メニエール病の本質とその対処法
この章ではメニエール病を、日本伝承医学の病気の捉え方
となる“正の対応”の視点でその本質と対処法を解説していき
ます。
(1)メニエール病とは
(2)通常のめまいとメニエール病との違いについて
(3)メニエール病の根本原因は脳内の炎症と脳圧の上昇にある
(4)メニエール病はどういう命を守る対応なのか
(5)脳の虚血の原因は全身の血液の循環・配分・質の乱れからくる
(6)脳の炎症と脳圧の上昇は精神的ストレスの持続が要因
(7)メニエール病の本質と機序がわかれば対処の方法がある
(8)メニエール病の日本伝承医学の治療
【メニエール病とは】
メニエール病は難聴、耳鳴り、耳閉感を伴い、突然激しい
回転性のめまい発作と嘔吐をくり返します。原因は耳の奥の内
耳にリンパ液が増えすぎて内耳内の圧力が増し、それにより平
衡感覚を司る三半規管(さんはんきかん)に乱れが生じることで
起こります。誘因としてはストレス、睡眠不足、過労などが関
与します。
現代医学の治療では、内リンパ水腫を軽減させるための薬や
坑めまい薬が主になり、重症のときは耳内の内リンパ嚢開放術
という外科手術も行なわれます。何年も薬を服用しけなければ
ならないこともあり難治性の病状とされています。2018年から
内耳加圧療法という装置機械を貸し出し、家庭で朝晩2回空気
の圧力で耳に刺激を与える治療法が保険適用で始められました。
これを行なっている間は軽減されるのですが、止めると再発し
てしまい根治につながらないのが実状になります。
【通常のめまいとメニエール病との違い】
メニエール病は内耳内の内リンパ水腫が原因に対し、通常の
めまいは内耳内の耳石(平衡感覚を担う小さな結晶)が体勢や
頭位を変えた時に移動して、三半規管に入り込むことで発生し
ます。メニエール病は激しい回転性のめまいが特徴で数十分か
ら数時間続くことがあります。また嘔吐と耳の症状を伴います
が、通常のめまいは頭の位置や体勢を変えた瞬間に発生し、比
較的に軽く、短時間でおさまり、耳の症状が伴わないのが特徴
です。
【メニエール病の根本原因は脳の炎症と脳圧の上昇にある】
メニエール病は、耳内の内耳に起こるリンパ液の増加による、
内耳内の圧力増加が三半規管を乱し発生すると考えられています。
では何故内耳にリンパ液が増満するのでしょうか。
耳は脳内に通じる穴であり脳とつながっています。内耳にリ
ンパ液が増えるのは、内耳に炎症が起こり、これを冷ます対応
として水にあたるリンパ液を集め、内耳の炎症を鎮めようとし
ているのです。内耳に炎症が起きるのは、耳を介して脳内の炎
症を抜く対応をとっているからです。耳に炎症を起こすことで、
脳内の炎症、脳圧の上昇から脳血管障害を回避しているのです。
脳の炎症と脳圧の急激な上昇は、脳内の毛細血管に重大なダ
メージを与え、脳溢血、脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞等の脳
血管障害を誘発し、命に直結する場合があるため、このような
病状を防ぐために内耳に炎症を起こしているのです。
脳に炎症と脳圧の上昇が起きる理由は、長期に渡る脳の血液
不足(虚血)が背景にあります。脳は人体の中で最も新鮮な酸素
をたくさん含んだ血液を常に必要とします。ここに血液不足が
生じると、血液を速やかに脳内に巡らせなければならなくなり、
心臓のポンプ力を高め、血圧を高め、脳内の圧力(脳圧)を高め
ることで血液を脳内の隅々に送ろうとします。この状態の持続
が脳に炎症を生じさせ、脳圧の上昇をもたらしていきます。
耳と脳はこのような関係があり、メニエール病は単に耳だけ
の症状ではなく、脳の虚血からくる脳の炎症と脳圧の上昇が根
本原因にあったのです。
(参)脳内の炎症と脳圧の上昇を回避する対応は、耳の他に、
頭部にあいている穴である眼、鼻、口にも発生します。これら
は脳に通じている穴になります。 眼に起これば眼圧の上昇、
充血、炎症となり、涙目、目やに等の眼病一切の原因となり、
鼻に起これば、鼻血、蓄膿症、副鼻腔炎、くしゃみ、鼻水、
鼻詰まりとなり、口内に起これば、口内炎、歯痛、歯茎、舌の
潰瘍となります。つまり眼、耳、鼻、口に起こる症状は全て脳
との関連の中で生じているのです。
【メニエール病はどういう命を守る対応なのかーー
日本伝承医学的考察】
生きている体は早く死に向かわせるために症状を起こしてい
るのではありません。人体は最後まで命を守る対応をとるよう
にプログラムされています。
この認識をもつことで、メニエール病の本質と機序が見え、
対処の方法が示されます。また不安や恐怖感を和らげることに
もつながります。
① 命の危険を知らせる警告サインとしての対応
自身の健康に重大な危険が迫っているという「警告サイン」
になります。この警告サインとしての対応は、人体には幾重に
も構築されていています。実はメニエール病を発症する前から
警告サインは発せられているのです。
初期の段階では軽い耳塞感や耳のかゆみ、頭痛、頭重感、
ふわっとした感覚、発汗(冷や汗)等があります。異常な汗をか
いたり、水を一気に飲み干したり、疲れやすい、よく眠れない
等の症状が現れます。この時点で休養しないで無理をしてしま
うと症状は重症化していきます。初期症状を見過ごしてしまう
ことに生命感覚の落とし穴があるのです。
メニエール病による激しいめまいと難聴、耳鳴り、嘔吐等は
段階的には最終通告のサインになります。このままの生活習慣
を続けていくと命に危険が及んでしまいますよという警告サイ
ンなのです。勤務体制や日常生活を見直し養生する必要があり
ます。
② めまいを起こすことで体を横たわらせ、脳に血液を送り、
脳の炎症と脳圧を下げ、脳血管障害を回避する
メニエール病の主症状は、激しい回転性のめまいになります。
立っていられなくなるので体を横えることを余儀なくされます。
メニエール病の根本原因は脳の虚血(血液不足)にあります。
立位の姿勢は重力の関係上から、脳に血液を廻すことが困難に
なります。横になれば重力から解放されるので脳に血液を送り
込みやすくなります。つまりめまいを起こすことで体を横たわ
らせ、脳に血液を集める対応をとっているのです。体を横たえ
ることで、脳の虚血を防ぎ、脳圧の上昇を抑え、重篤な脳血管
障害(脳いっ血、クモ膜下出血、脳梗塞)を回避させるための対
応をとらせているのです。
また横たわり、重力から解放されることで横隔膜の上下動も
助長され、心臓のポンプ力、肺の収縮力を高めることができま
す。軽いめまいが起きた時点で、すぐ横になって休息すれば、
激しいめまいを防ぐことができます。横になるときには氷枕で
後頭部を冷却し、アイスバッグで首筋やひたいを冷やします。
冷却することで脳内の炎症(熱のこもり)が速やかにとれるので
症状を改善できます。
③ 嘔吐、涙、鼻水、鼻血、失禁等を発生させることで、
脳血管障害の引金となる脳圧の上昇と炎症をやわらげる。
メニエール病の症状にはめまいの他に嘔吐、発汗、涙、鼻水、
鼻血、失禁等があります。これらは脳血管障害の原因となる、
脳圧の上昇と炎症を回避する対応になります。
このような症状を脳の炎症と脳圧を抜く対応とは一般的には
捉えがたいのですが、生きている体の命を対応は人智を超えて
いるのです。正に何段階にも及ぶ完璧な防御システムと言えま
す。日本伝承医学はこの基本概念に立脚して、全ての病気と症
状を正の対応の視点で捉え直しています。
【脳の虚血の原因は、全身の血液の循環・配分・質の乱れ
にある】
メニエール病の根本原因となる脳の虚血(血液不足)は単に脳
だけの問題ではなく、全身の血液の循環・配分・質(赤血球の
連鎖と変形)の乱れが引き起こしています。血液循環の大元は
心臓のポンプ力であり、このポンプ力が弱まれば、心臓より上
に位置する脳に血液供給が滞り、脳に虚血が生じます。心臓、
肝臓(胆のう)の弱りが長期的に関わることで脳の虚血は発生し
ているのです。
全身の血液の配分が乱れて、一個所に多く血液がとられれば、
当然血液を最も必要とする脳に虚血が生じます。この全身の血
液配分を乱す一番の要因は肝臓の充血にあります。肝臓という
臓器はレバーと呼ばれ、正に血の塊のような中身の詰まった大
きな形をしています。通常の状態でも、常に全身の血液の約4
分の1が集まる場所になります。この肝臓に機能低下が生じた
場合、機能回復のために多くの血液を集める必要があります。
これが全身の血液の配分を乱し、脳の虚血の要因となっていく
のです。
全身の血液の質の低下はなぜ起こるかと言うと、この始まり
となるのが血液中の赤血球の連鎖(ドロドロ、ベタベタ)と変形
になります。血液成分の98%を占める赤血球の一個一個が離れず、
連鎖することで大きくなったり、一個の形が変形して、いびつ
になったりします。赤血球の柔軟性が無くなり、毛細血管の内
径より大きくなることで、毛細血管の流れを阻害してしまうの
です。これにより全身の毛細血管の流れに停滞を起こし、脳の
血液供給を遅らせ、脳の虚血を引き起こします。
この赤血球の連鎖と変形の原因となるのが血液の熱(血熱)の
上昇にあります。体内の血液はある一定の温度に保たれている
ことで、全ての生理機能が円滑に保たれています(体温が一定
に保たれているのと同義です)。この血液の熱の上昇を抑え冷
ます役割を担っているのが、胆のうから分泌される胆汁(たん
じゅう)になります。極めて苦い成分の胆汁の分泌が不足する
と血液に熱(血熱)をもたせ、それから起こる熱変性によって
赤血球の連鎖と変形が生じるのです。胆汁の苦い成分は、漢方
薬の体内の炎症をとる「苦寒薬(良薬口に苦し)」と同じ作用
をもたらし、血液の熱を冷ましてくれるのです。
(参)胆汁という物質は、人体の肝臓で生成され、胆のうという
袋に集められ、濃縮されて極めて苦い成分に変えられます。
この袋を収縮させることで胆汁は分泌されます。しかし肝臓と
胆のうに機能低下が起こると、それを元に戻す対応として肝臓
と胆のうが炎症を起こし、胆のうの収縮が制限されることで、
胆汁の分泌不足が生起されるのです。これが赤血球の連鎖と変
形を生み、全身の毛細血管の流れに停滞をもたらし、脳の虚血
の要因となります。
【脳の炎症と脳圧の上昇の原因は長期に渡る精神的ストレス
の持続にある】
動物と違い人間の病気は脳の炎症から始まると言っても過言
ではありません。メニエール病も長期に渡る精神的ストレスの
持続が背景にあります。精神的ストレスの持続による情緒の乱
れは、常にそのことが頭から離れず脳を酷使させます。寝てい
るときも脳は働き続け休まることができなくなります。交感
神経が常に緊張した状態となり脳に熱を発生させていきます。
就寝時に氷枕での頭部冷却が有効な理由はここにあります。
熱の発生が長期に及ぶと熱は次第に脳の中心部の脳幹に達し、
人体の指令中枢の脳幹の機能低下を引き起こします。脳幹部は
人体の基本的生命維持機構(呼吸、心拍、体温、自律神経、各
種ホルモン、生理、情緒等)を維持する重要な場所になります。
脳の炎症が全ての病気の始まりという所以はここにあります。
つまり脳幹部の炎症は生命力と免疫力を著しく低下させてしま
うのです。
脳の炎症は、「脳肝相関」の関係から肝臓の機能低下も起こ
し、肝臓の充血炎症、腫れを誘発し、全身の血液の配分を乱す
要因となります。肝臓に内包されている胆のうにも充血や腫れ
を引き起こすので、胆汁が分泌不足になり、血熱、赤血球の連
鎖と変形が生じ、血液の質も乱れることになります。このよう
に脳の炎症は心臓、肝臓、胆のうの働きと密接に関わるので、
全身の血液の循環、配分、質の乱れをさらに助長させるのです。
また精神的ストレスの持続による脳の酷使は、脳内の神経伝
達物質や脳内ホルモンを過剰に消耗させます。これらの物質の
原基は肝臓が関わっていて、その生産と分解を担っています。
この状態の持続は、肝臓に大きな負担を生じ、肝臓の機能低下
を助長させます。精神的ストレスの持続は脳の炎症だけでなく、
血液の循環・配分・質の乱れに関わる心臓、肝臓、胆のうの機
能低下にも大きく関わっているのです。
【メニエール病の本質とその機序が判れば対処の方法がある】
メニエール病の本質は単に耳だけの問題ではなく脳との関連
の中で発生していることがこれまでの解説で理解できると思い
ます。故に耳を対象とする治療だけではその根治には限界があ
ります。メニエール病の原因とされる内耳のリンパ液の増満は、
耳内の炎症を冷ますための対応手段になります。その必要な
対応手段を薬の服用や外科的手術で封じ込めてしまうと体は
次なる対応を余儀なくされます。脳の炎症は熱の排出先を失い
脳の中枢部に熱をこもらせることになります。脳血管障害を
発症させてしまうということです。
メニエール病回復のためには、まずこの機序を理解する必要
があります。これが明白になれば何をすれば回復に向かわせる
ことができるかが見えてきます。自身の健康の根源にある低下
した生命力と免疫力を回復させることがベースとなり、全身の
血液の循環・配分・質の乱れを元に戻す処方が不可欠になりま
す。以下その方法を具体的に説明します。
メニエール病回復のためには、自身の生活習慣の見直しをす
ることです。できるだけ横たわる時間を増やし、脳への血液不
足を改善していくようにします。全身の血液の循環・配分・質
に深く関わっているのは、心臓、肝臓(胆のうを含む)になり
ます。これら臓器を回復させるためには、横たわることが必須
条件になります。
食べ過ぎ、飲み過ぎが体に大きな負担をかけることはいうま
でもありません。免疫の主体となる腸(小腸、大腸)に炎症を
生起し、免疫力を落とすだけでなく、「脳腸相関」から、腸の
炎症は脳の炎症を誘発します。これによりメニエール病の根本
原因である脳の炎症を助長させてしまうのです。夜遅くの食事
は控え、一日二食にすることで、腸の炎症、脳の炎症は改善し、
低下した免疫力を元に戻すことができます。
(参)「一日二食のすすめ」 著:有本政治
【メニエール病回復の為の日本伝承医学の治療と家庭療法】
メニエール病を回復に向かわせるためには、耳という局所の
治療だけでなく、その本質と機序に根差した総合的な治療が必
要になります。
まず自身の低下した生命力と免疫力を元に戻し、脳の虚血の
背景にある全身の血液の循環・配分・質の乱れを修正し、精神
的ストレスの持続による脳の炎症と脳圧の上昇を除去する必要
があります。これらを全て達成できるのが日本伝承医学の治療
と家庭療法になります。
低下した生命力と免疫力を元に戻すには、人体内の骨髄の機
能を発現させることが合理的で確実な方法になります。骨髄は
血液(赤血球、白血球、血小板)を作る造血器官です。さらに
生命の最小単位となる細胞を新生する場所であります。骨髄内
に多く存在する細胞の母体となる幹細胞の働きが発現されるこ
とにより新たな細胞が増産されるのです。つまり造血力とは
免疫力であり、細胞新生力は生命力そのものなのです。日本
伝承医学の治療は骨髄機能を発現させることで低下した生命力
と免疫力を確実に合理的に高めることができます。
日本伝承医学の治療は骨髄機能発現を目的に技術が構築され
ています。全身の血液の循環・配分・質(赤血球の連鎖と変形)
の乱れを元に戻すために、心臓調整法と肝胆の炎症をとる大腿
骨叩打法を用いて対処します。耳の炎症は腎の熱と関わること
から、腎臓の働きを回復させるために、体のねじれをとる
「腰椎捻転法」を用います。局所の耳の炎症と内圧の上昇を
抑えるために、手の親指の関節を急速に折り込む操法を用いて
一気に耳の内圧を抜きます。また耳内の膨満感や耳閉感をとる
操法も使います。
日本伝承医学ではこのように脳と内臓、局所の耳という両面
からの総合的な治療によりメニエール病に対処します。脳の
炎症を除去するために、家庭療法としての局所冷却法も指導し
ています。頭部冷却(後頭部、首筋、ひたい)と肝臓(胆のう)
の炎症を除去するために肝臓胆のう冷却を日課として行なう
ことが必須です。
(参)「家庭療法としての局所冷却法」 著:有本政治