踵痛は何故起きるのか ~ その対処法
              2023.10.10. 有本政治 

外傷的要因(打撲・捻挫・転倒等)は何もないのに、ある日
突然踵痛が出て、踵をつけて歩くと痛くて、つま先立ち歩きに
なるケースがみられます。本人にとっては、打ちつけた覚えも
ないのにどうしてなのかという思いになります。この痛みは
なかなか引かず長期に及ぶ場合が多くみられます。
 実は踵痛の原因は単純なものではなく、まさに命を守るため
に発生しているのです。踵痛発生の機序は、脳の虚血(血液不
)を補おうとする対応手段となります。50年の臨床の中で言
えることは、踵痛が精神的ストレスの持続と関わりが深いと
いう事です。
 私の経験の中で1988年のソウルオリンピックに女子バレー
ボールチームのトレーナーとして帯同した時、担当する選手の
一人が前日まで何でもなく練習できていたのに試合当日の朝、
突然に右足の踵痛を訴え、歩けなくなり治療を行なったことが
あります。オリンピックという大舞台におけるプレッシャーは
尋常ではなく瞬時に多量の血液が肝臓に集められ、脳に一気に
虚血が生じ、これを補う対応のため、体の機能を総動員して
脳に血液を送り込もうとしたのです。
第二の心臓と言われる足のふくらはぎの筋肉の収縮を大きくし
て、心臓まで血液をめぐりやすくし、脳への血液供給を助け
ようとしたのです。
 踵痛は、踵をつけくすることでつま先立ち歩行を余儀なく
させ、より強いふくらはぎの筋収縮を促し、筋肉ポンプを作動
させ、脳に血液を送り込む対応になります。故にこれを回復に
向かわせるためには、全身の血液の循環・配分・質(血液が
どろどろでべたべたの状態)の乱れをとり、脳への血液供給を
改善させることが不可欠となります。内臓的には心臓調整法、
肝胆の叩打法により、心臓、肝臓、胆のう機能を高めること
です。これらを行なった上で個別の踵の痛みをとる操法を根気
よく行なうことで回復への道筋をつけることが可能です。
つまり局所の対症治療だけではなく全体と個の二面からのアプ
ローチが必要になります。また、肝胆の充血炎症を除去する
ためには肝臓冷却と脳の虚血からくる脳温・脳圧の上昇を防ぐ
頭部冷却も必須となります。
(詳細は日本伝承医学家庭療法『局所冷却法』の項参照)


【日本伝承医学における踵痛の治療技術】
 精神的ストレスや極度のプレッシャーが起こると、体は自律
神経のバランスを乱し、交感神経が緊張するため筋肉が異常収
縮を起こします。筋肉が異常収縮すると、本来動くべき関節が
固まってしまいます。踵痛の場合、遠位脛腓関節と距踵関節が
固まり、腓骨の微妙な動きが止まってしまうことで痛みが発生
してきます。また精神的ストレスの持続と極度のプレッシャー
は一気に肝臓を充血させ、全身の血液の循環・配分・質を大き
く乱し、肝臓、胆のうに充血と熱を発生させ(炎症)、脳に虚血
状態をまねきます。経絡上では肝経と胆経、膀胱経に反応が
あらわれます。肝経、胆経に引きつりが起こると脛腓関節の
離開が起こり、下腿骨の腓骨の微細な動き(上下動と内外旋の
動き)を止めてしまいます。

 膀胱経に引きつりが起こると下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)
に収縮を起こし、踵骨の動きを制限してしまいます。これらが
合わさると歩行による踵骨の内外旋の微細な動きが失われる
ためかかと痛が生じます。(詳細はカリエの痛みシリーズ足関
節の機能解剖を参照)。これを解除するためには、腓骨の動き
を足の引き抜き法で取り戻し、踵の骨の微細な動きを回復させ
る日本伝承医学独自の「
僕参穴(ぼくしんけつ)」を圧定して
おいての距腿関節運動法を用いて、踵の骨に骨ひびきを与え、
電気を発生させることが必要です。これにより、収縮した筋肉
の緊張がゆるみ、関節の微細な動きをとり戻します。この操作
の前には必ず、同側の手、指に電気を発生させ、バランスを
とります。踵痛の根本的原因は精神的ストレスや極度のプレッ
シャーに起因しているため、後頭部擦過法及び自律神経調整法、
肝胆の叩打法、足関節をしめる操法を加えます。