腰曲がりの機序と対策 2022.6.3. 有本政治

 高齢になると体が前に傾いていく、いわゆる「腰曲がり」に
なる方がいます。

この原因については日常生活や仕事等で、腰をしゃがめる姿勢
を長くとり過ぎたため考えられています。しかし、農作業のよ
うに腰をしゃがめるような姿勢をとったことのない人にも腰曲
がりは多く発生しています。腰を曲げての動作が多い人は多少
腰曲がりを助長させますが、これが根本原因とはならないのです。

 では何故腰曲がりは起きるのでしょうか、日本伝承医学の
病気の捉え方である「正の対応」の視点で「腰曲がり」の機序
とその対策を解説してみます。

 生きている体に起こるすべての反応には意味があります。
腰を前にかがみにするには意味があるのです。腰の痛みや姿勢
のきゅうくつさという犠牲を払ってでも優先すべき何かがある
のです。その意味とは、命を存続させ守る対応であり、そのた
めに一番優先されるべきものは心臓の働き(心臓ポンプの血液
噴出)を守る対応になります。

『機序1』

腰曲がりは左肩が前下方に下がり、上体が左にねじれている姿
勢の人に発生する。具体的には、体の右下肢を含む右半身全体
を使って内臓の肝臓と胆のうを絞り込むような姿勢をとってい
るのです。この体勢はどうして起きるかと言うと、肝臓と胆の
うの機能低下に起因しています。体はこの機能低下した肝胆機
能を元に戻す対応として肝胆に血液を集め(充血)、熱を発生
(
炎症)させることで回復を図ろうとするのです。

肝胆の充血炎症は、肝臓の腫れと肥大、胆のうという「袋」の
腫れのため、収縮不可(胆汁を分泌できない状態)をも引き起こ
します。元々肝臓は血液の固まったような大きな臓器として
右季肋部の大半を占めており、これが肥大すると右季肋部内に
圧迫が生じます。この右季肋部の圧迫を回避し、くつろがせる
体勢をとらざるを得なくなるのです。この対応が右下部肋骨部
を前方に突出させ、肋骨全体を左にねじる体勢となるのです。
さらにこれにプラスして腫れた胆のうの「袋」の収縮を助ける
対応が右半身全体を使っての胆のうの絞り込み体勢となるのです。

 以上が上体に起きる左肩前下方下がり、左ねじれ、肋骨下部
の突出、右半身を使った胆のう絞り込み体勢の機序になります。

『機序2』

上体の左ねじれは、心臓機能(血液噴出)を妨げる。これはど
ういうことかと言うと、心臓という臓器は他の臓器と異なり、
本体が右にひとひねりされたねじられた状態で胸骨下に格納さ
れています。これは心室が単純に収縮するだけでなく、ねじれ
収縮することで血液の噴出をより強く、効率良くしているので
す。故に心臓機能が低下してポンプの収縮力が弱くなってくる
と、心臓の右ねじれを助けるように、上体を右ねじれさせるこ
とで心臓の収縮を助ける対応をとるのです。

 しかし、肝胆の絞り込みのために上体の左ねじれが常に起こ
ってくることで、心臓収縮に制限を加えることになり、全身へ
の血液噴出、特に頭への血液供給を不足させる要因となるのです。

『機序3』

 腰を曲げることで血液噴出を守っている。年齢が若い間は心
臓のポンプ力も強く、上体の左ねじれが起きても全身及び脳に
血液を供給することに大きな支障は起こらないのですが(血圧
を高くすることで対応する)60歳代位から心臓のポンプ力が
弱ってくると血圧を高めるだけでは対応しきれなくなります。

 これを回避する対応が「腰曲がり」となるのです。体勢を前
かがみにすることで、心臓の噴出をしやすくさせ、なおかつ前
かがみによって低くなった頭部に血液を送りやすくする体勢を
とるのです。これが「腰曲がり」の本質であり、機序となります。
腰曲がりに直接関与する筋肉は、体の一番深い場所にある大腰筋
に硬縮を発生させています。


『腰曲がりの対策』

 腰曲がりの本質と機序が明確になればどう対処すれば進行に
歯止めがかかり、徐々に回復に向かわせるのかの答えは出てい
ます。正に「肝心要(かんじんかなめ)」のことば通り、肝胆
機能を回復させ、弱った心臓機能を元に戻すことが不可欠とな
ります。これにより上体の左ねじれはとれていくのです。

 これを可能にするのが日本伝承医学の技法になります。肝臓
(胆のう)、心臓機能を回復させることを目的に技術が構築され
ており、右大腿骨叩打法(肝胆の炎症を除去)と心臓調整法が最
適となります。大腰筋の硬縮をとるには「ふり操法」が大きな
効力を発揮します。

腰曲がりは長い時間の経過の中で発生しており、その回復には
時間を要します。