勃起障害の本質~機序と回復法 2023.5.17.有本政治

 男性の勃起障害(Erectile DysfunctionED)には器質性と
心因性によるものが挙げられます。以前はインポテンツ(イン
ポテンス)と言われていましたが、現在は勃起障害(勃起不全)
が一般的名称とされています。勃起障害は局所だけの疾患では
なく、全身疾患のひとつとして捉えられています。
 器質性勃起障害には、脳神経系・血管系・脊髄神経系の損傷、
陰茎異常、内分泌障害等があります。糖尿病や動脈硬化、高脂
血症、心不全、前立腺等の疾患や、加齢による男性ホルモンの
テストステロンの減少による性欲減退も要因にあります。
向精神薬や抗うつ剤、誘眠剤、降圧剤等の中枢系に作用する薬
の副作用による薬剤性勃起障害もあります。
 勃起(ぼっき)は性的刺激や興奮により脳の中枢神経が作用し、
その情報が脊髄神経を通って陰茎(いんけい)に伝わり、陰茎の
海綿体(かいめんたい)に動脈血が多く流れ込み血液が充満する
ことで起きます。精神的ストレスにより神経伝達系が遮断(
)されてしまうと、海綿体への血流障害が生じてしまいます。
 勃起は自律神経の副交感神経が優位な状態の時に働くため、
精神作用と大きく関わりがあります。逆に射精は交感神経を
介して刺激が伝播されるため、射精時には交感神経が優位に
なります。
 神経伝達系の損傷は、心因性ストレスによる肝臓の充血、脳の
虚血、脳幹の熱のこもり(脳の炎症)による自律神経の乱れが
要因としてあります。この章では心因性による勃起障害につい
ての根拠と機序、対処法を明記していきます。

【海綿体とは】
 海綿体とは陰茎及び陰核の主体をなすスポンジ状の組織になり
ます。周囲は弾性繊維を含んだ白膜で包まれ、海綿体洞という
海綿状の細かい部屋を形成しています。
 海綿体洞は網目状になっていて通常の状態では、陰茎動脈から
陰茎海綿体に動脈血が流れ込み、同量の血液が静脈を通って戻っ
ていきます。このように通常は動脈から入る血液流入量と静脈
から出る排出量が釣り合っているのですが、性的興奮があると
勃起神経から指令が出て、陰茎海綿体の内皮細胞という細胞が
活発に活動し始めます。そして動脈血がこの海面体洞に流れ込み
充満し、組織が膨大化し固くなり、勃起現象が起きます。

【勃起のメカニズム】
 勃起のメカニズム(仕組み)には脳、脊髄、陰茎海綿体が関与
しています。勃起には大脳の興奮が脊髄の中枢神経に伝わる
中枢性勃起と物理的刺激による反射性勃起の二つがあります。
※射精をするためには勃起が必要です。一回の射精時の精子の
数は23億個になります。卵子と受精できるのはその中のひと
つだけになります。
  性的刺激を受け脳が興奮状態になります。
  脳から発した興奮の情報が脊髄の神経を経由して陰茎に
   伝わります。
   脳からの脊髄を通して陰茎に情報が到達すると、血液中の
   一酸化窒素(NO)が増加し血管を拡張させ、環状グアノシン
   一リン酸(cGMP)の働きを促進します。
  一酸化窒素と環状グアノシン一リン酸の働きにより陰茎の
   血管が拡張し、血液が海綿体に流れ込み、血液量を最大限
   に増やします。
  スポンジ状の海綿体が血液を吸収して膨張し、陰茎が増大、
   硬化します。
 上記が勃起のメカニズムになります。一度勃起すると海綿体を
覆う白膜がぱんぱんに腫れた状態になり、静脈が圧迫されます。
これによって陰茎の内圧が上がり、一度流れ込んだ血液がすぐに
出て行かず、勃起状態が維持されます。
 勃起は射精後、または性的興奮がしずまった後は自然におさま
ります。広がっていた血管は再び収縮し陰茎海綿体の血液は体内
に戻っていきます。陰茎は柔らかくなり元の状態になります。

【勃起障害が起きるメカニズム】
 性的刺激や興奮の情報が脊髄を介して陰茎迄伝わらない状況が
発生した場合勃起障害が起こります。この神経伝達に関与する
のが末梢神経系の自律神経になります。
 自律神経の重要な働きの一つに血管の収縮と拡張作用があり
ます。性的興奮が脳から中枢神経(勃起神経)を経由して陰茎に
伝わる際には、血管拡張作用を受けもつ副交感神経が優位に
ならなければなりません。副交感神経の働きによって血管が
スムーズに拡張し勃起が起きるからです。

 しかし脳に虚血(血液不足)が起こると脳が正常に養われなく
なり自律神経の失調が起きます。自律神経のバランスが乱れ、
交感神経が優位となり副交感神経抑制状態となり、性的興奮情報
が陰茎に伝わらなくなります。これが勃起障害の仕組みになり
ます。

 また性欲は脳の視床下部でコントロールされているため、脳に
炎症が起きると性欲が減退します。脳は最も熱に弱い部位で脳内
に熱がこもると脳内温度(脳温)が高くなり(脳の炎症)、視床下
部が正常に働かなくなり、神経伝達が障害され性欲が減退して
しまうのです。脳温を下げるためには、頭部と肝臓の局所冷却法
が有効となります。

【自律神経失調は何によって引き起こされるか】
 自律神経のバランスの乱れ(自律神経失調)は精神的ストレス
が要因となります。精神的ストレスの持続(性へのコンプレック
ス、妊活のプレッシャー、パートナーとのトラブルや考え方、
価値観の違い、愛情の消失、不満感や不安感等)が存在すると、
常に脳裏から離れず、脳内の神経伝達物質のバランスを大きく
崩します。
 副交感神経が抑制され交感神経が常に緊張し、脳がリラックス
できない状態(心が安らがない状態)になります。自慰行為では
勃起してもパートナーとの性交時には勃起しないという人たち
が増えてきているのも、こうした心因的要因が作用している
からになります。

【精神的ストレスは心臓と肝胆機能を低下させる】
 精神的ストレスの持続は常に脳を酷使させます。この状態は
脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンを過剰に消費させます。
そのため脳は常に新鮮な血液を補充しなければならなくなり、
大量な脳への血液補給を求めることになります。
 早急に脳へ血液を送り込む必要性から心臓に負担をかける
ことになります。就寝時間が遅かったり体を横たえる時間が
短い人は、心臓より上に位置する脳へ血液を循環させることに
なるため、より大きな負担を心臓にかけることになり心臓機能
を低下させていきます。心臓のポンプ力が弱まり、脳の虚血
(血液不足)を生み、少ない脳内の血液をすばやく脳内に廻ら
せるために脳内の圧力を高めていきます。脳圧の上昇の持続は
脳幹部に熱をこもらせ、脳の酷使は脳に熱を発生させ、その
二つが合わさり脳内に炎症を引き起こしていくのです。
 脳の神経伝達物質と脳内ホルモンの原基は肝臓で作られ、
また肝臓に還ることで分解されるという工程をもっています。
精神的ストレスの持続は心臓だけではなく肝臓(胆のう)にも
大きな負担をかけ肝臓機能も低下させていきます。

【肝心要の弱りは全身の血液の循環・配分・質の
                  乱れを生起させる】
 肝心要(かんじんかなめ)という言葉通り、生命を維持する
上で心臓と肝臓(胆のうを含む)は重要な役割を担っています。
心臓は人体の血液のポンプ装置として、全身の血液の要(かな
)になります。ここに弱りが起きると全身に血液が循環しな
くなり命に関わる事態になります。
 肝臓が機能低下した場合は速やかに機能回復を図るために、
大量の血液を肝臓に集め(充血)、炎症を起こすことで肝臓の
機能を元に戻そうとします。肝臓はレバーと呼ばれ血液の固ま
りのような大きな臓器で、ここに大量の血液が集まると体全体
の血液の配分を大きく狂わせます。つまり心臓と肝臓の弱りは
全身の血液の循環と配分を大きく乱し、脳への虚血を引き起こ
すのです。脳の虚血は脳温と脳圧の上昇を進行させることに
なります。

 脳圧の上昇は脳の中心にある脳幹に熱をこもらせ、基本的な
生命維持となる体温、心拍、呼吸、自律神経、ホルモン、情緒
安定作用への中枢指令を乱し、勃起障害だけではなく、
あらゆる病気の根本原因ともなります。

【自律神経の失調は肝心を元に戻す対応】
 命に直結する肝臓と心臓に機能低下が生じた場合、生きてい
る体は最優先にこれらを元に戻す対応をとります。交感神経を
緊張させ呼吸、心拍数を上げ、血圧を高め、全身にいち早く
血液を循環させようとします。肝心が低下した時に交感神経を
優位にさせる最大の理由はここにあります。体が生命の危険に
さらされている時に陰茎に血液を集め勃起、射精している場合
ではないのです。
 交感神経を優位にするということは副交感神経を抑制状態に
おくことになります。勃起障害の直接的要因として働く副交感
神経抑制の理由は以上の機序が背景にあります。

【勃起障害は命を守る対応】
 脳の炎症から起こる脳圧の上昇は、脳血管障害の最大要因と
なります。また心臓、肝臓の機能低下は狭心症、心筋梗塞等を
引き起こす要因にもなります。脳圧上昇時や心臓、肝臓機能が
低下している場合は射精は控えるようにします。
 射精は100メートルを全力疾走した時と同じような負担が
心肺(心臓と肺)に一気にかかります。血圧が急上昇し、心不全
や心筋梗塞、脳出血の引き金にもなりかねます。射精時の急死
は所謂性交死と医学的には表現されます(以前は腹上死と言わ
れていました)。性交死は高齢者に限らず3040歳代から起こ
り、性交死の約810%は自慰行為によるものとされています。
高齢者による自慰行為は、一気に血圧を急上昇させ脳圧をあげ、
脳血管障害による急死に至る要因となります。
 また勃起薬等により人為的に陰茎に大量の血液を集め勃起さ
せることにより全身の血液の配分が一気に乱れ心臓と脳に虚血
が生じ急死する場合もあります。

【回復のための対策】
 勃起障害の機序が明らかになれば回復のための方法は示され
ます。自律神経のバランスを元に戻すために、肝心要の機能低
下を改善し、脳の炎症を鎮めることが不可欠になります。
 生活習慣(食・息・動・想・眠)を見直し、低下した免疫力と
生命力を高めることも必要です。特に眠(睡眠)は重要で、
横たわる時間をできるだけ多くとるようにします。代謝を高め
細胞を活性化するためにも(成長ホルモン分泌促進)
10時~4時迄の時間帯は床に就く習慣をつけます。水の摂取
が足りないと体液の循環が悪くなるので、11.52リットル
の水を飲む様にします。
 また自慰行為依存症は性依存症のひとつとされ、自慰行為に
よる射精の頻度が高いと、性交時に勃起障害が起きやすくなり
ます。自慰により脳内からアヘン類似物質のような作用を持つ
脳内物質が異常産出され、脳の視床下部に熱がこもり機能障害
を起こします。自慰による性依存症は加齢と共に自己調整が
難しくなりますので依存症にならないためにも、趣味等興味の
対象を他へ向け、健全な精神で日々過ごすようにします。
 日本伝承医学の治療では、心臓調整法、肝胆叩打法により
肝心要を元に戻すことを主体に学技が構築されています。脳の
炎症を除去するために家庭療法として頭部(後頭部、ひたい、
首等)の氷冷却法が有効です。病状はその根拠と機序を明確に
知ることが病気治しの第一歩となります。

≪参考文献≫  有本政治:著

        「食・息・動・想・眠

     「家庭療法としての局所冷却法