心臓を包む心膜としてではなく、胸腺との位置づけの中でとらえていま
す。胸腺は胸骨の裏に合わさり、位置しているため、骨を生命活動の
中心としている日本伝承医学においては、この胸骨という骨の重要性
にも着眼しています。そして胸腺は心臓とも合わさった存在であるこ
とから、心臓ともまた、密接な関係にあるととらえています。
日本人は心臓と胸腺、胸骨を一体化させ「ムネ」ということばで古来
より表現し、胸腺より分泌される胸腺ホルモンを心包として認識して
いたものと思われます。
 日本語表現の中では、楽しいとき、嬉しいとき、感動したりすると
胸が高鳴り、胸おどり、どきどきし、わくわくし、胸に響くといいま
す。また心を閉ざすことを「胸をとざす」「胸をふさぐ」と言いあら
わします。胸が高鳴るときは、胸腺ホルモンがよく分泌され、胸を閉
ざせば、胸腺ホルモンは出ません。この働きは、瞬時に心と心臓の働
きにも連動していきます。現代生理学の内分泌器官の6種類の中でも、
胸腺ホルモンは精神感情と密接な関わりがあるとされています。この
ように胸腺ホルモンが体調や精神状態、心の変化に一番敏感なことか
ら、精神をつかさどる心包として、その概念を用いています。
 また他のホルモン器官を上焦、中焦、下焦という三焦に分類し、上
焦は脳下垂体ホルモン、甲状腺ホルモン、中焦は、すい臓ホルモン、
下焦は、副腎ホルモン、性ホルモンとに配当しました。
 そして心包である胸腺ホルモンの分泌が悪くなれば、三焦すべての
ホルモンの分泌も停滞し、内分泌系が大きく乱れていくことを明らか
にしています。「胸を閉ざさず、心を開くように」といわれるように
胸腺が閉ざされれば、胸腺ホルモンが分泌されなくなり、他のホルモ
ン系もバランスを崩し、様々な病や症状を引き起こしてしまうのです。
 古代日本人は骨の重要性を把握し、胸骨、胸腺、心臓との関連性を
はっきり認識していたといえます。心包と三焦とは密接な関わりがあ
り、心包(胸腺)が正常に働くことで、三焦(全内分泌系、ホルモン系)
も正常に作動されることを知っていたのです。病は気からといわれる
ように、心の調和の乱れから体は調和を乱し、すべての症状を発生さ
せていくのです。

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