人体の熱をすてるシステム 



 恒温動物であります私たちの人体は、常に体内温度を36.5度に保って
います。人体の生理機能を円滑に営むためには、この36.5度を生涯、保
持していかなくてはなりません。この36.5度の体温から、熱が上がりすぎ
たり下がりすぎたりすると、私たちの体は生理失調をおこしはじめます。
 低温に対しては、4度下がった32.5度までならば、著しい生理失調は起
こらず、緊急的な対応は迫られません。それは人体内の熱に対する対応
が、低温に対しては順応性が高いからです。体温が平熱より下がったと
きには、私たちの体は自然と発熱現象が起こり平熱に戻そうと働きます。
震えたり、こすったりすることによって、摩擦熱を発生させくれるのです。
  しかし、36.5度より高い体温に対しては、即時に対応をせまられること
になります。 4度上がった40.5度になっただけで、身体はかなり苦しく、日
常生活は困難な状態になるからです。さらに2度上がり42.5度以上になり
ますと、体細胞内のタンパク凝固が起こり、生命が危険状態に陥ります。
  つまり人体は平熱より、6 〜 7度熱が上昇するだけで生命が危険な状
態になるほど、熱に対して非常に弱い体質を持っているのです。
この危険な状態を回避するために、恒温動物である私たちの人体は、精
妙で周到な「熱をすてるシステム」を備えているのです。これは生物として
当然な対応といえます。


 人体には、必要な熱はすばやく吸収し、余分な熱はすみやかに排出さ
せていくという精妙なる安全システムが幾重にも構築されているのです。
熱を冷ましたり、余計な熱を体外へすみやかに放出したりする働きを体が
自然にしているのです。生物の本能として少しでも長く生きのびる方へと
懸命に働いてくれているのです。
 この熱をすてるための人体システムを考察する上において私がとったア
プローチの方法は「現代まで人類が考案したすべての道具、機械、器具は
人体の持つ機能、構造、形態の延長上にあり、それは人体の中にもっと精
妙に備わっている。」という視点です。
この視点にたって人体の熱をすてるシステムを考察してみましょう。
 人類がこれまで考案した道具、機械、器具の中で熱を下げる作用を持
つものを列挙してみますと、代表的なもので冷蔵庫、エアコンのクーラー、
扇風機、うちわなどがまず頭に浮かびます。またかつての夏の風物であ
る“打ち水”も熱を下げるための古代人の知恵になります。
“打ち水”は、まいた水が蒸発しようとするときに、熱せられた地面の表面
から熱を奪ってくれるから、涼しく感じられるのです。
 冷蔵庫、エアコン、打ち水などの冷却効果はすべて、気化熱を応用した
ものです。私たちの人体は上記したすべての装置をもっと精妙に備えて
いるはずです。


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