「骨盤」(仙骨)を捉えなおす 2017.10.5. 有本政治

 これは今から約30年前に書いたものになります

 日本伝承医学では「生命体」の全面的認識法として、生命の仕組みを「物質・
エネルギー・情報」として捉えています。人体を構成する「骨」という存在に対
して、従来考えられている「物質」としての人体の支持組織、あるいは関節の
構成要素としての「骨」という概念を大きく変えて情報系・エネルギー系の存
在として捉えなおし、また生命活動・身体運動・精神活動の中心をなす存在と
して捉え、仮説を構築してみたいと思います。

 この観点に立っての考察は「骨に神を見た日本人」「骨に情報を刻む」と題
して、既に解説してある通りです。この項では人体を構成する206個の骨の中
から、骨盤を構成する「仙骨」に着目して一般の認識としては奇想天外に思わ
れるような仮説を展開してみます。

 私が理想とする治療法は誰がやっても簡単で単純でそして効果のある方法
であり、これをもって初めて家庭療法として使えるものになります。その為には、
生命活動・身体運動・精神活動の中心となるポイントを見つける必要があり
ます。それが骨の中の“中心”「仙骨」なのです。

生物として生きるということは、一日も早くその「生命」を終えようとしている
生物はありません。その生物の「種」に備わった寿命をまっとうしようとして生
きています。この観点から、人の「病気」というものも生命を早く終わらせよう
とする反応ではなくて、立ち直らせようとする「対応」として捉えなくてはなりま
せん。

人体にはホメオスターシス(恒常性維持機構)というものがあり、体の内外
の変化に対応して生きていくための機能を一定に保とうとする機能が備わっ
ています。この対応の表われた姿が、いわば病気という反応表現なのです。
これが「痛み」であり「発熱」であり、「炎症」「下痢」「嘔吐」という症状として私
たちに感じられるのです。つまりこれらはバランスを失った身体の平衡を元に
戻そうとしている対応なのです。

病気を治すということは、極論すれば「バランスをもどす」というこの一点に
凝縮できると考えています。自然治癒力とは生命体に備わった、失ったバラン
スを元に戻していく力のことです。古今東西、全ての癒しの療法はこれを行な
っているのです。

 代表的な療法として東洋医学があげられます。東洋医学のバランスのとり
方は陰陽論を基盤においています。陰と陽のバランスの乱れを修正する法と
して足りない部分は補い、余分なものはとり去ってバランスをとる方法です。

「シーソー」や「やじろべえ」を思い浮かべればよくわかります。たとえば、シー
ソーで片側に三人乗り、もう一方の側には一人しか乗らなければバランスは
とれません。この場合三人乗りの方の一人を減らし、一人の側にもう一人足
すことでバランスをとることができます。これが古代中国人の考えたバランス
のとり方です。専門的にいえば鍼灸の「補瀉(ほしゃ)法」という治療原則です。

 しかし、バランスのとり方にはもう一つ方法があります。シーソーの「支点」の
位置を変える方法です。つまり中心をずらすことで、バランスをとることもでき
るのです。日本人は後者の方法を考えました。どちらの方法を選択するかは、
根本的な宇宙観・世界観・生命観の相違であり、根本思想がこれに関わって
います。

日本人の考えたバランスのとり方は「中心」を戻す方法を考案したのです。
その背景には中国思想に見られる陰陽論という「善悪・正負・左右・男女」と
いう二極構造ではなく、「グー・チョキ・パー」という三極構造を基本に置き「白
色・灰色・黒色」という二極の他に、もう一極の世界も存在するとした基本思
想が存在したのです。故にバランスをとる方法も二極思想とは異なった「中心」
を考える根本思想を基盤に考えられているのです。

日本人のもつ「三極構造」と「中心思想」の象徴が神道思想の「三つ巴(
つどもえ)」の紋章であり、お祭りのマークとして全国的に受け継がれています。
そして、中心思想の印が「日の丸」によく表われています。白地に一点大きく
描かれた“赤い円”はまさに「中心」を象徴しています。そして政治体制として
採用された万世一系の天皇制にも、中心思想は色濃く反映されているのです。
古代日本人の考えた、宇宙観・世界観・生命観を形と運動に表わすと〈円・柱・
螺旋(らせん)〉になります。

これらを裏付けるように、旧石器時代や縄文時代の発掘物が続々と発見さ
れています。それらに共通する要素は「円形」の祭祀場、それに関連する「立
(たちばしら)」、そして壺(カメ棺)などです。この三要素は宇宙の根本原理の
見立てであり、地上と天界との交流を図るための「器」であり、「アンテナ」であ
り、送受信のための「運動法則」を表わしているように思われます。

この基本要素である〈円・柱・螺旋〉は日本の三種の神器である〈鏡(かがみ)
(つるぎ)・勾玉(まがたま)〉として象徴的に継承されています。

 これを人体に置き換えてみると鏡は頭、剣は脊柱及び胸骨、勾玉は胎児の
形としての骨盤と対応します。宇宙原理を形と運動として表わした〈円・柱・螺
旋〉の三要素が相互に関連し、「天・人・地」と交流し生命を営んでいると古代
日本人は直観していたのです。これが日本人のもつ三極構造の原形であろ
うと考察できます。そしてそのすべてに関わるのが「骨」になります。丸い円形
()としての頭蓋骨、柱としての脊柱骨、勾玉としての骨盤骨、つまり「骨」が
古代日本人のすべての根本原理としての要素を満たす存在となるのです。

人体の中心を貫く骨は全身で206個の骨で構成されています。そして縦長
な直立する構造物としての骨の中で、その中心に位置するのが骨盤になりま
す。この骨盤が身体運動の中心であり、また精神活動の中心として、そして
生命活動の中心として働いているのです。これらをよく表現しているのが、「や
まと」言葉としての「からだことば」になります。それは「ハラ」であり、「コシ」で
あり、「ミ」です。丹田(たんでん)の概念もこれに関わります。

すべての身体運動は「腰」を中心に行なうのが原則です。「腰をいれる」「腰
を据える」「腰を割る」など日本の武道・芸道は「腰」を中心に置いています。
精神活動・生命活動としての「ハラ」「ミ」はどうでしょう。「子をハラむ」「ハラか
(同胞)」「ハラを割って」「ハラ黒い」「ハラワタが煮え返る」「ハラ切り」「ミに
おとす」「ミごもる」「ミうち」「ミに覚えがない」「ミ構える」日本語の中に見られ
るこれらの表現は、まさに身体活動・精神活動・生命活動の中心が骨盤部に
あるということを表わしています。このように、「からだことば」は日本人の生命
観・人体観を如実に物語っています。

 また、腰(骨盤部)は「重力」のバランサーとして人体中で一番関与している
場所です。人間の上体の重さを支持する装置として仙骨と骨盤は、くさび型関
節を構成し、股関節の頸体角を作用力線とした力学的な分配機構としての
120度分率の機構を有し、歩行による寛骨のハズミ車運動、それに呼応した
恥骨のクランク運動、仙骨の∞字運動により骨盤部は見事な重力分配機能
をもっています。この獲得によって二足直立歩行が達成されているのです。
人間の手よりも巧緻な動きをもつ工業ロボットが開発できても、歩くロボットが
開発できないのはこの歩行メカニズムが応用・研究できなかったのが原因で
(注:平成9年ホンダが開発)

 仙骨の機能と運動に関してはアメリカのディージョーネット博士が、脳脊髄液
の還流のためのポンプ装置として、仙骨の「うなづき運動」を解明しています。
呼吸運動と歩行により、脳内、脊柱内、仙骨内と一日約16110cc程の脳脊
髄液が仙骨のポンプ運動によって還流しているのです。この脳脊髄液によっ
て脳は栄養と老廃物を受け渡し、情報も得ているのです。体の中で重要な働
きを担う脊髄神経も同様に、脳脊髄液によって情報を供給されてその機能を
果たしているのです。

体の中の神経ネットワークは、脊髄神経の分岐として脊椎骨の両側より椎
間孔という穴を通って枝分かれし、全ての内臓、すべての筋肉に情報を伝達
していることはよく知られています。その幹線となる脊髄神経に栄養と情報を
供給しているのが脳脊髄液になります。この還流に一番関与しているのが仙
骨を中心とした骨盤部の動きのメカニズムなのです。故にここが作動しなくな
ると、すぐにすべての組織・器官に機能低下が起こり、生理失調を起こすこ
とになります。

 また、骨盤部の重要性は、人体の電気の発生装置としても考えられる場所
であることです。身体の中の心臓ポンプも全ての筋肉も、電気を情報・エネル
ギーとして働いています。昔、理科の実験で行なったカエルの足に電流を流す
実験や、治療器としての低周波治療器は、電流を通して筋肉運動を生起させ
ています。心臓疾患に応用されている心臓ペースメーカーも電気信号を利用
して、心臓のポンプ活動を調整しています。このように身体の内部には大量の
電気が必要です。人体内に電気を供給するためには、自家発電する装置が
人体に備わっていなければ達成できません。これを担っているのが骨盤部な
のです。

電気を発生させるメカニズムは、自転車に付いているタイヤの回転を利用し
たダイナモ(発電機)を例にあげればわかりやすいでしょう。自転車のライトは
磁石を回転させることで発電しています。これと大変よく似た個所が、実は仙
骨と両寛骨で構成される仙腸関節部になるのです。

仙骨が磁石で、ダイナモ(発電機)の役割を担っていると考えています。呼吸
と連動しているということは、動きが途切れることなく24時間中作動していると
いうことで、常に電気を産出してくれているのです。人体内の電気発生のメカ
ニズムは物理学の、ピエゾ(圧電)現象を応用したものになります。

歩行中だけではなく、安静時においても途切れることなく骨に圧がかかる場
所は、仙骨をおいて他には考えられません。上半身の重さをくさび型関節とし
て、一個の円錐状をした仙骨に断続的に「圧」として受けています。また、仙骨
は呼吸運動に連動した「うなづき運動」を行なっています。これはピエゾ(圧電)
現象を生起し、電気を発生していると考察しても間違いないと思われます。

そしてさらに別の観点からの指摘は、生命波磁気仙骨無痛療法を提唱して
いる内海康満氏が、生命磁気という観点で宇宙からのエネルギーの一種であ
る「磁気」に着目して、この宇宙磁気を集めるパラボナアンテナの役割を仙骨
が担っているのではないかと説明しています。人体を一つの大きな棒磁石とし
て捉え、その中心に位置する仙骨が体内磁気の総元締めであり、ここで蓄積
し身体各部に分配する場所であると説明しています。

前述した様に、仙骨は常にバイブレーションしており、人体の波動の中心的
存在であることは明らかです。宇宙からのエネルギーをとり入れ、それを生命
波バイブレーションとして身体全体に伝える中心が仙骨なのです。この仙骨の
バイブレーションが正常になって身体全体にいきわたれば、人間の体のあら
ゆる関節、器官や組織、全ての細胞が共鳴し始めて、連動を起こし、身体は
その内在する自然治癒力を働かすことができるようになり、健康を回復できる
のです。

犬が雨に打たれた時など、体をブルブル震わせて毛に付いた水滴を飛ばし
ている姿を見たことがあると思います。その震えはまず身体運動の中心であ
る骨盤部、仙骨から始まって腰・胸・頭と伝わり、さらに足や尻尾に伝わって
いきます。水を払うこの動作のように生き物は皆自分でこの仙骨のバイブレー
ションを起こし、それを全身に波及させることで生体のバランスを整えている
のです。

身体運動の中心、精神活動の中心、生命活動の中心である骨盤部が正常
に作動しなければ、それは全身に波及していかないのです。また骨盤部はそ
の中に、小腸・大腸を内包し人体における壮大な化学工場としての機能を担
当させています。小腸からは人体のすべての組織・器官を滋養する血液を作
り出し、大腸は腸内細菌と共生してその腸内細菌の出す分泌物を媒介に、身
体に不可欠な酵素・ホルモンなどを生産しています。また、膀胱も内包し排泄
器官としても働きます。そして新たな生命を宿す為の生殖器官をも内包してい
ます。女性では一番大切な子宮をその中に格納している場所なのです。つま
り生命活動の中心をなす器官のほとんどが骨盤内におさまっているのです。

以上の働きを円滑に機能させるためには、仙骨骨盤部が正常に機能してい
なければならないのは当然です。古代日本人が考案した「骨」のゆがみを修
正する方法としての「鉢巻き・腹帯・手甲(てっこう)・脚絆(きゃはん)」は重大な
意味をもっているのです。

「鉢巻き」は何枚かの骨があわさった頭蓋骨のゆるみを止めるものであり、
そうすることによって“集中力”を維持し、脳の機能を高めるためのものです。

妊婦の着用する「腹帯」は仙骨と二つの腸骨で構成される骨盤部を正常に働
かせ、また守るための「タガ」の役目を担うものです。「手甲」は手首の関節の
「タガ」として働き、「脚絆」は足首の関節の「タガ」であります。

関節がゆるんでくるとその機能が低下することを、古代日本人はその生命
観・人体観の中から発見していたのです。それが言葉としての「タガがゆるむ」
という表現です。骨というタガがゆるめば、精神的にも肉体的にも影響が出る
ことをよく知っていたのです。特に骨盤部のタガがゆるむと、全ての生理失調
に関わってくるのです。故に「フンドシのヒモをしめてかかれ」「腰ヒモを締めろ」
と戒めているのです。古代日本人の到達した身体意識は高度であり、その着
眼点は実に偉大であったのです。すべての活動の中心をなす仙骨骨盤部の
重要性が以上の説明で初めて認識できるものです。

 「ヒト」という種が「万物の霊長」といわれる所以は、二足直立歩行を果たし
た唯一の生物で、この地球上を支配する最大の作用力である重力場の重力
線を一身に貫き、神の降臨を願って古代人が立てた“依代(よりしろ)”である
「柱」としての存在だからです。地球の磁場と同様の「軸」としての構造、また
宇宙エネルギーの送受信のアンテナとしても一番理想的な直立した構造、つ
まり重力場と磁場とを統合した一番理想的な形状・構造を有しているからな
のです。これが「ヒト」を生命波動の一番高い生物として登場させたのでしょう。
学術的に考察すれば二足直立を果たしたことにより、脳の容積を広げ、脳を
発達させ、手を自由に器用に使えることで技術を生み、現代の文明を築いて
いったのです。

 洋の東西を問わず、この仙骨部がエネルギーの昇華するポイントであり、そ
の象徴として蛇(へび)が螺旋状に柱を登る姿が描写されているのです(インド
にもヨーロッパにも存在しています)。中心となる仙骨が正常に機能すれば
「シーソー」や「やじろべえ」は自然にそのバランスを戻していくものです。

日本人の根本思想の中から生まれた中心思想と、三極構造の中から誕生
した「中心」を整えていく技法は、十分に誰がやっても単純で簡単な治療法を
可能とするものです。古代日本人が到達した宇宙原理と合体するための三要
素〈円・柱・螺旋〉、これを継承した形としての〈鏡・剣・勾玉〉、そしてその中心
的な存在である「仙骨・骨盤部」、これを整えていくことがいかに大切な問題か
を私たちに教えてくれています。「タガ」をしめてあげることが大切なのです。

古代日本人の開発した日本伝承医学の「骨盤調整法」は、人体中一番長
く強固な大腿骨を「テコ」として使用することで、骨盤を構成する両仙骨腸骨
関節(仙腸関節)と恥骨結合の失った動きを理想的に合理的に元に戻す技法
になります。また、日本伝承医学の基本操法は、前述してあります三種の神
器に相当する頭(鏡カガミ)、胸骨(ツルギ)、骨盤部(マガタマ)の三個所を中心
に構築されています。下肢を開いて角度をとり、かかと落とし(三指半操法)
行ない、骨盤(マガタマ)のねじれを修正し、足趾に圧を加えることで(リモコン
操法)頭と頸椎を整え、心臓調整法で胸骨と肋骨(ツルギ)の機能を発現させ
ます。

これらの基本操法をまず行なって身体のゆがみを整えておいて、「テコ」の原
理を応用した骨盤調整法を行なうのです。これにより、仙骨と骨盤部の接合
部となる両仙腸関節と恥骨結合の微細な動きが回復できるのです。骨盤部を
調整する技法は、整体術の中に多く存在しますが、このような合理的な技法
は日本伝承医学の独自のものです。

古代人の直観と到達した世界を十分に吟味し、誰がやっても簡単で単純で効
果のある治療法を求めて止まないものです。


仙骨の重要性〜脳脊髄液の環流