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狂った歯車



 “噴火山頂の舞踏”という言葉は、現代文明に陶酔し、これを謳歌してい
る現代人にそのまま当てはまる。
西洋物質文明、機械と化学の文明が一方的に発展し、自然との調和を基
本においた東洋精神を圧迫したために、我々の住むこの世界、そして生活
環境は日を追ってますます汚染され、人々の生命や健康、そして心までも
知らず識らずの間に蝕まれている。
 しかも、人々はそれに対して案外無関心である。
人類最大の無知は、人体・生命に関する領域であるといっても良い。それ
は正しい人体観・生命観が確立されていないことに他ならない。自然への
破壊工作と物質文明がもたらしつつある災禍は、単に肉体的健康のみな
らず当然、心をも蝕み何をよりどころに生きて行けばよいのか?現代人の
心のオアシスはあるのか。
 心にすきま風が吹いているのが現状である。まさに“人間の没落”の危
機を警告しなければならない。

 我々の細胞は、血液・リンパ液・体液などの中に、皮膚という皮袋の中
に浸されているばかりでなく、内なる「心」を含めたいわゆる内部環境と、
我々を取り巻く大自然の中で、自然と人、社会と人、人と人と触れ合う外
部環境との内外両環境、調和のうちに生かされている。
 しかし、日本は狭い国土に過密な人口をかかえ、戦後急速な工業発展
により、私たちの内外環境は著しく悪化し、文明禍世界一といわれるアメ
リカ以上に危険な状態にあり、世界一危険な国に成り下がっている。
 
 日本には、かつて“自然”という言葉が存在しなかった。それほど自然と
一体となった生活を送っていたことになる。自然を尊び、心身一如、知識
より知恵を尊び、和や素朴を愛する東洋の心がこれと対立する西洋文明
に圧倒されたことが今日の文明禍を招いた一原因であろう。
 “和魂洋才”ならぬ“洋魂洋才”の日本人があまりにも多く、2000の外国
語を知らなければ日常生活にも差し支えるというほどの現在である。
 外国語を使ってはいけないというのではないが、知識だけが人間の能
力の許容範囲を越えて先行し、「知恵」の真の意味を解することもなく、全
体と部分との関連を解けない分析的な思考法だけが先行し、調和を尊ぶ
東洋の心を忘れたのでは、歪められた文明しか生まれてこないのは当然
である。