《生命を守る対応》

生物として生まれて、一日も早くその生を終わろうとして生きているものは存
在しません。自らの命を最後まで守り抜くために、人智を超えた生へのプログラ
ムが完璧に設計されているのが、生物としての真実の姿であります。そのため
には、命を守る生への対応システムが必ず幾重にも張りめぐらされています。
血液中の血糖は解糖によって得られる化学エネルギーを、すべての細胞のエネ
ルギー源として使用しています。そして筋肉も内臓も脳もこのエネルギーによっ
て動いています。生命活動を行っている私たちの体は人体内のエネルギー消費
の条件に応じて、血糖値を可変しながら生きているのです。血糖値が下がれば、
すぐに上げる対応を取り、血糖値が高くなれば速やかに下げる対応が取られて
いきます。
特に血糖値が下がった場合の生命エネルギー源を守る防御システムは幾重に
も周到に準備されています。体のどこかにエネルギー消費が必要な場合は、血
糖値を高くして、これを補おうとする対応がとられていきます。
大切なものだからこそ、常に一定の範囲の数値を維持しなくてはならないからで
す。このように血糖値が高くなるということはけっして悪い対応ではなく、命を守る
上で必要な対応の姿となります。

 血糖値が正常の範囲を超えてさがってしまうと、全身がエネルギー不足の状態
に陥ってしまいます。この影響を最も受けるのが脳です。
脳は血液中のブドウ糖を唯一のエネルギー源として活動する器官であり、エネル
ギー消費の高い場所であります。また脳は、酸素の消費量も高い場所であり、常
に新しい血液を必要とする器官になります。
肝臓の充血により、血液の配分が乱され、脳に虚血状態が起こった場合、交感神
経を緊張させ、血糖不足と酸素不足を補うために血糖値と血圧を一過性に一気に
高めようとする対応がしばしば発生します。このとき血糖値は、正常範囲をはるか
に越えて300mg/dl近くに達する場合もあります。しかしこれは、脳の働きを正常に
保つための一過性の緊急対応処置であるため、けっしてあわてることはありませ
ん。せっかく血糖値を高くしいるのにこれを無理に薬で下げてしまうと、体は脳圧を
高め、エネルギー不足を補おうと働きます。生命体とは、最後の最後まで命を守る
対応手段を働かせていくのです。

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