心因性高体温症


発熱のメカニズムは、大きく分けて炎症性と心因性の二種類に分けられます。
炎症性によるものは風邪等によるものでサイトカインという物質が関係してい
ます。心因性による発熱の場合は、交感神経の作用(緊張状態)に起因します。
発熱と心因性との因果関係は1900年初頭から既に存在していて、疾患のひとつ
として認識されていました。この章では心因性(ストレス性)による発熱につい
て述べてきます。

【サイトカインとは?】

サイトカインは細胞から分泌される低分子のたんぱく質で、炎症性サイトカイン
と言われ、炎症反応を促進する働きがあります。細菌やウィルス等が体内に侵入
すると、体はこれらを攻撃するため、免疫に関わる白血球からサイトカインを
分泌し、免疫機構を活性化し、免疫細胞が細菌やウィルスを退治してくれます。

サイトカインはプロスタグランジンを産出し体温設定温度を上昇させるため発熱
という形をとります。発熱させ体に休息をとるように脳から指令を出すのです。
この指令により「シックネス反応」が起こり、無気力、食欲不振、行動抑制、
倦怠感等の症状が起こります。

この熱を解熱剤等で封じ込めてしまうと、免疫機構が働かなくなり、本来体に
備わっている自己治癒力が大幅に低下していきます。炎症性、心因性如何に関わ
らず解熱剤等の使用は極力避けるようにします。次に記載する心因性発熱はこの
サイトカインによるものではなく自律神経のバランスに乱れが生じた時に発症
します。

【心因性発熱はどうして起こるのか?】

心因性の発熱は心因性高体温症、機能性高体温症とも呼ばれます。サイトカイン
による炎症性の発熱とは異なり、ストレスや心労により自律神経のバランスが
乱れ、交感神経が緊張することにより発症します(交感神経優位)。急性ストレス
や心的ショックの場合は一時的に38度以上の高熱が出る場合もありますが、
慢性的にストレッサー(ストレス要因)を受けている場合は36.837.3度位の微熱
が長期に渡り続きます。

自律神経のひとつに、体温調節という働きがあります。ストレスや心労を受け
ることで肝臓が充血し、脳が虚血(血液不足)になります。脳内に充分な血液が
行き渡らなくなると、脳の中枢部である視床下部が養われなくなります。
視床下部は自律神経の最高中枢と言われ、人間のホメオスタシス(恒常性)維持
に最も重要な役割を果たします。この視床下部に支障をきたすと自律神経のバラ
ンスが乱れ、交感神経が常に優位になり、うまく体温調節ができなくなります。

ストレスによる肝臓の充血は、内包(隣接)されている胆のう機能をも低下させ
ていきます(胆のうの腫れ)。胆のうの腫れは胆汁(たんじゅう)の分泌不足を
招きます。胆汁には血熱(血液の熱)をとる働きがあるので、胆汁が分泌不足に
なれば血液が熱をおびて、赤血球同士が連鎖し、どろどろでべたべたの状態に
なってしまいます(血液の質の低下)。血熱は体温を上昇させるので微熱が続く
要因にもなります。

 胆汁の分泌不足により血液の質が低下すれば、血液の循環・配分にも乱れが
生じていきます。脳内まで速やかに血液が行き渡らなくなるので、脳に虚血を
引き起こします。脳が虚血になれば視床下部に支障をきたし、体温調節ができ
なくなります。

 

【ストレス・心労とは】

私たちは普段、ストレスを受けている自覚があまりなく日常生活を送っています。
しかしストレスとは心で意識するよりも、体の方が正直で、まず体に反応、
症状が出てきます。肝臓の充血と、脳の虚血になります。これらが血液の循環・
配分・質を大きく乱し、自身の弱っている個所に症状を発症させていくことに
なります。微熱、頭痛、腹痛、嘔吐、無気力、集中力低下、体力低下(疲れやす
)、疲れ目、めまい、耳鳴り、食欲不振、倦怠感等の症状を発生させます。

 

心因性高体温症は、子どもから高齢者まで年齢に関係なく起こります。子どもの
場合は、対人関係や家庭内でのストレス(夫婦不仲、母親が仕事で忙しく不在、
親からの愛情不足、兄弟不仲、経済的問題、親が過干渉・無関心、育児放棄等)
学校での問題(部活、友人関係、いじめ、異性関係、勉強が難しくてついていけ
ない、勉強がつまらない、興味のあることがない、先生との関係性、給食が嫌い、
授業中長時間座っているのが苦痛)等により発症します。引きこもりや不登校、
ニート(就学・就労していない状態)、単身赴任、食生活のかたより、経済的不安、
親の介護、祖父母との関係等の状況も、心が心底安らがず、常に不安感と背中
合わせになっているため、心因的高体温症を起こしやすくなります。

【対処法】

日本伝承医学は、肝心要(かんじんかなめ)といわれる心臓と肝臓の機能
を上げていく事を目的に学技が構築されています。ストレスによる肝臓
の充血をとり、脳の虚血を改善し、視床下部の機能を正していきます。
自律神経調整法と後頭骨擦過法により、交感神経の緊張をとり去り、
自律神経のバランスを整えます。心因性高体温症の場合は、免疫力が
著しく低下しているので二週間に1回のペースでの受診が望ましいです。

家庭療法としては、「食・息・動・想・眠」をもとに、アイスバッグと
氷枕による局所冷却法を行なっていきます。微熱が続くときは「食」、
食生活の見直しが大事です。食材にかたよりがあると、低栄養状態(低体重)
になり、脳、内臓、骨が養われなくなります。体はこれを生命の危機と
察知して、エネルギーを確保するために、発熱させていきます。

人間は通常38.338.5度で免疫機構にスイッチが入るのですが、低栄養
状態の人は体力が落ちている為、高熱を出す力がないので微熱が続いて
しまいます。微熱が続くと体に弱りがきて、血液の循環・配分・質が
正常に働かなくなり、様々な病気を発症させていきます。発熱はその部位
だけをみていくのではなく、体全体の関連の中で捉えていく事が必要です。


   (参考文献)有本政治著:『発熱をとらえなおす