正の生命力と負の生命力としてのがん



 生命力とは、生きるエネルギーの度合いを示すことばです。“命の火”と
でも表現したらいいでしょうか。命の火が燃えている状態をさしています。
生命力が旺盛といえば、まさに火の燃えさかる勢いが強い様を示し、生命
力が衰えたといえば、火の勢いがなくなり、終息しかかった状態を指して
います。生命力が尽きれば、火は燃え尽きて消えてしまいます。
 正の生命力とは、わかりやすく表現しますと受精卵のようなものです。
生殖作用の中で、一個の精子と一個の卵子が受精して一個の受精卵を
作ります。
 数時間後には、細胞新生を始め、倍々に増えていきます。そして2、3日
後には、おびただしい細胞の数となって、子宮内に着床します。胎児の形
になるころには既に何十兆個の細胞の数になっています。
 この細胞発生の勢いは、まさに正の生命力の代表的な例です。
命の火の勢いがさらにさらに燃えあがろうとする姿に例えられます。


 正の生命力とは、胎児の例で示したように生き続けよう、生きぬこうとす
る力の方向性を示す意味です。人体が成長する際にも、病体を元に戻す
にも正の生命力は絶対必要です。生命力が高くなれば、細胞呼吸、エネ
ルギー代謝を活性化させることになります。さらに遺伝子にも作用し、遺伝
子の機能発現、遺伝子の複製にもスイッチが入るのです。この原動力とな
るのが、正の生命力です。
 負の生命力とは、まさに「がん」がこれに相当します。これまで命を守る
“非常対応手段”を五段階に分けて解説してきました。その最終的な対応
の姿が“がん”の発生であります。命をつなぎ止める最終対応として、“命
の火”を消さないために猛烈な勢いでがん細胞を新生させて、生命力を旺
盛にしている姿なのです。
 その強さは、過酷な条件の中で、力強く繁殖を続けうる雑草的な生命力
をもつものであり、これを容易に消すことはできないのです。これを克服す
るには、がん発生の根拠と機序を正しく認識し、正しい対処法を実践でき
るかどうかにかかっています。
 負の生命力としてがん細胞を異常増殖させ、命の火をつなぎとめている
間に、がん細胞以外の全細胞の活性化を図り、全体の生命力の向上、免
疫機構の修復を急ピッチで行わなければならないのです。
 非常対応手段の最終段階として、がんという症状を犠牲的につくることに
よって、個体の生命(命の火)を断ち切らないように保たせているわけです。


次のページへ