漢方医学とは〜全体と部分


 現代人にとって、漢方医学的な「モノ・コトの見方、考え方」には
あまりなじみがないものです。漢方医学におけるモノ・コトの認識方
法は「全体は部分を統括し、部分は全体を集約する」という考え方が
基本になっています。モノ・コトを分析的、部分的に一方に偏した思
考法が日常的になっている現代人にとって、なかなか理解しがたいこ
とですが、これは極めてあたり前な考え方になります。
 この考え方を具体的に人体にあてはめてみますと、生命体の基本単
位は細胞で、この細胞が70兆集まったのが人体全体になります。一つ
一つの細胞が生きていけるのは、人体全体が秩序ある生理活動を営ん
でいるからです。つまり全体が部分を統括しているのです。
また細胞一個体は、その中に生命活動に必要なすべての要素を抱合し
ています。つまり、全体の縮図であり、部分が全体を集約した姿とな
っているのです。この関係を階層的に拡大して、天と地の相似の姿と
して、人体をとらえているのが漢方医学の生命観・人体観になります。
 この考え方が漢方医学の「天、人、地」三才の関係であり、「天人
合一」思想という漢方独特の生命観・人体観を作り出しています。ま
さに「人」の存在は、天と地の産物であり、人が生きていけるのは、
天という自然の環境に合致し、その中で調和的に生きているからにな
ります。人と自然の両者間には、自然が全体で人は部分という関係が
成立しています。自然の法則の中に人は支配され、統括されて生きて
いるのです。自然界の法則は、そのまま人体にも当てはまり、また人
体はその中に、自然界のすべての要素を集約しています。代表的な例
をあげてみましょう。

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