痛み発生の機序



 椎間板の脱出(ヘルニア)による脊髄神経の間接的な圧迫によって、痛
み、しびれ、まひがその支配領域に発生するとこれまで考えられていまし
た。MRIの登場によって、“無症候性ヘルニア”という新展開を余儀なくさ
れたということは、痛み、しびれ、まひを捉えなおす余地があることを示し
ています。神経生理学的に、痛み、しびれ、まひ発生の機序を考察してみ
る必要があるのです。
 神経というものはある“一点”をピンセットやクリップでつまんで圧迫して
も、痛み、しびれ、まひは起こりません。ではどうすると神経に生理的変化
が起こるかというと“引き伸ばされた”状態が加わると痛み、しびれ、まひ
が起こるのです。


 わかりやすくいうと、例えばゴム線が伸ばされて引っ張り応力が働き、
全体が細くなった場合です。故に第4腰椎、第5腰椎間、第5腰椎、仙骨間
という局所に起こった椎間板ヘルニアという部分的な神経の圧迫によって
痛み、しびれ、まひが起こるという説は信憑性を欠くことになるのです。
事実、MRIの画像診断によって椎間板ヘルニアが発見されても、約9割の
人には、痛みもしびれもまひもない“無症候性ヘルニア”であるという報告
は、上記の説を十分に裏付けるものと思われます。
残りの1割弱の症例は、神経圧迫説以外の要因を考えるべきであろうと
考えられます。
 神経が引き伸ばされている要因は、脊柱全体が生理的カーブを逸脱し、
湾曲カーブが増大したり、直線的になることで全体の姿勢が大きく変化し、
これによって神経が引き伸ばされているのです。


 つまり痛みの発生の機序は、脊柱の生理的カーブの逸脱による全体の
姿勢の変化が、神経を引き伸ばすことによって発生していたのです。
 さらにつけ加えれば、人体バナナ理論の中で詳述してありますように神
経が単純に引き伸ばされるだけでなく、ここに捻れの応力が加われば力
が中心に作用し、さらに神経の受容・伝達・処理・反応・能力を低下させる
ことは十分に考えられます。これによって痛み、しびれ、まひは発生してい
るのです。
 故に、局所的な処置は、一時的に症状は軽減できても再発は必ず起こ
ってくるのです。痛み発生の根拠と機序を正しく認識することで、その対処
法は自ずと見えてきます。椎間板ヘルニアを時間の経過の中で正しく捉え、
全体と部分の関係を考慮することが最もたいせつな視点となるのです。

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