命の火を消さないためには、負の生命力として“火”をともし、がんばらね
ばならないのです。こうして、踏ん張ってくれている間に全体としての体力、
免疫力を回復、修復することに全エネルギーを注ぐ必要があるのです。
負の生命力をわかりやすく解説するにあたって、いくつか例をあげて考察
してみましょう。
 戦争を例にして説明してみます。
ある国と国が戦争になった場合、当然国家は生き残ろうと対応します。
一方の国が国境を越えて攻め入った場合、これに応戦します。しかし戦力
が弱かったり、整っていない国は前線を破られて領内に侵入されてしまい
ます。攻め入られた国は、生き残りをかけて非常対応手段として玉砕覚悟
の決死隊を編成します。この決死隊が前線で敵をなんとかくい止め、時間
を稼いでくれている間に、残った国内兵力を修復、整備したり全力をあげ
て国力を高め、侵入勢力を撃退しようと試みるはずです。
そして兵力、国力が整えば、敵を退散させることも可能になってきます。


 次の例をあげてみましょう。
金属の錆(さび)は、悪いものとされています。しかし、鉄は表面が錆びる
ことによって、それ以上の内部の腐食を防ごうとする自衛の役にもなって
います。故にこのさびを根こそぎ取ってしまうと、また防護のためにすぐ表
面を錆びさせます。何度繰り返しても同じです。取れば取るほど鉄という
物体は消失してしまいます。実は、がんを悪者として取り去ったり、抗がん
剤、制がん剤で殺してしまう処置は、この鉄のさびの例と同様の結果を招
く可能性があるのです。

 
 次の例として、“かび”を考察してみましょう。“かびが生える”ということ
は一般的には悪い現象です。物を腐敗させてしまいます。しかし、かびの
中には、逆に新しい命を発生させ、そのものを違った形で存続させるもの
があります。日本に古くからあるかびを利用した発酵食品は、実に多彩で
す。かびを使うことによって、酒、味噌、醤油、納豆、各種漬物類を作り出
しています。特に味噌、納豆には、大豆というものをかびさせることによっ
て、元の大豆は死んでしまいますが、成分、栄養素を変えて、より有用な
食品として生かし、保存食として、長期間持たせることを可能にしています。
かびをわざと発生させることにより、より有用なものを発生させ長く生かし
続けているのです。
 次に、孔子のことばの中から例にあげてみます。孔子は「身を殺して仁
を為す」ということばを残しています。「身を殺して仁を為す」とは、わが身
を投げ打っても仁のためにつくす。自分の命を犠牲にして、人道の極致を
成就する、という意味になります。しかし、この死はけっして無駄ではなく、
他をより生かせることにつながっています。

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