腰椎骨盤リズム 2021.3.3 有本政治
※2021年3月3日に行なわれたスポーツトレーナー未来塾の講義内容に
なります。
≪関節の基本構造≫
関節とは二つの骨の接合部をいいます。関節面は凸形と凹形で組み
合わされているのが基本です。すなわち曲面同士の接触で、全ての関
節構造の共通点は「点接触」ということなのです。この点接触という
ことで摩耗や摩擦を防止し、熱の発生を防いでいるのです。また、全
ての関節の動きの共通点は「円錐(えんすい)、螺旋(らせん)の動き」
を伴うことです。これは生命現象の滞りのない「循環」ということを
現わす運動形態は「波動と螺旋」で、このこととも共通する興味深い
ことです。
(参)関節包・・・関節を包んでいる袋みたいなもので、中には滑液と
いう液体で満たされています(関節包は外側は線維膜、内側は滑膜)。
滑液は関節を滑らかに動かす潤滑油の役割を果たすと共に、軟骨に酸
素や栄養を与えています。
≪スポーツトレーナー未来塾のテキスト≫
※未来塾では以下の教科書を使用していきます。
『機能解剖学から見た身体運動』 著:有本政治
『日本伝承医学と漢方医学との関連性』 著:有本政治
『日本伝承医学実技解説書』 著:有本政治
『わかりやすい治療解説』 著:有本政治
『人体バナナ理論/人体積木理論』
著:有本政治
『発熱をとらえなおす』 著:有本政治
『身体運動の基礎』 著:高木公三郎
『経絡相関論』 著:織田啓成
『漢方基礎理論』『漢方処方一覧』 著:織田啓成
≪開脚(股割りポーズ)で内転筋をいためた場合の治療と考察≫
受者が開脚ストレッチ時に左側の内旋筋(半腱様筋・半膜様筋)、恥骨
筋を痛めてしまいました。
正座位背中の診断から入ります⇒脊柱3番5番がへこんでいます
(心臓の反応)。こり感有り。足裏にも心臓の反応が出ています
(反応点は『わかりやすい治療解説』の7ページ参照)。
まず前からの心臓調整法から入ります⇒上部胸椎矯正法(心臓調整法)
『わかりやすい治療解説』の24ページ参照。
(他)三指半操法、リモコン操法、心臓調整法、右足のふり操法、親指
擦過法等
治療技術は『わかりやすい治療解説』の各項を読んでください。
≪ペアストレッチ下肢部≫
テキスト:『ペアストレッチ』~ 著:有本政治
【5番のストレッチ】大腿四頭筋のストレッチ
以下の姿勢は受者をまず横にむかせてから仰向けに移動させながら行
ないます。術者は片手を受者の膝頭部におき、もう一方の手で受者の
骨盤部の上前腸骨棘部におきます。術者は受者の膝と腰が浮かないよ
うに10秒押さえます。上体が伸ばした足の方へ向かうようにします。
硬い人は膝が床面につかないが無理をしないように。図の姿勢がとれ
ない場合は仰向けではなく上半身を起こした姿勢で行ないます。次に
肘をついて少し仰向けの姿勢をとり行ないます。各動作は、「大丈夫
ですか?痛くないですか?」等の声かけをしながらストレッチをして
いきます。
【6番のストレッチ】大腿筋膜張筋のストレッチ
でん部、大腿部側面の筋を伸ばし、腰痛の予防となります。便秘にも
効果があります。術者は図のように片足をまたぎ、術者の膝と手で受
者の膝頭を反対側の脇の下の方へ押し骨盤及び腰部を斜上方へ捻転さ
せます。術者のもう一方の手で受者の反対側の肩に手をおき受者の肩
が浮かないようにします(6図が間違っています⇒術者の手は足首と膝
にあてます)
【7番のストレッチ】大腿二頭筋のストレッチ
大腿部裏側の筋、殿筋を伸ばし股関節の可動域を拡大します。肉離れ
の予防や坐骨神経痛の予防になります。受者に膝をまげてもらい、
もう片方の膝上で組ませます。術者は受者のかかとと受者の坐骨の付
け根に手をあて、でん部が浮かないように押さえかかとをゆっくり矢
印の方向へ倒していきます。各ストレッチは10秒くらい行ないます。
2~3秒ではストレッチの意味をなしません。
【8番のストレッチ】大腿四頭筋のストレッチ・骨盤の可動域をつける
ストレッチ
受者はおでこの下で手を組ませ、うつ伏せになります。術者は受者の
でん部に軽く腰をおろし一方の手で受者の足首をつかみ、もう一方の
手で受者の膝部にあて受者の大腿部を床から持ち上げ股関節を進展さ
せます(ここの手のかけ方の図がまちがっています)。
(注)決して受者の腰部に腰をおろさないこと。でん部におろすこと。
この動作の時に 受者には声かけをします。いきなりでん部に座られ
るとびっくりしますので気をつけてください。ペアストレッチは動作
が変わる場合や動きがきつい場合は、その都度状況に合わせて声かけ
をしていくように心がけてください。きつい、苦しいと思っても受者
は我慢してしまう場合があるので気をつけます。
このストレッチは大腿部前側の筋、股関節後方への可動域を拡大し腰
痛の予防、大腿肉離れの予防になります。ヘルニアの人は左右どちら
かが固くなっています。
≪脊柱と骨盤≫
(1)腰椎骨盤リズム
前屈したときに床に手がつかないと体や腰が硬いといいますが、腰
が硬いのではありません。これは骨盤の前方回転と後方移動を制限し
て脚の後側の筋肉が拘縮しているからです。故に前屈時に床に手がつ
くようにするためには、脚の後側の筋肉のストレッチをすればよいの
です。
※立位における体前屈と後屈の動きは脊柱だけの動きではなく、股関
節を軸とした骨盤の回旋と前後移動、足関節を支点とした骨盤部の連動
した動きで達成されます。これを腰椎骨盤リズムと言います。
①脊柱(腰椎)だけの動きは30度~45度しか可動できません。
②体前屈においては腰椎の前傾と骨盤の前方回旋と後方移動によって
達成されます。
③体後屈においても、腰椎の屈曲は30度位で、全体の動きは骨盤の後
方回旋と前方移動によって達成されます。
※脊柱の体前屈の75%は腰仙関節部で起きる動きになります。腰を前
にかがめて45度以内で痛みがある場合は脊柱、特に腰仙関節部の問題
で、45度以上で生じる痛みは股関節を軸とした骨盤の回旋異常、また
は足関節のねんざや膝の異常などによる足関節を支点とした骨盤の後
方移動ができないことが原因となります。
【腰椎と骨盤は連動調和しているという事を立証するための実験】
壁際に背中をぴったりつけて立ちます。その姿勢で前屈しようとし
ても腰から曲げることができません。首しか下に向ける事ができな
くなります。これは、壁に背中がつくことで腰椎の前傾と骨盤の前
方回旋と後方移動ができなくなってしまうからです。
次に壁の方へ向き、腹側をぴったりつけてたってみます。今度は後
屈ができなくなります。これは骨盤の後方回旋と前方移動ができな
くなってしまうからです。
この実験から、人が前屈や後屈姿勢をとるときには、腰椎と骨盤の
連動調和が必要であることがわかります。
(2)腰椎骨盤リズムで前・後屈できない要因
①骨盤の前方回転の動きを制限しているのは、大腿部後面の大腿
二頭筋及び下腿筋(ふくらはぎ)の硬縮によります。
②骨盤の後方回転を制限するのは大腿前面の大腿四頭筋の拘縮に
よります。
③体前屈を制限する要因は膝裏の筋の硬縮が大きく関与しています。
④下腿筋のふくらはぎ(ヒフク筋、ヒラメ筋)とアキレス腱の硬縮
が関与しています。
※上記のような筋の拘縮には、ストレッチングボードで筋を伸ばす
ストレッチングが効果的になります。ストレッチングボードは日課
として毎日継続して行なうことをすすめます。
(参)足関節のねんざ等で足首の動きが失われても前後屈に影響が出
ます。⇒体が傾いて前屈します。
【実験】足首を両手で押さえてしまうと前屈ができなくなることが
わかります。膝を両手で押さえても前屈ができなくなります。
前後屈には足関節、膝関節も連動しているということです。
≪腰椎、胸椎、頸椎の不随意運動について≫
腰椎⇒回旋の動きができない
胸椎⇒椎骨内の前方後方へのスライドの動き
頸椎⇒横へのスライドの動き
※日本伝承医学の脊柱矯正法は、上記の動きに立脚して作られてい
ます。不髄意運動の動きを出す技法となります。さらに骨に圧と
筋の張力で電気を発生させます。
≪筋肉の種類≫
①横紋筋(おうもんきん)⇒横紋筋には骨格筋と心筋があります。
骨格筋は身体を動かしている筋肉で一般的に筋肉と呼ばれている
ものになります。また自分の意思で動かすことができるため随意
筋(ずいいきん)とよばれています(横隔膜も骨格筋かつ随意筋)。
心筋は心臓を構築している筋肉になります。心臓は電気信号で働
くためには、体の筋肉と同じ横紋筋でなくてはだめだからです。
心筋は自分の意思で動かせない不随意筋になります。
②平滑筋(へいかつきん)⇒内臓壁や血管壁等を構成するのが平滑筋
になります。自分の意思で動かすことができない不随意筋になり
ます。緊張、収縮によって内臓や血管の働きを維持しています。
子宮、膀胱、胃、小腸、大腸等は平滑筋によって動いています。
平滑筋は心筋と同じように自律神経の支配を受けています。
(参)クモ膜下出血は血管平滑筋が異常収縮し脳血管が締まり、血液
が通らなくなり酸素や栄養素が行きわたらなくなります。
≪腰椎骨盤リズム/機能解剖学26頁≫著:有本政治
脊柱は椎骨と言われる骨だけが積木を積み重ねたように連なったもの
ではなく、全体の4分の1にも相当する椎間板の存在があります。椎間板
とはこの字の示す通り、椎骨と椎骨の間にはさまれた板状のものになり
ます。椎間板はパチンコ玉の様な髄核と椎骨同士を結合させている糸状
の線維輪という頑丈な組織で構成された水分60%~80%を含む軟骨のこ
とで、椎間板の存在で点接触により脊柱全体を滑らかに動かすことを可
能にし、椎骨と椎骨の面圧を受けることで関節内の潤滑を助け、摩擦・
摩耗を防ぎ、熱による椎骨の変性を回避させます。
椎間板は椎間板ヘルニアという病名でよく知られていますが、これは
下肢の筋肉のアンバランスな収縮により骨盤の前傾が大きくなり腰仙関
節への圧力が増大することで起きます。腰仙関節角の増大により脊柱全
体の3つのカーブの凹凸も各々大きくなり、腰仙関節や下部腰椎に衝撃が
集中したり、椎間板に生理的な面圧がかからず応力が集中し、髄核の一
部がはみだし、広範囲にわたり脊髄神経を間接的に圧迫することになり
ます。これが下肢のしびれや麻痺、疼痛に苦しむ要因を引き起こします。
腰痛全般に言える事ですが、全身をみて何が腰痛の主原因なのかと言う
事を考え、見極める必要があります。病気症状はその患部だけを診ていく
のではなく、内臓を含め体全体との関連の中でみていくことが必要です。