捻挫(ねんざ)操法

 

 捻挫は、スポーツや運動をしている時に起こす印象が強いのですが、階段や
わずかな段差を踏み外したとき、ヒールの高い靴をはいていてひねってくじい
たときにも起こります。またスポーツ外傷や突発的な事故を除いて、日常生活
の中でも度々足首をひねってしまう人が意外に多くいます。こうした慢性的な
捻挫の根本的な原因には、体のゆがみが根底にあります。

体のゆがみとは、身体のねじれのゆがみになります。人体の上半身に心臓や
肺機能の低下によって体が右側によじれたり、肝臓胆嚢の機能の低下によって
左側によじれたりすることで発症します。上体にねじれのゆがみが生じると、
重心の軸がずれて体はバランスを崩しやすくなります。

ねじれが起こると下半身の股関節や膝や足首にもねじれが波及し、各関節に
正常を逸脱したゆがみが起こり、応力の集中が生じ、筋肉や靭帯に常に負荷が
かかり組織の弱体化が生起されます。また血液の循環が悪くなり、わずかな衝
撃を受けても捻挫を引き起こしやすくなります。いわゆる足関節がガクガクに
緩んでいる状態です。遠位脛腓関節の間が拡がり、距骨が横揺れやねじれを起
こしやすくなっています。


 日本の古代人は、関節のゆるみを体の異常と関連づけて、様々な相関関係を
伝え残しています。また、はちまき、たすき、腹帯、手甲、脚絆といった関節
をしめる方法を伝えています。

捻挫の後、腫れが引いたから、痛みが緩和したからと安易に考えてしまうと、
何度も捻挫を繰り返したり、5年後10年後に痛みを発症することもあります。
捻挫は、単にその部位だけの損傷として捉えるのではなく、根本的な原因を
正しく理解していくことが、回復と予防につながります。

 

()最もひどい重症捻挫は、バレーボール選手がスパイクやブロックで着地し
た時、他人の足の上に乗って足首をひねった場合です。これは、まったく予期
せず起こり、かまえる時間がなく突然に発生することで、想像以上に重症な捻
挫となります。またこれは足関節が底屈内反している状態での捻挫となり、
距骨が前方に回転し、距腿関節がゆるんだ状態で衝撃が入るため、脛腓関節の
距骨の前方変位が大きく、また靭帯断裂も起きます。

 

【 治療解説 】

 日本伝承医学における捻挫操法は、左足と右足では起こる根拠と機序が異な
り、操作法も異なります。日本の古代人は左足と右足の作用の違いを発見して
いたからです。それは、左足には内臓、血液、体液を下方に下げる作用と放電
作用があり、右足は物を上方に上げる作用と充電作用があるということを感受
していたのです。日本伝承医学の技法はすべて、この原理を基本として構築さ
れています。

 左足を捻挫した場合は、心臓のポンプ作用に即、影響が出るため、必ず心臓
調整法を用います。左足への血液循環を確保する必要性があるからです。左足
捻挫の場合は、手首の調整法と心臓調整法だけで十分効力があります。

 右足には物を上方にもち上げ、心臓まで血液を返す作用と脳に反射を生起さ
せる作用があります。右足を捻挫した場合は、血液を心臓まで返す力が低下す
ることを意味します。血液を足の方に下げる作用は重力に沿って楽に行なえま
すが、血液を上げる作用が低下することは、心臓や脳に血液不足を生起し、
すべての生理機能に減退をきたします。そのために、速やかに右足のポンプ機
構の回復が必要になります。

また、人体中重要な関節となる距腿関節が離開してしまうと、足からの情報や
エネルギーを脳や体全体に伝達できなくなるため、速やかに、距腿関節の開き
をしめることが必要になります。

 重症の右足捻挫した場合、距骨の位置の逸脱によって距腿関節が拡がり、
脛骨と腓骨間が開いてしまっています。これを速やかにしめる目的で、右足の
捻挫の場合のみ、右足の引き抜き法を用います(左足捻挫では引き抜き法を用い
ません)。このように捻挫操法は、左足と右足で操法が異なることが特徴です。

 捻挫操法も各関節の操作と原則同様、痛めた同側のシーソー相関を使って、
手首の骨に圧を加え、患側の足との間に電気の流れを作ります(バランス調整法)
関節調整はこれが基本となり、これだけで患側の足の痛みや腫れを解消するこ
とができます。痛みや腫れが引いた場合、手首の調整だけで終了します。余計
な刺激を入れてしまうと、せっかく整えたバランス関係がくずれてしまいます。
特に急性の場合は、この手首の調整が重要になります。

受傷時の状況と時間の経過を詳細に聞き、急性と慢性、軽度、中度、重度の
判定を正しく行なうことも大切です。捻挫のときには、どういう状況で起きた
かを詳しく受者から聞くことが大事です。特に身がまえる時間がなくて、突然
起こる捻挫は要注意です(段差や階段を降りるとき、もう一段あると思って足
を踏み外した場合)。また高いヒールをはいての捻挫も、足関節が底屈内反位
になることで距骨の変異が大きくなり、重症になりやすいのです。

 ()左足の引き抜き法を用いる場合
①難聴・耳なり等で左腎と心臓に反射を送る場合に使用します。

②左足関節がゆるんでガクガクしている時に使用します。腹部を使った両手面
 圧法と併用します。

 【左足の操法】

 麻酔操法、心臓調整(上部胸椎矯正法)を行ない、左足とシーソー関係にある
左手首の関節をしめる操法(バランス調整)を行ないます。これだけで十分効果
がありますが、捻挫の程度、効果の度合いに応じて個別操法も用います(骨折
やひびがある場合は、眼圧調整も入れていきます)

内反捻挫の場合、受者は自然な仰臥位をとり、術者は受者の左膝を立て、左
手で捻挫した側の距骨を把持し、右手を立てた膝の内側にあて、テコの原理を
利用し下腿骨を外転します。左手で距骨を圧定したまま、踵が床から浮く位置
まできたとき、下腿骨をテコとして外転させます。これにより、距骨、足根骨
の位置異常を元に戻します(距骨整復法)。グースーグッの間合いで行ないます。

次に膝を伸ばし、術者は正座位で受者の左足首の内踝と外踝を両手で包み込
むように把持し、術者下腹部に足裏をあて、大腿部と腹部を使い距骨と脛骨、
腓骨をしめる操法を行ないます。これは足首(距腿関節)をしめる操法になります。

【右足の操法】

 右足も麻酔操法と右手首の関節をしめる操法(バランス調整)を行ないます。
続いて仰臥位になり、膝立て位からの距骨の整復法を行ない、距骨のねじれを
整復します。次に受者は伏臥位(うつ伏せ)をとり、術者は受者の右膝を直角に
立て、腓骨をゆるめる操法を行なったあと、右足を引き抜き足関節をしめる操
法を行ないます。捻挫の度合いにより、距骨整復法、受者の足関節を両股に
はさんでの足首をしめる操法を使用します。ただ重傷捻挫で腫れがひどい場合
は引き抜き法ではなく、腹部を使った足関節をしめる操法を根気よく行なう
ことで代用します。


上記の操法でも足関節の動きが回復しない場合、距骨の不随意運動法、中足骨
の整復法、足関節の運動法、腓骨の動きを出す操法等の個別操法を用います。
 

【 家庭療法 】

 腫れや痛みがあるときは内部に炎症が起きているので、患部のアイスバッグ
での氷冷却を徹底的に行なうようにします。長時間、氷冷却を行なっても副作
用は起こりません。状況をみながら、風呂での温(湯の中で温める)(氷を使っ
てアイスマッサージ)療法を行なうことで回復を促進できます。また頭部、肝臓
胆嚢冷却も合わせて行ないます。新陳代謝を良くし、血液の循環・配分・質を
整えるためにも水を1日約1.52リットルは飲むようにしていきます。

腫れや痛みがひいてきたら、拇趾に重心がいくようにつま先立ちの練習から
始めていきます。寝る前と朝起きるときに布団の中で、足首の底背屈をゆっく
り行ないます。椅子に座り床にタオルをおき、爪先の底屈でタオルをギャザー
状に引き寄せる(タオルギャザー法)や足指でつかみ足を上げる運動法も行ない
ます。また、ストレッチングボードを使って、下腿筋のストレッチを行ないます。
これらを毎日継続していくことで距腿関節の動きを早く回復していきます。
捻挫予防にもなります。


【日本伝承医学で用いる捻挫操法の技術】

捻挫で使用する技法

捻挫(ねんざ)操法

距骨の不随意運動整復法

中足骨立方骨関節(ショパール関節)整復法

足首の距腿関節の運動法(認知症予防・記憶を蘇させる操法)

腓骨の動きを出す操法

外踝(腓骨)の動きを出す法

距腿関節運動法(膝の熱をとる操法)

距骨整復法

足関節の引き抜き操法

立方骨、中間、外側楔状骨押し込み整復法

足首をしめる操法