Healer(ヒーラー)

  

日本伝承医学の治療家は奈良時代から平安時代にかけて、蘇
生術者(ヒーラー)や陰陽師(方術士)と言われてきました。それ
は日本に古来より伝わる蘇生術を身につけていたからです。
 ヒーラーとは肉体的、精神的、霊的な癒しを与える人、癒し
手のことを言います。セラピストやスピリチュアルカウンセラー
は主に心理的な癒しを与える人ですが、ヒーラーは精神面だけで
はなく肉体面でのケアもフォローしていきます。体のこと、医
学的なことの知識も必要になるので、ヒーラーとしての仕事は
総合診療科とも言えます。
 努力して勉強すれば誰もがなれるというものではありません。
その人の性質、気質、資質が問われてきます。人のいたみや悲
しみ、心の「あや」がわかることが絶対条件になります。自分
自身が傷ついて、裏切られて、人間不信になって、精神が破壊
されて、気がおかしくなって、こうした経験、体験が心のばね
になって無意識のうちに修行を積んでいくのです。心だけでは
なく、まるで試練のように次から次へと体に不調をきたしてき
ます。死ぬほどつらい状況にみまわれます。
 自分が心や体にいたみを受けたことがない人には、人のいた
みや苦しみは決してわかりません。いたみやかなしみ、耐え難
いつらい経験は、霊的に言えば魂の段階が上がっていくための、
ステップアップしていくために通らなければならない過程なの
です。
 機が熟すころには、気がつくとすがってくる人たちがたくさん
増えています。彼らは肉体的苦痛よりも、精神的に弱っている
人ばかりです。「病(やまい)は気から」というように、精神的
に落ち込むと病状はどんどん悪化してしまいます。気が充実し
ていると、たとえ重病でも生き生きと生活を送ることができます。
 真の治療家とは、単に体を治すことではなく、自分自身が今
起きている病状を受け入れ、自分でできることを日々努力して
いく気もちを持たせてあげることのサポートをしてあげること
なのです。病状は敵視するのではなく共存共生していくのです。
 人間には生まれながらにして、生命体の強さ弱さがあります。
体力がある人ない人がいるように、細胞の強さ弱さが人にはあ
るのです。心肺機能が先天的に弱い人は大人になっても弱いの
です。自分自身の弱さや弱点に気づき、受け入れ、できること
をがんばっていく自助努力が要されます。日本伝承医学は延命
させるための医術ではなく、その人が本来持っている寿命を全
うさせるための医術になります。
 病気になったり年老いたときに自分の寿命を受け入れること
ができる人は、死がこわくなくなります。痛みのセンサーが弱
まり、肉体的な痛みをあまり感じなくなります。我欲が強い人
ほどこわい、死にたくないと思いながら、苦しみながら死んで
いきます。

(参)「日本伝承医学の治療はなぜ神経系に効くのか