側弯症、後弯症   

日本伝承医学では、上体に右ねじれを起こすのは心臓のポンプ
作用を助ける対応、左ねじれを起こすのは胆のうを絞り込み、胆
(たんじゅう)の分泌を助ける対応とみています。側弯症、後弯
症等も、身体が必要があって対応している姿になりますので、そ
の部位だけをみるのではなく、内臓との関連の中で捉えていかな
ければなりません。

日本伝承医学の施術では低下した心臓機能を高め、肝臓の炎症、
胆のうの腫れを回復させていきます。呼吸にとって重要な横隔膜
は、自律神経と深く関わっているため、横隔膜操法と共に、自律
神経調整法も用います。弯曲により生じる痛みは、脊柱のゆがみ
を整え、自律神経のバランスが整えば徐々に緩和されていきます。

側弯症(そくわんしょう)
  側弯症とは、本来正面から見ると真っ直ぐに並んでいなければ
ならない脊椎が、左右に大きくねじれるように曲がっている状態
を言います。先天的に脊椎に異常があり成長期に進行する場合も
ありますが、脊柱側弯症の約8割は特発性側弯症と言い、思春期の
女子に多く見られます。体が成長し変化していく初潮前の810
歳位から発症するので、思春期側弯症とも言われています。
ただ女子の全員がなる訳ではなく、側弯症は、先天的に心肺機能
(心臓と肺の機能)の弱さがみられる場合に発症していきます。

 心臓は、握りこぶし位の大きさで血液の吹き出しを守るために
左下を少し突き出し右ねじれの形で収まっています。しかし先天
的に心肺機能が弱い場合は、心臓のポンプ作用(収縮力)を守るた
めに、さらに上体に右ねじれを引き起こし、心臓のポンプ作用を
助けようとしていきます。この状態が長期に及ぶと、身体はねじ
れをおこしたまま脊柱にゆがみを発生させていきます。

人間が生きていくために第一に守らなければならないのは、呼
吸になります。心肺機能を守ることが何よりもの優先順位となり、
体は天然に命を存続させるためにこれらの機能を守り抜くように、
自らを変形させていくのです。

猫背(ねこぜ)も同じような原理になります。猫は丸くなってい
る時が一番リラックスしているときになります。人が猫背になる
のは、猫のように背中を丸めて、体をリラックスさせて呼吸がら
くにできるようにしているのです。両肩を前に出して背中を丸め
ることで、体をゆるめ交感神経の緊張をとっていきます。背中を
丸めることで横隔膜(おうかくまく)の緊張がとれるからです。

「横隔膜は自律神経の宝庫」と言われ、立位の姿勢では、交感
神経が優位になり緊張状態が続きます。体を丸めてゆるめること
で副交感神経が優位になり、呼吸が楽にできるようになります。
ぜんそくの子どもが、丸まってうつ伏せにうずくまる亀背(かめぜ)
の姿勢をよくとりますが、それは呼吸がらくになるからです。

  先天的に心肺機能が弱い子どもも、仰向けに寝ないで、常に横
向きに丸まって寝ています。大人になっても同じような、猫のよ
うな姿勢で寝ています。これは横隔膜が圧迫されないように、楽
に呼吸ができるように自然にこのような姿勢をとっているのです。

()赤ちゃんはもともとCカーブで背中が丸まっています。この
ほうが呼吸がらくにできるからです。成長と共に2本足で立位の
バランスをとるためにS字カーブになっていきます。 

※前傾姿勢、前かがみになるとらくに呼吸ができる。
※横向きで寝ると気道が確保しやすくなり仰向けで寝るより楽に
 呼吸ができる。
  立位の姿勢でいると気道(空気が通る道)がせまくなり苦しくなる。

※猫背、体育ずわり、亀背姿勢等は悪いことではなく、楽に呼吸
 ができるように

 子どもが天然にとっている対応なので、しからない。注意しない。
 無理矢理正そうとしない。「背中をまっすぐしなさい」と親が
 頻繁に注意するとトラウマ(心的外傷)になる。

【横隔膜の話】
  横隔膜は呼吸活動の約7割を担っている大事な筋肉になります。
活動時には、ふくらはぎのポンプ作用、上腕二頭筋のポンプ作用、
胸鎖乳突筋、斜角筋が働いて、心臓のポンプ作用を手助けします
が、就寝時(安静時)にはこれらは休止し、横隔膜だけが担ってい
きます。つまり就寝時には約9割が、横隔膜だけで呼吸活動を行
なってくれているということになります。

 肺がん、肺気腫、間質性肺炎等の症状の方の場合、仰向けにな
ると苦しく、横向きで丸くなっているとらくになるのは、この
横隔膜の上下運動の呼吸活動がらくにできるからになります。
仰向けに寝ると、腹部臓器が胸腔側にも広がり横隔膜の動きを制
限してしまいます。横向きになり背中を丸めて寝ると、腹部臓器
は胸腔に入らず、横隔膜への圧迫がさけられます。横向きになる
と床に向かっての重力がかかり、胸腔内への圧迫が軽減され、
呼吸を阻害することがなくなるからです。

横隔膜には自律神経がたくさん集まっています。故に横隔膜は
自律神経の宝庫と言われます。横隔膜の動きが悪くなると自律神
経の働きが悪くなります。横隔膜は自律神経とつながっていて、
息を吐く時に副交感神経が優位になりリラックスできます。

  腹式呼吸とは、息をすうときにおなかをふくらませて、吐く時
におなかをへこませる呼吸法になります。腹式呼吸のポイントは、
ゆっくり長く吐くように意識することです。息は吐くことで吸う
ことができるからです。

  呼吸は、自律神経を意識的にコントロールできる唯一の方法と
言えます。吸うと胸腔が広がり横隔膜が下がります。吐くと胸腔
が狭くなり横隔膜が上がります。

呼吸活動を担う横隔膜を大きく動かすことができる腹式呼吸は、
自律神経のバランスを整えるマッサージのようなものになります。

【後弯症(こうわんしょう)
  高齢になると体が前に傾いてだんだん腰が曲がっていく場合が
あります。日常生活や仕事等で、しゃがむ姿勢を長くとっていた
り、農作業等で腰が曲がると考えられていますが、そのような姿
勢をとらなくても腰が曲がってしまう方はたくさんいます。腰を
曲げて前かがみの姿勢をとらせることで、心臓のポンプ作用と横
隔膜の呼吸活動を助けているのです。

四つんばい姿勢が健康に良いと言われるのは、心臓と脳が水平
になり、同じ高さになるので、脳への血流がスムースになるから
です。高齢になると腰が曲がっていくのも、脳への血流を守るた
めとも言えます。心臓への負担が少なくなり常に腹圧がかかるこ
とで、横隔膜のポンプ作用を助けてくれるのです。腰曲がりの角
度が直角になればなるほど横隔膜の呼吸活動は横たわっている状
態に近くなります。

立位の状態で背筋がまっすぐだと、横隔膜は肺の動きに合わせ
て上下に約7センチ動き、心臓のポンプ作用の約7割を担います。
重力がかかるので常に抵抗がかかってしまうからになります。
しかし重力から解放される就寝時には、横隔膜は約10~12セン
チの上下運動になり、心臓のポンプ作用も約9割を担うことにな
ります。


※背の部分に角度をつけてあげることで、腹部臓器が重力で下が
り横隔膜への圧迫が避けられるので呼吸がしやすくなります。
寝たきりで自分で動けない方の場合、介護ベッドの背もたれに
角度をつけてあげると、らくになります。

 

【筋肉の話】
  筋肉は骨格筋、心筋、平滑筋(内臓筋)の3つがあります。骨格
筋は自分の意思で動かすことができるので随意筋と言われています。
骨格筋は体性運動神経によって支配されています。
  心臓壁を構成する筋肉を心筋と言い心臓以外には存在しません。
自分の意思では動かせない不随意筋になります。心筋の運動は
自律神経によって調整されています。

平滑筋は消化器や気道などの内臓壁や血管壁などを構成し、緊
張を保つことや収縮によって内臓や血管の働きの維持を行なって
います。心筋や平滑筋は自律神経支配であり、自分の意志で動か
すことはできない不随意筋です。このように自分の意志で動かす
事ができる筋肉を随意筋、自分の意思では動かすことができない
筋肉を不随意筋といいます。

  筋肉には横紋筋と平滑筋があります。横紋筋には骨格筋と心筋
があります。横隔膜は骨格筋に分類されます。しかし他の骨格筋
とはことなり、内臓壁のような不随意筋と同じ様に、横隔膜は
自律神経によって不随意的にもコントロールされているのです。
つまり横隔膜は無意識と意識の境界にある筋肉とも言えます。

【追記】
  脳内には脳内モルヒネとも言われるオピオイドという脳内物質
が存在しています。極度の恐怖や緊張感にさらされたとき、この
オピオイドが働き、人は痛みを感じません。痛みは脳内物質と深
く関わっていると言うことです。

 痛みの伝達は電気の流れに似ています。皮膚感覚がセンサーと
なって受けとり、電気信号に変換され、電線にあたる神経を通っ
て脊髄に送られ脳に伝わります。

 脳は人体内で最も熱を帯びやすく、熱、炎症に弱い部位になり
ます。脳内に炎症がおきると、脳内のたんぱくが固まり始め、
良い脳内物質が生成されません。オピオイドやセトロニン等の
脳内物質がうまく働かなくなるため、痛みや不安感、恐怖心等の
マイナス思考におちいりやすくなります。痛みや不安感を緩和す
るためには家庭療法としては氷枕とアイスバッグでの局所冷却法
が効果的になります。

脳内の熱、脳内の炎症を除去し良い脳内物質を生成できるからです。