「喘息」は何故起こるのか~その本質を知る 2016.7.19. 有本政治

 喘息(小児喘息、気管支性喘息、心臓性喘息等)を発症する方が昨今非常に増えて
います。西洋医学では、このような喘息による発作や咳を悪い反応として捉え、気管
支拡張剤とステロイド性の薬剤で諸症状を止める処置が施されています。現在の病
気や症状の捉え方の中ではあたり前の事で、誰もこれらの処置に疑問をもたれてい
ないのが実状です。喘息からくる息苦しさや咳の止まらない症状から、一時でも早く
解放されたいと願うのは人情といえます。
しかし症状を封じ込める処置で喘息が治る訳ではありません。その証拠に一度喘息
の出た人は必ずと言っていいほど再発を繰り返し、慢性の喘息に移行しています。
そのたびに症状を封じ込める処置が繰り返されていきます。この様な処置を繰り返
す事による”副作用”の重大さに気付いている人はほとんどいません。

喘息の症状を止める気管支拡張剤とステロイド性の薬剤の常用は、気管を拡張した
ままに陥らせ、ステロイド剤の乱用は体の免疫力を著しく低下させてしまうのです。
気管が拡張したままになると、肺に充分な空気が早く送り込めなくなり肺の機能を著
しく低下させ、肺炎や呼吸困難を引き起こしていきます。自力で呼吸する力を消失さ
せ、命の危険に関わる場合もあります。また免疫力の低下は、細菌やウイルスの抵抗
力を失わせ、様々な感染症を引き起こし、重篤な症状に移行してしまう要因にもなります。

救急医療の現場に携わる人たちの証言の中に、喘息の発作で命を落とす人たちの
多くは、気管支拡張剤とステロイド製剤を握り締めて倒れていて、そうした現場に数
多く遭遇するとの事です。このような副作用や重篤な症状への移行を回避するため
にも、喘息は何故起きるのかの正しい認識と、それを知った上での正しい処置の仕
方が必要になってきます。

<正の対応という視点で喘息を捉え直す>

日本伝承医学が首尾一貫して主張している病気や症状の捉え方は、病気や症状は
一方的に悪の反応ではなく、弱った体や症状を元に戻すための、一時的に必要な
対応の姿であるという考え方です。この世に生を受け生きとし生けるものが、自らの
体をより悪くなる方向に導き、ましてや早く死に至らせる反応を示す事は考えられま
せん。最後の最後まで自らの命を存続させるために、何かを元に戻し、何かを守り、
何らかの平衡を保つための一時的に必要な対応がその本質であります。このように
正の対応の視点に立って、喘息の諸症状を日本伝承医学の観点から解説していきます。

<喘息の特徴的な症状>

❶激しい咳
❷呼吸困難ーーー息が吸えないため苦しくなる
❸ヒュウヒュウゼイゼイした喘鳴(ぜんめい)音
❹体を横たえる(仰臥位)と咳が出てきてしばらく止まらない。
❺夜間睡眠中、午前3時から5時の間に多発する。
 何度も目が醒めるため熟睡できない。
❻発作は一時的だが繰り返し発生する

<激しい咳と呼吸困難は何故起きるか>

生きている体に起こる症状には意味があります。咳には二つの意味があります。
一つの咳き込むという反応は、連続して息を吐き出す行動になります。呼吸のメカ
ニズムは、息を吐き出しさえすれば、吸うという事をしなくても自然に息が入ってくる
様に作られています。

わかりやすい例を挙げれば、水泳のクロールの”息継ぎ”と同様です。顔が水面下
にある間に鼻で息を全部吐き出します。そして顔が横を向いた時に、口を軽く開
くだけで息は十分入ってきます。クロールの息継ぎのできない人は、顔が水面下に
ある時に、息をしっかりと吐き出せなくて、顔を横にした時に息を吸い込む行動をと
る人です。これではすぐに息苦しくなって長くクロールが続けられません。

この例が示す様に、息は吐けば吐くほど自然に無理なく息が入るメカニズムになっ
ているのです。肺や気管支に機能低下があり呼吸活動が弱っている人は、この息
を吐き出す行動がしっかりと、とれない状況に置かれています。また息を吐き出す
ためには肺の収縮力だけでなく、肋骨全体のかごの開閉(アコーディオンの蛇腹(じゃ
ばら)の動き)と横隔膜の上下の動きや腹部の筋肉の収縮という連動調和が必要です。
息を吐き出すには、上記の様な多くの要素が連動調和する事で成立しています。
何か一つの要素に支障が生じても呼気動作を低下させる要因となるのです。故に
呼気動作の低下は単に肺や気管支という局所の問題ではなく、体全体の体力や生
命力の低下が背景にあるという観点でみていかなければなりません。

この息を吐く作用の低下のために、体内に酸素をとり込む事ができなくなる状況
になった時に喘息の発作は起きます。これを補う対応が咳になります。咳の作用
を借りて息を体内にとり込もうとしているのです。咳の力を借りて息を吐き出せば
吐き出すほど大量に酸素を体内にとり込めるのです。酸素は生命物質として不可
欠であり、一瞬たりとも不足を生じさせてはならないものです(酸素が約3分間途切
れるだけで死に至ります)。故に激しい咳という対応をとってでも、補う必要がある
のです。激しい咳の連続にはこのような意味があるのです。

激しい咳で息を吐き出し、空気をとり込もうとするのですが、すぐにはとり込めず落
ち着くまでしばらくの間息苦しさは続きます。息が吸えないため、かなり苦しくなりま
すが、激しい咳で息を吐き出す行為を続ければ、しだいに発作は鎮まっていきます。
咳をこの様に認識していく事が重要です。

咳のもう一つの意味は、咳によるゴホンゴホンという律動的な息の吐き出しから
生まれる”振動”にあります。この肺や気管支を震わせる振動が肺に内包される形
で存在する心臓に刺激が伝わるのです。そしてこの振動が弱った心臓の拍動を
”鼓舞”させる作用を担うのです。特に心臓性の喘息は、心臓を鼓舞する対応として、
咳の力を借りることで心臓ポンプの拍動を一定に守るのです。つまりこの咳は必要
な対応としての作動であり、一方的に悪い反応として薬で咳を無理やり止め、封じ
込める処置をしてはいけないのです。以上が正の対応としての咳の意味になります。

<ヒュウヒュウゼイゼイした喘鳴音は何故起きるのかーー気管を細くする対応>

これは空気を肺にいち早くとり込むための対応として発生しています。空気を早く
とり込むには、空気の通り道の気道を細くすることで、空気の流れを早くしなくては
なりません。少ない酸素を肺に早く送り込むための対応になります。
この原理はゴムホースで水をまく時と同じになります。ゴムホースの先端の口を細
くする事で、水は勢いよく細く遠くに飛ばすことができるので、水の流れが早くなり
ます。管の径を細くする事で内部の流れが早くなる物理の原理の適用です。

生きている体が示す命を守る対応は、すべての手段を駆使します。瞬時に気管の
径を細くする事で、肺への空気の供給を確保するのです。ヒュウヒュウゼイゼイの
呼吸音は、細い菅の中の空気を早く流す事により発生しているのです。
酸素が肺に供給され気管が元の径に戻れば自然に消滅します。この原理を認識
していく事も重要です。

<何故仰向け姿勢(仰臥位)になると咳が出るのかーー亀背の効用>

喘息の方が、とる体勢や姿勢によって咳や息苦しさが発生するのも特徴の一つ
になります。特に仰臥位(仰向け姿勢)で横たわると、途端に咳が出る場合が多く
あります。咳と発作が止まらず眠れないで苦しみます。
このような場合に無意識にとっているポーズが亀背(かめぜ)姿勢になります。下
半身は正座で、背中を亀の背のように丸めて、両手は顎の下に置いたうつ伏せ
の姿勢です。あるいは正座の亀背姿勢で何かに寄りかかった体勢です。特徴は
胸を圧迫から解放し、かご状の肋骨全体を下に垂らした四つん這い姿勢です。

喘息発作を楽にするためにとるこの無意識の亀背姿勢が、姿勢からくる喘息発作
の解答を示しています。つまり仰臥位で横たわると、重力の影響を受けて胸が潰
されるからです。かご状の肋骨が圧迫されて狭くなる事で、肺や心臓が圧迫され、
呼吸がスムーズにできなくなるのです。これを回避する対応に迫られ、咳き込む
事で息を吐き出し空気をとり込む非常手段をとっているのです。

亀背姿勢は重力からの肋骨の圧迫を解放する姿勢であると共に胸部の肋骨を開き
肺が拡がりやすくする体勢であるのです。発作が止まらない時や眠れない時はこの
ような亀背姿勢をとると呼吸が少しらくになります。

<何故夜間明け方の3時から5時の間に喘息発作は多発するのか>

これを解説するために東洋医学の理論を用います。古代中国人は長い年月の中
から時間と内臓との関連を発見しています。つまり「体内時計」の発見です。1日24
時間の中で時間によって活発になる内臓が決まっているのです。2時間毎の12区
切りにして六臓六腑(東洋医学では”心包”という概念で五臓にプラスして六蔵六腑
にしています)が配当されています。
東洋医学のこの理論は、何千年という歴史の中で発見したもので、現代科学的に
実証されてはいませんが経験的事実として真実であります。臨床的にも見事に一致
しています。

その中から、明け方の3時から5時の間に配当されているのが肺になります。つまり
この時間帯に肺の機能が一番活発に働くのです。しかし喘息患者のように肺の機
能が低下している人は、活発に働こうとしても機能を上げる事ができないのです。
これを補おうとする対応が喘息の発作の発現なのです。故にこの時間帯になると
喘息発作が始まるのです。しかし、これは酸素をとり込み肺の機能を元に戻そうと
する体の必要対応なのです。故に目的が達成されれば必ず発作は自然に鎮まっ
ていきます。如何なる症状もより悪くなる方向に体を向かわせるのではなく、元に戻
す対応として発現させています。

<おさまったと思っても症状が繰り返すのは何故か>

喘息の症状を薬で封じ込めても、それは治るのとは違います。あくまでも症状を封
じ込めているに過ぎないのです。故に体内に酸素が欠乏してくると、また喘息発作
が起きます。これを繰り返していくうちに気管支拡張剤等も段々効かなくなってし
まうのです。これを回避するためには、喘息の本質を正しく認識していくことが大
事です。

<喘息の原因を正しく理解する事が解決につながる>

これまで喘息の症状の根拠と機序を解説してきました。根拠と機序が明らかにな
るという事は、原因が明確になる事です。原因が明確になると、対処法も見えて
きます。
体内に酸素不足が生起されるのは、呼吸のメカニズムの中で述べてある様に、
息を吐く機能が低下する事で、空気が正常にとり込めなくなる事が背景に存在し
ます。これは生まれもった遺伝的な体質が大きく影響している事は事実です。つ
まり心肺機能低下体質です。

心臓と肺は生命維持のために一番直接に関与する臓器です。つまりその二つの臓
器が遺伝的に弱いということは、虚弱体質を意味します。喘息発症患者のほとんど
がこの体質に属しています。喘息もちの人は遺伝的に心肺機能(心臓と肺の機能)
が弱い体質をもっているという事を認識しておく必要があるのです。

遺伝的に心肺機能が弱い人は、他の人より生活習慣に気を配り、生命力や免疫
力を低下させない努力をしていくことが求められます。ただし心肺機能低下体質の
人が全て喘息を発症する訳ではありません。喘息が出るには体にある状態が生起
された時に発生します。それは姿勢に大きなねじれのゆがみが起こった時に発症
するのです。

息を吐き出す呼吸のメカニズムは、肺の収縮拡張、かご状の肋骨全体の上下の
開閉動作、つまりアコーディオンの蛇腹の動き、横隔膜の上下運動、腹部の筋肉の
収縮という連動調和によって成り立っています。この上半身の脊柱と肋骨のかごに
ねじれのゆがみが生起されると上記の呼気のメカニズムが機能しなくなるのです。
つまり息を吐き出す機能が低下し、体内に酸素不足が起きるのです。
これを補い元に戻す対応として喘息は発症していきます。

<脊柱と肋骨全体のねじれのゆがみが、呼気を減退させる>

遺伝的に心肺機能が弱い人が、生活習慣の乱れや過労や心労等で、全身の血
液の循環・配分・質の低下をきたし、心臓機能により減退を起こすと、心臓のポン
プ力が著しく低下します。体はこれを回避する対応に迫られるのです。心臓ポンプ
の収縮を助ける対応は、右にねじられた形で胸部に収められている逆円錐形をし
た心臓の下部(心室)を体全体で絞り込む様に、体の上体を右側にねじり、左肩を
前下方に巻き込む体勢をとる事で、体全体で心臓を絞り込み、心臓の収縮を助け
ていきます。心臓の収縮を守る対応として脊柱と肋骨全体にねじれが生起されま
すが、これは 呼気のメカニズムの全てに影響を及ぼし、特に息を吐き出す機能に
減退を生じさせます。

<肝臓の肥大がさらに横隔膜の動きを大きく制限し、呼気を減退させる>

呼気を減退させる大きな要因になるのが、肝臓の肥大になります。肝臓は横隔膜
の下面のほとんどの部位と接しています。上体を区切る隔壁である横隔膜は呼吸
に大きく関わっていて、呼吸に合わせて上下に10センチ位動く構造になっています。
これが肺の収縮拡張と肋骨の開閉に大きく関与しています。
人体内において脳に次ぐ中身の詰まった大きな臓器である肝臓が肥大し動きを失
うと、横隔膜の動きに制限を加えてしまうのです。これにより呼気が大きく妨げられ
ていきます。

<肝臓を肥大させる要因は、精神的なストレスの持続が原因となる>

精神的なストレスの持続は、常に脳を興奮状態に置きます。これは大量の血液を
消費すると同時に脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンも消費します。脳の神経伝
達物質や脳内ホルモンのほとんどは肝臓で生成され、また肝臓に返って分解され
るので、この状態の持続により肝臓機能に減退が生じるのです。

人体において重要臓器である肝臓に機能低下が生起されると、これを元に戻す対
応として肝臓に大量の血液を集め、熱を発生させる事で回復を図ります。この時肝
臓は、一時的に肥大していきます。
肝臓に大量の充血と炎症、肥大が生じると、全身の血液の配分が大きく乱され、
中身の詰まった大きな臓器に熱が発生する事で、体内で熱の上昇を生み、上気し
たり赤ら顔、喉の炎症を起こし、痰を形成します。重症になると脳溢血やクモ膜下
出血を引き起こす要因となります。また肝臓の肥大は横隔膜の動きを失わせるの
です。

肝臓の充血、炎症、肥大は瞬時に起きます。すごくショックな出来事や、心配事が
あると一気に発生します。一気に息苦しくなったり、呼吸困難に陥ったり、過呼吸に
なるのはそのためです。息苦しくなったり、喘息の発作が起きたりするのは、単に
心肺機能だけの問題ではなく、精神的な要因による肝機能の減退とも深い関わり
があったのです。このように喘息の発作は、精神的な要因からくる肝臓の充血、
炎症、肥大とも密接に関わっているのです。

<どう対処していくか>

精神的なストレスの問題はすぐに解決できるものではありませんが、体のねじれ
や肝臓の充血や肥大は的確な治療により改善していくことができます。
薬による治療は、喘息を治すものではなく、喘息の発作を封じ込めているに過ぎま
せん。喘息の根拠と機序に根ざした根本的な改善法が求められます。
この条件を満たす事ができるのが日本伝承医学の治療法になります。古代人が開
発した体のねじれをとる事を主体にした喘息の治療法は、心臓と肺を同時に回復
でき、気管支喘息、小児喘息、心臓性の喘息の全てに適用できます。

また肝臓の肥大や炎症、充血をとるために考案された、右の大腿骨を叩く治療法
は肝臓の肥大を鎮め、肝炎や肝硬変も改善していくことができます。体のねじれと
肝臓の肥大を改善していく事で、呼気を正常に充分に行なう事ができるため、喘
息の発作を軽減することができます。また日本伝承医学の治療法は、骨髄の機能
を発現し、生命力と免疫力を回復させていきます。

家庭療法として薦めている頭と肝臓の氷冷却法では、脳内の熱のこもりと脳圧の上
昇を除去し、肝臓の炎症、充血、肥大を鎮静させます。
喘息の発作時の救急処置法として、古代より用いられてきた左首の氷での冷却法
を用いる事でより効果が発揮できます。また鎖骨の下と心臓の裏も冷却場所として効
果があります。

このような喘息の根拠と機序に根ざした総合的な治療法により喘息を改善に導く
事ができます。また日本伝承医学と併用していきながら、薬を徐々に減らしていく
事も可能です。心肺機能を高めて免疫力と生命力を上げていくことで、気管支拡
張剤等を使わなくても大丈夫な体をとり戻していくことが望まれます。

(参)日本伝承医学心療科~喘息