まとめ



 今から約70年くらい前に、アメリカの生んだ偉大な生理学者であるW・
B・キャノン博士が「Wisdom of body」、日本では「からだの知恵」という
本を発表しました。これは生体に備わっている「恒常性維持(ホメオスター
シス)」という概念の発見でした。
 恒常性維持とはわかりやすく説明すると、生物はその「種」の生命を維
持するために生体の内部環境を外界からの刺激に応じて時々刻々に変
化させて、生命維持のための機構を一定の状態に保たせるように働くと
いう概念です。具体的に言うと人体の体温は常に36.5度内外に保つこと
で、人体のすべての生理機能が円滑に営まれるための絶対条件です。
 これを維持するために体温が低くなれば熱を発生させる機構を働かせ、
36.5度より熱が上昇すると、すみやかにその熱をすてるシステムを作動
させて、恒常性を保っているのです。
 この視点にたてば身体に起こるあらゆる反応は、あるいは症状は恒常
性維持のための対応としての発熱、発汗、嘔吐、下痢、咳、鼻水、目から
涙であり、痛みの発生、関節の変形、筋の異常収縮等の発現は何らかの
サイン、何かを守るための必要な対応として発現すると考えられるのです。
 約70年くらい前にW・B・キャノン博士が提唱したこの概念は、生理学の
世界に多大な影響をもたらしました。しかし、70年後の今日、この基本概
念はどこかに忘れ去られ、細かく細分化され“迷路”に迷い込んだ現代の
生理学の姿があるのです。
 現代人のモノ・コトの考え方が、近代科学的な思考法によって、分析、
分解を重視するあまり、部分のみに捉われ、全体と部分との関連を無視
して、走り出したところに大きな問題点があるのです。
 この人体積木理論は、現代人の失いかけた「全体と部分」との関連のた
いせつさを如実に示してくれています。部分に起こった病変にだけ目を向
けては、ほんとうの根拠と機序が見えてきません。
モノ・コトの根拠と機序を明らかにすることで、その対処法を明らかにする
ことでできるのです。
 子どものおもちゃである“積木”が人体に起こる歪みの本質を、いとも簡
単に解明してくれました。そして全体と部分との関連も見事にわかりやすく
示してくれています。
 古来から、子どもの心を捉えてはなさないおもちゃ(独楽、積木)や遊び(砂
遊び)の中には、自然の法則、人体の法則が含有されているからこそ、素直
な子どもの心を捉えるのでしょう。
 人体のナゾを解く「鍵」は、バナナや積木の中に隠されていました。
「真実はシンプルな日常の中に隠されている」ということばの意味を今一度
かみしめてみたいと思います。


                                2003.10.14
                             

目次にもどる

日本伝承医学の頁へもどる