肩の痛みについて   2015.6.20 有本政治

肩の痛みは、肩周辺機構に運動制限をきたすために生じてきます。肩関節付近に
鈍痛が起こり次第に腕の可動範囲に制限が起きてきます。腕が上がらなくなったり
後ろに回せなくなったり、腕を少しでも動かすと痛みが走るようになります。日常生
活では洗髪や髪をとかしたり、歯磨き、炊事や洗濯、洋服を着る、物を握る、物を
持つ、寝返りを打つ等に支障をきたしてきます。

痛みは片方の肩だけの場合と、一方の肩が発症してしばらくするともう片方の肩
にも発症してしまうこともあります。ひどくなると、じっとしていても疼痛が起こり、
痛みで眠れなくなったり、寝返りを打つたびに、痛みで目が覚めてしまうこともあり
ます。また痛みだけでなく、腕全体から肩、背中にかけて、だるさやしびれを伴うこ
ともあります。肩から痛みが波及して、胸腔内、内臓、骨の中等、深部にまで
痛みや違和感が及ぶこともあります。

肩関節を構成する関節のひとつに、肩鎖関節と言われる関節があります。これは
肩甲骨の肩峰と言う骨端と、鎖骨の骨端とで関節する肩峰鎖骨関節のことになりま
す(略して肩鎖関節)。この関節の間に存在する軟骨状の円板(円滑に動かすため
のディスク)が、30代後半から40歳位を境にして磨耗消滅し、痛みを発症させてい
くことから、四十肩(あるいは五十肩)とも呼ばれます。肩鎖関節の関節円板が磨耗
消滅しても、ほとんどの方は痛みや違和感を感じることなくすむのですが、体のゆが
みや上半身にねじれが大きい人は、症状が出やすくなります。

右肩に起きる痛みには次のような理由があります。胆汁の分泌不足が起きると、体
は右の脇腹に位置する胆嚢(たんのう)という袋の働きを守るために、胆嚢を絞り込
もうとし、右肩を前下方に巻き込み胆汁の分泌をうながしていきます。このため体は
上半身を左側にひねり(左まわり)、なおかつ前方に引き下げられる姿勢になります。
これが肩甲骨と関節する上腕骨に内旋の歪みを引き起こします。さらに肩甲骨の位
置もゆがんできます。これにより肩関節に運動制限と上腕運動時の痛みが発生します。
(機能解剖上、上腕が内旋位になると、肩関節は水平挙上90度で制限をうけて、そ
れ以上は上がらなくなります)。重症になると、右肘を屈曲して上腕を抱え込んで固
着状態になります。こうする事で胆嚢を絞り込み、胆汁を何とか出そうと体は懸命に
対応するのです。この状態の場合は、肩、上腕の運動は全く不可になります。つまり
肩、上腕の運動を不全にしてまでも、体は胆汁の分泌をうながそうと働くのです。

左肩に起きる痛みの場合は、心臓の収縮拍動を守る対応になります。心臓はハー
ト型をしていて、下がすぼまった円錐状の形をしています。4つの部屋に分かれてい
て、真上から見ると、本体が右側によじれた形状をして、胸のやや左側にあります。
逆円錐型で右側にねじられる事で(右まわり)、下部の部屋(右心室と左心室)のね
じり収縮によって、血液を上部に噴出して血液を全身に送り出すしくみになっていま
す。逆円錐の本体が90度右にスピンする事で、効率良くポンプの拍動収縮ができて
血液を噴出し全身に循環させることができるのです。

この心臓機能に減退が起こると、すぼまった細い下部の部屋に当たる右心室と左
心室の収縮能力が低下します。心臓のポンプ力が落ちると、全身にうまく血液をまわ
す事ができなくなり、生理機能に影響が生じます。これを回避するために、右心室、
左心室の収縮を助ける対応が必要になります。そのために上体を右にひねり、左肩
を前下方に巻き込み、心臓の収縮を助ける姿勢をとっていきます。この時、肩関節に
は大きなねじれの歪みが生じます。これにより肩、上腕に運動制限と痛みが発症しま
す。重症になると右肩と同様に、左腕を抱え込んだ形を取り、完全に固着させます。
こうする事で心臓の拍動収縮を守ります。

体の姿勢の歪みは、胆嚢からの胆汁の分泌と心臓の吹き出しを守ろうとするために
発生していくのです。肩の痛みや体のねじれは、このように内臓との関連の中でとらえ
ていく事が必要です。その部位だけを元に戻そうとしてはいけません。体が必要があっ
て起こしている対応だからです。また痛みにも意味があります。痛みは痛みの信号を
発する事で、心臓を拍動させ、心臓のポンプ力を高めると共に、患部に血液を集めて
修復を図ろうとしているからです。

それではどうしたら肩の痛みを改善できるかを説明します。それには上体のねじれの
原因となっている胆嚢(胆汁の分泌不足)と心臓(ポンプ力の低下)の機能を元に戻す
必要があります。その前にまずどうして胆汁の分泌不足が起きるのか、なぜ心臓機能
が低下するのかをもう、少し詳しく解説していきます。

胆汁が分泌できなくなる理由は、胆嚢という袋がうまく収縮できないために起きます。
それは胆嚢という袋が腫れて炎症を起こしているからです。袋が炎症を起こし腫れる
と収縮ができなくなります。これが胆汁の分泌低下の直接の要因になります。
胆嚢に炎症と腫れが発生するのは、低下した機能を元に戻すための一時的な対応
になります。胆嚢に腫れや炎症を起こして、機能回復をはかっているのです。その間
正常な収縮が出来なくなるので、胆汁の分泌を減退させていきます。この状態が続く
事で胆汁の分泌不足が体内に起きます。

胆嚢は通常は親指大の袋状の臓器で、胆汁を1日約500〜800ml位分泌しています。
胆嚢は肝臓内に内包された臓器で、”肝胆相照らす”と言われるように、肝臓と密接な
関係にあります。胆汁は肝臓で生成され胆嚢に集められ、ここで濃縮されて極めて
苦い物質になります。この苦味成分が体の炎症を鎮め、血液の熱を冷まし、血液を
一定の温度に保っていきます。この作用が低下すると血液が熱を帯び、熱変性によっ
て、赤血球が連鎖し毛細血管内の血液の流れの停滞と詰まりを生起させます。血液
の質が低下し、体の免疫力、生命力を落とす要因にもなります。

肝臓と胆嚢は、同時に機能低下が起こっていきます。この肝胆に機能低下をもたら
す最大の要因が精神的ストレスの持続になります。精神的ストレスの持続は、常に
脳を酷使し、脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンを大量に消費させます。これらの
物質のほとんどは肝臓で作られ、脳に送られ、また肝臓に還り分解されます。この
持続が肝臓に負担をかけ機能低下していきます。体は機能回復を図ろうとするため
肝臓、胆嚢に炎症と腫れ、充血を引き起こします。炎症をとり去るためには、抗炎症
作用のある胆汁がたくさん必要になります。多量に消費するため胆汁が分泌不足に
なっていきます。それでも体はなんとか胆汁の分泌をうながそうとするために胆嚢を
しぼりこんで上半身にねじれのゆがみを発症させていきます。これが右肩周辺の痛み
の根拠と機序になります。

次に左肩に起因する心臓の機能低下の機序を解説します。これには遺伝的体質が
大きく関与しています。心臓は血液を体内にくまなく循環させるポンプの役割をになう
命を司る大切な臓器になります。この心臓のポンプに負担をかける最大の要因は、
体の毛細血管内の血液の流れの停滞にあります。体内の血液供給は、一瞬たりとも
途絶える事は許さず、滞りなく流れる事が絶対条件です。これを阻害するのが、
血液中の赤血球の連鎖になります。赤血球が連鎖すると(ドロドロでベトベトの状態)
毛細血管の内径より赤血球が大きくなり、流れが停滞したり詰まったりします。
これを流すためには、心臓のポンプを活発に働かせなければなりません。また血液
を流す力である血圧を上げる対応が必要になります。この状態の持続が心臓に負担
をかけていく事になるのです。特に遺伝的に心肺機能(心臓と肺の機能)の弱い体質
の人は心臓機能の低下を引き起こしやすくなります。

また精神的ストレスの持続は、脳を酷使させ、体内で一番血液の消費の大きい脳に
血液不足を生起させます。これを補うためには、心臓のポンプ力を高め脳に血液を供
給しなければなりません。これも心臓を過度に働かせ、機能低下を助長させていきま
す。さらに肝臓に大量の血液を奪われるために、全身の血液の配分が乱され、残さ
れた少ない血液を全身に早く循環させる必要上、心臓のポンプにますます負担をか
ける事になるのです。

以上を要約してみます。全身の血液の循環、配分、質(赤血球の連鎖)の乱れに関
与しているのが、肝臓、胆嚢、心臓になります。これらの機能を守る対応が、肩の巻
き込み、上体のねじれ、胆嚢の絞り込みになります。胆汁の分泌を守り、心臓の拍
動と収縮を助けようとする対応が肩の痛みの本質ということです。

精神的ストレスをすぐに取り除く事はなかなかできませんが、体への影響を最小限に
する事は可能です。肝臓、胆嚢と心臓の機能低下の直接的な要因となっている全身
の血液の循環、配分、質の乱れを整える事が必要です。これにより、胆嚢の腫れと
熱を除去し、心臓のポンプ力を元に戻す事ができ、胆嚢や心臓を絞り込む必要がな
くなるのです。上体のねじれと肩の巻き込みがとれれば、肩の痛みやしびれ、運動
制限は回避されます。

日本伝承医学では、肝臓(胆嚢)と心臓を中心に技術を構築しています。胆汁の分泌
を促進する個別の技法と並行して直接的な肩の治療法も入れていきます。肩患部
の治療は、当該部位は使用せず、大腿部の骨のたたき操法を用います。さらに家庭
療法として薦めている頭と肝臓の氷冷却法で、脳内の熱のこもりと脳の炎症、肝臓、
胆嚢の腫れと熱を除去していきます。

  ≪参考文献≫著:有本政治
   ※肩こり、肩の痛みがある方は『人体積木理論』を始めからお読み下さい。

   肩こり・首こり発生の機序