実生活への応用


 自然との調和を基調としている漢方医学は、実生活に応用できる貴
重な知恵を数多く含んでいます。特に五臓(肝・心・脾・肺・腎)と時
間との対応関係、精神感情との関係、色移、味覚等との対応は、養生
法としてその効果を期待できるものです。
 わかりやすい例として、「五味」「五色」と五臓との関係があげら
れます。五味とは「酸・苦・甘・辛・塩からい」に分類されます。酸
っぱい味のものには肝を養い、辛い味のものは肺を養い、塩からい味
のものは腎を養うと教えてくれています。
次に五色とは「青(緑)・赤・黄・白・黒」をあらわします。食養に配
当すれば、青(緑)い色のものは肝を養い、赤色は心を養い、黄色は脾
(消化器)を養い、白色は肺を養い、黒色は腎を養います。つまり「五
味」「五色」のバランスを心がけていけば、分析的な栄養学を知らな
くとも理想的な食事のバランスが保てるのです。例えば、肝臓に弱り
があれば酸っぱい味の食べ物、青(緑)色のものを食することで、肝機
能を高めることができます(注、これに偏りすぎると逆効果になって
しまいます)。
たんぱく質・脂肪・炭水化物、ビタミン類、ミネラル類といった現代
栄養学の分析的方法よりも、古代人の知恵は実に的を得ているのです。
それは何千年という実体験の末に立証された経験的事実だからです。
 次に時間との対応関係の中で四季の養生法の一例を紹介していきま
す。春は肝、夏は心、秋は肺、冬は腎がそれぞれの季節に配当されて
います。春は肝臓が一番活発に働く季節です。肝という臓器は、「木」
の性質と関係し、伸びる作用を有しています。また、肝は、精神的に
は「怒り」の感情と密接になります。怒りの心は“やる気”を併せ持
ち、伸びようとする性質とやる気が結びつくことで、春は何かを始め
るには最適の季節となるのです。
夏は心臓が活発に働く季節に配当されています。心は汗と関係があり、
心臓を活発に働かせるためには、汗をかかなくてはならないのです。
冷房の中に入りびたりで汗をかかない人は、夏に心臓が養えません。
夏は、しっかり汗を出して、代謝を活発にすることが大切です。

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