(三) 内部に炎症を起こした場合の対応としての水腫



 「症状とは何か」の項で、すでに論述してありますように、症状の大半は
“炎症”から始まるといってもよいでしょう。
 “病気とは熱との闘い”と表現してありますように、人体の組織・器官の
生理的機能低下を元にもどすためには、どうしても熱の発生が必要にな
ってきます。炎症が、破壊された組織を修復するための防御反応である
ことはまちがいありません。命を守る対応であることにまちがいはないの
ですが、“炎症”から発生する各種“苦痛”は耐えられないものがあります。
故に、どうしても正の対応とは考えられないのが人の常です。
しかし、“炎症”の根拠と機序を正しく理解しなければ私たちはたいへんな
まちがいをおかしてしまうことになるのです。
 苦痛からの解放のために一時的に薬物を使用して、熱を下げる(炎症・
化膿止め)こともたしかに必要です。しかしこれに終始してはならないの
です。無理やり押さえ込む処置を繰り返すことにより、人体は次の防御
反応を作動させなくてはならなくなることを理解してほしいのです。
 破壊された組織を修復するための防御反応としての炎症は、修復が終
了すれば、その熱は速やかに吸収、排出しなければなりません。
 人体は“熱をすてるためのシステム”を幾重にもはりめぐらせて、実に迅
速に“熱”を処理できるのです。


 人体は、水系成分が70%で占められている、いわば“液体皮袋”です。
体内の水系成分は、血液と体液になります。体液とは、細胞内液と細胞
外液に分類され、細胞外液の中に血しょうと組織間液(リンパ液・髄液)が
含まれています。いずれにしても、平たくいえば「水」ということです。
 水という物質は二つの大きな特性をもっています。ひとつはすべての物
質を電解質として、溶け込ませることができること、これにより生命維持の
ための「エネルギー」「物質」「情報」すべての受容・伝達・処理・反応が行
われているのです。
 もうひとつの特性は、水というものが熱しやすく、冷めにくいという特徴
をもっているということです。この冷めにくい特性によって、人体内を36度
5分という体温に常に維持することが可能になるのです。
 逆の特性は、すぐに熱を吸収できるという点です。ここに着目することが、
たいせつな視点となってきます。
 ことわざに“焼け石に水”という表現がありますが、しかし、物体の熱を
冷ますには、水が最適な物質であることはまちがいありません(氷も水)。
いかに“焼け石”であろうとも、水を持続的にかければ、一番早く熱を冷ま
すことが可能です。
 実は体内の“水系成分”は、体内に発生した余分な熱を冷ます(すてる)
重要な働きを担っていたのです。これにより、炎症で発生した熱を速やか
に迅速に処理することが可能であったのです。

 炎症とは組織修復に絶対必要な生命体の防御対応です。しかし、修復が終了した
なら、その熱はすみやかに処理しないと人体は平常な生理活動にもどれません。
この熱をすてるシステムを完璧に備えているのが人体です。
体内においては、血液・体液というという水系成分が、この役割を担っています。
 わかりやすい例として、やけどという炎症があります。外的要因により起こった皮
膚のやけど(火傷)は緊急対応が必要です。生体は熱を冷ますためにすぐに水を集
めます。これがやけどにより起こる水ぶくれ(水腫)の機序であります。その証拠に、
水ぶくれを破って中の水を出してしまうと、やけどの痛みは増大します。また治りも
遅くなっています。水が必要だから集めているのであり、修復が完了すれば、この
水は速やかに吸収されていきます。

 膝の水腫(膝に水が溜まる)もよい例です。膝の内部の炎症を鎮めるために、生体
は膝に水を集めています。炎症がおさまらない時点でこの水を抜いてしまっても、
またすぐに水をためていきます。この水を抜くことを繰り返しますと、生体は、膝という
組織を守るために、次の対応処置をとっていきます。膝の水系成分である滑液の循
環を守るために、関節の骨の形を変えることで守る対応をしていきます。これが変形
性関節症の機序となっていくのです。
 このやけど(火傷)や膝の水腫の例と同様のことが、人体内のすべての組織・器官
に発生するのです。

 以上の解説の中から、体内に水腫が形成される機序がおわかりいただけると思い
ます。体内におけるすべての炎症を悪い反応と一方的に捉え、これを無理やり、おさ
えこむ処置に終始したり、通常の水系成分を使っての熱の処理に限界を生じた場合、
人体は第三段階の対応として、水症(水腫)、浮腫を引き起こすことにより、熱をすて
るシステムを作動させることになるのです。生命維持のためには、何としても余分な
熱は速やかにすてなくてはならないのです。

 たんぱく質でできている私たちの体は0.5度の体温の上昇にも生理機能は大きく変
化します。この時々刻々の変化対応が生きている姿に他なりません。
 体内の炎症により、発生した熱は1秒でも早くすてなければならないのです。この
対応が組織に起こる水症(水腫)と浮腫の根拠と機序なのです。
 水症(水腫)とは、組織間液が異常に増加した状態をいいます。水症(水腫)が皮下
組織に起こった場合を浮腫とよんでいます。起こった部位により、腹水症、胸水症、
心のう水症、脳水症といいます。いずれも熱を冷ますための対応としての非常手段
になります。

 例えば肝炎・腎炎・膵炎・脾炎・胆のう炎等内臓の炎症、内耳炎、中耳炎、鼻炎等
骨、筋肉、腱等すべての炎症には、腫脹(はれ)をともないます。腫れるということは、
既に血液、体液が増大している状態です。
 この血液と体液は、破壊された組織を修復するための「エネルギー・物質・情報」
の役割を当然担うと同時に、体液によって、熱を吸収する働きを受けもっています。
 この作用に限界が生じたり、炎症や腫脹(しゅちょう)を無理に抑え込む処置に終
始してしまうと、非常対応手段として水症(水腫)という対応を生体はとっていくのです。
 水を動員することにより、熱を冷まし組織の致命的破壊を阻止するための非常対
応手段をとっていくのです。

 この動員された体液の組成と粘性は、通常の体液の組成とは異なっています。熱
の吸収をより促進するために、膜の透過性を高める組成に変化させて対応してい
るのです。まことに見事な命を守る対応の姿です。
 体表から体外に熱を直接すてることのできない内部においては、血液、体液とい
う“水”を動員して、熱をすてるシステムを完成させています。この非常手段としての
水症(水腫)を発生することにより、命を守っているのです。これが対応の第三段階
の姿となります。

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