人体ヨロイ理論

 人体を把握する場合、その物の構造・機能・形態の三点から分類、考察する
ことが望ましい。人体を構造上か眺めてみると、その主体は、骨格構造である。
人体は約二〇〇個の骨で構成され、人体積木理論で述べた通り、大小の骨の
重なりで縦長に構築されている。大きく分類すれば下から、下肢部―骨盤部―
肋骨部―肩甲部―上肢部―頭部となる。その中にあって下肢部は二本の足で、
人体の土台となる骨盤部を支え、可動性豊かな脊柱が一本頭部まで貫いている。

人体機能上、大切な器官は堅固な骨の「ヨロイ」をまとい、保護されている。
それは骨盤部、肋骨部、頭部の三個所である。戦国時代の武者の「ヨロイ」を
想像すればわかりやすいであろう。つまり大切な個所は、ヤリや刀で突かれたり
切られても致命傷にならないように防御されているのである。しかしその反面、
その部分の可動性は制限を受けることになる。人体部でいえば、体幹部の大部分
を構成し、カゴ状を呈している肋骨部がこれに相当する。人体の肋骨部は、
カゴ状とはいえ、横目だけの構造であり可動の範囲は大きいといえる。
しかし、脊柱という積木を重ねたような可動性豊かな中にあって肋骨と接合
する胸椎部は、全体として一つのユニットとして動くと考えられる。

他のヨロイ部である、骨盤部・頭部もそれぞれの可動性を有しながらも全体
として一つのユニットとして動くと考えた方が妥当であろう。となると、骨盤部
から頭部までの間の可動に大きく関与するのはその空いている部分、腰椎部と
頸部とみなされるわけで、その中にあってヨロイの境目にあたる腰仙関節部、
胸腰椎移行部、胸頸椎移行部、頭頸関節部の四個所が構造上、大変重要な位置
を占めている。

各移行部は力学的構造の分岐点となり、それは構造が変わり、形態が変われば、
動きが変わり、機能も変わる、すべての分岐点となる。機能の分岐点ということは、
内臓器官の各官の分岐点とも一致し、脊髄神経の分岐点もここに集約されており、
臨床上、欠くことのできない個所と言えるのである。

また、日本伝承医学の理論的基盤である、漢方理論との関係からこの四つの
分岐点を考察すると、日本伝承医学が最重要視している皮膚と腸(脾・胃も含む)
特に腸(大腸・小腸・胃)の反応の発現場所は、構造医学で第一ベースと呼ばれる
(腰仙部)に大腸兪・小腸兪、胸腰移行部に脾兪・胃兪、頸胸移行部にあたる
大椎穴部に手足の陽の経絡六経(大腸・小腸・胃・膀胱・胆・三焦)が集まり、
結ばれている。頭頸関節部は腎―大腸の反応点と一致する。

以上のように、すべて腸(大腸・小腸・胃)の反応の発現場所とも見事に一致
しており、構造面と機能面の最重要個所と言えるのであります。右記四個所の
他に、肋骨部の上部に位置する、肩甲骨の存在も構造上大切であり、その下縁部
(胸椎七~八番)、上縁部(胸椎二~三番)も臨床上見落とせない個所であることを
付け加えておきたい。生命体の構造・機能・形態を決定づける最大の因子は、
重力要素であり、その中で構造上から人体を眺めると「人体ヨロイ理論」という
ものが十分に考えられるわけである。

                     一九八七年      有本政治