シドニー・リンガーというイギリスの生理学者はCaの含有量の多いロン
ドンの水道水でカエルの心臓を使って実験をしました。
食塩(Nacl)を血液の中にあるのと同じ位水道水に加えて、その中にカエ
ルの心臓を入れると、規則正しくよく収縮するので、心臓の収縮にはNacl
の適当な量があれば十分であると考えました。ところがある日きれいな実
験をしようと思って、蒸留水を使って同じように食塩を溶かして、カエルの
心臓を入れたら、なんと止まってしまいました。そこでロンドンの水道水に
何かカエルの心臓を動かすのに必要なものがあるに違いないと考え、水
道水の成分を一つ一つ分析してカルシウムが心臓の収縮になくてならな
いことをみつけたのです。
 リンガーはこれを応用して、食塩水にCaを加えてリンガー液(リンゲル液)
として広く応用される溶液を作ったのです。
  このようにCaが血液の中になければ、心臓が止まってしまうのである
から血液の中に一定量のカルシウムが存在することが体内に正しい健康
な環境をつくり生命を保つ上でどんなにたいせつであるかがわかるのです。


 人体内のCaの配分場所は、大別すると三つに分かれて存在しています。
人体内のCaの99%は骨に貯蔵され、あとは体液(血液・リンパ液)と各細
胞です。そして驚くべきことは、そのCaの濃度差です。骨と血液との間には、
1万対1の差があり、さらに血液と細胞間では、また1万対1の濃度差があ
ることです。
 細胞内のカルシウム量は、ほとんど真空状態といってよい位の量です。
このように人体の中のカルシウムの三つの部屋、すなわち骨と血液、血液
と細胞の間で、カルシウムの濃度がそれぞれ一万倍というたいへんな落差
をつくっていることは、ほんとうに不思議なことで、生命の神秘そのものと
いってもよいでしょう。
 骨から細胞の中までの濃度の比を計算すると、実に一億分の一という
天文学的な数字となるのです。
なぜCaだけが特別かという答えは、他のミネラル成分、カリウム、ナトリウ
ム、マグネシウム、リン等は、細胞の外と内でかなり濃度のちがうものであ
りますが、その違いはせいぜい数十倍です。人体がカルシウムの配分に
特別の注意を払っていることがこのことからも明らかになります。


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