気治し
に使用しています。内臓全ての反応が膀胱経上に表われるの
です。
「膀胱、心臓、肺、腎臓の関わり」
この膀胱経は単に膀胱だけの反応ではありません。経絡には
経絡相関という関係があって、他の内臓との関係でも反応が出
る場所となります。膀胱はこの経絡相関の表裏の関係から「腎
臓」、十二支の関係から「肺」、十干の関係から「心臓」と関
わっているのです。故に腎臓、肺、心臓に弱りがあると、当該
経絡だけでなくふくらはぎを通る膀胱経に異常反応が表われる
のです。つまりふくらはぎの異常反応は、膀胱だけでなく心臓、
肺、腎臓の三つの臓器の弱りとも関連しているのです。
また腎臓と膀胱は、血液の「ろ過再生装置」であり、膀胱は
体の不純物を尿として体外に排出すると同時に体内の熱と内圧
の上昇をも除去する作用があります。腎臓、膀胱が弱ると体の
筋肉に熱がこもり、毒素としての尿酸が筋肉に貯留する事にな
ります。これにより筋肉の痙攣や筋肉の弱りと劣化を生じさせ
ていきます。
「ふくらはぎの症状の根拠と機序が明らかになれば対策が
できる」
このような背景が存在していたことがわかれば対策は可能に
なります。つまりふくらはぎ局所の治療だけではなく、その背
景にある全体との関連を踏まえた総合的な治療を行なえばいい
のです。この両面からのアプローチの治療法が日本伝承医学と
なります。
日本伝承医学の治療は、まず体のねじれのゆがみをとること
を目的に学技が構築されています。また内臓的には五臓六腑の
全てを網羅した個別の機能回復法を確立しています。これらを
駆使する事で、ふくらはぎに障害をもたらす要因となる心臓、
肺、腎臓、膀胱の弱りを回復に向かわせていきます。
局所の治療に於いては、下肢の股関節、膝関節、足関節の関
節のねじれをとる技法、これらに付着する全筋肉のねじれの応
力をとり除く個別の治療法を用います。このような全体と局所
の両面からの総合的な治療法により、ふくらはぎの症状の根本
要因をとり除き、回復を図り、再発を防止していきます。回復、
予防するためには徹底した自己管理と自助努力も必要になりま
す。以下その方法を解説していきます。
「1日30分程度の歩行」
運動をしている方は毎日のように体を動かしているから歩行
は必要ないと思っている方がみうけられます。しかし体を動か
したり跳んだり走ったりすることと歩行は体への作用が異なり
ます。歩行時にはふくらはぎの筋肉が大きく動き、血液の循環
が促進されるからです。
心肺機能を高め、腎臓と膀胱機能を回復させるためには、緩
やかな歩行が必要です。特に腎臓機能を高めるためには、腰部
の両脇にある両腎臓を、“振り子”のように振ってあげるイメ
ージです(縄跳びや足をつけたまま軽くジャンプすることも有効)。
両手は前後に気もちよいと感じる程度に振って歩いて下さい。
初めは緩やかに5分、そこから自分が苦しくない気もちいいと
思う速さで約20分歩きます。最後の5分はまた緩やかな歩行に
戻します。歩行は早く長く歩けば効果が高い訳ではありません。
膝や下肢に違和感や損傷がある場合は小股(小幅)でゆっくり歩
くことです。体が弱っている時や息苦しく感じる時は、両手は
自然体に下にさげて、手は振らずにゆっくり歩きます。肘を曲
げて振って歩くと、肺に負担がかかるからです。
「ストレッチングボードの使用」
ストレッチングボード(傾斜板)での体幹の左右回旋運動、前屈
運動、膝を曲げての左右回旋運動により、ふくらはぎと大腿部
後側をストレッチし(引き伸ばす)、足関節、膝関節の回旋の
回復をはかります。
またストレッチングボードは、傾斜板に乗り立位の姿勢をと
ることで、足首が柔軟になります。距腿関節(足首の関節)の
動きに制限がかかると足首が柔軟性を失い、固くなり、ふくら
はぎのポンプ作用が妨げられます。
人体は踵骨から脳へ電気信号を送っているため、足首が固ま
ると脳への司令が正常にいかなくなります。脳の中枢部(脳幹)
が障害され、抹消に向かう運動神経が遮断されてしまいます。
距腿関節の動きが阻害されると(足首が固くなると)、全ての
生理機能が正常に働かなくなってしまうのです。トレッチング
ボードは毎日の家庭療法として有効な用具になります。
(参)距骨の重要性
「1日10時間横たわる」
動物の中で唯一二足直立を果たした人類は、四つ足動物の水
平型から縦長な構造に変化しました。立位の姿勢は重力の関係
から物が下方に下がり、血液、体液は足の方に流れます。心臓
には吸い上げるポンプ作用はないので、血液を心臓まで還すに
は、下肢の筋肉ポンプの力を借りなければなりません。立位の
状態が長ければ長いほど、この筋肉ポンプに負担をかけること
になります。つまり第二の心臓であるふくらはぎに大きな負荷
がかかってしまうのです。
立位の姿勢は肺の呼吸にも負担をかけます。呼吸運動の約8
割を担う横隔膜の上下動に於いて、息を吸うときの横隔膜の
下りは重力に従いますが、吐気時に於いては横隔膜は上方にあ
げなくてはなりません。この負担を軽減するためには横たわり
横隔膜を重力から解放させなければなりません。横たわること
で肺の働きを助けることができるのです。
また縦長の構造の人体は頭部が最上位にあるために脳に虚血
(血液不足)が生じやすくなります。常に新鮮な血液を脳に送り
込むためには、心臓のポンプ作用をフル稼働させなければなり
ません。これがさらに心臓に負担をかけてしまいます。
脳に虚血が起きると、少ない血液を脳内に速やかに循環させ
るために、血圧を上げたり、脳圧を上昇させる対応を迫られま
す。この持続は脳内に熱の発生をもたらし、脳に熱をこもらせ、
脳内に炎症を生む大きな要因となります。脳の炎症は人体の
中枢指令となる脳幹部に支障をきたし、すべての生理機能を乱
し、体調不良や病気の要因となっていきます。
このように横たわる時間が短いと心臓と肺に負担をかけ、脳
の機能を著しく低下させるということを理解する必要がありま
す。心肺の負担を軽減し、弱った機能を回復するためには、横
たわり、体を重力から解放させることが重要となります。その
ためには1日10時間の睡眠と横たわることが必要です。遺伝的
に心肺機能の弱い体質の方、病気や体が弱っている方、疲労が
蓄積している方は必須となります。大谷翔平選手の健康の秘訣
は1日10時間の睡眠だそうです。誠に理にかなった健康法と
言えます。
「氷を使用した家庭療法としての局所冷却法」
(1)脳の炎症をとるため就寝時の氷枕の使用。
(2)肝臓、胆嚢の熱をとるための肝臓胆嚢冷却法。
(3)ふくらはぎの温冷法
※局所冷却法は初診時に指導していますので文献からの見よう
見まねで行なわないようにして下さい。
(参)家庭療法としての局所冷却法
【ふくらはぎに生じる症状】
このような症状があらわれたら体が弱っているサインです。
予約日以外でも診ますので連絡して受診するようにしてくださ
い。
ふくらはぎ痛/肉離れ(筋断裂)/こむら返り(足がつる)/下肢静
脈瘤/アキレス腱痛/むくみ/足のだるさ/痙攣(けいれん)/むず
むず感/張りを感じる/重く感じる/圧迫感/かゆみ/冷え/筋肉
がこわばる等
※ふくらはぎに生じる症状は単にふくらはぎ、下肢だけの問題
ではなく、内臓機能と密接に関わっています。過信せずしっか
り養生することが大事です。