人体エネルギー造成説

 「モノ」が動くということは、必ずそこに作用する力(=エネルギー)が必要
なことは我々の周知の事実です。我々人間は、母親の胎内からオギャーと生ま
れた瞬間から、死の瞬間まで永遠に動き続けているのです。呼吸は一定のリズム
で肺の収縮と拡張を繰り返し、心臓は一定の拍動をもって血液を送り出しています。
死の瞬間まで、この絶えることのない「動き」はいったい何をエネルギーに
動いているのか、大変難しい問題です。この解答は言い換えれば「生命とは何か」
をさぐる「問題」でもあります。未だこの問題に明確な解答は誰も出し得ない
のです。この問題に対して、日本伝承医学では、千島理論の「生命の波動と螺旋」
と大橋正雄氏の「波動性科学」、漢方医学の「五行説」をヒントに、ある仮説
を立ててみました。

「生命体」はある「構造・機能・形態」をすべてもっています。人間もある形
をもち、外界との界面は「皮膚」によって外部と接しています。そして、その
内部構造は、約六十兆に及ぶ「細胞」によって形成されています。そして、
その機能は、細胞膜と細胞間質液との透過性によってなされ、生命は営まれて
います。生命体の存在の有無は、この「膜」である皮膚によって、外界とをわけ、
ある形を有して存在しています。ある「モノ」が存在するためには、自分と他と
をわける界面が必ず必要なのです。

 この界面である「皮膚」がエネルギー造成及び、とり入れ口の「総元締め」
であろうと考えています。生命の最小単位である細胞が、その細胞膜によって
その生命を維持しているように、その総合全体である皮膚という膜が、
外界エネルギーのとり入れ口として、働かないと考える理由はないのです。
その通り、皮膚は「皮膚呼吸」として体内に酸素をとり入れ、二酸化炭素を排出
しています。我々の「皮膚」の外側はすでに宇宙空間なのです。この空間に
渦巻く種々のエネルギーを「膜」を通してとり入れているのです。太陽の
「熱エネルギー、光エネルギー」を植物が「光合成」をして生きているように・・・。

 「皮膚」の外側、つまり、宇宙空間は、電磁波(電波・マイクロ波・赤外線・
可視光線・紫外線・X線・ガンマー線)で充満しています。これらはすべて、
ある波動性をもった「エネルギー」なのです。「物質」はすべてある固有の振動
をもっています。クォーツ時計が「水晶」という物質の「振動」を電気的に増幅
させて、時計の規則正しいリズムに応用しているように、皮膚という界面の膜を
通して、宇宙空間の波動的エネルギーである電磁的エネルギーを人体固有の振動
と共鳴、増幅させ、何らかのエネルギーとして蓄電していると考えられるのです。
わかりやすく表現すれば「皮膚」が太陽電池の役割を演じているのです。
その電気的エネルギーにより身体諸器官を動かしていると考えられます。

 物質をミクロの世界へと追い求めていくと、それは原子の世界となります。
原子の世界は物質というよりはエネルギーに近いものであり、原子の中は原子核
の周りを二つの電子が回っている。つまり、回転する物体は必ずある波動を
もっていることになります。これは、原子波と呼ばれています。生物は原子に
よって構成されているということは、その集合体である全体も波動をもっている
ことになります。

 この原子から出される原子波が何らかのエネルギーに変換される可能性は
大なのです。何かの根源的エネルギーが存在しないと人体は「永久機関」として、
死ぬまで動き続けるわけにはいきません。皮膚を太陽電池としてのエネルギーと
この原子波から変換されたエネルギーとが一次的エネルギーとして働いて、
二次的エネルギーとしての体内造成エネルギーを創り出す「元」のエネルギーに
なっていると考えられるのです。

 次に、体内造成エネルギーとしては、どんなことが考えられるのか、漢方医学
の中の五行説を基に考察してみましょう。五行とは「木・火・土・金・水」と
いう性質を指し、自然界を形成する五つの基本的性質をさしています。これは、
小宇宙としての人体内にもそのままあてはまるものであり、エネルギー造成も
この五つの性質を必ず有しているはずなのです。この五行(木・火・土・金・水)
の一つ一つについて、そのエネルギー造成を考察してみます。

 まず、一番わかりやすい「金」の性質、内臓では肺にあたるものから説明
しますと、肺の収縮と拡張は、赤ん坊がオギャーと泣いた瞬間、これは「息」を

呼くことに相当します。この瞬間に作動が始まります。それは体内と外界との
気圧の差により、外部の空気は体内に自然に入り込みます。この息を呼くことの
「陰圧」により、また、外界との温度差(内部の空気は温、外界は冷)により、
ここに「風」が発生するのです。故に呼吸は「風」だとも表現できます。
呼き出しさえすれば、努力しなくとも風は体内に流れ込んでくるのです。
これによって、肺は死ぬまで収縮と拡張という運動を継続できるのです。
これは「金=肺」の風力発電説と呼べるものです。自然界の「風」の力学的
エネルギーの利用です。

 次に木=肝=動く、という「重力」エネルギーの利用を説明します。歩行時
においては二足交互交替という「重さ」の位置エネルギーとその反作用が存在
します。力学の作用・反作用である「重力」のエネルギーによって骨盤部の腸骨
を「はずみ車」として作動させ、それにより仙骨の八の字運動を引き出します。
この仙腸関節部をちょうどダイナモとして作動させ、電気エネルギーを発生
させると考えています。これは、重力という位置エネルギーの作用・反作用を
用いた力学的エネルギーの利用です。これは、人体には動く(歩行)ということ
により作用・反作用という二つのエネルギーの相反する方向性が見出せるのです。
これが別項で展開する「経絡重力線説」となるのです。
 その中から、人体の後天的、力学的エネルギーを作り出す装置として、足から
の反作用と連動によって引き起こされる手の「振り子運動」は鎖骨を介して
(
鎖骨のクランク作用)胸骨の仙骨と同じ八の字運動を生起し、ダイナモとして
上部にも電気エネルギーに変換される場所を有しているのです。特に上部、
横隔膜より上には、肺と心という二つの波動体があり、生命、人体の大きな波動
を生み出している場所であり、そのエネルギーを供給できるシステムを人体は
もっているのです。

 それともう一つ、頭部においては、顎関節と歯によって行なわれる「噛む」
という動作は、ここに圧電効果を発生し、ここにも電気エネルギーを作り出す
機構を有していることになるのです。以上が人体の「木」=動くという性質から
作り出される力学的エネルギーの造成なのです。

 
 次に、土=脾・胃=消化器についてですが、我々は食物を摂り、それを体内
で消化吸収して、エネルギーを作り出していることは周知の通りです。
現代生理学では、これをブドウ糖代謝と呼び、O2と結合してCO2とH2Oに
解糖される時にエネルギーを作り出し、これを「動き」のエネルギーに利用
していると説明しています。つまり、化学的エネルギーの造成ということになり
ます。これが一般的にいわれるエネルギー造成作用なのですが、日本伝承医学に
おいては、もっと別の次元でのエネルギー造成を考察しています。これは、
ケルブランの「体内原子変換説」をヒントに、消化器官の中の特に大腸において
腸内の腸内細菌の出す各種酵素と化合して、体内(腸内)において、ある原子を
別の原子に変えていく、つまり、核融合、核分裂といった核エネルギーを造成
して、これを人体の内臓諸器官に配当しているのではないかという仮説を立てて
いるのです。故に、腸が経絡相関(別項に詳しく説明)の中で、すべての内臓と
関わっている理由となり得るのです。つまり、「土」=脾・胃・腸は核エネルギー
造成として働いているのです。

 次に、「水」=腎についてですが、これは自然界の水の利用を考えればよいわけで、
位置エネルギーとして、体内の水分の循環のすべてに関わり、それによって各種の
運動のエネルギーとして作用しています。そして、体内諸器官は体液()の中に
浸されることにより、その流動によって波動性を維持できるのです。また、水の
濃度差による浸透圧作用によって、血管内の流動をサポートしています。
細胞内と細胞間質液との濃度差により、細胞はその機能すべてを営んでいるのです。

水は火(=熱)を消火します。これは、体温の上昇を抑える作用をもっていると
考えられます。人体は熱変性に一番弱く、腎臓が体液・血液の体内配分を
コントロールしているのですが、これは消火()作用としてもとらえることが
でき、恒常体温の維持に欠かせない働きをしていると考えられます。
以上、「水」は水力として、力学的エネルギーとして働きます。

 最後に「火」の性質(=熱、心に配当)についてですが、人体内において、
一番多量の運動を行なっているのは心臓です。一分間に七十二回の波動を死の
瞬間まで、一時も休まず動き続けているのです。これを車のピストン部に例える
と、これは多量の熱を発生していることになります。思考を変えれば、これは
熱エネルギーを発生させていると考えられます。人体は、常にある温度に保たれて
いなければその生命を維持できないわけであり、これは「熱」の発生を必要と
します。この熱エネルギーを造成しているのが、心臓という見方ができないで
しょうか。なぜ、血は温かいのか、素朴な疑問がとけた気がします。
心臓を包み込んでいる肺は、外界の空気をとり入れることで、心臓の空冷装置
の役目を担っているのではないでしょうか。以上、「火」=心は、熱エネルギー
の造成を行なっているようです。

 以上、漢方医学の五行(木・火・土・金・水)を人体のエネルギー造成に
当てはめて、様々な仮説を試みたわけですが、この未知なる人体、生命は、
現代医・科学的な発想と視点では、その全容は見える由もなく、「なぜ、なぜ」
と問い詰めていくと、現代の科学が何一つ明解な答えを出し得ていないことに
気づくのです。

 奇想天外な着想から仮説ではありますが、人体内の原子からの原子波と宇宙
からの電磁波エネルギーとを一次的エネルギーとして人体内に二次的エネルギー
の造成を生起し、「永久機関」として死の瞬間まで絶えることのない生命の
営みは、これらをエネルギーとしてとらえない限り、明らかにすることは
できないのではないでしょうか。これが「生命とは何か」を探るを私の一つの
「解」なのです。
                一九八七年      有本政治