命の物理とは
      

  命(イノチ)を存続するための絶対必要条件は多細胞生物も単細胞生物
もほぼ共通しています。生命体というのは、ある素材ででき、何かを栄養
として、吸収、排泄し、命令伝達のための回路を有しています。
つまりすべての生命体のしくみは「物質」「エネルギー」「情報」の三態を備
えていなければならないのです。
 単細胞生物では「物質」「エネルギー」「情報」の受容、伝達、処理、反応
のすべてを“膜” が担っているといっても良いでしょう。
  複雑化して解明不能な状態におちいった時、“原点に還れ”という言葉
があります。言い換えれば原初、原形にさかのぼって解決策を探しなさい
ということ です。生物の原初の“姿” “形”は細胞であり、細胞と外界との
界面である“膜”に命存続のための「鍵」があったのです。“膜”が息するこ
と、食べること、排泄すること、考えることをすべてやっているのです。 


 つまり生きていくためには、膜の内と外との“交流”がなくては生存できま
せん。この交流に決定的に作用するものが、イノチの存続の“原理”となり
うるはずです。
 それは何かといいますと、実は“電気”だったのです。細胞の内と外の電
気の電位差があって細胞は“膜の透過性”が生じ、生きるための物質、エ
ネルギー、情報が得られるのです。現代生理学的にいえば、この作用をイ
オン・チャンネルと呼び、細胞膜の内側の電位が、外側と比較してやや低く
設定されています。この電圧の差によって、イオンの流れをつくることがで
きるのです。
  また、細胞内の電気レベルは、一定に保たれることによって、スムーズ
に交流がおこなわれていきます。電気レベルが常に一定に保持されるこ
と、外との電位差があることによって“交流”が生じ、イノチは存続されてい
ます。 これが単細胞生物の「イノチの物理」です。 
  単細胞生物の「イノチの物理」は、そのまま多細胞生物の人間にもあて
はまる“共通の原理”として作用すると見てまちがいはないでしょう。
 

 “電気”は目に見えないエネルギーであり情報であります。
それ故に古今東西、「気」という表現で取り扱われてきました。しかし気の
正体は何も神秘的なものではなく、“電気”を含んだ概念であることはまち
がいありません。
 結論的にいえば、生物(人間を含む)の命を存続させる根元のチカラは、
生物体内の電気レベルを常に一定に保つことであり、そのために時々刻
々に電気を補充、充電することだったのです。もちろん人間が生存する上
で「息」をすること、「食べ物」をとること、「排泄」すること、「眠る」こと、「動
く」こと、これらはすべて生存のための大切な必要条件です。しかしそれよ
りも、もっと重要なことは体内の“電気”レベルを一定に保つために時々刻
々に“電気”を内、外から補充し充電することだったのです。
 日本伝承医学がとらえる生命観・人体観・疾病観はこの「イノチの物理」
が基本になっています。
 
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